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Elysion Online ~ドラゴニュートと召喚師~  作者: とんし
ウィザードオーブ戦争
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#910 襲撃者の正体とカスバドの最後の言葉

早めの夕飯を食べているとメルからクエストが動いたとメールを貰い、急遽テレビ電話をする。


「銀たちがウィザードオーブのプレイヤーと一緒に転移してきただって?」


「うん。どうやらカスバドってNPCが銀ちゃんたちに接触して、ウィザードオーブのプレイヤーたちを逃がしたらしいよ」


「そうか…カスバドは死んじゃったのか」


カスバドとは一度戦い、俺に剣のルーンの戦闘を最初に見せてくれた人だ。それに俺が説教をしてしまったせいで死んでしまったことを考えると辛いな。


「もしかして知っているの?」


俺は佳代姉にカスバドのことを話した。


「そっか。カスバドはディアドラ姫の物語に出て来るドルイドの名前だったね。銀ちゃんたちの話によるとカスバドは市民のNPCに刺されたって言ってたよ」


「ちょっと待ってくれ。ウィザードオーブの軍隊ではなく、市民に襲われたのか?」


「私たちも驚いたよ。しかも銀たちにも他の市民が武器を持って、襲い掛かって来たって言ってた」


カスバドだけでなく、プレイヤーにまで市民NPCが襲い掛かって来たのか。


「市民は戦闘しないと思ってたんだけどな」


「私たちもそう思っていたんだけど、気になる情報があってね。ウィザードオーブのプレイヤーたちが都の中で知らない市民NPCが急に増えたと言っているんだよ」


「つまりその増えた市民NPCが襲ってきた可能性が高いわけか」


「うん。私たちの予想ではこの市民がブラッティウォーズじゃないかと話しているところだったよ」


なるほど。あいつらの存在をすっかり忘れていたよ。確かにあいつらなら市民として紛れ込めるし、ウィザードオーブには拠点もあった。都の中に入ることは簡単だろうし、あいつらなら襲ってきても不思議じゃないな。


「それが事実だとするとウィザードオーブはやっぱりブラッティウォーズと繋がっているってことになるよな」


「そうだね。ただ証拠はまだないかな? ほぼ黒だけどね」


しかしそうなるともし戦争になった場合、市民にも攻撃を加えないと行けなくなるかもしれない。流石にリリーたちにはそれをさせられないな。ここでご飯を食べ終えた俺はゲームにログインする。


「タクト様、お二人が目覚めました」


セチアと共にまずはスカアハ師匠に会う。


「すまんな。タクトよ。すっかり世話になってしまったようだ」


「気にしないでください。俺は師匠の弟子なんですから」


「ふ…嬉しいことを言ってくれるじゃないか」


どうにも今日のスカアハ師匠は弱弱しい感じがするな。まぁ、今は状況確認が先決だ。


「それで何が起きたんですか?」


「あぁ…私にはオイフェという妹がいてな。その妹が軍勢を連れて私の屋敷に攻撃を仕掛けてきたのだ」


オイフェがいたか。オイフェはスカアハの妹もしくは双子の姉妹として登場するケルト神話の女神であり、魔法戦士だ。スカアハと共に影の国の最強の女戦士とされている。このゲームでは妹という設定のようだ。


現実の神話でも二人は戦っており、クーフーリンがスカアハの代わりにオイフェと戦い、負かしている。しかしこのゲームではそういうシナリオにはならなかったようだ。二人の間に子供が出来るんだけど、その流れも無くなったってことかな?


「戦ったんですか?」


「あぁ…しかしご覧の通り負けてしまった。クーフーリンも頑張ってくれたんだがな。オイフェが連れていた軍勢が異常な強さを持っていた。私でも手が負えないクーフーリンの怪力に力で勝っていたからな」


「嘘でしょう…」


クーフーリンに力で勝てるアルスターの戦士なんているのかな?それほどクーフーリンの怪力はケルト神話ではずば抜けている。


「本当だ。詳しくはクーフーリンに聞いているといい」


「はい」


それにしてもクーフーリンは神話ではオイフェの勇士を六人倒して、オイフェと一騎打ちをすることになっている。そこから狂っているわけか。


「オイフェは私を狙い続けるだろう。きっとここにもやってくる。私とオイフェは影の国の秘術で世界中にある影に転移することが出来る。私がここに転移してきた術がそれだ。お前のペガサスには一度乗せて貰えたからな」


