私が聖女様か女神様だって? エガちゃんそれっておいしいの? 3/3
______私が屋敷に帰ったその夜の事。
私はそろそろ寝ようかとベッドに潜り込み、瞼を閉じた。
閉じた筈なのに男の姿が見える。
ギャーとも声が出ず、私は息を飲む事でなんとか耐えた。
ゴーグル式VRで恐怖映像を見る事を経験していなければ、私は確実に悲鳴を上げていただろう。
現れた男性は昼間挨拶を交わしたあの......。
「エ、エドガー!!」
「話は全部パパンから聞いたけど、あんたはもう死んでいるのよ。もう早く成仏した方がいいんじゃない?」
相手は幽霊なのに私は意外に冷静だった。そりゃエガちゃんみたいな有り得ない神に、転生させてもらったんだから、幽霊よりそっちの方が驚きなのよさ。
俺がここに来たのは、旅立つ前に最後に真実を伝える為。その為に今まで浮遊霊となって、君が5歳から8歳になるのを待っていた。
「なんで8歳なのよ?」
お前が幼い5歳までは、保護者義務で傍に居られた。
「どこのメーカーの5年間長期保証ですか?」
茶化すな。真実を聞きたいか?
コクコク
『私の転生の秘密、何か訳アリなのよね。ソレ知りたいわ』
ならば全てを話そう。
______俺が餓死状態で死ぬ寸前、俺の前に女神様が現れた。
「なんて哀れなエドガー。余りにも不憫なあなたの願いを叶えてあげましょう」
お迎えが女神様なだんて、誰も信じない話さ。
そして俺はその時、同時に女神様からケイティの死を告げられた。
おわっ! ケイティは既に亡くなっていたのですか!
女神様、悪いがケイティが死んだのなら、今更俺は何も望む事はない。ケイティを生き返らせても俺は死んでいる身だ。もう会えない。
「エドガー、あなたにもう一度ケイティに合わせてあげましょう。但しその女性はあなたの事を覚えていませんが、それでも会いたいのなら願いを叶えましょう。時空間の都合であなたが合えるのは、5歳までと彼女が8歳になった時からです」
俺の事を覚えていないケイティ......そんなの。
「その少女はケイティの魂を持って生まれて来るのです。例えあなたの事を覚えていなくても、あなたには分かる筈です。あなたもケイティもお互いに愛し合っていたのですから」
そうだ。俺はケイティを愛して......愛して......大好きだった!
「そしてエドガー、あなたに1回限りのスキルを授けましょう。それを使えばあなたは只の浮遊霊となり、ずっとこの世を彷徨う事になりますが。それでもあなたが望むのなら」
そのスキルとは何ですか? 女神様。
「あなたに疑似神の能力と、治癒能力を少女に与えるスキルです」
その能力でケイティはまた蘇ると?
「はい。しかしこの話は新たなケイティには問答無用に願います。いいですね。破ればエドガー、あなたはその場で天に召されます。ケイティの傍に居たければ、エドガーあなたならわかりますね」
「ちょっと待ってよ、あんたの話を聞いてると、じゃ、あなたがエガちゃんなの?」
そうなるのは必然。
俺は一回限りの疑似神の能力で、異世界でケイティの魂を持つ君を探し当てた。と思う。
「なんだ? 自信ないのかぇ?」
異世界の君は、ケイティと同じようにベッドで死を待つ身だった。
運命だと思ったよ。
そして君は死の間際、俺に転生を願った。君は病気をしない鋼の体を望み、俺は女神様から授かった治癒スキルを君に与えたのだよ。
今度は健康で美しいケイティが、人々に癒しを与えれるようにと。
「私、そこまで望んでエガちゃんに転生を望んだ訳じやないけど」
あの時、俺はJKのお前の記憶にある人物に成りすました。本来の俺のキャラではないので認識を改めて欲しい。俺が逝く前に。
「あんたもキャラはちゃんと選びなさいよ。感動のシーンなんだからさ」
......。
あなたが転生した時、クラリス様のお腹に居たのは魂の無い体。だからあなたが心配する事は何もなかったのです。つまりあなたは二度クラリス様から生まれたという事になるのですよ。
「お前って言ったり、あなたって言ったり忙しいっすね」
!
