異世界になった世界の旅日記~自由に旅をさせてください~
短編は初めてです。お手柔らかにお願いします。
今から一世紀ほど前、後に『特異点』と呼ばれた天変地異は地球を襲った。その影響は計り知れないものだった。地球の環境は激変し、大きさも倍増していた。
そして、魔人、亜人、魔物が溢れる世界へと変貌した。そんな世界の新たな種族や環境にすぐに対応できるわけもなく人間の数は減少していった。
しかし、特異点の後に生まれた子供たちに才能を持って生まれるものが出始めてきた。ある種類の魔法に特化したもの、才能が『勇者』など特定の職業を指し示すもの。多種多様に存在するようになった。
才能やスキルを持つものは団結し新たな世界で生きていけるように変わり始めた。そして、その才能やスキルはどんどん重視されていった。その反面、銃などは旧時代の武器として扱われるようになっていった。
そんな世界になった地球では強さを求める者、虐げる者、侵略をする者、侵略から守る者、搾取する者、平等を掲げる者、様々な者が溢れかえるようになっていった。この物語はその世界の中で自由気ままに旅をする、そんなお話。
※※※
地球が異世界化してから一世紀ほどたった。とはいっても俺が生まれてからずっと異世界化しているわけだから、特に何も気にならない。俺が今、気にしているとしたら、魔物に囲まれているこの状況をどう脱しようかということだけだ。
魔物は黒い毛の狼のようなものが三体ほどいる。ランクも強さも覚えていない。こんなところで学園での勉学を怠ったつけが回ってくるとは思いもしなかった。三体はこちらの様子をうかがい、何時でも鋭利なその爪で切り裂き、俺の四肢を餌にしようとしている。
すると突然、その中の一匹が俺にとびかかってきた。すんでのところでかわすことができたが、その拍子に体勢を崩してしまった。すると、残りの二匹はチャンスとばかりに俺にとびかかってこようとする。
「終わった。」
思わず口にするほどそう思った。どこからかとてつもない冷気がこちらを襲い、二匹はあっという間に氷漬けにされてしまった。残りの一匹は状況が悪いと察したのか瞬く間に逃げて行ってしまった。
本当に助かった。こんなあっさりと死んでしまうことになってしまっては格好がつかない。
冷気がやってきたほうをみつめると一人の女性?女の子?が立っており、こちらのほうにやってくる。助けてもらったんだ、少しは感謝の意を伝えなければ後味が悪すぎると思い、そちらのほうへと歩を進めた。今の攻撃はたぶん、氷の魔法だろう。魔力もかなりのものだった。強い能力を持つ人だろう、うらやましい限りだ。
「ありがとうございました。おかげで犬のえさにならなくて済みました。」
「大丈夫。気にしないで。死なずに済んでよかったわ。」
声をかけて近づいたが、その女の子は特に気にした様子もなくそれだけ言うと去っていこうとする。その女の子は白い髪のかわいい子だった。無機質な印象を与えられるがそれが気にならないほどに綺麗で儚い女の子だった。
「俺が言うのもあれだがここらは魔物がよく出る。キャンプするにも用心して準備したほうがいいぞ。」
助けてもらった恩に応えるために一応、声をかけた。しかし、その女の子はこちらに反応することもなく森の中に進んでいってしまった。この森はさきほどのような魔物が多いらしい。狼系は集団で狩りに来るから厄介でうっとうしい。
先ほどの女の子の装備はかなりの軽装備だった。能力が強いことはいいことだが森を舐めて死なないのかそれだけが心配だ。助けてもらった俺の意見は意味がないかもしれないが。
夜になると夜行性の魔物たちは活動的になる。静かな森の中に時折、獣の叫び声が聞こえてくる。
「やってられないな。準備していても不安は尽きない。」
独り言で泣き言も言いたくなるもんだ。魔物除けに加えて火もつけている。周囲には魔物の嫌がる匂いもつけておいた。そうそう近づけはしないだろう。
自分の装備を再確認したためか安心して眠っていたらしい。森の中は騒がしく獣の断末魔がよく聞こえる。その音は何かの凍る音も混じっており戦闘音なのだと分かった。
先ほどの女の子か——―
助かった恩を今ここで。柄にもなく音のするほうへと近づいて行った。すると、戦闘音は大きくなり、それと同時に女の子の痛みに耐える声も聞こえてきた。
周囲を見るとそこら中に氷の塊が転がっている。女の子の周囲を囲むように黒い狼が取り囲んでいる。女の子の体にもいくつかの傷が見えている。女の子は肩で息をしており周囲の狼がじりじりと近づいても攻撃を与えようとはしていない。
魔力切れ。強い能力でもデメリットは存在している。魔法使いにとっては魔力切れが一番のデメリット。反撃はないと見たのか黒狼は少しずつ距離を詰め襲い掛かる準備を始めている。
