表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はっぱのないき  作者: 幻中 六花
5/6

またね

 この大きな木には、春になるとたくさんのピンク色の花が咲くのです。とても良い香りがする、桜の花です。

「ぼくも、キミの友達だよ」

「そうだね。わたしの言葉を理解できるのはキミが初めてだ」

「でも、ぼくだけじゃなくて、もっとたーっくさんいるじゃん」

「私に? 友達が?」


 ユウトくんは、春のこの公園を思い出しながら言いました。

「春になったら、キミに、数えきれないくらいたくさんの花が咲くでしょ? それはみんなキミの友達! あんなにたくさんの友達がいて、羨ましいよ」


「あぁ、花のことか。春は賑やかだね。ずっと風に揺れてお喋りしてるんだ。でもね、花は寒くなったらいなくなってしまう。今のわたしのように、ひとりもいなくなってしまうんだよ」


 それでも、ユウトくんは羨ましいと思いました。ここで待っていれば、また春がきて、またお友達がたくさん咲いて、賑やかにお喋りをしてくれるのですから。


「でも、また春は必ずくるじゃない。日本はね、春が必ずきて、必ず桜が咲くんだよ」


 大きな木は、小学3年生がこのような考え方をすることに驚きました。


「えへへ。ぼく、友達がいないから、雨の日は家で本を読むんだ。この間花の図鑑を見てたら書いてた」

「そうか。そうだね。わたしはここから動くことができないけれど、待っていればまた春が来て、みんなが来てくれるんだね」


 ユウトくんが、もう淋しくない? と問いかけると、大きな木は大きく頷くようにユサッと揺れました。


「よかった! 実は……ぼくとは今日でお別れなんだ」

「え?」

 予想していなかった言葉に、大きな木がまた驚きます。

「明日ね、引っ越しなんだって。もう一回、満開の桜を見たかったけど……」


 ユウトくんはこの日、日が暮れるまで砂場で遊びました。今日は砂遊びじゃなくて、大きな木の絵を描けばよかったな、と思いました。


 少し肌寒くなった頃、ユウトくんは立ち上がってお尻や手についた砂を払いました。

「帰るのかい?」

 大きな木が淋しそうに言うので、

「もう淋しくないって、さっき言ったじゃん!」

と笑いました。すると、大きな木もユサユサと揺れて笑いました。


「今日、砂遊びじゃなくて、キミの絵を描けばよかったなって考えてたんだ。ぼくカメラ持ってないから。大きくなってカメラ買ったら、キミが友達に囲まれて笑ってるところを撮りに来るよ! それまで絶対元気でね!」

 大きな木は、待ってるよ、と答えました。


 さっきまでサッカーをしていたクラスメイトは、いつの間にかいなくなっていました。日が暮れて、公園の灯りが照らす大きな木に、ユウトくんは抱きついて、

「またね」

と言っておうちへ帰りました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