「げぇぇ、私ってば二度もママンのお腹に! そんな衝撃の告白を今ですか」
判断が遅い! それに今しか無いでしょ。
とにかく全てを話した以上、もう私は逝きます。
「エガちゃん、もう逝っちゃうの?」
ああ、新たな君に俺への愛の記憶が無いのは残念だが、目的は果たした。女神様との問答無用を破って全てを君に話したんだ。もう逝かなければならない。
「でもさぁ、エガちゃんの願いは、私が聖女様となって領民を癒し続ける事なの? そこに私の意志と自由は?」
そ、そこまで考えていませんでしたな。すべて領民に愛される女性にと。
「馬鹿か、ちゃんと考えろよ! やっぱりエガちゃん 使えねえ~!」
この私の純粋な愛を! お前は本当にケイティの魂を持っているのですか?!
「私はね、ボッキュン美少女になって、恋をバシバシするのが願いなの! エガちゃんの独断で、勝手に私の未来を変えないで!」
本当にケイティの魂が宿っているのか、俺は疑わしくなってきました。
すると
キラキラキラキラ 颯爽とあの時の女神様が降臨なされました。
「あのねエドガー、私にちょっとした手違いがあってさぁ、しちゃってさぁ」
『しちゃってさぁって』
「ケイティの魂は別の人に......御免あそばせ」
ゲェェェじゃ、疑似神の能力で異世界へ跳んだ俺は......
「方向が違ったみたいね、おホホホホ。私って方向音痴なの」
「でね、問答無用の掟は破った事にはならないのよ、エドガー、あなたまだこの世界で浮遊霊しててもエニシングOKよ。パチリ」
なんなんだよ、そのオチはよ。
で、ケイティの魂は?
「それがね、その子遠い異国の貴族の元へ嫁いで、幸せに暮らしているから安心して」
なんだなんだその結末は!
______女神様が去り、残されたのは私とエドガーの浮遊霊だ。
「これからどうすんのよ、エガちゃん」
天国行きがキャンセルされちまったんだ、お前責任とれよな。
「なんで私が! あんたがこの屋敷に居座るのは自由だけど、これからは私の自由に生きさせてもらうから」
と言うと?
「もう聖女様とか女神様とか言われないよう、スキルは封印する! だってちっとも美味しくないじゃん」
まぁその件については俺にも責任がある。好きにしろよ。お前はケイティとは別人なんだからよ。
「あんた急にキャラ変わってない?」
気のせいだ。
奇妙な縁で異世界に転生した私だけど、今度は浮遊霊と生活すると言う驚きの生活が始まった。始まってしまった。このエドガーと。
パパン、ママンには突然治癒能力が無くなったと嘘を言うと、あの3年間で全部能力を使い果たしてしまったんだねと、理解が早かったので助かったぁ~。
そのエドガーは現在、何の能力もない浮遊霊だ。どこそこ夫婦の不倫だのゴシップ情報を、頼みもしないのに好んで集めて来る。
よぉサーシャ、飛びっ切りの特ダネだ。清楚で有名なマーガレット夫人が、使用人となんと出来ちまったんだ。それがもう妊娠してんだとよ! こりゃえらいこった。
「いいんだよエドガー、んな情報は」
しかしサーシャ、浮遊霊ってのもいいもんだぜ。覗き見し放題なんだからよ。
はぁ?......。
「ちょっと待てエドガー! あんたまさか私の」
見るもんか、そんなツルペタ。
「み、見てるじゃねぇか~!」
チッチッ一回だけだ。
「それにしてもエドガー、あんたってやっぱり使えねぇ~!」
まぁいいじゃねぇかサーシャ、この先二人で面白可笑しく暮らそうぜ。
「うっせぇな、エドガーあんた早く成仏しなよ!」
嫌だね。俺はずっと憑きまとって、サーシャを守ってやる。お前が死んだら、その時俺は成仏してやるさ。
「......エガちゃん、それって、それってちょっぴり美味い......かも」
「何がドーンよ! やっぱあんたキモイから成仏して!」
ふっ、今更テレるなよサーシャ、お前案外ツンデレだな。
「デレてねぇ~わ!。どこで覚えたその言葉!」
完