#896 恋火たちの試練、第三の山
無事にクエストを終えた俺たちはクロウさんに感謝を言われる。ここで問題となるのが周回だ。酒呑童子の強さはマリッジバーストを使わないといけないほどだった。そうなるとソーマ酒が必要となる。
ソーマ酒は俺だけでなく、全体的にもう数が少なくなってきている。生産が出来ず、クエストも見つかっていないために本当に大切な時用に使いたい状態だ。
「最初の酒気はなんとかなるけど、それをなんとかした上で酒吞童子に勝てるかどうかだよな」
「正直、お二人と酒吞童子の戦いは別次元の戦闘でした」
「ふむ。妾たちと離れたところで戦闘してくれたおかげであの鬼との勝負に集中出来たが、戦闘に巻き込まれていたとするとどうなっていたかわからないのじゃ」
「それに私たちが戦った鬼も弱くはなかったぞ」
余裕そうに見えていたけど、結構苦戦していたんだな。でも俺たちの時はクロウさんの代わりにもう一人入れることが出来る。これから判断すると酒吞童子に二体のエンゲージバーストで挑めることになる。ただあのマリッジバーストでギリギリだったんだよな。
「うーん…まぁ、近衛もかなりのダメージを受けちゃったから今日は予定変更だな。ユウェル、修復を頼めるか?」
「任せろ!」
俺は気分転換に修練の塔に来た。今日は初めて平将門と戦闘する。選んだ馬はもちろんダーレーだ。
「まさかここで貴殿と騎兵戦が出来るとはな。しかも新しい馬で」
「覚えていてくれたんですね」
「ふふ。貴殿ほどの強者を早々忘れられるものではない。ましてや馬に乗られていてはな」
これは嬉しいな。
「俺もです。あの時は途中になってしまいましたが、今日は最後まで」
グランアルヴリングを構える。
「あぁ」
平将門も刀を構える。そして俺たちは思う存分、騎兵戦をした。
「はぁ…やっぱり馬に乗るのが上手いですね」
「結局力負けしまったがな。貴殿は馬に乗ったことはほとんどないな?」
「はい。一応乗り方は知り合いに教えてもらった感じです」
「やはりな。貴殿の馬の操縦技術は馬に乗るための操縦技術であって、戦うための操縦技術ではない。これが私と貴殿との騎兵戦での決定的な差だ」
物凄く的確な指摘!確かに今の俺はダーレーにお願いして、戦っている要素が圧倒的に強い。言葉で話すのと一つの合図で指示を出すとのでは差が出るのは当たり前だし、俺は本当に基本的な所しか知らない。
「今の私はアドバイスは出来るが教える立場にはいない。だから騎乗戦が上手になりたければそれが上手な者から教わるといいぞ」
「わかりました。的確なアドバイス。ありがとうございます」
俺は報酬を受け取り、ギルドで聞いているとみんなそれぞれレクチャーを受けた人が違うようだ。ホームに帰った俺は悩む。
「馬で浮かぶなら関羽、呂布、趙雲、馬超の三國志か桜花なら源義経かな?」
しかし余り接点がない。一応一緒に戦った仲でこっそり支援をしていたけど、諸葛亮とは余り会いたくない。絶対に俺の思惑とか気づいているだろうからね。触らぬ諸葛亮に祟りなしだ。
「馬に乗るのが上手な人が近くにいないかな?」
「なんじゃ? タクト。馬に乗るのが上手なものなら近くに山ほどいるではないか」
「へ?」
俺のぼやきを聞いていたリーゼが凄く当たり前のことを教えてくれた。
「フリーティアのグリフォン部隊や騎士たちはみな馬に乗っているぞ?」
「あぁ! そうじゃん!」
重要なのは戦闘用の馬の乗り方で別に有名NPCから教わらなければいけないということはない。でも、今日は色々忙しいからお願いするのは明日だな。休憩したことだし、恋火と和狐の試練を再開しよう。
恋火たちの試練は残す山はゴールを合わせると残り二つ。今回選んだメンバーはイオン、恋火、リアン、和狐、スピカにした。恐らく前回同様で山に向かう途中の道で襲われると考えられる。そしてこれまで四神で登場していないのは朱雀のみ。襲ってくるならたぶん朱雀と考え、水編成にした。
「今回も飛行禁止だ。とにかく急いでこの道を通り抜けるぞ」
「「「「はい!」」」」
スピカに乗って、グランアルヴリングを持って準備完了。
「行くぞ!」
俺たちは猛ダッシュで道を走る。するとリアンが反応する。
「正面から朱雀が五羽来ます!」
また多いな!しかも正面からなんて山に行かせない気満々だ。
「強行突破する!」
「「「「はい!」」」」
朱雀が俺たちの攻撃態勢に入った。
朱雀?
