#913 ディオドラ姫の決意
すみません。#911の時点でクリュスがレベル30で進化のレベルに達していました。修正はしておきました。
月曜日なので今日は学校。海斗の奴の活躍とか聞いて終わったかと思ったから俺にサラ姫様の救出について推薦して欲しいとか言い出した。もてたい気持ちは分かるが、当然そんなことは出来ません。俺が出来るのはなるべくみんなが行きたい場所に向かわせることぐらいだ。
そんな海斗だが、学校が終わる頃には全く話さなくなった。理由がテスト結果だ。俺も返って来たけど、ほぼ前回の中間と同じくらいのテスト結果だった。良く言えば前回よりもゲームに時間を使っているのに下げておらず、悪く言えば前回より高くなっていない。個人的には奮闘したほうだとは思っている。色々小癪な手を使った甲斐があったというのものだ。
スーパーで買い物を済まして、ゲームにログインする。するとクロウさんたちからダーレーの装備が完成したというメールを受けた。流石プレイヤーは仕事が速い。下に降りるとユウェルが完成した緋緋色金の銃弾を持っていた。
「取り敢えず一つ作って見たぞ! タク!」
「ありがとな。ユウェル」
鑑定する。
緋緋色金の銃弾:レア度10 通常アイテム 品質S+
効果:破魔、万物貫通、浄火、超伝導、雷光、神気、加護無効、太陽の加護
緋緋色金で作られた銃弾。通常の弾丸よりも熱伝導、電気伝導ともに優れており、電気を使った銃に使用すると威力が跳ね上がる性質を持っている。また闇の存在に凄まじいダメージを与えることが出来る。
普通の銃弾でこの性能か。凄いな。流石緋緋色金と言うべきか。
「これはアサルトライフルの銃弾か?」
「そうだぞ!」
「それじゃあ、ゴールデンイーグルの銃弾も頼めるか?」
「任せろ!」
楽しそうだな。やはり自分の鍛冶ハンマーがあることが相当嬉しいみたいだ。
俺はお城に向かって、情報を聞くと予想通りの回答が来た。
「エクスマキナの船の使用許可はなんとなく下りないとは思っていましたけど、他の事はお咎めなしとはどういうことですか?」
「奴らの言い分は謎の魔力攻撃は我が国の者ではない。フリーティアの都を襲ったのは我が国の部隊ではないという話だ」
「それはまた随分な言い分ですね」
「わしもそう思うが他の国はウィザードオーブと距離を置きたがっておる。ここでウィザードオーブを敵に回して、大量殺戮兵器を向けられたくはないんだろう」
確かにそれは嫌だろうな。だからとって力に屈して何も言わないのはその力の全面肯定を意味している。きっと他の国はそれを認めないだろうけどね。
「取り敢えず状況は分かりました。つまりウィザードオーブにはエクスマキナの力も他国の助力もなく勝てばいいわけですね?」
「そういう事になる。かなり厳しい戦いとなるだろうが頼むぞ?」
「は!」
俺はホームに帰って事情をみんなに話すとリリーたちからブーイングの嵐だ。
「ルール違反をしたのは向こうが最初なのですからバトルシップを使っても良いのではないですか? マスター?」
「ルール違反にルール違反で対抗したら、例えそれで勝ったとしても俺たちのルール違反が残ってしまう。それじゃあ、ダメなんだよ。イクス」
もしここでルール違反をするとウィザードオーブの思う壺だと思う。明確なルール違反をしたフリーティアを国際会議の場で批判出来るからな。俺たちが同じように知らないと言ったら、俺たちはウィザードオーブと同じレベルの国と判断されてしまう。そうなると終わりだ。
「むぅ…難しいですね。人間というのは」
「それについては同意するよ。とにかく俺たちは真っ向勝負でウィザードオーブに勝利することを目指す事になる」
「それは正しい判断だと思うが状況はかなり厳しいんだろう?」
「フェルグス殿の部隊が侵攻してきているという話は本当なのか?」
シグルドさんとノイシュさんはウィザードオーブに詳しいから色々聞いてみよう。
「確証はありませんが、砦が一撃で破壊されたそうです」
「なるほど。それならフェルグス殿のカラドボルグならば可能だろうな」
「どんな剣か聞いてもいいですか?」
「あぁ。カラドボルグは高速回転する剣でな。剣の長さや太さを変幻自在に変化させることが出来る聖剣だ」
長さだけでなく、太さまで変えてくるのか。そうなると最早巨大ドリルと大差ないだろう。砦が一撃なのもこれで理解出来たよ。更にノイシュさんから驚愕の事実を知ることになる。
