#951 ブラッティウォーズ殲滅戦
俺がアテナの試練に挑む同時刻。サンドウォール砂漠ではブラッティウォーズとの最終決戦が行われようとしていた。
鉄心さんたちはこれまでに各村と町、オアシスをブラッティウォーズから解放し、残すは奴らが逃げ込んだ岩場のみとなっている。
その岩場をサンドウォール砂漠の戦士たちと共に完全に包囲していた。当然その中にはアラジンとジンの姿もある。
「鉄心殿! 準備完了しました!」
「協力に感謝する。では、始めようか。これよりブラッティウォーズたちと決着を付ける! 全軍、突撃せよ!」
「「「「おぉ!」」」」
鉄心さんたちが突撃すると岩場に隠れている敵から奇襲を受ける。この岩場は迷路のようになっており、岩場の隙間や隆起している所に隠れて、奇襲がしやすくなっていた。隠れるには最適の場所と言っていいだろう。
しかし敵の位置はノストラさんの占いでバレバレだったので、カウンターがあっさり決まっていく。しかし斬られて殺したブラッティウォーズはゾンビの悪魔へと姿を変えて、再び襲い掛かって来た。
インテーカムグールLv50
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
インテーカムグーラLv50
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
この変化は今回が初で全員の反応が遅れる。
「なんだ!? こいつら!?」
「アァアア!」
「く! こっちに来るな!」
サンドウォール砂漠の戦士たちが攻撃するが通常の武器ではゾンビは倒せない。そして噛みつかれるとサンドウォール砂漠の戦士がインテーカムグールに変貌する。
「またゾンビかよ!」
「ここの運営はどれだけゾンビ押しなんだっつーの!」
「こいつらの相手は我々がする! 人状態のブラッティウォーズを頼む!」
「わ、わかりました! 全員、一旦下がれ! 距離を取るんだ!」
流石にみんなは慣れているから対応が早い。すぐに対ゾンビの装備に切り替えて、敵を倒していく。しかしレベルが高いこともあり、倒すと腐蝕と呪いの状態異常になった。
回復しながら進軍を続けていると敵は罠を発動させて来る。岩場の上が爆破され、岩がみんなに落ちて来る。しかし第五進化しているみんなにこの程度の罠は通用しない。大技で岩を消し飛ばすことぐらいは簡単だ。
そして罠と残党を倒した鉄心さんたちは遂に迷路のゴールにたどり着いた。そこには鉄心さんと戦って来た暗黒騎士とメルたちが戦ったブラッティウォーズのメンバーが勢ぞろいしていた。
「来たか…」
「あぁ。これで詰みだ。大人しく捕まるかい?」
「まさか」
ブラッティウォーズが武器を構えるとアラジンたちや他の部隊を率いていたシフォンたちも合流する。完全に負けは確定的な状況にも関わらず、ブラッティウォーズたちは襲い掛かって来た。
しかし既に第五進化に加えて、装備の差まであるブラッティウォーズたちに勝ち目などあるはずが無かった。
「ぐふ…あぁ~…あの時、お前を見逃すべきでは無かったか」
「私だと思っている時点で君たちの敗北は必然だな」
「…あぁ~…その力の原因はあの召喚師か」
「そうだ。彼の頑張りが無くして、我々がこれだけ短期間でここまで強くなることは敵わなかった。本当に彼には頭が上がらないよ」
鉄心さんの様子に暗黒騎士が不気味に笑む。
「そうか…それは残念だ」
「残念だと?」
「我々が何故ここにいたと思う? それは悪魔たちからここに封じられた悪魔の存在を教えられたからさ」
「っ!」
鉄心さんが慌てて、刀を突き出す。
「残念…だった…な。我々を…ここで…殺した…ことが…間違…いだ!」
岩場の地面に赤褐色の禍々しい魔方陣が描かれるとブラッティウォーズたちが光となって、魔方陣に吸収される。
「く…! 全員、この場から離れろ!」
皆が急いでその場から離れるがそんなのお構いなしに敵が現れる。
「なんだ!? この手!?」
「気持ちわりぃ~!」
「はぁ!」
ミランダが大剣で地面から現れている白い手を一閃する。
「ぼさっとしない! 早く逃げるわよ」
「お…おう!」
「……かっこいい」
ミランダの男らしさが爆発している一方で鉄心さんやシフォンたちもみんなを助けながら岩場から、なんとか逃げ出した。そして敵の正体を目の当たりする。
クァレーン?
? ? ?
