英雄譚(三十と一夜の短篇第44回)
パンガイア大陸の覇者イスカンダルを語るには、まずその誕生にまつわる逸話から始めななければならない。
イスカンダルの母マーヤーはミュケーの国の小さな村プティアで両親と兄弟たちと共に暮らしていた。当時のその地方の多くの女性と同じく、糸紡ぎや機織り、炊事などを分担しながら働いていた。そろそろ配偶者を定めようかと親が思案し始める年頃になった。
マーヤーは夢を見た。
一人の美しい女性の目の前に現れ、マーヤーに語り掛けた。
「才溢れ、高潔な魂の持ち主である青年が志半ばで命を落としました。再び人の子として生まれ変わらせ、今度こそ人生を全うさせてやりたい。その為にそなたの身に青年の魂を宿らせたい」
マーヤーは驚き慄いた。
「わたしには夫がいないのに子を宿すのですか?」
「そなたが行い正しく、家族に尽くす娘であるのを知っています。身も心も清らかなそなたこそ、大いなる誉れを得るであろう者の母に相応しい」
マーヤーは目が覚めて、両親に夢の内容を話した。豊穣を司る大地母神のシベールが伝わっている地域であったので、マーヤーの夢枕に立ったのはシベールであるとされた。
両親はともかく、周囲は半信半疑であったが、マーヤーに親しい男性がまだいなかったことと、次第にお腹が大きくなっていく様子から、これは大地母神シベールの申し子がお宿りになったのだと、村で受け入れられた。
夢見から約九ヶ月後、マーヤーは男児を産み、イスカンダルと名付けられた。
イスカンダルは村落の皆から大事にされた。身体は健康で、成長が早かった。頭脳も一を聞いて十を知る聡明さで、大人を驚かせた。
イスカンダルの出生にまつわる話と、かれ自身の優れた資質は村から村へと伝わり、王の耳に達した。
王都から王の使者が来た。母子ともども、王宮に来て、王子の側で仕えよとの勅命だった。マーヤーは生まれ育った土地を離れたくなかったが、夢枕に立った女性の言葉が真実であるのなら、我が子は田舎で埋もれて生きる男ではないと、決意した。自分は王宮に行っても役に立てないだろうが、幼い息子一人を都に出すのは心苦しい、是非連れていって欲しいと使者に返事をした。
使者に連れられ、マーヤーとイスカンダルは郷里プティアを離れ、ミュケーの王都ペラに赴いた。イスカンダルはペラでピリポ王の跡継ぎの王子カサンドロス付きの小姓兼遊び相手となり、マーヤーはカサンドロスの世話係の一人となった。
カサンドロスの将来の側近となるべく、小姓たちもカサンドロスと一緒に学び、鍛錬を行った。カサンドロスの学友にはマウリウス、ユールスといった廷臣たちの子どもたちと裕福な庶民の出の子どもたち、クローディー、ヌマもいて、そこには身分差はなかった。イスカンダルは抜きんでた才を示し、ピリポは目を掛けるようになる。カサンドロスが王太子である自分よりも学問も武術も優れているイスカンダルにどのような感情を抱いたか、詳しい記録は無い。少なくとも少年時は信頼篤い、主従であった。
カサンドロスが十七、イスカンダルが十五の年に戦が起こり、それがかれらの初陣になった。歴史書には王子が率いる一隊が勝利を導いたと書かれている。カサンドロスとイスカンダルは騎馬で突進して敵の首を取った。
ピリポは息子の戦功に満足した。またイスカンダルは充分息子の補佐役として足ると見極めたのだろう。カサンドロスの妹と将来結婚させると決めた。
単なる主従を超えて、親友であり、義理の兄弟となるとカサンドロスとイスカンダルは抱き合い、喜んだ。
隣国のハシとの度々の戦いがあり、ミュケーはこれと戦い、また周辺の土地を併合して、力も領地も増大している途上であった。侵攻してくるハシとの攻防の為、常に警戒が張られた。
当時の戦いは弓矢や槍、投石が主であった。歩兵は重装と軽装に分かれ、持つ武器や防具に差があった。馬に乗れる兵は限られていたが、ミュケーは馬の産地であり、騎兵が多かった。騎乗で矢を放つのは戦士であれば誰でもできるよう訓練された。
