たたかう
少女は家にいました。
少女フィユは誰かにお腹を刺されて殺されました。痛くて堪らなくて、でもこれでお終いだと安心して、フィユは死にました。
二回目。家のリビングにフィユは居ました。この家はフィユの家でフィユがずっと住んでいます。フィユはこの家が2階建ての小さな一軒家であることも隣には立派なお屋敷があることも知っています。フィユはそれを疑問に思いました。
「いつもなら…」
言いかけてから、フィユはいつもがどうだったのかわからなくなりました。でも、フィユは物事を深く考えない性格なので気にせず2階の子供部屋に向かうため螺旋状の階段を上がりました。
2階の子供部屋では姉のエティが座っていました。エティはフィユを見ると笑顔になり、フィユを子供部屋に引き入れてドアを閉めました。
「ねぇ、私と仲間にならない?」
「どうして?」
「二人なら勝てると思う」
「じゃあエティの仲間にして」
「いい子ね、大好きよ」
エティがフィユの頭を撫でます。
フィユは先ほど刺し殺してきたのはエティだなと感じ、「さっきは私を殺したくせにまた騙すつもりなんだ」と心の中で思いました。
殺されるのは痛くて怖いので、殺される前に殺さなくてはなりません。
なので「仲間にして」と嘘をつきました。
エティが紅茶を淹れに1階に降ります。
その隙にフィユはエティを突き飛ばしました。
エティは死にました。
フィユは家の外に出ようと玄関を開けます。フィユは誰かにお腹を刺されて殺されました。痛くて痛くて、お腹に穴が空いてるのが怖くて、でもすぐに死にました。
三回目。子供部屋にフィユは居ました。ぬいぐるみがたくさんある可愛らしいお部屋です。フィユはここが一軒家の2階の子供部屋であることも1階にリビングがあることも隣に大きなお屋敷があることもここは殺されるから危ないことも知って居ます。螺旋階段を上がる足音が聞こえます。姉のエティだとフィユは分かりました。フィユはドアを開けて、壁とドアの隙間にさっと隠れます。先ほど刺し殺されたような気がするし、犯人がエティのような気がします。
「どこにいるの?出てきて」
誰が出るものか、とフィユは思いました。
「お願い、一人じゃ怖いの」
包丁を持ってるくせに、とフィユは思いました。
その時、部屋のガラスが割れて外から少年が入ってきました。その少年はエティを視界にいれるとエティの髪を頭皮から引きちぎりました。子供部屋に血が飛び散ります。エティは何か苦しそうに叫んだ後、逃げようとして窓から落ちて死んでしまいました。
そして少年は何かを探すように子供部屋を見回した後、1階を探し、そして何も見つからなかったのか出て行きました。
フィユは少年は自分のことも殺すだろうと思い怖くなりました。殺される前に殺さなくてはなりません。でも少年のように素手でガラスを割るチカラはありません。子供部屋に隠れながらフィユは悩みました。
「殺される前に死ねばいいんだよ」
部屋のぬいぐるみが言います。
「でも、死ぬのは怖い」
フィユは言い返します。
「殺されるよりも、痛くないよ。大丈夫」
大丈夫、大丈夫、がんばれ、がんばれ、ぬいぐるみ達が応援をしてくれます。フィユは死にました。
四回目。家の屋根の上にフィユは居ました。フィユはここが2階建ての一軒家であることも隣に大きなお屋敷があることも見知らぬ少年の殺人鬼が姉と自分を殺しにきたことも知って居ます。フィユは殺される前に今から死ぬかどうかで悩みました。姉のように痛い思いをして死ぬのは嫌です。悩んで悩んで、とりあえず屋根から降りようとしてジャンプしました。ジャンプして電車の上に着地しました。電車はたくさんすれ違い、色んな電車の上をぴょんぴょんぴょんぴょん飛び跳ねて渡ります。フィユはとても楽しい気分になりました。電車遊びに満足したので家に帰ります。身体が軽いです。
「ただいま!」
力があるのでもう怖くありません。フィユの声に誰も反応しません。フィユは1階で紅茶を淹れてゆっくり味わった後、螺旋階段から2階へ上がりました。子供部屋の扉を開けて姉に向かって微笑みました。
「隠れないのね」
「お願い私を助けて」
「どうして?」
「殺されるのは怖いの」
「殺される前に死ねば怖くないわ」
姉は「そうね」と言い飛び降りて死にました。
フィユは右手で壁を殴って家を破壊しました。
家のどこかに居た少年は死にました。
「たたかう」おわり