それは白く発光する巨大な赤ちゃんの姿の敵だった。その巨体中から無数の光る手が出ており、気持ち悪さが割り増しとなっている。
「…お父さん、ちょっとまずいかも」
「あの怪物を知っているのか? 雫?」
「…うん。事前に調べていたイスラム教の悪魔の名前にあった。クァレーンはイスラム教でサタンに当たる悪魔シャイターンと同一視されている悪魔で人の心の弱さを擬人化した存在って書かれていた」
全員がこの事実に絶句する。みんなサタンがこのゲームのラスボスだと思っているから当然だ。するとジンが話す。
「チ! クァレーンはここに封印されていやがったのか! まぁ、あいつらにはお似合いの悪魔だな」
「どういう意味? ジン?」
「クァレーンは人の悪心を餌にしている悪魔でな。その強さは生贄に捧げられた人の数とその人間の悪心で決定する。見た所、あいつらは相当な数の生贄を捧げている。しかし肝心の悪心が弱く、あんな姿になっていると言ったところか」
ジンの話によるとクァレーンの大きさは生贄の数で赤ちゃんの姿をしているのは悪心の足りなさが招いたことのようだ。
「つまりあいつは全力の状態じゃないってことなのか?」
「そういうことになる。ただそれを差し引いても相当強いだろうがな。来るぞ!」
ジンがそういうとクァレーンが口を開く。するとそこから横一線に光線が放たれ、光線が触れた地面が大爆発する。
「お前は巨〇兵か!」
「ふざけんな! バスターカリバー!」
一人のプレイヤーが放ったバスターカリバーは体から生えた手に握りつぶされる。
「あぁ…うん。〇神兵はそんなことしなかったなぁ」
「だな」
「そんなこと言っている場合か! 早く攻撃」
遅かった。息を吸い込んだクァレーンが口を大きく開ける。
「オギャアアアアア~!!」
「「「「うわぁあああああ!?」」」」
赤ちゃんの泣き声で全員が吹っ飛ばれる。
「うぅ…耳が…って、ええ!?」
「麻痺!? まさか今の攻撃のせい!?」
「まずいぞ! 今さっきの光線を喰らったら」
アーレイが危惧を言うが、クァレーンはハイハイで向かって来るだけだった。ジンが言う。
「どうやら考える脳も赤ん坊並みたいだな」
「助かった…ん?」
クァレーンの腕が不自然に動くと腕から普通サイズのクァレーンが無数に現れ、ハイハイで突進してくる。
「こわ!?」
「これが終わったら、寝るのにぃ~!」
シフォンが涙目になるのも無理がない。目が赤く光っている無数の赤ちゃんが向かってくる光景は普通にホラーだ。するとここでマダムさんが全員の麻痺を治す。
「迎え撃つぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
しかしこの赤ちゃんを倒すと赤ちゃんが霊となり、くっつくと道連れが発動する。
「く…ワイフ!」
「はい! オールリザレクション!」
「「「「ぷは! こ、怖かった~」」」」
道連れにされたプレイヤー全員が蘇生する。そして蘇ったプレイヤーに再び赤ちゃんが襲い掛かって来る。すると大精霊騎士となったシフォンがスキルを使用する。
「精霊剣技! シュトルムシルフィード!」
暴風が吹き荒れ、光る赤ちゃんたちが空に舞う。
「今のうちに態勢を整えてください!」
「陣形を組め!」
「…魔法使いは準備。本体に浴びせる」
「魔法の邪魔をさせるな!」
全員が陣形を整えている間にクァレーンはただ向かってくるだけで魔法詠唱が完了する。そして一斉に上級魔法が浴びせられる。
「直撃したぞ!」
「出番は無しか…ん?」
プレイヤーたちにクァレーンが喰らった分だけの魔法が発動する。
「「「「な!?」」」」
「魔法破壊!」
「これは魔法反射だ! 逃げろ!」
ジンがそういうが遅く、全員が上級魔法を喰らう。
「あっぶねぇ…絶対防御使わなかったら、やばかった」
「おい! やべーぞ! 魔法使いたちがほとんど死んじまってる!」
生き残ったのはアーレイやカイ、鉄心さんなどのスキルや装備で絶対防御を持っている人のみだった。しかし蘇生アイテムはアーレイたちも持っている。それを使用して、態勢を元に戻す。
その間にジンがクァレーンと戦闘をする。
「魔神技! デモンクラッシャー!」