パンガイアでは古代、馬に乗るのに鞍はあっても鐙が無かった。丁度ピリポ王の辺りから鐙が、文献にも考古学の観点からも遺跡から散見されるようになる。乗馬技術を早く身に着け、足の鬱血を防ぐことができるとイスカンダルが発明したとされる。これはイスカンダルの偉業を称えようとする作り話の一つであろう。
ミュケーはかつての強国、西のラコーニーからハシとの戦いから手を引けと勧告を受けた。しかしハシと国境を接しているのはミュケーであり、ラコーニーが強国でハシと覇を競っていたのはミュケーが台頭してくる遙か昔。今更ラコーニーがハシに決戦を挑める力は残っていないとピリポ王ははねつけた。
ここから不穏な説が出てくるようになる。
ラコーニーの王がカサンドロスに、ピリポは娘婿のイスカンダルを跡継ぎにしよう、我が子を廃嫡しようと企んでいるから、王位を奪ってしまえ、カサンドロスが王位に就いたあかつきにはラコーニーの王女を娶らせ、共にハシに向かおうと唆してきたという。
実証する術は現代に無い。ただ、ピリポ王は以前無礼を咎めて左遷した臣下に暗殺され、カサンドロスが新たに王になり、ラコーニーの王女ゴルゴーを妻にし、ハシとの進軍は一旦休止と決められた。
カサンドロスの妹で、イスカンダルの妻の王女の名ははっきりとしない。ピリパとも呼ばれるが、これはピリポを女性名にしたもので、単にピリポの娘の意味なので、本名でない可能性がある。たがここでは便宜上ピリパとする。
ピリパは気が強かったと伝わっている。イスカンダルと共にペラの宮廷で兄よりも自分たち夫婦の側に群臣たちを味方に付けようと立ち回った。またカサンドロスの妻ゴルゴーも誇り高く、自分は王妃であるからと臣下の妻となった義妹に尊大に振る舞い、ミュケー王家の兄妹には緊張感が漂った。
ハシとの国境にある関門を通らずに、密かにミュケーに入った者が発見され、捕縛された。どこの国の人間か、捕らえられた者は口を割らなかった。しかし、その者の持ち物の中に蝋を引いた石板を持っていた。石板に蝋を引いて鉄筆で文字を書き、蝋を削ったり、新たに蝋を引いたりして、繰り返し使う。当然それは伝達用であろうと思われたが、石板の蝋の表面には何も書かれていなかった。単なる関所破りかと思われたが、ゴルゴーが石板の蝋を削り取ってみよと、カサンドロスに進言した。
果たして、蝋を取り除いた石板の上に文字が彫り込まれ、その内容はハシが別の隣国イリオンへ、ミュケーとの戦いで味方をしてくれたらミュケーの土地を分割しようとの誘いが書かれていた。
ゴルゴーの賢さにカサンドロスも群臣たちも感心し、イリオンへ石板を証拠にハシとの交渉を止めるようにと働き掛けるよう、決められた。
ピリパはゴルゴーがあっさりと石板の謎を解いたのが怪しい、ラコーニーとハシがミュケーを惑わせているのではないかと言い出した。
ここはイスカンダルが妻をなだめて、謝罪し、一段落となったが、宮廷内に亀裂を残した。
ミュケーからハシとの密約があるのではと石板を突きつけられ、イリオンはこの件は一切感知しない、ハシからの一方的な使者であろうとの返事をした。イリオン側は侮辱と受け取り、ミュケーの国境を越え、攻め入ってきた。
戦争は些細な事から始まる。
しかし、大事な体面を守ろうとして、イリオンは争いに敗れ、遂に滅び、ミュケーに組み入れられた。
この戦いでもカサンドロスと共にイスカンダルが活躍した。
国土が急に拡張した為に、カサンドロスは併合した国々へ執政役としてペラの有力者を代官として派遣し、元々の貴族たちを補佐役にして、何とか行政を取りまとめた。ペラで代官を束ねるのはピリポの代からの臣下のボイポスで、イスカンダルの成人後、マーヤーを後妻に娶り、宮廷内で権力を掌握しようとしていた。
ペラの宮廷内が手薄になりつつある中、事件が起こった。
兵士たちと共に軍事訓練をしていたカサンドロスに槍が飛んできた。間一髪、カサンドロスには当たらなかったが、犯人が捕らえられた。犯人はイスカンダルを狙ったのだが、近くにいた王の方に槍が向かって仕舞った、申し訳ない、王を上回ろうとするイスカンダルが許せなかった、全ては自分の考えでやったと動機を述べ、即刻死罪となった。
