表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンメルキウム  作者: こいで まいや
1/4

コンメルキウム

※このサイトの使い方がイマイチ分からないまま投稿してます。

 わかってきたら整理しますね。

 読みにくかったらごめんなさい。

冒険には武器装備と張り切るが

普段の衣服は無頓着

そんな人が一定数いる。


特に、布一枚を織る手間と労力を理解しようとしない輩は厄介である。

安くて、丈夫で、動きやすければなんでもOK

という相手はやりやすいというべきか、やりにくいというべきか。


値段相応の品揃えをしているにも関わらず、文句を言う者がいる。

機織りの労力への対価を支払う相応の代金が必要。良い布地に職種にあわせた機能的なデザイン及び製作、縫製等。

それらを適正に考慮すると、売価はそれなりの価格にならざるを得ない。

うちの商品はよほどの事がない限り、生涯使用できる品質を保ち、デザイン性も優れている。

買う時点では高額だが長いスパンで考えれば安い買い物のはず。

購入後のメンテナンスサービスもあり、アフターケアもバッチリ。

気に入らなければ買わないければいい。

それだけの話だ。


扱う商品の価格帯が高額なため、うちの顧客は余裕のある者がメインだ。

他は特別な誂えを必要とする宰相以上国王レベル。

そして規格外の取り引きをする個人。彼らとは特殊な素材と引き換えに相応の品々を提供する。

他店では物々交換紛いな取り引きはしない。

何故なら、持ち込まれた素材の価値を図ったり、物の真贋を見抜けるスタッフがいないからだ。

特殊なものを扱っているため、見抜くのは難しい。粗悪品を偽って買い取る詐欺に遭う可能性がある。

素材や物品は仲介屋を通し、品質を保証してもらうのが通常。

その点うちは素材の買取と加工、錬成、縫製もできる唯一の店舗だ。仲介屋の手数料がない分、実際には価格を少し安めに設定している。

そう説明しても

「高すぎる」

と文句を言う者がいる。

それなら別の店を当たれば良い。

ここには多種多様の店が存在している。

自分が求める品揃えで、自分に適した価値の店を使うのが良い。

しかし

「高い」と文句を言いながらも

「他は考えられない」

「だから、もっとまけろ」

と粘る相手がいる。

その代表格とも言える人物が、タナカ・ミノル。

ニホンからの顧客は無茶を言わないタイプが多いが、ミノルは少し変わっている。

国によって顧客の傾向というか癖のようなものはあるが、皆個性豊かなのでひとくくりに考える事は出来ないが。

その中でもミノルは規格外の常連客。

長い付き合いを保てているので悪い関係ではない。

何かにつけて規格外なため、彼と合わなければ交流しにくいだけだ。


ここは空間の狭間ともいわれる、通称萬商店街。

正式名称はコンメルキウム。

法術・魔術に関するあらゆる物が手に入る。


時空や世界を超えて様々なものが集まっている。もちろん、店を営む者も買い物客も同様に。

誰でも気軽に出入りして利用はできない。

ここにいる皆は「選ばれた者たち」だというが、選ばれる基準は不確かだ。

確かに言える事は、この空間の利用者が旧暦の新年で切り替わること。旧年と新年が切り替わると同時にコンメルキウムに出入り可能か否かが明確になる。

長い人では先祖代々何百年もここでの役割を引き継いで利用している。最短は1年間。

数年単位で出たり入ったりを繰り返すサイクルをもつ者もいる。

このため、入れ替わりの旧暦新年の前後1日のコンメルキウムはお祭り騒ぎだ。


今日は旧暦新年が明けて間もない西暦2019年2月5日。

継続する店舗、新たに加わった店、消えた店。

利用者として招かれた者の継続や停止。新規利用者がやってきてお祭り騒ぎが最高潮になっていた。

新年を迎えてここにいると自動的に役割が決まる。

