#933 星降るオリュンポス島
翌日、学校で海斗からサンドウォール砂漠の状況を聞く。
「カロさんたちは無事に町に入れたんだな」
「あぁ。キャラバンは砂漠の町同士の商品を送り届ける重要なポジションらしくて、流石のテロリストたちも拒否は出来ないみたいだ。ま、チェックは厳しいけどよ。キルケーの変身薬があれば問題はないだろうってさ」
「それじゃあ、今日仕掛けるのか?」
「あぁ、夜に仕掛けるぜ。そっちはどうなんだ?」
俺はアトランティスでの戦闘について教えた。
「ず、ずりーぞ! 誠吾! お前ばかりいい思いをしやがって!」
「話を聞いていたのか? 報酬を貰ったのは俺だけじゃないぞ」
「そうだとしても納得いかねー!」
「そうか。それじゃあ、俺はお前がアラビアンナイトかエジプト神話の報酬を手に入れたら、同じことを言ってやるよ」
恐らくサンドウォール砂漠の方の報酬はこのどちらかだろうからな。俺がそういうと海斗は何も言えなくなり、席に座った。勝ったな。
学校が終わった俺は帰る際にまた海斗から土日に遊ばせて欲しいとお願いされた。日曜日に決戦の可能性が高まっているからだろう。
「なんでいつも俺の家なんだよ」
「一人暮らしをしているからだろ? 流石に俺の家に姫委員長たちを呼ぶとかーちゃんが五月蠅くなる。俺が女の子を家に連れて来たとか言ってよ。誠吾だけ遊びに来るなら大丈夫だぜ?」
家族がいる家も大変だなと思った。断る理由は俺にはないので、許可しておいた。ゲームにログインする。するとリリーが突っ込んで来た。
「タクト! 早くレベル上げに行こう!」
「おいおい。どうしたんだ? リリー」
「だって、イオンちゃんがリリーのレベルを抜いたんだもん!」
あぁ…昨日の戦闘でイオンがリリーのレベルを抜いたんだ。
「落ち着け。イオンは竜化を使ってダウン中なんだぞ。すぐに追いつくさ」
「絶対?」
「絶対とは言えないな」
「そこは言ってよ~! このままじゃあ、リリーの姉としての立場がピンチだよ!」
揺さぶって来るがサバ缶の予想では今日の動きはなく土曜日の夜にエルフの森で戦闘、日曜日に進軍する流れになるんじゃないかと話をしていた。こちらとしても土日の参加率は高いから日曜日に決戦するつもりで準備をするつもりだ。
「姉というなら我慢をしような。恋火はしっかり我慢していたぞ」
「う…恋火ちゃんはみんなの妹だから」
「だとしてもみんなに置いて行かれそうな中、何も言わず我慢していたことはリリーも知っているだろ? レベルぐらいはリリーも我慢しような」
「うぅ…分かった。で、でも戦闘には連れてって!」
我慢の意味をリリーは知っているか心配になって来た。まぁ、元々今日はリリーを使うつもりでいたから満足するだろう。俺は行動を開始する。まずは昨日のアザトースのコアだ。スカアハ師匠たちとシルフィ姫様を連れて町の外に行ってから外に出す。ホームや庭には入らないからどうしようもなかった。
「これが昨日の戦利品です」
「大きいですね~」
「シルフィお姉様、それどころじゃないですよ。物凄く危険な魔力を感じるんですけど」
「ほぅ。この魔力を感じるとはフリーティアの第三王女も素質があるな」
スカアハ師匠に褒められるとは…アンリ姫様は将来物凄い魔法使いになるかも知れないな。いや、今でもかなり凄いか。
「とにかく力を取らねば使い物にならないな。これは取り敢えず私が預かるぞ。タクトよ」
「お願いします」
「ところで素材はどうするつもりなのだ?」
「流石に俺だけでは使いきれません。ギルドの分も使っても十分余るかな?」
「槍の切っ先に使うなら数十万以上の装備が作れると思いますよ」
ヘーパイストスがそういうなら間違いないだろう。ならこの素材の使い道は決まって来る。
「異星の存在は暗黒大陸の魔王たちと同じくこの星に生きる全ての命共通の敵と言っていい存在です。例の話のこともありますから。その時に全ての国に分割して渡すのが望ましいでしょうね」
「魔王討伐同盟の話じゃったな」
「はい。魔王の脅威は深刻です。限定的な同盟となるでしょうが、他の国はこれに加わるでしょう」
「この素材を餌に同盟加入を迫るわけだな?」