これは単独犯、カサンドロス、或いはゴルゴーの使嗾を受けてか否かと、謎が残る。しかし、イスカンダルはカサンドロスが無事で良かったと気にしなかった。ピリパの怒りを抑えるのにかえって苦労した。カサンドロスはイスカンダルに感謝し、妹よりも信頼できる兄弟であると公言した。
イスカンダルの性格が善良で単純に過ぎると批判があるが、悪い面を全てピリパの所業に替えられている可能性がある。イスカンダルは古代や中世にありがちな猪武者ではなく、地勢を読んで戦略を考えて行動している。単細胞と断じられない。
また、戦いに付き物の外傷にの治療にも知見を示している。
ハシで葡萄酒など醸造した酒を蒸留する技術が発明され、それはミュケー始め、各国に拡がっていた。イスカンダルは蒸留した酒で傷を洗えと、戦場で徹底させた。それまで傷を負ったら、血止めの薬草や油紙を巻き付け、血が止まったら効能のよく判らない塗り薬を塗布するくらいの処置だったのだが、イスカンダルは傷を悪化させない為には患部を清潔に保つ、蒸留酒で洗う、医術の心得が無い者が傷口を洗う以上の手当てをしようとすると、傷を広げかねないので、洗浄と血止めだけに留めておくようにと兵士たち厳命した。これで外傷から病を得て命を落とす兵士が減った。
自然とイスカンダルは兵士たちから慕われた。
ハシとの小競り合いが続き、本格的に雌雄を決しなければならないと軍議に上がるようになり、開戦の準備が始まった。隙を突くように旧イリオンで反乱が起こったが、イスカンダルがすぐに平らげた。
後顧の憂いを無くし、臣下のボイポスに国内を預けて、カサンドロス王はイスカンダルとハシへと進軍した。
ミュケーの国境を越えた平原のパルシーで初戦が開かれた。ハシの将軍の一人がカサンドロスたちを迎え撃つべく、進んでいたが、あまりの大軍であったことから、布陣が完成しないうちに衝突し、そのまま戦いとなった。混乱の中、ミュケー得意の騎兵が平原を駆け抜け、将軍を追い詰め、降伏に持ち込んだ。
ミュケー側の圧倒的な勝利に終わった。
だが犠牲が出た。王が身に付ける兜飾りから、騎兵の中にカサンドロスがいると、ハシの射手たちがカサンドロスに矢を浴びせた。王は完全な防具を身に纏い、盾となる従者たちも付き従っていたのに、この時ばかりは、運命はカサンドロスに味方しなかった。矢を盾で防ぎながら、射程距離からできるだけ離れようと愛馬を急がせて、バランスが崩れたのか、矢が当たったのか、カサンドロスは疾走する馬から落ち、そのまま息を引き取った。
戦いに勝っても、王がいなくなった。葬儀と子どものいないカサンドロスの後継を決める為に一旦ペラに戻らなくてはならない。しかし、イスカンダルは落涙しつつ反対した。
「我が義兄である王が亡くなってこれほどかなしいことがあろうか、しかし、ハシはこれでミュケーが軍を引き、宮廷で争いが起きると喜んでいるであろう。
我はこのままハシを叩きつぶしたい。その上で我が義兄である王の弔いをしたい。勝利を以て王の祭壇を立てたい」
ハシの都スーザまで遠くない。油断している敵を討とうとイスカンダルは訴えた。王の仇を討つと王の義弟、そして大地母神シベールの申し子の言い分に軍の幹部たちよりも兵士たちが呼応した。
ハシへ、スーザへ、ハシの王を倒そうと地を揺るがさんばかりの声に誰も逆らえなくなり、退却ではなく、進軍と決まった。
一方、カサンドロス王の死とハシへの進軍の続行は、ペラの宮廷に伝えられた。ピリパはゴルゴーに言った。
「貴女は兄の子を儲けていません。ラコーニーにお帰りなさいませ」
「わたくしはミュケーの王妃として、王の葬儀を行わなければなりません。お待ちします。それに王がいなければ王妃が執政をしなければなりません。あなたは元は王女でも今は臣下の妻ではありませんか」
「異国から来た者が執政に就くのを民が納得するでしょうか?