自分は生産者なのか、仲介者なのか、販売者か、単なる買い手か消費者かの立場かを自覚する。

何故かと問われても説明できない現象だ。「そうなるものだ」としか表現できない。

存在に関わるだけでなく、新年が明けると立場(役割)が変化することもある。

しかし皆当たり前のように与えられた役割を果たしていた。

多少の疑問や違和感を抱いたとしても数日で自然に受け入れ、馴染んでいる。

だから全ては「神の差配」で決められたこと、ということで納得することにしていた。


今日もミノルはふらりと現れた。

アンティーク調の美しいステンドガラスがはめ込まれた扉を開け、いつもの見慣れた足取りで。

彼は1500年続いている(今年が1500年目の記念年だ)、我が商店マグナコピアの古くからの常連客。

ミノルが最初に来店したのは約50年前だが、来た時も現在も見た目は20代の青年。

コンメルキウムの利用歴が長いと歳をとるのが遅くなる。

そんな自分もここで32歳からこの商店に雇われて60年目。

見た目も気力も40代。まだまだ現役だ。


「ドミニスさん、今年もよろしくね~」

紺色のスーツ姿でにこにこ笑いながら右手を上げ、ひらひらと前後に揺らしながらミノルが近づいてきた。

「よろしくお願いします。

 互いに良い1年を過ごしましょう」

この挨拶は社交辞令ではなく本心だ。

1年毎に更新される立場は同じ。

新年の再開祝う、祝福の水が入ったボトルとガラスの盃を接客用のカウンターの下から取り出し、直径10センチはある大きな盃になみなみと注いだ。

注いだ水の表面が虹色輝き、最上級の日本酒へと変化していく。

その様子を少年のような輝いた瞳でミノルは見守り

「やっぱりここが出すモノ他と違うねぇ」

と、嬉しそうに盃を受け取った。

彼は変わり者だが、コンメルキウムでの経験は豊富。

財力もあるため彼を顧客にしたい店舗は数多い。

しかし、やっとの思いで取引をしてもなかなか続かない。ちょっと難しい相手なのだ。

そんな彼が常連となっているマグナコピアは、その点でも格が違う商店だと評価されている。


ドミニスが注いだ水はもてなす相手の好みに合わせて変化する。

特にこの季節の水は精霊の祝福を受けた特注品。いつもの水よりランクの高い品質だ。

水が酒に変化した場合、この盃一杯飲み干せばこの1年間は病気知らずの健康体が保証される。

器となる盃も精霊が作ったとされる逸品。これに注がれた液体は、水が持つ効力の範囲が広がる。

これを飲み干せば、ミノルは少なくともこの1年間は病気も怪我も心配なく過ごせるというわけだ。

「来年もここで、聖なる水を頂きたいものだよぅ」

芳醇な日本酒の香りを楽しみながら、感慨深い口調で唇に運んでいると、店の外から金切り声が聞こえてきた。並々ならぬ悲鳴。

客も店員も、一瞬だけ声がした方向に目をやったがそれ以上の興味を示す者はいなかった。

「ご新規さんかなぁ」

ミノルは杯を傾けていた手を止めて呟いた。

「そのようですね」

ドミニスは奥のテーブルに畳んであった布地を手に取り、その肌触りを確認しながら答えた。

ここは時空を超えた萬商店街。

扱う品々も普通でなければ、顧客も商いを営む者も千差万別。

見た目が動物や魔物のような人ならぬ者たちが行き交う。言語は互いに理解できるよう伝わるため、意思疎通には不自由しない。

しかし、予備知識もなくここに招かれた者たちは、異様な光景を見て卒倒するか世界の終末が訪れたかの如く大騒ぎをする。

これもまた新年の風物詩。

長年過ごしている者たちにとっては祭りの一部だ。


再度悲鳴をあげながら、扉を勢いよく開けて少女が飛び込んできた。

金髪巻き毛で小柄な少女。ゴスロリ風の赤と黒のワンピース着ている。

年齢は10歳前後に見えるが、ここでは見た目と中身が一致しないため参考程度の判断材料にしかならない。

少女は、広い空間に天井から床まで所狭しと展示されている豪華な衣類や小物、アクセサリー類が並ぶ煌びやかな店内に圧倒され、ぽかんと口を開けて立っていた。