「くそったれ。やるしかない。5%」
俺はそうつぶやくと黒い狼たちに向かって走り出した。こちらに気づいた狼に向かって思いっきり殴った。
ぐちゃ。そんな音を立てて狼は吹っ飛んでいった。
俺の乱入に驚いたのか少し動きが遅くなった。その隙に近くにいた狼をまた殴り、蹴とばし、頭を握りつぶした。主人公みたいに無双状態だろって余裕をかましたいところだった。まぁ、現実はそんなにうまくいかない。俺は数の暴力に負け、狼に背中を引っかかれ噛みつこうとしてくる狼を手で防いだことで噛みつかれ、少しずつ体は傷が多くなっていった。
女の子の元にも狼は近づいて行っている。ここで踏ん張らないと死ぬ。
覚悟を決め、「10%」と呟いた。先ほどとは見違えるほどに力は沸いてきて、狼の群れをものともせず、殴り蹴とばし握りつぶした。
気が付けば周囲に俺と女の子以外の気配はなくなっていた。狼の群れもすべて死んだか勝ち目がないと踏んで逃げたのだろう。俺は安心して女の子に近づいたが女の子は俺におびえて少し後ずさりをした。
まぁ、全身血だらけのやつが近づいてきたらそりゃ怖いか。一人で納得してもといたキャンプに戻ろうとした。
すると後ろから、「ありがとうって言ってるでしょ‼」と怒鳴り声が聞こえた。女の子が俺にお礼を言っていたらしい、俺は全然聞こえていなかったが。
「気にすることはない。さっき助けられた恩返しだ。お前は大丈夫か。」
「全身血だらけのあんたに心配されるほどのケガはないわ。本当にありがとうね。」
無機質に見えていた意外と軽口をたたいてくれるらしい。話ができそうでよかったと安心した。
「あんたはどこに行こうとしてるの?」と不思議そうにこちらを見て聞いてくる。
「俺はキャンプを設営してるからそこに戻ろうとしているだけだ。あんたはどこにキャンプを設営してるんだ?」
「キャンプ?そんなもの設営してないわよ。」
は?こいつ、馬鹿なのか。この森の中でキャンプも準備せずに野宿で安全に朝を迎えようとしてるのか。そんなことを考えていると相手にも伝わったみたいで女の子は少し怒っているような雰囲気になっていった。
「馬鹿にしてるの?仕方ないじゃないの。何もわからなかったのよ。魔法があれば大丈夫だと思ったのよ。」
「馬鹿にはしていない。」
俺はそう答えるので精いっぱいだった。さらに怒ったように何かを言おうと口を開いたその時、
ぐぅぅぅ
誰かの腹が鳴ったのだった。俺ではないということは、そう思って前を見ると恥ずかしそうにその白い肌を真っ赤にしている女の子がいるのだった。
とりあえず俺は「食べ物でもあるから食うか?」と聞くしかなかった。
今夜は奇妙な旅の連れができたもんだなぁと体に付いた血を拭きながら考えていた。この後こいつはどうするつもりなんだろうか、目の前で干し肉をおいしそうに食べる女の子を見てぼうっと考えていた。
「とりあえず、俺はレイジな。この後はお前はどうするんだ。」
「私はアイ。特に決めてないわ。自由になりたいから旅してるようなものだし。」
そうかとだけ答え、念入りに獣除けの準備をし始めた。すると横から作業をアイがみてくる。美女が近くに北からドキドキして……とはならなかった。どちらも血の匂いが消えてないためにいい匂いもいい雰囲気にも残念ながらならなかった。
「念入りに何をしてるの?」
「獣が来ないように獣除けの匂いをつけたり、対策してるんだよ。また戦ったらどうなるかわからないからな。念には念を入れたほうがいいだろ。こんなことも知らなかったのか。」
軽くそう聞くとアイは少しうつむいて「何も知らないわよ。」と力なくつぶやいていた。人の感情に疎い俺でも訳ありということはわかった。
「明日には俺はこのまま北上するがアイはどうするんだ。自由にって言ってたけどどこか行こうとしてるのか?」
「私は……特にきめていないわ。森をぬけるまでは同行させてくれない?」
わかったと答えてお互いに寝ることにした。しかし、血の匂いは完全に消えているわけではない。いつまた獣の襲撃にあうのかわからない以上、俺は眠れない夜を一人寂しく過ごしたのだった。
※※※
私を助けてくれた人はいい人そうだった。死んだような眼をしているのが気になるところだけれども。血だらけになって私を助けてくれたときは胸が熱くなった。今まで誰からも優しくされていないから心が弱くもろくなっていたのかな。
森の中の準備も手際よく、食べ物も分けてくれてうれしかった。この人との旅は楽しいんじゃないだろうか。そう考えると未来が明るくなる。でも、私が言いよどんだ時に何かを察したように触れなかった。この人は私のように面倒ごとがあるかもしれない仲間は嫌なのかもしれない。