「フェルグス殿はウィザードオーブ王の第一騎士団の団長でカラドボルグを扱う筋力はウィザードオーブ一と言っていいだろう」
「ちょっと待ってください。第一騎士団がいきなり攻めてきたってことですか?」
「そういうことになる。第二騎士団のフィン、第三騎士団のディートリヒのどちらかが最初に来ると思っていたんだがな」
ディートリヒが敵として登場することが確定して、更にフィンはケルト神話に登場するフィアナ騎士団の団長であるフィン・マックールのことだろう。有名人が次々出てくるな。
この情報はみんなに伝えないといけない。敵の情報は重要だからね。そう思っているとシグルドさんが疑問を言う。
「第一騎士団というのはどの国でも国防最後の砦と言っていい騎士団だ。それが攻めに出るとは極めて異例と言っていい。国王を守る騎士団でもあるから余程国内が安定していないと前には出れないんだがな」
悪魔の事はまだ聞いていないみたいだな。ディアドラ姫もここにいるから当然か。するとディアドラ姫とスカアハ師匠、クーフーリンがやって来た。
「タクトよ。ディアドラ姫は覚悟を決めている。お前が知っている情報を全て話せ」
俺は全員の顔を見て、話すことを決めた。
「謎の悪魔に姫が誘拐されたか…」
「まさか父上は悪魔と手を結んで」
「それはまだわかりません。ディアドラ姫」
「そ、そうじゃな。すまぬ。ノイシュ」
ノイシュさんの言う通り、偶然悪魔がサラ姫様を誘拐するために砦を襲っているところにフェルグスが現れた可能性がある。ただそんな偶然が起こるのかは疑問だけどね。
「俺たちを襲ってきやがった奴らの力はそいつが原因か?」
「そう決めつけるのは早すぎるぞ。クーフーリン。人外の存在が手助けしている可能性はほぼ間違いないが奴らは私の未来予知を潜り抜けてきた。一体どうやって潜り抜けたのか」
「そういえばパラディンロードのマーリンも未来予知が出来ない異変を口にしてましたね」
「私だけではなく、パラディンロードの宮廷魔術師にも異変が起きているのか。だとすると私の未来予知を狙ったものではないわけだな。こうなると悪魔や魔術による妨害とは考えられん」
余程未来予知には自信があったんだろうな。しかしスカアハ師匠とマーリンの未来予知を超える存在が敵にいることは間違いない。悪魔の中にも未来予知をする悪魔は存在している。しかしこの二人を超えてくるのかは疑問だ。一体どんな敵が出てくるのやら。ここでディアドラ姫が俺にお願いをしてきた。
「タクトよ。フェルグスが来ていると言うなら合わせてくれぬか?」
「大丈夫なのですか?」
「フェルグスとは子供の頃からの付き合いだから大丈夫なはずじゃ。筋力馬鹿で何事も豪快な奴でな。嘘も付けぬ正直者なのだ。妾の言葉には耳を傾けてくれるはずじゃ」
「お気持ちは分かりますが危険だ。ディアドラ。それにもしディアドラがフリーティアにいると分かれば批判をされるのはフリーティアとなるぞ」
ディアドラ姫を呼び捨てにしてしまうほどノイシュさんが心配している。それにフリーティアのことは間違くなくそうなるだろうな。
「分かっておる。それについてはフリーティアに許可を取るつもりだ。ノイシュよ。私は国を捨てた姫ではあるがそれでもウィザードオーブの姫なのじゃ。この国で暮らしてみてはっきりと我が国の主張もその行動全てが大間違いであることは明確。間違いを正せるのがカスバドの言う通り妾だけと言うなら立ち上がらなければならぬ。ウィザードオーブのために死んでしまったカスバドに恨まれてしまうしな」
「ディアドラ…」
スカアハ師匠が俺を見てくる。俺がなんとかしろってことか。
「まぁ、ディアドラ姫の事をウィザードオーブに言われても、知らん顔すればいいと思いますよ」
「おいおい。そんなことしていいのかよ」
「ウィザードオーブが言ってきてますからね。昨日の襲撃はウィザードオーブとは何も関係がないって」
「「「「はぁ?」」」」
全員が同じリアクションをした。まぁ、これを聞いたら、誰でもそう言うリアクションになるだろうな。本来ならこの手は使いたくないけど、攻撃を知らん顔するよりは遥かにましだろう。
「確かにオイフェとウィザードオーブとは関係がないだろうが、襲撃のタイミングから見て手を結んでいることは間違いなかっただろうに…よくそんなことを言ったものだ」
「それに最初の攻撃は完全にウィザードオーブから放たれてましたよ」
「それも関係がないと言ったのか?」
