ケチャップ
少女は、一番になろうとしました。
少女フィユがマンションで留守番をしていると黒兎が現れました。
どうやら女王陛下がヤクザたちに焼き殺されたそうで、新しい王様を決めなくてはなりません。
黒兎はフィユに女王陛下になって欲しいと言いました。フィユは黒兎のお願いを聞いてあげたいと思ったので女王陛下を目指すことにしました。
フィユは女王陛下になる為にもう一人の後継者であり姉であるエティに勝たなくてはなりません。この、大きな大きなお城のふもとから先にお城の頂上に着いた方が勝者で新しい女王陛下です。審判のよーいどんの合図でフィユとライバルのエティは別々のルートを進み出します。
歩いたり走ったり眠ったり、城を上る道は険しいです。階段を上りながら下を見ると、ピンクや水色のキラキラしたネオンの光が暗闇を照らしています。階段の次はジェットコースターのレールの上を登ります。ここで中間地点なのでだいぶ位置は高く、落ちたら死んでしまうのでフィユは真剣です。なのに、頭上で実況の青年が空を飛ぶ機械に乗りながらレースの実況を喧しくしているので、フィユはいらいらしていました。
ようやくたどり着いた休憩所は可愛らしい白色の部屋でした。カーテンやベッドにもたくさんフリルが使われていてフィユの好みです。フィユは3日ほどゆっくり眠りました。
もっと眠っていたかったけれど、そしたらエティとのレースに負けてしまいます。フィユは起きてパジャマを脱いで再び城を上り始めます。
ジェットコースターに乗ってびゅんびゅんぐるぐる進みます。空中には香水やリップクリームやケーキなどのアイテムがたくさんあり、それを手にすることでジェットコースターをどんどん強く早く育てます。星がきらきら光る夜空に向かって星より早く進みます。ジェットコースターのレールが終わりました。フィユはジェットコースターにばいばいと言いました。ジェットコースターは少し寂しそうでしたがフィユを応援してくれました。それを見た実況の青年が「おぉっとー!?ここで、ジェットコースターとのおわかれだぁぁ!」と言いました。
フィユは階段を上ります。お腹が痛くなるくらい頑張って走って、そしてゴールの扉を開けました。
扉の向こうでは先にゴールしたエティが次の女王陛下になるためのお祭りで盛り上がっていました。
「あと3日間、お祭りをするの。手にしたアイテムはお祭りが終わったら消えるから残ってるなら使い切るべきよ」
女王陛下になったエティがフィユに言いました。
「香水がまだ残ってるわ」
透明なガラス瓶の中で揺れる少量のピンクの液体を見せびらかしながらフィユが言います。
「羨ましい!」
「だめ、エティは使い切ったんでしょ」
香水は貴重な惚れ薬の一種です。フィユはエティに奪われたくないのでさっさと逃げました。香水はせいぜい2回分の量しかないので誰に使うかフィユは真面目に悩んで、龍と悪魔の二人に使おうと数秒で決めました。二人はとても見た目がかっこいいからです。
まずは龍からです。龍はまだ祭りに来てないようです。なので扉の近くで待機する作戦をフィユは決行します。龍は知的な女性を好むそうなのでフィユは本とソファーを用意してソファーに座りながら本を読み始めました。フィユは光による見え方の角度を考えながら一番いい位置にソファーを置きました。そして香水を髪につけました。
「これで龍は私に一目惚れするわ」
満足気に呟いて本を読み始めました。フィユは読書が比較的好きです。なのであっという間に読み終えてしまいました。同じ本を繰り返し読むより新しい本を読みたいと思ったのでフィユは新しい本を買いに行くことにしました。
「良ければ読みますか?」
レース中ずっとフィユの頭上でぎゃんぎゃん煩かった実況が、ソファーから立ち上がったフィユに気を利かせて本を差し出しました。フィユはしまったと思いましたが香水が1回目の効果を発揮してしまいました。実況はフィユのことを好きになってしまいました。抱きついて愛を囁いてきます。
「…あと1回まだあるから、仕方ないわ」
失敗は仕方ありません。実況を引き剥がし、フィユは龍は諦め悪魔に挑戦しに行くことにしました。悪魔はプールにいるのでプールに向かって走ります。その時祭に来た龍はフィユとすれ違い、可愛らしい子なので声をかけようとしましたがフィユがすぐさま走り去ってしまったので諦めました。
フィユは水着に着替えてプールに入ります。泳いでいる人魚達が悪魔は女子トイレにいると教えてくれました。悪魔は女子トイレに来た女に水をかける嫌がらせをしているそうです。
フィユは最後の分の香水をつけ悪魔を待つ為にトイレの個室に入ります。すると、上から大量の水がばしゃああああっと降ってきました。扉が開き悪魔が馬鹿にしたように笑い出します。
「水は好きなの。残念だったわね」
そんな悪魔を見ながらフィユは言いました。
これで悪魔は自分を好きになると思いながら。
「はっ、ならケチャップは好きか?」
悪魔はミニパックのケチャップをフィユに投げつけました。そしてたくさんのケチャップをフィユにぶつけました。フィユはトマトが大嫌いなのでケチャップも大嫌いです。
「ほんとうにやめて!おかしいわ!私のこと好きになったはずよ」
「別にお前なんか好きじゃねぇよ」
悪魔は照れたように言った後にどんどんケチャップをぶつけます。
トイレの個室はトマトの匂いでいっぱいになりました。
悪魔は好きな相手にケチャップをひたすらかける習性でした。
「ケチャップ」おわり