執政なら王妹のわたくしがいたしましょう。わたくしの夫は兄王になり代わり、戦っています。
王妃は王の許に赴かれるがよろしいでしょう」
ピリパはゴルゴーに殉死を強いた。自裁が殺害か判然としないが、とにかくゴルゴーはカサンドロスの後を追った。その事実はしばらく伏せられ、カサンドロスとイスカンダルの不在の宮廷ではピリパとボイポスが実権を握った。
イスカンダルは妻が何をしているか知らぬままま、ハシへ攻め上がり、スーザの手前のアッテ平原に陣取った。当然ハシのダイウス王も大軍勢をもって布陣した。
平原に大勢が拡がっているのを見て、イスカンダルは騎兵で中央を突破する、遠征してきた少数での勝機はここにあると宣言し、実行した。ハシの軍は騎兵の機動力の早さに驚き、包囲するの機会を逸した。イスカンダルの軍勢はダイウス王の陣まで突進した。ダイウス王は迫るミュケーの軍に恐れをなして逃亡した。
王が逃亡したと知れるや、ハシの軍勢は総崩れとなり、逃亡、降伏とミュケーはアッテ平原の戦いに勝利した。
ハシ王家の伝統として、戦いの場に家族を連れてくるのだが、ダイウス王はその家族をも置き去りにした。降伏したハシの武将がハシ王の陣幕に案内し、ここに残された財もダイウス王の家族も勝利者の物ですと、披露した。
イスカンダルはハシ王家の財を見て、家臣や兵士たちの取り分を決め、家族はダイウス王の行方が判り次第、送り返すように言った。
「ダイウス王の王女は美女です。
勇者のみ美女に値すと申します。貴方様がどうされようと誰も何も言いますまい」
「我には妻がある。そして責められるべきはダイウスであり、その家族ではない」
ハシの廷臣たちはイスカンダルに平伏した。
イスカンダルは信頼できる友であり将であるマウリウスを、行政官として輜重係のクローディーをハシの監視役として置き、カサンドロスの遺骸と、ハシの財宝をと共にミュケーに凱旋した。
凱旋先で見聞きしたのはゴルゴーの死であり、妻ピリパの専横であった。
「こうしていなければ、あなたはわたくしの遺骸と対面した後にゴルゴーから自裁を命じられていたでしょう」
イスカンダルは自信を持って言い切る妻に無力だった。
カサンドロスとゴルゴーの葬儀を終え、次のミュケーの王位は誰が継ぐのかと会合となったが、王の義弟で、ハシでの大勝利を収めたイスカンダルこそ相応しい、大地母神シベールの加護があると、その推薦しか出てこなかった。
イスカンダルはミュケーの王となった。
ミュケーは周辺の小国だけでなく、イリオンや大きな領土を持っていたハシを破ったことにより、統治しなくてはならない地域が急激に増え、それに伴って新しい代官を置く、置かない、旧領の統治の仕方に合わせるか、ミュケーの統治の仕方を持ち込んで良いか、戦後処理が待ち構えていた。
イスカンダルはそれまでの宗教や慣習は尊重し、公平な法律を作って、これを遵守させるようにしたい、文官の育成・採用が必要だとボイポスに説き、ヌマたち命じた。
ピリパとボイポスは難色を示したが、イスカンダル王がシベールの申し子といってもその権威が通じる相手ばかりではないとと一喝し、従わせた。
ゴルゴー王妃の出身地ラコーニーとは仲違いしたまま和解できず、戦争となり、ラコーニーは同盟国という名の属国となった。
イスカンダルはハシ王国の東にダイウス王が逃げて捲土重来を狙っていると聞き、また遠征を行い、これに勝ち、パンガイアの地のほとんどを手にした。
