お風呂
とりあえず異世界からアリシアを召喚してしまったことは確定したみたいだ。
元の世界に帰す方法は全く分からない。とは言ってもこのまま放っておくわけにも行かないし、どうするべきか…いや、その前にすることが有った。
「…なぁ、悪いんだけど、体を綺麗にしてきてくれないか?
慣れてきたとは言え、この匂いをずっと嗅いでいるのは辛いし、考え様にも考えが纏まらん。」
アリシアは自分の袖を鼻に持って行ってクンクンと自分の匂いを嗅いで不思議そうな顔をしていた。
結構自分の匂いって分からないからな、疑問に思う気持ちは分かる。
「わかりました。少し寒いですけれど仕方ないですね、行ってきます。」
「悪いな。」
「いえ、それではお伺いしたいのですが、この辺の地理が分からないものでして、近くに小川、もしくは湖みたいな所って有りますか?」
「小川? 結構遠い所まで行かないと無いが、何でだ?」
「え? 体を洗うんですよね?」
「はぁ? このご時世に川で体を洗う人なんか居るかよ!
風呂だよ風呂! 風呂に行ってこいって言ったんだ!!」
「風呂?」
「風呂も知らないのか…って異世界人だっけな。
仕方がない、こっちに来い。」
「あ、はい。」
俺は風呂場へと案内する。
「ここが風呂場だ。とりあえず洗濯するから脱いだ服はこの籠に入れてくれ、何か着替えを用意するから。」
「分かりました。」
「じゃあまた後でな。」
俺はそう言うと、バスタオルと着替えを取りに行くことにした。
寝室へ行き、タンスの中を探しているのだが…
「当たり前だが、女物の服なんか無いぞ、どうすっかな。
とりあえず服はジャージを着て貰うことにしても下着がなぁ…こればっかりは仕方がない、明日にでも買いに行くとするか。
今はTシャツとノーパンで我慢して貰おう。」
一通り用意が出来たので風呂場へ持って行こうとしたら、
「きゃああぁぁぁ~~~!!」
アリシアの叫び声が聞こえてきた。
何か事件でも起こったか!?
「アリシア大丈夫か! 開けるぞ!」
俺が急いで風呂場へと向かい扉を開ける。
「ま、待ってください!!」
ガチャ!
そこには、ずぶ濡れになって震えているアリシアが居た。
胸と大事な部分は隠していたので見えなかったが、あばら骨とか見えてるし随分とガリガリだな…これじゃあ欲情する以前の問題だな。
「どうした? 何が有ったんだ?」
俺が聞くと、アリシアは貌を真っ赤にして言ってきた。
「あ、あの、恥ずかしいので向こうを向いていただけると助かります。」
「わ、悪い。」
俺はくるりと反転した。
「えっと、じ、実は使い方が分からなくて適当にいじって居たら、突然上から水がザーって降って来まして…」
「あ~」
そう言えば風呂場の使い方なんか知らないよな、最初に説明しておくんだった。
「悪い、使い方教えてなかった。説明するから一度服を着て貰っても良いか?
どうせ洗濯するから濡れちゃっても問題無いし。」
「わ、わかりました。」
後ろでゴソゴソと着替える音がする。
「お、終わりました。」
声が掛かったので振り向いた。
「じゃあ、使い方教えるから。」
「はい。」
風呂場に入り、順を追って説明することにした。
「まず、このレバーをオレンジ色の所に合わせる。こうすることでお湯が出る様になる。
逆に青にすることで、先ほどみたいに水が出るから気を付けてな。」
「はい。」
「で、こっちのレバーを上にすると、シャワー…えっとこの上にあるコイツから出る様になる。」
俺はシャワーヘッドを手に取ってレバーを上にしてお湯を出してみる。
「触ってみろ。」
俺がそう言うと、アリシアは手をかざした。
「凄い! 本当に暖かいです! これも魔道具なんですか?」
「似た様なもんだ。でレバーを最初の位置に戻すとお湯が止まる。
逆にレバーを下げると此処からお湯が出るようになるから、おの桶に汲んでから使うと良い。」
蛇口の下に桶を置いてお湯を貯めてみた。
「わかりました。」
次に石鹸の説明だ。
「こっちの白い入れ物に入ってるのが体を洗うための物で、こっちの青いのが頭用だ。
頭を洗った後はの緑のこれを髪に馴染ませてから先ほどのシャワーで洗い流すんだ。」
「これって何なんですか?」
「石鹸だ。ほら手を出してみろ。」
アリシアが手を出したのでプッシュして出してあげた。
「わっ。」
「手をこすり合わせてみろ。」
俺がそう言うと、アリシアは手をこすり合わせた。
「わぁ~良い匂い、それにアワアワだ~!」
真っ黒な泡だ…どんだけ汚れてたんだよ…
俺はシャワーで手の泡を洗い流した。
「あっ…」
アリシアは残念そうな顔をしている。
「まぁ、こんな感じだ。洗い流した後はもう一度付けて洗えば良い。
泡が白くなるまで繰り返せばそれで終わりだ。頭も基本同じだ。」
「わかりました。」
「体を洗う時はそこに有るスポンジ…その白い柔らかい物にさっきの泡の元を付けてから擦って洗ってくれ。」
俺はスポンジを手に取りボディーシャンプーを馴染ませ、揉んで泡立ててから、体を擦るフリをして見せた。
「わかりました。」
「じゃあ俺は向こうに行っている。終わったらコイツで体を拭いて、こっちに用意した物に着替えてくれ。
女性用の下着はスマンが持ってないんだ。後で何とかするから今は我慢してくれ。」
「はい。」
俺はそう言って風呂場を後にした。
リビングに移動してソファーへと座り、頭を抱えた。
「俺は一体何をやっているんだ?」
確か復讐するために悪魔召喚の儀式をした筈だったのに、出てきたのは女の子だ。
その女の子は、今は家のお風呂に入っている。どうしてこうなった!?
そんな俺の悩みとは関係なく、風呂場からは楽しそうな歌声が聞こえていたのだった…