少し眠っていたみたいで目を少し開けると彼はまだ起きていた。少し冷えてきているなぁと思っていたら毛布をかけてくれた。意外と気が利くみたいだ。このまま彼と旅するのもいいかもしれない。そんなことを考えて久しぶりに安心して眠りについた。
※※※
翌朝、荷造りをして出発をした。道中、魔物に襲われることはあったが全英を俺が務め、アイが後衛から氷の魔法でカバーをするといういいチームになっていた。やはり、一人よりもチームのほうが進む効率もよく、リスクも軽減していた。今後は一人よりも二人のほうが亜人領や魔人領も旅しやすいのではないのだろうかと思った。念には念を入れたほうが良い。
ただ、アイは女の子。旅に行かないかというのも憚られる。どこかの町で仲間になってくれる人がいたら仲間にしてみよう。一人もいいが仲間もいるたびも楽しいだろう。そんなのんきに考えているとやっと森を抜けることができた。
「こんなところにいたのか、男もつれているのか。邪魔者は排除したほうがいいか。」
森を抜けた瞬間、激しい痛みが下腹部を襲った。痛む場所を見ると何かで貫かれたように射貫かれていた。口からは血が流れ、痛みで頭が働かない。
「アイ、探したぞ。逃げられないんだ。逃げようとするな。今すぐ殺したっていいんだ、温情で生かされているということを忘れるな。」
軍人だろうか、軍服のようなものを着ている男がアイに向かって脅している。隣にいるアイは俺の姿を見て涙を流し、ごめんなさいと繰り返している。男には注意が向いておらずこちらの心配ばかりしている。優しい子なんだろう。
「俺が来たんだ逃げられない。さぁいくぞ。お前はわが軍の所有物だ。」
男はアイを連れて行こうとする。アイは何も抵抗することなくそのまま連れていかれそうだ。ふと目が合った。
アイは泣きながら、
た す け て
口がそう動いたように見えた。その瞬間、言葉にできない感情の爆発があった。
女の子も救えない上に泣かせている、恩も満足に返していない。そんなのでいいんだろうか。出会いとしては数時間の関係だ。だが、訳ありと分かった上で見捨てなかったんだ。最後まで甲斐性見せろよ、くそ野郎。
自分を鼓舞して何とか立ち上がる。しかし、男の口から「雷槍」と聞こえると今度は太ももに激痛が走る。雷の槍が俺の太ももを貫いていた。先ほどの腹を射抜いたのもこれなんだろう。だから魔法は嫌いなんだ。ずる過ぎるだろ。
「死ぬ気で行くしかないんだろうなぁ……20%」
俺はそうつぶやく。体からは溢れんばかりの力が湧き出てくる。高揚感が止められない。しかし、数秒と持たないこの力、早く決着を。
先ほどまでの痛みは消え、一気に地面をけり、一瞬で男に近づいた。しかし、男も反応が早く、「雷装」と呟いた。何かされる前にこの一瞬のすきに、すべての一撃を。
俺は思いっきり相手を殴りつけた。男は両腕で防いでいたがどぉぉんと爆発音がなり森の中へと吹っ飛んでいった。いくつもの木を吹き飛ばしながら飛んで行ったということが薄れていく意識の中で俺の目にははっきりと映った。
不意打ちの一撃。なんともビビりな俺らしい勝負のつけ方であった。
目が覚めるとまた森の中にいるようだった。しかし先ほどとは違って夜になっているようだった。そばにはこちらを見ているアイがいる。俺が目を覚ましたと分かると満面の笑みでこちらを見てくれた。この笑顔のために頑張った、なんて言いたかったがただのプライドと恩返しのためとは言えないなぁ。
俺自身もなんであそこまで頑張れたのだろうか、一人旅のし過ぎで孤独に飢えていたのだろうか、俺自身もわからない。ただ、この笑顔が見れたし悪くはないだろう。
「ありがとう。こんな大けがしてまで。なんで私のために。」
「まぁ、女の子泣いてたらしょうがないだろ、森を抜けるまではって約束だったから。」
俺は恥ずかしくなりしどろもどろにしか答えることはできなかった。
「あんたはいいの?私のせいであなたもマークされたりすることになるのに。」
「大丈夫だ。もうなるようになるだろ。俺は自由気ままに世界を旅したいんだよ。一緒に来てくれるか?」
アイは呆気にとられた顔をしていたが、少しして笑いながら「連れてって」と答えた。
どんなわけがあるのかもわからない。いろんなやつがいる世界だ。訳ありのやつと一緒に当てもなく旅をするのも自由気ままな旅といえるだろう。何かあったとしてもたぶん、大丈夫だろう。
これは俺の今まで以上に面白くなっていった自由気ままな旅の話。
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