外側は古びた雑居ビルで、入り口の扉は錆びた殺風景な鉄製だ。内と外のギャップに驚き、最初の来店者は概ね少女と同じ反応をする。

この店を取り仕切る立場のドミニスは、少女を怯えさせないように気を配って静かに近づいていった。

「こんばんは、お嬢さん」

声を掛けられて我に返り、ドミニスの顔を見て少し後ずさりをしたがそれ以上動くことはなかった。

この場所は安全で、ここにいる人たちに害がないと悟った様子だった。

初めてコンメルキウムに訪れた人は、パニックを起こしていても一定の時間が経過すると落ち着いてくる。自分がここで何をすべき立場か自然に理解が及んでくるのだ。

「新年おめでとうございます。

そして初めてのご来店ありがとうございます。

新年初日のみのサービス、無料で提供させて頂いている祝福の水を召し上がっていきませんか?」

何だかよくわからない、という表情を少女は浮かべたがゆっくりと頷いた。

ミノルが立つカウンターの隣に木製の椅子を運び、少女に座るよう促した。

人懐こい笑顔を少女に向けて、ミノルはガラスの盃に注がれた酒を飲み続けた。

少女の前には木のコップが置かれた。継ぎ目がなくシンプルで美しい木目が目を惹く。

ボトルを取り出し、コップに水を注ぐと泡が立ってソーダ水のようになり、さらに甘い香りが漂う液体に変化した。

目を丸くして見つめる少女の前に、甘い香りのするソーダ水となった祝福の水を差し出した。

「どうぞ。これを飲み干せば今年1年、貴女の頭脳には新しい発想が次々と浮かんでくるでしょう。

偉大な発見をするかもしれませんね」

その言葉を聞いて、少女の表情がぱあっと明るくなった。

「できる?」

彼女の望みは冴えた思考、偉大なる発見か…。

ミノルはそのやりとりを見ながら想像した。

「キミさぁ、元は仕官か何か?」

「しかん?そんなものは知らないが、今は休暇中だ」

と言うとソーダ水を口にした。

「美味しい!こんなに美味しい飲み物は生まれて初めてだ!」

感動して木のカップを握りしめる少女に

「名前は?」

と尋ねた。

「アイク」

躊躇いなく答えて、ソーダ水を飲み干す姿を眺めながら、ミノルはがっかりしたように呟いた。

「なぁだ、お前の元は男かぃ」

「何か変か?」

アイクはミノルを睨むように見た。

どう見ても愛らしい、フランス人形のような少女だ。

「ここでは女性のようだけどね」

そう言われてアイクははっと気が付いたように自分の手のひらを見て、肩にかかる巻き毛に触った。次に自分の衣服の手触りを確かめるようにさすると、首を傾げながらドミニスに尋ねた。

「そうだ。気づいたら姿形も変わって、奇妙な輩が歩き回る広場にいた。

 ここは何だ?」

「見たままの場所ですよ。ここはコンメルキウムと呼ばれています」

瞳をぱちぱちさせると、ふうん…と呟いた。

「よくわからないが、わかった気がする」

どうやら彼女の適応能力は高く、頭の回転も速いようだ。

「僕はタナカ ミノル。ここの常連だから、分からない事があったら何でも聞いて〜」

口調はのんびりでゆるい雰囲気を醸し出しているが、彼には隙がない事にアイクは気づいているようだった。

「ミノルは司祭か何か?」

「違うけど、何で?」

スーツ姿のサラリーマンにしか見えない風貌のミノルをじっと見つめて

「においがした…それは白檀か?」

その言葉に、お前はなかなかやるじゃないか!

と言いたげな表情をミノルは浮かべた。

かみ合っていないようで会話が成立しているようだ。

しかし、ドミニスには何を言いたいのかさっぱりで、この二人の会話にはついて行けそうにない。

ミノルの同類と思われる者が来訪したようだ、とは思った。

「コンメルキウムでは今ここにある姿と役割が全てです。

アイクさんは当店を利用する資格があるようですから、常連のミノルさんとは有益な情報交換が出来そうですね」

それを聞いたミノルはポンと手を叩いた。

「確かにな!

