表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンメルキウム  作者: こいで まいや
3/4

ここにいる者

周囲を包む霧が晴れていったかと思うと、お祭り騒ぎの広場に戻っていた。

「それ、これに入れた方がよくない?」

ミノルが大きな布の袋を目の前に差し出した。

確かに、猫の抜け殻みたいなものを持ってうろつくのは周囲から見たら気味悪く見られそうだ。

ついでに黒い毛の束も入れた。

「それ、ドミニスに見てもらって加工してもらおう」

「加工?できるの?」

「できるできる!

 品質はイマイチだけど、そこそこ使えるのができると思う」

嬉しそうに言うと、その袋を肩に担ぐと

先ほどいた店のステンドグラスの扉を開けて、二人は店内に戻った。


「いらっしゃいませ!新年おめでとうございます」

先ほどは見かけなかった、小柄な少年が元気よく出迎えてくれた。

人懐こい満面の笑顔で、ホテルマンのような制服に身を包み姿勢を正してアイクを見つめた。

「こちらは初めてのご来店ですか?」

「いいや、さっき来たよぉ」

ひょいとミノルが間に割って入ると、顔を曇らせた。

「ミノルさんのお知り合いですか?」

「さっき知り合ったばかりだけどねぇ。

 今はぼくのパートナーになって欲しいなって口説いてるところ~」

「えええええっ!?」

少年は驚きの声を上げた。

キラキラした瞳でハナを見つめると

「ミノルさんの御眼鏡にかなう方と初めてお会いしました。

 素晴らしい!

 あなたはどんな能力をお持ちなんですか?」

「はぁ…はぃ?」

アイクは目をぱちくりとさせていた。

「こんなに愛らしい素敵なお嬢さんがミノルさんのパートナーだなんて!

 羨ましいです。あやかりたいです」

「こらこらパウル君。変な言い方は止めてくれないかなぁ。

 誤解されてしまうだろう」

「誤解も何も、本当に驚くべき出来事です」

落ち着いた大人の声が頭上から聞こえた。

どこから現れたのか、いつの間にかドミニスが横に立っていた。

さきほどまで全く気配を感じなかったので、ハナは驚いた。

「お帰りなさい。あれは上手く使えましたか?」

「ばっちり使えたよぉ~。これが始めて採取した素材~」

と、布袋をドミニスに差し出した。

受け取ってカウンダ―に向かい、中の毛皮を出すと。

「まぁ、無難ですが、それなりの装飾品に加工できそうですね」

「でしょでしょ?この子の取ったモノはいい感じなんだよね

 これが初めての獲物なんて思えないよねぇ」

会話の意味がさっぱりわからず、ぽかんとしているアイクに

「あなたは今日こちらに渡ってきたばかりですから

 基本的な情報をお伝えしておきますね」

そう言ってドミニスはにっこりと笑った。

「この世界、といっていいのか、この空間では様々な品を産み出し、売っています。

 異世界商店街とお呼びになる方もいらっしゃいます。

 ここでは特殊なものを販売しており

 外から来る方が基本的に我々のお客様です」

「外…ですか?」

「はい。あなたも薄々気づいているかと思いますが

 わたしたちも本来は外の人間です。

 しかし、今は内側の人間となっています。

 内か外かのどちらで生活するかは1年おきに入れ替わります」

なんだかよくわからない。

「でも僕はここの存在なんて知らなかったよ?」

「もちろんそうでしょう。

 生産、加工、販売、利用、特定の人間に限られています」

「いや、そうじゃなくって

元々ここを全然知らなかったんだけど」

「恐らく、何かのきっかけで条件があったんでしょう。

 だからあなたは新年を境にこちら側に招かれた。

 こちらを生活拠点とするポジションで」

説明を聞いても頭の中の整理がつかない。

ハナは腕を組んで上を見上げた。

この店は縦長で、大きな螺旋階段がある。

吹き抜けで見えている二階では、生地を運んでいる人たちが見えた。

「ここを生活拠点にできる人間は500名までと決まっていて

 毎年数名入れ替わりがあります。

 少ない人数ですからあなたと誰が入れ替わったかはすぐわかる事でしょう。

 でも、そんなことは些細な事。

 あなたが今年、初めてここに足を踏み入れたことが大切で重要な出来事です」

「そうなの?」

「はい。まず、原材料を採取できる生産系は貴重な存在なんです。

 あなたを含めて20名程度しかいません。

 役目の割合は私が知る限り一定比率で変化がないので

 その数は間違いないと思います。

 ここの定住者の大半の者は加工し、店頭に並べて販売することを主な役目です。

 それからもうひとつ

 ここの定住者の使い手、という立場も貴重な存在なんです」

「その通りぃ!」

とミノルが自慢気に胸を張って言った。

「使い手の定住者はぁ、ぼくを含めて10名だ!」

「使い手の定住者は10名…」

説明を聞いても現実感がないため、ハナはぼんやりと繰り返した。

「外からくる使い手連中は多いけどね。

 多い、といっても誰もがここに来られるわけじゃない」

ずごいだろう、と言わんばかりの表情で語るミノルを見て

腕を組んだまま目を閉じてハナは考えた。

ここで起こっていることは夢や幻覚とは思えない。

というか、すでにここの空気に馴染み始めている自覚がある。

理屈でどうこう考えるのはなく【ここはそういう場所なのだ】という当たり前のような感覚だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