令嬢、夢を持つ
ストックはないので、不定期投稿となりますがお付き合いいただけると幸いです。面白いと思ったら評価をお願いします!
「ほんっっっっと面倒ですわ」
ベッドの上で私、リサ・フォーベルトはため息をついた。さっきまでこの国の第一王子が成人である15歳になったお祝いの誕生日パーティに参加していたのだが、それが長いこと。
朝から昼まで、兄上とともに歓談と称した貴族同士の腹の探り合いに巻き込まれ、それが終わったら両親による将来の旦那様探しに強制連行、それも終わってようやく休憩かと思ったら王族によるありがたーいお話を延々と聞かされる。
夜になってならは同い年同士でのダンスパーティ。イケメンの第三王子に誘われた時はとても嬉しかったが、結局社交辞令だったらしく軽いダンスを踊ったら即終了。ショックを受ける間も無く午前中に話した旦那様候補達との連続ダンス。それが夜遅くまで続くのだ。
「なーにが悲しくて、私の家と魔力のことしか見ていない男どものご機嫌をとらないといけませんの?馬鹿ですの?アホですの?」
ファーベルト家は古来より続く名家であり、持っている土地も資産も他の家よりもはるかに上、らしい。さらに、何年も家系を継いできたことで、私の家系は全員回復魔法を使えるのだ。
回復魔法は人を癒したり、傷を治したりすることができる魔法だ。光魔法という種類に分類されるこの魔法はとても貴重で、魔力を古来より扱ってきた家系の中でも使える者は1割ほどしかいないらしい。
そのため血を取り込もうとする家系が絶えず、私はあっちこっちですきあらばと婚約を申し込まれている。それもお世辞をふんだんに盛った言葉で固められた、形式的で愛などかけらもない私を舐めたふざけた物ばかりなどである。当然全て拒否しているが、周囲はそれに反対している。兄上からは特に、お前など我が家の道具にすぎんのだから早く誰かにとりいって俺の役に立て、など信じられないほど酷い罵倒を受けてたりする。
「はあー。兄上だけでなく、お父様もお母様も、婚約は早い方がいいとばかり……」
ゴロゴロと寝転びながら、ふとあることを思い出し、本棚から一冊の本を取り出す。表紙に炎を吐くドラゴンと剣と盾を持った男が描かれている。王国に古くからある英雄譚で、勇者と4人の戦士たちが悪さをするドラゴンを懲らしめるといった内容だ。パラパラとめくり、私はある1ページで手を止める。
私と同じ、金色の長い髪に緑色の瞳を持った聖女クレア、と呼ばれる戦士が傷ついた勇者を癒すシーンだ。死に瀕した勇者を救った聖女は、他の3人の戦士から感謝と抱擁を、王国にある村の民からは贈り物と万来の喝采を、そして勇者からは何と婚約のための指輪が贈られるのだ。
その後も聖女が仲間を救うたび、みんなから感謝されあまたの贈り物が聖女へと贈られる。物語が終わったエピローグでは、ついに勇者と結婚し、王国の全ての民から祝福され、満面の笑みを浮かべる聖女のシーンまで描かれている。
「……いいですわね、これ」
羨ましい。めっちゃ羨ましい。
面倒なことが多い貴族社会の荒波に揉まれ、婚約のことばかり話す両親と意地悪な兄上に挟まれ精神的に疲弊していた私に、魔法を使ってみんなを治療していればそれだけで感謝され幸せになっていく聖女の姿はとても魅力的に映った。
というのも、この本の中には聖女が苦労しているシーンが一切ないのだ。行く先々での村との交渉や野営の準備なんかは狩人と勇者が行い、敵との戦いは戦士や魔法使いが行う。その間、聖女はパーティの後ろをついてくるだけだ。誰かが怪我をしない限り、聖女は何もしなくていい。
「最高ではないですかー!面倒なことは他の人に任せて、自分は少し仕事をするだけで美味しいところは全部持っていける!それに家柄や血ではなく、功績を持って褒め称えられるというところも素晴らしいですわ!よし、決めましたわ!私、この聖女と同じような、冒険者の姫になりますわー!ふーふっふっ!」
夢が決まった。私は姫になって、パーティの後ろでみんなを癒しながら、お金も男も名声も手に入れる勝ち組冒険者ライフを送るのだ。私を道具としてしか見ていないお家のことなど知ったものかー!
そうとなれば早速特訓ですわ!明日の朝から始めますわよー!私は枕の下に本を敷いて、王子と幸せそうに笑うクレアの姿を思い浮かべながら眠りについたのだった。
補足
リサは良いところの令嬢にしては、ほかに類を見ないほど劣悪な環境にあります。それを本人が自覚していないので、ちょっと常識外れなところがあったり。