? ? ?
朱雀たちは役割分担をしてきた。二羽が俺たちへの激突役で二羽が火雨で俺たちの全員を狙う役、一羽が火山弾役で一人を狙う役といった感じだ。当然火山弾が俺を狙ってくるがイオンがガードに入る。
「タクトさんに手出しするなんていい度胸ですね。リアン、タクトさんをお願いします!
「はい!」
「竜技! ドラゴンダイブ!」
イオンはドラゴンダイブで一気に飛行禁止エリアを抜けるとそのまま火山弾を撃ち込んできていた朱雀に体当たりをお見舞いする。
「霧氷!」
ドラゴンダイブ後にイオンは霧氷を発生させ、火雨を使っていた朱雀にもダメージを与えると竜の魔方陣を展開する。それを見た激突役の朱雀たちはイオンを狙おうとするが俺たちに背後を見せる結果となり、遠慮なく攻撃した。
「竜魔法! ドラゴニックサイクロン!」
朱雀たちはドラゴニックサイクロンに巻き込まれ、五匹仲良く地面に叩きつけられる。しかし朱雀には蘇生がある。これを封じないと勝てないのだが、イオンはしっかりそれを理解していた。
「氷牢!」
五匹まとめて氷牢で凍らせた。しかし朱雀は耐寒があり、氷には強い。朱雀たちは氷牢を自力で突破しようとするがイオンは氷牢を使い続ける。
「タクトさんたちが来るまでここで大人しくしていて貰います」
俺がたどり着くとルーンスキルで蘇生を封じて、詰み。最後は久々に乗ったスピカがカーレントラピッズを使い朱雀たちは倒れた。解体しよう。
朱雀の羽:レア度9 素材 品質A+
真っ赤な孔雀の羽。振ると火の粉が発生する羽で武器や防具、装飾品など幅広く使われている。火の他に風、神聖属性も持っており、武器や防具、装飾品で効果が変化することから非常に人気が高い素材。
朱雀の尾羽根:レア度9 素材 品質A+
真っ赤な孔雀の羽が繋がって鎖のように繋がっているような尻尾。鞭のようになる連接剣やそのまま鞭、ヨーヨーとして使用させる。かなりトリッキーな素材だが、それ故に欲しがる人が多い素材。
まさかの鞭素材!ここで俺は八岐大蛟の尻尾を鞭として使用できた可能性に気が付いた。リビナには黙っておこう。何を言われるか分かったものではない。
因みに連接剣も気になっている。剣を愛する者としてロマンを感じる。きっと使いこなせないだろうけどね。それに一つしか手に入らなかったから作れない。羽はたくさん手に入ったから防具に使おうかな?武器にも使えるみたいだし、みんなで相談して使い道を決めよう。
「それじゃあ、山捜索をするか」
「「「「はい」」」」
俺たちが歩いていくと溶岩のフィールドにたどり着いた。恋火と和狐は觔斗雲に乗り、俺はスピカ、イオンとリアンは自前で空を飛行する。すると第六感が発動し、溶岩がいきなり噴き出し、飛行している俺たちに襲い掛かって来た。これをなんとか回避した。
「敵の攻撃…じゃないよな」
「はい。恐らく自然現象です」
その自然現象が俺たちを狙うように次々発生する。
「あつ!? あぁ…あたしの尻尾が」
「あぁ!? うぅ…うちの服が」
恋火たちはまだ觔斗雲に慣れていないからどうしても溶岩を食らってしまう。
「完全に狙われていないか!?」
「私もそう思いますけど、天言も危険を知らせてくれるだけですし、何より敵の気配を感じません」
こんなことはあり得るのか?まぁ、ゲームなんだし、これが試練だと言うなら理解は出来るんだけどな。
「凍らせてみますか? タクトさん」
「いや、噴き出すなら意味がない。俺に考えがある。イオン、時間遅延を使ってくれ」
「あ! なるほどです! 時間遅延!」
噴き出た溶岩の速度が時間遅延の範囲に入った瞬間遅くなる。これなら回避の時間がかなり稼げる。そして俺たちは溶岩フィールドの先に社を発見した。どうやらあそこがゴールみたいだな。
俺たちが社の前に降り立つとインフォが来る。
『和狐の仙術のレベルが30に到達しました。仙術【仙郷移動】を取得しました』
社の扉が開いて、その中から豪華な和服を着た白髪の九尾が現れた。
玉藻前?