初日にこの店に足を踏み入れ、祝福の水を飲める奴はとても運が良い。とても珍しい!」

と、50年前に新年初日にここへ来て祝福の水どころか祝い酒を樽ごと飲み干して周囲を驚かせた、運が良くとても珍しい存在の代表といっても差し支えない本人の熱弁に、当時を知る店舗スタッフたちは微妙な苦笑いを浮かべた。

そして、それを聞いても表情を変えないドミニスは流石だと思った。

「アイクは使い手には見えないなぁ。生産特化タイプかなぁ?」

「何のことかよくわからないが、考えたり作るのは得意だ」

「へぇ、やっぱり生産系だねぇ」

腕を前に組んで頷いた。

「ぼくは使い手なんだよねぇ。良いモノあったら回してねぇ」

「ミノルさんの前にこちらを通してくれないと、使い物になりませんよ。気をつけて」

ドミニスは誤った知識をアイクに植え付けてしまうのではないか、と危惧して口を挟んだ。

「こちら側では、価値ある素材も道具類も然るべき商店を通して、正式な手順での解除か抑制を調整しないとガラクタ同然ですから」

「そうだねぇ。まともにモノを扱えない商店だと、調整をかけても役立たずのモノしかできないからなぁ。

その点、ここは一流。間違いないよ!」

会話の意味がわからない、という表情でアイクは交互に2人の顔を見た。

「初来店の方への試供品です。

これで効果をお試し下さい」

ドミニスは、小さく畳まれた白いシルクのハンカチをアイクに渡した。

これで何の効果を試すのか?と益々よくわからない、と言いたげな顔つきになった。

「使い方はぼくが教えてあげよう。

ドミニス、同じモノをぼくにもくれないかなぁ?」

「25です」

「試供品でいいんだけどな〜」

「お試しで渡すのは1人1枚限りです。試供品と述べていますが、これはそれなりに価値ある商品です。ミノルさんが一番よくご存知でしょう」

「も~。相変わらずだなぁ」

「そちらこそです。このマグナコピア相手に値切るのは貴方くらいですよ」

「しょうがないなぁ。今日は新年だし、この子との出会いがあったから良しとするかぁ」

カウンターの端にある丸い水晶のような置物にミノルが手をかざすと、美しい虹色の光を放った。

「確かに受け取りました。ではどうぞ」

と、カウンターの引き出しからアイクに渡したハンカチと同じ品を出してミノルに渡した。

「よし!じゃあキミにこれの使い方をレクチャーするねぇ。

 ここでこれは使えないから、ちょっと外に出よう」

「え?ちょっと外は…」

躊躇するアイクに

「大丈夫!人ならざる者がいても害はないよ。ぼくらと同じ仲間なんだ。

それに、害を成す可能性がある存在があっても、ぼくらにとっては無意味だから心配ない」

そう言ってミノルはポケットから紙切れを取り出すと、紙切れに向かって何かボソボソつぶやいて息を吹きかけた。

ミノルの手を離れて床に落ちると、紙切れは勢いよく一回転して大柄な黒猫に姿を変えた。

「おお!?」

と驚きの声をあげて

「ミノルは魔法使いなのか?」

「違うよ。使い手だよ」

「使い手?」

「それについての説明もするし、いざとなればこの猫みたいにいくらでも人手を増やせるよ。

何かの時にはこいつに守ってもらえるから大丈夫」

猫はミノルの言葉に同意するように、にゃあと鳴いてアイクの足元にやってきた。

「ミノルさんの術式はコンメルキウムの最上級レベルです。この世界で彼に太刀打ちできる者はそうそういませんから、安心していいですよ」

「そうなの?」

「はい。一流の使い手です」

そうは見えないかもしれませんけど、という言葉は口に出さずにおいた。

「新年1日目のお祭り日なので、外ではしゃいぐ方も多くて驚かれたと思いますが害意はありませんよ」

勇気を出して周囲を見歩いてみようかとアイクは思い直した。

「じゃあ、ちょっとその辺を散歩して来ようか」

ステンドグラス風のはめ込みが美しい扉のノブに手をかけたミノルに続いて、少女は建物の外に足を踏み出した。

「行ってらっしゃいませ。またのご来店をお待ちしています」

ドミニスは新たなる住人であり、この商店の新たなる顧客になるであろうアイクの活躍を祈りながら送り出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