あぁ…エルフの森を守って戦った時に乗っていたな。あの時からもしもの時の事を考えていたのかな?流石スカアハ師匠だと思ったけど、俺の影に転移すればいいだけのことだから前言撤回しよう。俺はこの説明で一番気になったことを質問してみる。


「その説明ですとすぐにここにやってきてもおかしくない気がしますけど?」


というか世界中の影に転移出来るなんてチートだぞ。人の影でも厄介なのに物の影まで転移されたら、きりがない。家の中に普通に影はあるからここでも、お城の中でも本当にどこでもありだ。


「影の転移術の弱点として転移先の状況がわからないという弱点がある。慌てて転移した先がこんな化け物の巣窟の家では流石に転移は出来ないだろう」


あれ?これって褒められているのかな?でもそうか…スカアハ師匠の影に転移した場合、師匠の行先がわかって転移するわけじゃないから危険が付きまとうわけだな。


「まぁ、それでもオイフェなら攻めてきても不思議ではない。今のオイフェには私に勝ったという勢いもあるしな」


「では、なぜ来なかったんでしょうか?」


「来れなかったのだ。ここはどうやら九尾の領域になっているようだし、キキーモラもいる。私とクーフーリンは悪意がなかったから転移出来たようだが、オイフェは弾かれるだろうな。九尾が悪意を見逃すはずはないし、キキーモラもこの家の危険を察知しないはずがない」


まさかのキキと九尾のコンビがここを守ってくれているんだ。九尾はちゃんと仕事をしていたんだな。こんな所で毎日キキがあげている油揚げの成果が出るとは思ってなかった。ただ引っかかるな。


「そうなんですね。でも、それならフリーティアに攻めてきても不思議じゃない気がします。もしかしてさっきの術でそれは出来ないんですか?」


「いいや。影の国の秘術は遮断結界の中でも影がある限り転移することが出来る。だからこそ私もそれが気になっている。私が目覚める前に攻めていれば少なくともフリーティアへの奇襲は成立する。それをしなかったのが何故なのかわからない」


「うーん…師匠でわからないなら考えても無駄ですね。とりあえずすぐに警戒してもらいます。師匠はとにかく今は休んでください。戦いの事ばかり考えていたら、ダメですよ」


「ふ…私の言葉を覚えていたか。わかった。今は休憩させて貰う。ただタクトよ。無茶なお願いだとは重々承知しているがオイフェのことは私に任せてくれないか?」


「わかりました」


妹だから姉として何か思うところがあるんだろう。取り敢えず俺はルインさんとサバ缶さんに転移術のことを伝える。更にシルフィ姫様とカインさんに連絡を入れて警戒して貰った。これでたぶん暗殺などは出来ないと思う。


そしてリリーたちとシグルドさんたちにも襲撃に警戒して貰い、クーフーリンに会う。


「笑うなら笑え」


不貞腐れている。


「俺も負けたことなんてたくさんあるから笑えない。ある程度の事情は師匠から聞いたけど、戦闘について教えてくれないか?」


「まぁ、助けてもらったからな。けど、ほとんど戦闘らしい戦闘は俺もしてねーよ。奴らはいきなり現れて、一方的に魔法を屋敷に撃ち込んできたんだ。俺はすぐに飛び出して奴らをぶっ殺そうとしたんだけどよ。敵の女が俺と同じゲイボルグを持っていやがってな。その上、奴らは全員人ではない何か嫌な臭いを放っていて、俺を力で負かせてきたんだ」


人ではない何か嫌な臭いってことは悪魔系で決まりかな。それにオイフェもゲイボルグを持っている設定なんだ。


確か神話ではクーフーリンにゲイボルグを授けたのがオイフェの話もあったはずだけど、これは変だな。だって、既にクーフーリンはスカアハ師匠からゲイボルグを貰っている。それなのにオイフェがゲイボルグを持っているというのは話が成り立たなくなる。まぁ、スカアハ師匠が使っている時点でゲイボルグはこの世界に一本しかないというのは崩壊しているか。


