お泊り論争
「いいお湯だった。ありがとう」
パジャマ姿の先輩が脱衣所から出てきた。
ピンクの上下に胸元にあるデフォルメされたクマのワンポイントがかわいい逸品だ。
「ではなくて、なんでパジャマなんですか」
「それは、寝るときにはパジャマときまっているだろう。もしかして、私が裸で寝ると思っていたのか」
「えっと」
実はその通り。先輩の性格上、全裸で寝ていると思っていた。
って言いたいのはそういうことじゃあない。
「ふむ。恥ずかしいが期待に応えて裸になるか」
先輩は上着のボタンに手をかけた。
「ワーッ。わーっ違います。僕が言いたいのは、今がまだ七時半と言うことです」
「すまない。さすがにその返しは想定外だ」
先輩には僕が言いたい意図が理解できなかったようだ。
「つまり、今ならまだ帰れるの帰りましょう。駅まで送りますよ」
「と言うことは、帰れない時間であればお泊りオッケーっということだな。よし、今からゲームをしよう」
「なんで、そんなことを言うんですか。屁理屈ですか」
先輩は困った顔をして『屁理屈とはちがうんだがなぁ』とつぶやいたが、僕にとっては屁理屈でしかない。
「まぁ、大丈夫だ。実は家のものを呼んである」
「なんだ。冗談なら冗談って言ってくださいよ」
先輩の発言を聞いて、心底ほっとした。
噂をすれば影というのだろうか丁度『ピンポーン』とチャイムが鳴る。
「ちょうど、迎えが来たようですね。先輩は早く帰宅の準備をしてください」
「ああ、準備をしておこう」
僕が返事をして扉を開けると数十名のメイドさんが大荷物を物々しく並んでいた。
ん?何かがおかしい気がする。
迎えだけに数十名のメイドさんが必要なのだろうか。
それとも、迎えに行ったその足でどこかに出かけるのだろうか。
「夜分に申し訳ございません。坂上様」
メイドさん達は一斉に頭を下げる。
そして、僕も思わず頭を下げた。
「準備がございます。申し訳ございませんが一度、外へと退避お願いいたします」
「わっ。解りました」
条件反射で動いた僕は、よく理解せずメイドさんの指示に慌てて従い外に出る。
すると入れ替わるように、メイドさん達が家の中へと入っていき扉の鍵を閉めた。
締め出された!?。
この家の主である僕が締め出された。
僕は、焦ってチャイムを連打する。
しかし、応答どころか鍵が開く気配もない。
どうしよう。
僕は、途方に暮れ玄関前に丸まっていた。
☆
それから数十分後、ガチャリと扉が開く。
「お待たせいたしました」
そう言いメイドさん達がぞろぞろと出てきた。
「それでは私たちはこれで。夜分遅くに失礼しました」
メイドさん達はロクに説明もしないままお辞儀をして、去って行った。
どういうことだ。
僕が、慌てて家の中へと入るとそこは、先輩の私物や寝具が運び込まれていた。
「と言うことで。よろしく」
にやりと笑みを浮かべて肩をたたいてくる先輩。
今日、先輩のお泊りが確定した瞬間だった。
思わず僕はその場に崩れ落ちた。
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