ジンの攻撃のデモンクラッシャーがクァレーンに入るとクァレーンの目が光り、ジンがデモンクラッシャーを喰らう。
「ぐ…この! ものまね野郎が!」
ジンが攻撃する度にその攻撃がジンに返される。それを見た鉄心さんたちが対策を考える。
「あれでは全部の攻撃が返されると思った方がいいな」
「自動回復量もかなりありますよ。どうするんですか? 鉄心さん」
「…ダメージ覚悟で大技を使い、削り切るしかないだろうな」
「自動蘇生を付与してからの連続攻撃ですか」
「やるしかねーか」
ここでトリスタンさんが言う。
「私たちも切り札を使うわ。ボスの回復を止めれるはずよ」
「助かる」
「その代わり、私たちは即死するでしょうから、蘇生をお願い」
「ならそれは私がします」
全員が準備に入る。ワイフさんが自動蘇生を全員に付与し、それぞれ最大限のバフを付与する。そして魔法使いたちはかなり後方へと下がることで前衛に魔法の被害が出ないようにする。そしてみんなの勝負の準備が整った。
「アラジン君! ジンさんを引かせて!」
「わかった! ジン!」
「おぉ!」
まずは魔法使いたちが最大火力の魔法をクァレーンに浴びせる。するとやはり魔法は跳ね返され、魔法使いたちは消し飛ぶが自動蘇生で復活する。
「今だ!」
「「「ミストルティン! 伝説解放! 魔弓技! ファラ・ソラス」」」
トリスタンたちが切り札の弓矢を使う。エステルイベントで手に入れたものだ。これがクァレーンに突き刺さすとそこから木が生えるとクァレーンを拘束し、光輝いていたクァレーンは光を失い、再生能力が封じられた。
このミストルティンはミールが覚えている寄生木に加えて即死と蘇生、復活を封じる能力を持っている。更に伝説解放を使った必殺技には光吸収と回復効果全てを封じる必殺技となっている。対ボス戦でこれほど便利な武器はそうそうない。
そしてこの攻撃をトリスタンさんも喰らうことになる。死んでしまったトリスタンさんの蘇生は自動蘇生した雫ちゃんたちがする。
その間にアーレイたちはクァレーンに飛び込んでいく。それぞれ大技を使う中、アーレイとカイが武器を構える。
「モルゴースディーン! 聖剣解放! プチサンライトカリバー!」
「ノーサンバスタード! 伝説解放! エクスバスタード!」
名前からは弱く感じるがアーレイが放った太陽の光の斬撃はクァレーンの右腕を消し炭にし、カイのエクスバスタードの一撃が右腕を粉々にする。当然二人も敵と同じ目に会う。
更にシフォンと剣聖になったミランダが続く。
「精霊剣技! シルフスフィア!」
「行くわよ! 大王撃!」
巨大な球体状となった台風がクァレーンの体に直撃し、吹き飛ばすと同時に斬り刻むと倒れた所に覇撃を大きく超える衝撃波がクァレーンを呑み込んだ。これでクァレーンは顔を失うがまだ生きている。
ここで胴体から無数の目玉が発生し、目から光線を無作為に放ちまくって来た。それは死ぬ前の最後の足掻きか生存本能とも言うべき行動だった。そんな中、鉄心さんは俺の近衛と同等の刀を構える。
「無窮、神刀解放!」
鉄心さんの刀、無窮が光を放つと鉄心さんは天に掲げる。
「神刀技! 剣御魂!」
空に無数の無窮が出現する。見ての通り、鉄心さんが契約したのは俺が気になっていた日本の剣神、経津主大神だ。
鉄心さんが刀をクァレーンに向けると無数の無窮がクァレーンに降り注ぐ。
「オギャアアアアア!」
「ふふ。無駄だ。もう遅い」
クァレーンに刺さった無窮と地面に刺さった無窮が閃光を放つ。次の瞬間、全ての無窮が大爆発した。これによりクァレーンは倒れる。
「「「「よしゃあああ! あ!? 鉄心さん!」」」」
倒した鉄心さんに道連れが発動し、クァレーンの腕が鉄心さんに迫る。
「雲散霧消!」
鉄心さんはそういうとクァレーンが霧となって、消滅する。鉄心さんが刀を振るのが早すぎて、一目見た限りでは何をしたのか分からない程の一瞬の一閃だった。
「残念だったな。雲散霧消は斬ったスキルを無効化する。悪いが一人だけであの世へ行ってくれ」
「「「「か、かっけ~」」」」
これでサンドウォール砂漠のイベントは終わり、参加した全員が報酬を貰った。




