#936 災禍幻獣の試練
俺は再び獣魔ギルドにやって来た。受けるクエストはこちら。
ギルドクエスト『災禍の獣の試練』:難易度SS
報酬:災禍幻獣の宝珠
崩壊を告げる魔獣を討伐せよ。
災禍幻獣と崩壊を告げる魔獣には心当たりがある。俺の予想が正しければこの難易度にも納得がいく敵が登場するはずだ。気合いを入れ直して、クエストを受けた。
転移した先は森。今は夜だけど、クエストを受けると昼になっていた。正直これはありがたいけど、昼であの難易度という事実にやばさ満点だ。
俺とリオーネの前に黒い光が集まり、人の形になる。現れたのは黒い騎士の鎧に頭には王冠もある威圧感抜群の男だった。
ヴォーティガン?
? ? ?
ヴォーティガンはアーサー王伝説の登場人物でサクソン人を傭兵としてイングランドに招き入れた人物として登場している。実際にいた人物かは分かっていないけど、このヴォーティガンがサクソン人をイングランドに入れたことでイングランドの先住者であるブリトン人との間に争いを誘発した人物とされている。
つまり今回のクエストはアーサー王伝説と関りがあることはほぼ確定。そして俺の予想と一致している。男が口を開いた。
「我が名はヴォーティガン。かつてパラディンロードに君臨した王の一人だ」
「召喚師のタクトです。こっちはリオーネと言います」
「きゅ!」
「お前たちに問う。お前たちが欲する力は闇の力だ。それでも試練を受ける覚悟はあるか?」
せっかくリオーネが挨拶したのに、無視かよ。まぁ、いいや。
「ある。俺はもう闇の力とやらに十分関わっているもんでね。それに闇の力を得てもそれをどう使うかは本人次第で召喚師の俺次第でもある。精一杯使わせて貰うさ」
「きゅ!? きゅきゅ!」
リオーネが抗議のリオーネパンチをしてくる。また地獄の特訓をするつもりなのか危惧しているのかな?もちろんします。だって、魔法スキルのレベルがまだまだなんだもん。ヴォーティガンは笑む。
「いい答えだ。では、その力を託すに値するか試させて貰うぞ! オォオオオオ!」
ヴォーティガンが叫ぶとヴォーティガンの体が膨れ上がる。まさかの変身かよ。
クエスティングビースト?
? ? ?
ヴォーティガンが変身して、変わった姿は頭と尾が黒い蛇、胴体は豹で尻はライオン、足は鹿の巨大なキメラだった。俺の予想的中!こいつはアーサー王の伝説に登場する唸る獣という名前で登場する獣だ。
唸る獣は崩壊するアーサーの王国の象徴として知られている獣でペリノア、パロミデス、パーシヴァル、ギャラハッドなどの腕自慢が討伐しているのだが、別の話ではパロミデスはこの獣に殺されている。つまりパロミデスよりこの獣は強いわけだ。
『我、国に戦火と混乱を招く者! 汝ら、災禍の力を欲するならば我に勝って見せよ!』
俺は武器を選択する。相手の出方を見るためにも近衛とエンゼルファミーユを選択し、リオーネは俺の肩に乗る。
「しっかり摑まっているんだぞ。リオーネ」
「きゅ!」
『準備は出来たか? では…ゆくぞ!』
クエスティングビーストが消える。俺は咄嗟に横っ飛びすると空振で吹っ飛ばされる。
「…ぺ。くそ。衝撃無効をすり抜けて来る敵か。しかも第六感が発動するよりも先に攻撃された。厄介だな」
「きゅ~」
「どうやら考える時間はなさそうだな。リオーネ。回復を頼む」
「きゅ!」
俺がいた所を通り抜けたクエスティングビーストは森の巨木を次々なぎ倒しながら俺たちに再び突っ込んで来る。俺は地面に着地し、近衛を居合いの構えを取る。クエスティングビーストがなぎ倒す音に合わせる。
俺の前の木がぶっ壊して現れたクエスティングビーストに俺は斬りかかる。飛び出したタイミングは完璧に思われたが近衛を抜きたくてもなかなか抜けない。
「(時間遅延!? まずい!)」
俺は絶対防御を発動させるより早くに鹿の蹄で蹴り飛ばされた。
「かは!? …効いた」
何キロ出ているか知らないが通常の鹿より遥かに速い鹿の蹴りは洒落になってない。アリエスの魔法ローブが無かったら、木にぶつかったダメージも追加されていて死んでいたな。
「きゅ~!」
更に追撃が来るがこれは先に逃げ出し、難を逃れる。
「陽光!」
俺が回復をしながら逃げるがクエスティングビーストのほうが早く、追いつかれる。それなら迎え撃つしかない。
俺は木の枝を斬り、着地すると再び近衛を構える。
「雷光!」
近衛から稲妻が発生する。次は外さない。クエスティングビーストが現れる。俺が飛び出すと俺が斬った枝の落下速度が遅くなる。