「はい」
異星の存在に対する武器は恐らく俺たちしか持っていない。もし他の国が異星の存在に狙われるとすれば彼らは迎撃手段がないことになる。被害はどうなるか全く分からない。これを他国はどう考えるかだ。
俺の予想ではまず桜花の聖徳太子はこの話に乗ると思う。彼も未来予知の使い手だ。未来予知の異変は知っているはず。その原因がまさか異星の存在とは思っていないだろうが自分の未来予知が乱され、直に脅威を感じている聖徳太子は迎撃手段を欲しがるだろう。
アーサー王とは既に話が付いているし、エステルのリアム王も魔王討伐同盟を歓迎するだろう。無事にディアドラ姫が女王になったら、この魔王討伐同盟に参加する話も付いている。
この状況で他の国がどう判断するかだ。俺なら乗り遅れを危惧してとりあえず同盟に加入する。もし魔王討伐同盟が次々魔王を倒して暗黒大陸を解放したら、間違いなく歴史に名を残すことになる。その時に魔王討伐同盟に加わらなかった国はずっとその名が残ってしまう。それは避けたいだろう。
取り敢えず同盟を組んでその後、どうするか判断するのが妥当だと思う。この同盟がずっと生き残るかは俺たちの戦果に掛かっている。戦果があればあるほど、他の国々は同盟を支持してくれるはずだ。逆に戦果が無ければ同盟から抜ける国が次々出て来るだろう。かなりのプレッシャーだけど、やるしかない。
解散した俺はオリュンポス島に転移し、アテナ様の神殿の所まで来た。ここからは降り注ぐ隕石を搔い潜ってアテナ様の神殿に行かないといけない。
しかし今日改めて考えてみると俺はそこまで隕石は驚異じゃないことに気が付いた。選んだメンバーはリリー、アリナ、コノハ、ゲイル、黒鉄だ。そう電磁操作で隕石を外す戦法だ。
実験すると見事に成功した。これで安全にアテナ様の神殿に行ける。俺たちは歩き出すとあちこちに採掘ポイントがある。採掘してみるとなんと星核のかけらをゲットした。
「まさかこの採掘ポイント、全てが星核のかけらなのか?」
だとしたら、宝の山だ。流石天界というべきか。俺は本来の目的を放置して一心不乱に採掘をする。周囲の採掘ポイントを無くすと大体このフィールドで採れる物が分かって来る。どうやらここで手に入るのはメテオライトと星核のかけらのようだ。
「お兄様、魔力が尽きそうなの…」
しまった。全然進んでない。確認するとアリナとゲイルの魔力が無くなりそうだ。黒鉄は採掘していたから減っていない。
「ホー!」
「タクト! 昔のコノハがたくさん来るよ!」
俺が空を見るとたくさんのグラウクスが陣形を組んでこちらに向かって来ていた。魔力が減っているこのタイミングで来るのか。しかもグラウクスたちは普通に飛行しているのに隕石が綺麗に彼らを避けている。この隕石はアテナ様がコントロールしていると考えるのが妥当か。
「一度引こう」
「えぇ!? 採掘しただけだよ! タクト」
「仕方ないだろう? この状況では流石に戦えない。それに予想外のメテオライトがたくさん手に入ったからダーレーが言っていた武器を注文出来るぞ」
「早く帰ろう! タクト!」
レベルより新しい武器を速攻で選ぶリリーである。こうして俺たちは撤退した。
これでアテナ様の神殿に行くための戦略が見えた。俺たちの魔力が無くなったタイミングで襲い、降り注ぐ隕石に対処しながらの戦闘をすることになる感じだろう。流石にこれは準備無しでは挑めない。
俺はパンドラにリリーのメテオライトの大剣、ユウェルにダーレーの剣を注文した。ヘーパイストスには電磁投射装置を作ってもらう予定だ。
俺は料理を作り、最初にイオンに食べさせてからリアンにご飯を食べさせる。
「ふー…ふー…ほら。あーん」
「あ、あーん。う~ん。美味しいです」
「それは良かった。それじゃあ、俺は一度部屋で休ませて貰うな」
俺はリアンの頭を撫でるとリアンが意を決して言ってくる。
「あの! ここで一緒に休むわけにはいけないでしょうか?」
「…仕方ないな。リアンはそれでいいんだな?」
「もちろんです! ど、どうぞ」
俺はリアンのベッドに入り、ログアウトする。夜は何もなければルミとリオーネの進化クエストだ。




