#934 雪精女王の試練
夕飯を食べ終えた俺は早速進化クエストに向かう。リオーネのクエストは難易度が高かったので、最初にルミのクエストを受けることにした。内容はこちら。
ギルドクエスト『雪精女王の試練』:難易度S
報酬:雪精女王の宝珠
サンタクロースの村の子供を悪いサンタクロースから守れ。
内容を見た俺は首を捻る。この内容だと俺の敵は悪いサンタクロースということになる。しかしサンタクロースは聖ニコラオという大主教を勤め、聖人として崇敬されている人がモデルと言われている。
そんなサンタクロースが悪いとはどういうことだろう?しかもプレゼントを上げる子供を襲うとは意味不明だ。一瞬サンタクロースが悪堕ちした考えが過ったけど、俺はドイツのサンタクロースの話を思い出した。ドイツではサンタクロースとは別に悪い子を懲らしめるサンタクロースがいるという話がある。
そいつは妖精という話も確かあったはずだ。ルミのクエストにピッタリのクエストの敵だろう。
相手をほぼ確信した俺は武器に神息を選んだ。子供を守ることが前提なら速さがある神息が適任だ。準備を完了した俺はクエストを実行し、転移した。
「おぉ~!」
俺の目の前に広がったのは綺麗に飾り付けられた巨大なクリスマスツリーだ。村を見ると何処にもクリスマスツリーがある。現実ではハロウィーンムードの中、これを見るとなんとも複雑だ。
「…パーパ。あそこ」
「ん? お」
ルミと同じスネグーラチカがたくさんサンタクロースと手を繋いで歩いていた。するとルミがローブを引っ張って来た。
「手を繋ぐか?」
「…うん」
ルミの手は冷たかったけど、ルミの笑顔を見るとそんなことはどうでも良くなる。俺が温かい気持ちになっているとクエストが進む。
「大変だ! 黒いサンタクロースたちがやって来たぞ!」
「なんじゃと!? 急いで子供たちを隠すのじゃ!」
「もうすぐそこまで来てるんだよ! あ! そこの強そうな冒険者様! どうかこの町の子供を黒いサンタクロースたちから守ってくれませんか?」
「分かりました。行こうか。ルミ」
「…うん」
俺たちが返事をするといきなりそいつらは現れた。
「「「「ヒャッハー!」」」」
黒い袋に黒い服装、黒い髭のサンタクロース集団が黒いスノーボードに乗って現れた。
クネヒト・ループレヒトLv55
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
俺の予想は的中。ただしクネヒト・ループレヒトは黒いサンタクロースとは言われているが黒い恰好をしているわけじゃないし、間違ってもスノーボードは乗っていない。クネヒト・ループレヒトが黒いとされているのはサンタクロースと対比されているからだ。
まぁ、この姿のほうが黒いサンタクロースとダイレクトに伝わるからそうしたんだろうけど、せめてトナカイとソリくらいは用意してあげて欲しいところだ。
「悪い子は…お前か!」
「きゃあ!?」
スネグーラチカがクネヒト・ループレヒトの黒い袋に入れられた。お巡りさん!誘拐事件です!
「って、俺がやるしかないんだったな。閃影!」
「ぐわ!?」
「よ!」
「なんだ! お前…が!?」
俺は一瞬でクネヒト・ループレヒトを斬り裂くとクネヒト・ループレヒトの背後から頭を掴み、建物に叩きつけた。そして伸びているこいつを斬り裂いて、終わり。すると黒い袋が消滅し、スネグーラチカが現れた。
クネヒト・ループレヒトを倒すと捕まったスネグーラチカを解放出来るのか。
「パーパ!」
ルミの声に俺は振り返るとルミがクネヒト・ループレヒトに黒い袋を向けられていた。
「転瞬! ルミに何しようとしてるんだ! 飛び蹴り!」
「ぐあ!?」
俺の怒りのライダーキックがクネヒト・ループレヒトに直撃する。
「大丈夫か? ルミ」
「…パーパ!」
ルミが抱き着いてきた。うんうん。怖かったね。さて、ルミを怖がらせたこいつらはどうしてやろうかと思っていた振り返ると無数の黒いプレゼント箱が飛んできた。
俺はルミを抱えて、攻撃を躱すと黒いプレゼント箱が爆発する。俺が着地するとクネヒト・ループレヒトに囲まれる。
「「「「悪い子! 悪い子!」」」」
こいつら、ムカつくな。しかもこの間に逃げ出しているクネヒト・ループレヒトもいる。恐らくこいつらを逃がすとクエスト失敗になる。でも下手に飛び出すとルミが狙われてしまう。どうしたものか。そうだ!
「…パーパと合体! 無敵モード!」
ルミを俺がおんぶしただけです。これなら安心して戦える。まずは逃げようとしている奴らからだ。
「空間歪曲!」
俺は逃げ出したクネヒト・ループレヒトたちの前に転移するとエンゼルファミーユを取り出す。
「取り敢えず止まって貰おうか」
『『『『グラビティ』』』』
クネヒト・ループレヒトたちはグラビティを躱す。すると黒い袋に手を突っ込むと取り出したのはアサルトライフル。
「「「「ヒャッハー!」」」」
『アースウォール』
銃撃の嵐を土壁でガードする。おい!運営!これはいいのか!クネヒト・ループレヒトが妖精という設定なら銃を使わせるなよ!何か宗教的にアウトな気がするからさ!