『『『『アクセラレーション』』』』
「雷光刃!」
俺は時間遅延の効果よりも速くなりクエスティングビーストの右前足を斬り裂いた。俺が振り返るとクエスティングビーストに追撃が発生している中、俺に向かって尻尾が伸びて来る。
俺は飛び上げり、回避すると尻尾は巨木を貫通し、木に神魔毒が付く。そしてクエスティングビーストは追撃でダメージを受けず、こちらを見る。
「おいおい…冗談だろ」
俺はこいつが属性の耐性と堅牢を持っていることを確信した。クエスティングビーストは失った右前足を俺たちの方に向けると切り口から魔素が噴出し、まるで足が伸びたように向かって来た。俺はこれを躱す。
「回復は俺がするからリオーネは魔法を試してくれ」
「きゅ!」
結果は全ての魔法が効かなかった。この結果、クエスティングビーストは全部の属性に耐性があることがわかった。そしてこのことからクエスティングビーストに有効なのは物理攻撃のみとなる。しかも先程斬った前右足は復活し、生命力も回復している。
更にゼノ・ゲイボルグとブリューナクを試して見た。ゼノ・ゲイボルグはダメージを与えたが即死は発揮されなかった。ブリューナクは投げた瞬間、クエスティングビーストの目が光るとブリューナクに謎の禍々しい光が宿り、ブリューナクが弾かれた。
「戻れ! ブリューナク!」
しかしブリューナクは戻らなかった。さっきのスキルは武器のスキルを封じるものと判断する。弾かれたブリューナクを俺はなんとか回収するが受け取ったところに尻尾が伸びて来て、ブリューナクでガードをするが地面に叩きつけられた。
「強すぎだろう…」
「きゅ~…」
それでも勝てない敵ではないと思える辺りは俺も強くなってきた証拠なのかもしれない。一応こいつに勝てる方法に心当たりがあるからだ。
こいつに勝つためにはとにかく連続でこいつにダメージを与え続けるしかない。そして俺にはそれを可能にするコンボがある。
「ぶっつけ本番になるがやるしかないな!」
連戦になるが神息を取り出す。俺が考えた究極の二刀流コンボで繰り出す。
「神刀解放! 宝刀解放!」
二本の刀が真の力を発揮する。更にリオーネと超連携が発動する。
「きゅ~!」
リオーネの切り札であるアレキサンドライトの宝玉解放が発動すると発生した光が近衛と神息に宿り、七色の刃になる。これで決めないと後がない!なんとしても決める!
それを感じたクエスティングビーストは目を光らせる。俺は咄嗟に木の影に隠れた。ここでどちらかの刀のスキルを封じられるとコンボが成立しない。厄介なスキルだ。
すると背後から第六感が発動する。こちらも勝負を掛ける。
「宝玉解放!」
アリエスの魔法ローブの宝玉解放を使い、俺は木から飛び出すと見たことがない禍々しい赤色のブレスが迫っていた。俺はセチアと和狐が作ってくれたローブを信じる!
「絶対防御! 神刀技! 雷騰雲奔!」
俺はブレスに飛び込む。
「おぉおおおお!」
「きゅ~!」
俺は絶対防御に守られて、ブレスの中を進み、飛び出す。貰った!喰らえ!俺が考えた必殺コンボ!
『『『『アクセラレーション』』』』
「永劫回帰!」
俺はまず右目を潰した。更に尻尾を斬り裂き、左目を斬り裂く。これで俺が考えた無限超光速攻撃コンボが成立した。圧倒的な速さを誇る雷騰雲奔と相手が倒されるまで攻撃し続ける永劫回帰を同時に使うことで発動する必殺コンボだ。
「はぁあああ!」
俺はクエスティングビーストが倒されるまで斬り裂き続けた。そしてコンボが切れるとクエスティングビーストは倒れ、俺は近衛と神息を落としてしまう。
このコンボの弱点を思い知った。相手が倒れるまで攻撃を止めることが出来なかったのだ。一体どれだけ刀を振ったのか覚えていない。ある意味地獄の時間だった。
これで蘇生を覚えていたら、最初から振り出しを覚悟しないといけないがインフォが来た。
『二刀流スキルのレベルが30に到達しました。二刀流【シュトルムエッジ】を取得しました』
助かった。そしてクエスティングビーストがヴォーティガンに戻る。
「見事だ。お前たちの覚悟と強さ、しかと見せて貰った。この宝珠を受け取るがいい」
俺は震える手で宝珠を受け取る。
「災禍の獣。お前なら飼いならすことが出来るかも知れんな。期待しているぞ」
ヴォーティガンにそういわれて、俺は獣魔ギルドに戻る。
「もうダメ…」
「うわ!? タ、タクトさん!? どうしたんですか!?」
戻って来た俺は倒れ、その現場をルークたちに見られて、心配されるのだった。




