価値観
「先輩話がありますので、そこに座ってください」
僕は先輩をテーブルの向こう側に座らせた。
「何かな。もしかして、私の料理に問題でもあったかな」
「いえ、料理は僕好みで美味しかったです」
「そうか、それはほっとした。君の好みは調べたから一通り知っているが、不安だったのでな」
照れるような表情を浮かべる先輩。
しぐさなどはどう見ても恋する女性なのだろうが―――。
「その発言の方が不安です。主に僕の個人情報や、先輩のモラルが」
「大丈夫だ。私は美人で、お嫁さんだからな」
先輩の発言には頭痛がする。
「何度も言ってますが、美人を免罪符にしないでください。そもそも、先輩の中でお嫁さんってどうなってるんですか」
「胃袋を掴み、誘惑し、相手のためならどんな障害も排除する存在だろうか」
「なんですかそれは、忍びか何かですか」
「何を言っている。お嫁さんの話だろう」
そんなわけがない。どの世の中にそんな、諜報員まがいなお嫁さんがいるのだろうか。
「解りました。ですのでいったいこの話は置いておきましょう」
深くは理解していけない気がする。
「家に不法侵入して料理をしていたのは先輩がお嫁さんだったからと言うことでいいでしょう」
自分自身何を言っているか解らないがそうでもしないと僕の精神がヤバい。
「ですが、あの水着にエプロンという恰好はなんですか」
「あの恰好はそんなに駄目だったか」
「駄目でしょう」
「やはり、裸エプロンでなければ邪道だったか。しかしあれは中々、精神的にハードルが高いのだぞ」
「いえ、裸エプロンじゃなかったからとかそう言う意味ではなく。そもそもそんな恰好で料理をするのは、破廉恥だと言う意味です。」
「しかし、私のリサーチによれば君はこういう格好が好きなのだろう」
「なんてものをリサーチしているんですか」
さすがにここまで来ると怖い。
「しかし、案外君も謙虚だな。てっきり私は野獣のように襲ってくるものだと思ったぞ」
「もし、襲ったらどうなってたんですか」
怖いもの見たさで聞いてみる。
「そうだな、まずは手刀で気を失わせるな」
「なんで!?。物理的に落としてどうするんですか」
予想斜め上の回答に困惑する。
「そして、私の持っている別宅へと招待するのだ」
「先輩知っていますかそれを人は拉致と言うんですよ」
「人聞きの悪い。別宅があるのはプライベートアイランドだからな。滅多に出来ない体験がたくさんできるんだぞ」
「しかも無人島ですか。ナチュラルに逃げ道を塞いできましたね」
「そして、そこで仲良く二人は添い遂げるのだ。なんと夢がるいい話じゃないか。子供は―――」
「うわぁ」
興奮して、妄想の未来予定を話している先輩とは対照的に、僕はこの人の価値観はヤバいと冷や汗をかいていた。
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