すると俺たちの横を通り抜けて、また黒いプレゼントを投げて来た。そして爆発する。
「ハッハー! は?」
「よう」
俺はスノーボードに追いついた。と言うのもリープリングのアリエスマントには全滑走があるから雪の上を滑るように移動できるのだ。というわけで首を斬った。
「「「「おらおらおら!」」」」
クネヒト・ループレヒトたちは銃を乱射してくるがまだ町中だ。幸いこの村は建物が多くあり、道も入り組んでいる。狩りをするならいい地形だ。
クネヒト・ループレヒトのうち、一人が集団から外れ、俺の動きを予測し、先回りするが俺の姿はない。
「閃影! 星震!」
テレポートで転移した俺は集団で逃げ出そうとしているクネヒト・ループレヒトたちの背後から奇襲し、正面に回ると銃よりも先に星震で全員ぶっ飛ばす。これでだいぶ余裕が出来た。
「悪い子ー!」
俺の動きを予想した奴が黒いプレゼントを投げて来る。銃じゃないだと?すると空中で爆発し、黒煙が俺たちを包み込んだ。煙幕まで使えるのか。
「ふぅー…そこ!」
「がぁ!?」
俺はスノーボードの音を頼りにクネヒト・ループレヒトに神息を突き刺す。
「…プレゼント」
ルミが倒れているクネヒト・ループレヒトにプレゼントを投げつけて、俺は離れると爆発する。それを見た俺は決断する。
「ルミ、俺は回避と格闘戦をするから攻撃はルミがやってくれないか?」
「…わかった。仲間のために頑張る」
ルミは本当にいい子だな。ということで俺は銃の回避と奇襲に専念し、ルミはソニックブームや暴風雪、氷結波動でクネヒト・ループレヒトをぶっ飛ばし、止めにセイントやプレゼントを使う。
これはやはりサンタクロースというだけあって、氷には強かったためだ。どうしても間に合わない場合は俺が蹴りの星震でぶっ飛ばすことにした。
これで戦いは安定するが解放されたスネグーラチカたちはすぐにクネヒト・ループレヒトに捕まってしまう。俺たちを最初に囲んだ奴だ。
そしてこいつらは斧を選択し、ルミの魔法を斬り裂き、俺の格闘戦も対応してきた。そして俺たちが距離が開くと黒雷や魔素の腕を伸ばして攻撃してきた。難易度は低くても第五進化のクエストなだけはある。
しかしこれまでの敵と比べると弱いな。俺とルミで獣魔魔法が発動する。二人ともソニックブームだ。
「「獣魔魔法! ハイパーソニックブーム!」」
極超音速で発生するとんでもない衝撃波がクネヒト・ループレヒトを襲い、空に吹っ飛ぶ。これで機動力は無くなったと思ったら、スノーボードに乗って、空を飛行し出した。そして黒いプレゼントを投げつけて来る。もう何でもありだな。この黒いサンタクロース。
「全員斬るから、しっかり摑まっているんだぞ? ルミ」
「…うん。ぎゅ~」
ルミが俺の体にしっかり摑まっていることを確認して、俺は武器をグランアルヴリングと聖剣グラムの二刀流に変更する。相手はプレゼントの袋を持っているからこれで手数では俺が上だ。蹂躙を開始しよう。
「「「「アクセラレーション!」」」」
ずたずたに斬り裂いて全滅させた。そして捕まっていたスネグーラチカたちが解放されるとあっという間に囲まれた。
「助けてありがとー。お兄さん!」
「お兄さん、凄く強いんだね!」
「ヒーローみたい!」
むぅ…照れる。
「いててて!? 何するんだよ。ルミ」
ルミにいきなり耳を引っ張られた。
「…鼻の下を伸ばしているパーパは悪い子!」
クネヒト・ループレヒトの真似かな?まぁ、ルミがいるのに照れている俺が悪いだろうな。すると俺たちの前に光の粒子が天から降ってきて、人の形になる。
守護聖人ニコラウス?
? ? ?
あ、ニコラウスの名前のほうで現れるんだね。ニコラウスは名前で聖ニコラオというのは聖名。だから守護聖人としてならニコラオのほうが正しいはずなんだけど、このゲームでは名前を優先したんだな。
「「「「ニコラウス様」」」」
スネグーラチカたちが全員ニコラウスに集まる。この悲しい気持ちはなんだろう?所詮子供の人気ではサンタクロースには勝てないと思い知った。
「ふぉっふぉっふぉ。皆、無事で何よりじゃ。この者たちへの礼はわしがするからみんなは両親に無事な顔を見せて安心させてあげなさい」
「「「「はーい!」」」」
スネグーラチカたちはいなくなり、ニコラウスが俺たちの所にやって来た。
「まずは子供たちを助けてくれたことに感謝しよう。本当にありがとう。これはそのお礼じゃ」
俺は雪精女王の宝珠を受け取った。するとニコラウスが忠告をしてくれる。
「今の季節は秋。そしてこれから冬に向かう。秋から冬に向かうにつれて悪魔たちはより強さを増すことになるのじゃ。わしが言うのもなんじゃが、十分気を付けなさい」
「はい! ありがとうございます!」
俺がお礼を言うとギルドに転移した。




