現実
少女は部活動を頑張りました。
少女フィユは部活動で、学校の虫拾いクラブの部員たちと体育館に行くことになりました。虫拾いクラブは学校内に落ちている虫の死骸を拾っては捨てる部活です。顧問の先生はいつも手に虫の死骸をもっているので生徒たちにきもちわるいと嫌われています。部員たちも、みんなが嫌っているから、と先生を疎ましく思っており、先生が話しかけても無視をします。先生は嫌われている自覚がないようで、部活動が始まってからもせっせと体育館で虫を拾って部員のみんなに話しかけています。誰も返事はしません。
フィユがほうきとちりとりを手に虫を集めていると部長が声をかけてきました。
「倉庫の方の虫をお願いしてもいい?」
「はい部長。わかりました」
フィユは嫌でしたが目上の先輩のお願いなので快く返事をして、倉庫に繋がる白い長い空洞に足を踏み入れ、進みます。倉庫に行くにはこの薄暗く埃にまみれた白い長い空洞をまっすぐ進み、突き当たりで左に曲がって、またまっすぐ進み、扉を開かなくてはいけません。フィユは歩くことは好きですが、倉庫はぼろぼろでおばけが出たら怖いのであまり好きではありません。今の手持ちはほうきとちりとりなので、おばけに遭遇しても勝てるかどうか自信がないのです。そうこう考えてるうちに倉庫に着きました。
扉を開けると薄汚れた倉庫にたくさんの段ボールがありました。フィユはおばけが出ても逃げれるように扉をしっかり全開させたまま段ボールの上のほこりをほうきでばしばし床に落とします。ばしばしばしばし。4段重ねの段ボールが、バランスを崩し倒れました。フィユは少しびっくりしました。そして、倒れた段ボールの向こうから5メートルほどの細長く足がたくさんある醜悪な虫が奇声をあげて姿を現しました。フィユはかなりびっくりしました。あまりのことに叫ぶこともできず、ほうきとちりとりを虫に投げつけ、思いっきり逃走します。
虫は、空洞でフィユの後ろを奇声をあげて白い粘膜を撒き散らしながら追いかけてきます。フィユは泣きたくなりました。
このままでは追いつかれてしまいます。フィユは勢いをつけるために左右の壁にぶつかりなから、その反動でスピードをあげてなんとかみんなのところに泣きながらたどり着きました。死ぬ恐怖ではなく単純に巨大な虫が気持ち悪かったのです。体育館では虫を見た部員たちが協力してその巨大な虫を殺して、運動場に捨てて解決しました。
部活動が終わり、今日は電車で帰ることにフィユは決めました。疲れたので椅子に座ろうと空席に近づいたら、空席の前のテーブルにたくさんのお菓子がおかれていることを不思議に思いました。乗務員のお姉さんが慌ててフィユに近づきます。
「お客様!そちらは申し訳ございませんが、別のお客様が座られておりますので…!」
「座ってるの?何もいないと思うのですが」
「さきほど死んで、いま身体は燃やしてるのですが、まだ心がこちらに座っております。みえないので、間違えて踏まないようにご注意くださいませ!」
「わかりました、ありがとう」
フィユは気をつけて踏まないように端っこを歩きながら次の車両へ移動しました。
次の車両にも空席があり、空席の前のテーブルには魚がたくさんおいてありました。
フィユはこれも心が座ってるのかしら、とじーっと見ます。薄い青色の人の形をしたようなふよふよがなんとなく見えました。フィユが次の車両に移ろうと歩き出したら、髪の毛が1本ぱらりとおち、ふよふよの膝のあたりに落ちました。フィユはごめんなさいごめんなさいと焦って謝り次の車両へ移ります。そして次の車両についたときにアナウンスがながれました。
「お家につきました!気をつけてお帰りくださいませ!」
さきほどの乗務員のお姉さんの声です。フィユは電車を降りて家に帰りました。
家には誰もいません。フィユは今日の授業の復習をはじめます。するとピンポーンと音がなりました。フィユは復習を止めて、玄関のドアを開けます。変な鳥の仮面をした男がいました。
「どちらさまですか?」
「わたくし、包帯売りでございます。ナイフで刺されたときのために、包帯はいかがですか?」
フィユはドアを閉めて鍵を閉めました。
不審者には関わってはいけないからです。
フィユが部屋に戻ると、またピンポーンと音がなりました。今度は出るつもりがないのでそのまま勉強を続けます。すると、包丁を持った少年がフィユの部屋に入ってきました。フィユは殺されたくないので包丁を奪って少年をさしました。
時間になり、ママが帰ってきて夕飯です。
夕飯をたべながら、ママが話しかけてきます。
「ママが帰ってくるまでちゃんと勉強してた?」
「今日は変な人が来たからあまり進まなかったの」
「変な人?家にあげてない?」
「なんか、変な仮面?お面?をつけた40代くらいの人がピンポーンって…」
言いながらフィユは疑問に思いました。
なんで変な仮面をつけた人がうちに来るのだろう。
ママも不思議そうな顔をしています。
「それほんとう?」
「…ううん、ごめん、夢だと思う。ごめんなさい」
「ちゃんと夕飯終わったら勉強はしなさいね」
フィユははーいと返事をしました。
よく考えたら、そんなおかしな人が現実にいるはずもないなと思いました。いつのまにか寝てしまって、変な仮面のセールスマンと包丁を持った少年の夢を見てしまったのだなと解決に至ります。
念のため部屋を見ても死体なんてありません。
フィユは夕飯を片付けて、血まみれの包丁を洗って、生ゴミをゴミ袋に詰めて、お風呂に入ってから明日も学校に遅刻しないように早めに眠りにつきました。
「現実」おわり