イスカンダルはその後一人側室を持った。故郷のプティア出身の女性のバルシネとの間に一男一女を儲けている。ピリパとの間に子はできなかった。
「イスカンダル王の後を継ぐのが卑しい母を持つ男であるのは恥ずかしい」
と広言してはばからない妻とは修復できない溝ができていたのであろう。ピリパが母代わりになりたいので男児のアシーズを養育させろと一度ならず申し出たが、イスカンダルは後継は実子である必要は無いからと断った。後継云々よりも妻の気性を恐れた。
イスカンダルは広大な領地を持つ王として、富を誇示し、楽しむよりも、身を粉にして民の安楽を望んで働いた。
ボイポスは有能で、母の夫であるが、野心があるからこそ行政を整え、命令を行き渡らせようとしている。ピリパとは既に仲が冷え切り、王妃の権威を高めることにばかり熱心になっている。
かつてカサンドロスと共に幼少時からペラの宮廷で育ってきた朋友マウリウス、ユールス、クローディーは拡張した国土の代官になって赴任し、遠い。ヌマはボイポスを牽制しつつ、法の整備、インフラの計画に飛び回り、多忙ぶりを競っている。
心安らぐ相手はバルシネと子どもたち。
「貴方様があたしにとって良き夫、子どもたちの良き父であれば、何を望みましょう。どうかここではお悩みをいっときでもお忘れください」
「カサンドロスたちと馬を駆り、武器を振るっていればこそ、生きる甲斐があると思っていた。カサンドロス亡き後は意思を継いで、争いの絶えないパンガイアを一にし、平らかな世にしようと、それだけを胸に戦ってきた。
我が勢いに任せて戦い奪い取ってきた領地。得てしまってこれほど重い責務が待っているとは思わなんだ。戦っていた時は何と物を知らなかったか。領土には住まう民がある。支配者が変わったから黙って言うことを聞けと言って、納得する者があろうか。民を護り、できるだけ公平な租税、公平な賞罰を定め、暮らし向きが良くなるようその土地その土地にあった技術と知恵を授けなければならない。
我は略奪者ではない。民の父として生きる」
イスカンダルは王こそ国家と民のしもべであるとよく口にした。そしてその通りに振る舞い続けた。
働き過ぎであったのだろう。ハシの領地を視察の最中、急に倒れ、わずかの間患って亡くなった。最期の言葉は残されていない。
イスカンダルの死は後継者が決まるまで秘密にしようと決められた。
ピリパはボイポスから告げられた。
「貴女様は覇者の妻として現世で権勢と富をほしいままにされてきました。
ゴルゴー様に仰言ったように私が申し上げます。
貴女様には子がありません。妻は夫の許に赴かれるがよろしいでしょう」
ピリパはこうして自裁を遂げた。
イスカンダルの側室の子どもたちは幼かったが、宮廷内の争いでバルシネともども暗殺された。マーヤーの没した時期は知れないが、息子よりも先に亡くなっていたと思われる。孫が殺されるような事態は見なかったであろう。ボイポスやマウリウスたちかつての仲間が激しく争いを繰り返し、イスカンダルが築いたパンガイアの王国は、儚く瓦解した。
マーヤーの夢枕にたった女性が、またほかの女性の夢に現れて、生まれ変わりをさせたいと告げたかは知らない。英雄や聖者と言われる人の出生には大抵つきものの逸話だから。
こういった物語をファンタジーの長編に仕上げたら、面白いでしょうか?