「はい。だからディアドラ姫がディアドラ姫と名乗っても、どんなことも言っても大丈夫ですよ。ウィザードオーブと同じように返せばいいだけですから」
なんなら俺が直接ウィザードオーブに言ってやってもいい。絶対に勝つ自信があるね。だって、こうなるとその場で失言しない限り、とぼけた者勝ちになってくる。法律が泣いているよ。
「それならば妾の願いを聞いてくれるか?」
「はい。ただ命だけは保証しかねます」
「既にフリーティアとウィザードオーブは戦争中ですからね。タクト殿の言い分は当然です。それでも姫は戦場に立つ覚悟はおありですか?」
ブリュンヒルデさんの問いかけにディアドラ姫はしっかり答える。
「ある。なんと言っても妾にはノイシュがついておるからな!」
「おーおー。お熱いことだな」
「愛する女にそこまで言われたのだ。ノイシュよ。責任を持って守れよ? そして死ぬな。愛する女を守って死ぬなど私が許さん」
「は! 師匠!」
どうやら話がまとまったようだ。そうだ。一応これを渡しておこうかな。元々はノイシュさんから貰った物だからね。
「ノイシュさん、これを」
「これは私が君に挙げたエイナル・スクーラソンじゃないか」
「ディオドラ姫を守るためには必要な力ではないですか?」
「…そうだな。今回は遠慮なく使わせて貰うよ」
これを見ていたクーフーリンが言ってくる。
「俺には何もないのかよ」
「あるぞ」
俺はクルージーンを出す。クルージーンはクーフーリンが使っていた武器だ。相性はいいだろう。最もダーレーの武器が無くなっちゃったけどな。
「剣か!」
「試すならここではやめてくれよ。地下に練習場があるからそこでしてくれ」
「おう!」
やはりクーフーリンの武器というだけあって、俺たちより使いこなしている。
「というか魔力の刃がとんでもなく大きいな」
「あいつは魔力も多いからな。当然だ。最も筋力と脚力がそれを遥かに超えているから私としては戦士として育てるしかなかった。それに」
「な、なんだこれ…体に力が入らねー」
「魔力の管理が出来るとも思えん」
流石によくクーフーリンを見ているな。ここでシグルドさんたちの予定を聞く。
「ディートリヒとは戦ったことがある仲だ。もし戦場に現れたと言うなら彼と戦わせてくれ。それまではここで国民を守ろう」
「では、私も一緒に。スカアハはどうしますか?」
「私は妹と決着を付けねばならん。それに罪なき市民を襲った影の国の勇士たちともな。最もタクトに武器をやられたからそう簡単には姿を見せんだろう」
あれ?俺のせい?そりゃあ、逃がしたのは俺だけどさ。これでもかなり気を使って戦ったんですけど。
「クーフーリンはどうするんだ?」
「俺は影の国の勇士とかいう奴らをぶっ殺す。散々やってくれた礼を返さねーと腹の虫がおさまらねーんだよ」
「それじゃあ、クルージーンは」
「か、返さねーぞ! せめてあいつらを纏めてこれでぶっ飛ばすまではな!」
ゲイボルグではなく、クルージーンでぶっ飛ばすことを決めたようだ。やれやれ。
その後、俺はみんなに情報を伝えて、ディアドラ姫のことをグラン国王様に報告し、許可を貰う。残念ながらウィザードオーブの相手はグラン国王様がすることになった。俺と考えることは一緒で少しぐらいは反撃したいみたいだ。
すると予期せぬ報告がもたらされた。
「緊急事態であります! ウィザードオーブの魔導船艦隊が我が国に向けて侵攻中です!」
今度は海かよ。というか魔導船の艦隊ということは全ての船がスクナビコナのような魔導砲を持っているのか?だとしたら相当まずいぞ!
「急ぎ艦隊を出撃させよ!」
「待ってください! グラン国王様! 正面から普通の艦隊に挑んでも勝ち目がありません」
フリーティアの船もうちのギルドの船もほとんどが普通の船だ。正面からぶつかり合うと魔導砲を連射出来る上に結界もあるウィザードオーブに分がある。ここは考えないといけない。
「では、どうするというのだ?」
「俺に考えがあります。海戦の指揮は俺に任せていただけませんか?」
「分かった。そなたに任せよう。ブルーメンの町に緊急事態を伝えよ!」
こうして俺は急遽、予定を変更して海戦に挑むことになった。俺は事態をサバ缶さんに伝えて、シャローさんたち、与一さんたち、サバ缶さんたちと共にブルーメンの町に向かうことが決まった。
さて、戦争をする前にクリュスの進化とアリナの試練に挑むとしよう。