「タクト…あいつらはここにも来るのか?」


「分からない。でもスカアハ師匠の命を狙っているというなら来る可能性は高いだろうな」


「どうするつもりだ?」


「もちろん来ると言うなら戦うさ。俺もスカアハ師匠の弟子だからな」


師匠には今まで色々お世話になっている。そのお礼を今回少しでも返せると言うなら俺は喜んで刀を振るおう。対ゲイボルグ用の秘密兵器がいるしね。


「へ…そうかよ。それなら早く戦いの準備でもしてこいよ。俺は寝る」


「あぁ」


俺は部屋を出て、夕飯はリリーたちに任せると珍しくノワが凄くやる気になっていた。他のみんなも何故かやる気満々で理由を聞いてみた。


「「「「リリーにだけは料理スキルで負けたくない!」」」」


「みんなしてどうしてそんなことを言うの~」


「日頃どれだけ自慢していると思っているんですか…」


「…ん。凄く大変だし、料理だけは下に見られたくない」


俺の知らないところでみんながリリーに苦労しているようだ。しかしなんだかんだでみんなのやる気の中心にいるのはリリーなんだよな。


俺がリリーたちとの約束のクッキーとソーマ酒を使ったクッキーを作っていると銀たちがやって来た。


「お疲れ様。三人とも。どうしたんだ?」


「カスバドさんから伝言を預かってねん。直接伝えに来たんだよん」


「伝言? 俺にか?」


「はい。刺された彼が最後に残した言葉です。『私が間違っていた。未来を信じてはいけない。ディアドラ姫をよろしくお願いします。彼女こそこの国の最後の希望です』だそうです」


途切れ途切れの文章が生々しい。これはディオドラ姫にウィザードオーブをなんとかしてほしいという願いということなんだろうな。つまり今のウィザードオーブは相当やばい状況にあるってことか。


俺が三人にお礼の言葉を言い、お疲れ様の意味で夕飯をご馳走した。もちろん今家にいるみんなにも料理を振舞った。重症の二人にはアリエスのクリームシチューを出す。


「まさかゴッドシープミルクを使った料理を口に出来る日が来るとはな…うん。美味い。優しい味付けだな」


「怪我を早く直すためにはまず栄養からですからね」


「ふふ。まるで母親のような言葉だぞ。タクト」


「「「「お母さーん! きゃあああ!」」」」


リリーたちが面白がって俺をお母さんと呼んだので、睨むと逃げた。それを見て、スカアハ師匠が微笑む。少しは元気になって来たかな?


クーフーリンにも出すと謎の白いスープに完全拒否。


「俺はそんなもの食べねーぞ。そんなものより肉を出せよ」


イラ。


「そうか。あ、最高級のお肉が壁を擦り抜けて現れた!」


「はぁ? 何言ってむぐ!?」


俺はクーフーリンの口の中にシチューが入ったスープを押し込んだ。


「え!? どこ!? どこ!?」


「そんなものあるはずないでしょう…」


探すリリーに飽きられるイオン。嘘だと知ったリリーは頬を膨らませている。


「何しやが…美味いな」


「だろ? ほら、残さず食えよ」


「おう!」


時間を確認し、アリナの試練を受ける時間は十分あるんだけど、いつイベントが発生するかわからない以上、受けることが出来ず、みんなで生産作業をすることとなった。俺は作業が終わったというセチアと共に久々のポーション作りをする。


素材はずっと生産を続けて来た(れん)だ。既に不死の霊薬の素材として知られている素材なのだが、セチアには他の狙いがあるようなのだ。


「蓮の種は確かに不死の霊薬の素材に使われますが、成長し蓮華(れんげ)を咲かせた蓮にも別の使い道があるんですよ。花びらを取って、聖水に付けておくとポーションが完成する…はずです」


自信がないらしい。ちょっと怖い…これ飲むの俺なんだよな。完成したのがこちら。


健康ポーション:レア度9 薬 品質S

効果:状態異常回復、一時間精神攻撃無効、一時間状態異常無効

蓮華で作ったポーション。精神を安定させ、あらゆる状態異常を直す効果がある。


セチアが笑顔で差し出して来る。きっと大丈夫だとは思うんだが、流石に今、飲むことは出来ない。セチアが味が分からない状態なのに量産体制に入っていると以前と同様に映像が流れる。


「やはり今日に来たか…」


これが俺たちにとって、決して忘れられない戦争の開戦の合図となった。

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動物保護をしている少年は異世界で虐げられている亜人を救います
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