? ? ?
ここで登場するかよ。玉藻前は鳥羽上皇の寵愛を受けたとされる伝説上の美女だ。日本で九尾の狐と言えばまずこの名前が出てくると思う。以前九尾から貰った殺生石が死んだ玉藻前の怨霊が石となったものとして有名だ。
「よううちの攻撃を潜り抜けてここに辿り着いたね」
「さっきまでのはあなたの攻撃だったんですか!」
「そうやよ。海竜のお嬢はん。攻撃を察知されるなんて三流どす。偽り、騙してこそのうちらや」
「む」
騙されたことにカチンときたイオンの頭を撫でて落ち着かせる。
「これで試練はクリア…ではないですよね?」
「そうやね。ここからが本番どす。まぁ、ええことを一つだけ教えたるとうちの試練が最終試練や。試練内容はどんな手段を使ってもええからうちにダメージを与えること。制限時間なし。これに挑むのはもちろんそこの三人どす」
俺はイオンたちにお礼を言って、三人を召喚石に戻した。そして武器を構える。
「ダメージというのはどんなダメージでもいいんですか?」
「ええよ。そのポケットに隠している石ころをうちに当たれたら、クリアどす」
ばれてる。それでも俺は投げつけると石が止まる。念動力か…俺の投擲操作では勝ち目がない上に玉藻前の一息で石が塵となる。分かっていたことだけど、物凄く強いぞ。
「後、うちからは直接攻撃はせえへんから安心してええよ」
「言いましたね! 閃影!」
恋火が玉藻前を斬り裂くと玉藻前の体が変わり身となる。そして現れた玉藻前に恋火が再び斬りかかる。
「やぁあああ!」
「三回回ってお座りした後、一回鳴きい」
「あ…は! は! は! コーン!」
「ええ子やね~」
斬りかかった恋火が突如その場で三回回った後にその場に座ると嬉しそうに鳴いた。そんな恋火の様子に玉藻前は頭を撫でる。
「これって…まさか言霊!?」
和狐に言われて思い出す。これは空天狐様が九尾に使っていた技だ。
「そうどす。あんさんには」
「い、嫌ぁあああ!」
和狐が耳を塞いで逃げ出す中、俺は防具を天空の着物に変更し、斬りかかる。俺が攻撃すると玉藻前の体が今度は木の葉になる。
「は!? あたしは一体何を」
「恋火、和狐。装備を着物に変えろ」
「は、はいな!」
「え? え? なんですか?」
「理由は後で教えてあげるから早く」
恋火たちが装備を変えている間に木の葉が集まり、玉藻前の姿となる。分身か?
「ええ装備を作ったみたいやね。それにその判断力の速さは流石主神クラスを倒した英傑どすな」
着物には精神攻撃の無効化がある。言霊が言葉で人を操る能力なら精神攻撃に入ると考えたけど、どうやら正解らしい。しかし肝心の攻撃を当たる方法が全然わからない。
「ふふ。装備を外してくれるんやったら、うちが操って膝枕をしてあげるよ」
「タクトはん! 聞いたら、ダメどす! 膝枕でしたら、うちがしてあげます!」
「堅すぎやわ~。少しは心に余裕を持たなあかんよ」
「余計なお世話どす! 恋火!」
「はい!」
二人は協力して玉藻前に攻撃する。しかし一向に攻撃が当たる気配がない。完全に遊ばれているような形だ。行動を読まれているのが問題だけど、もっと根本的なところで騙されている感じがする。
俺は周囲を見渡すが異変はどこにもない。
「はぁ…はぁ…タクトお兄ちゃんも攻撃してくださいよ。タクトお兄ちゃん?」
「和狐、大祓を使ってみてくれないか?」
「へ? は、はいな! 大祓!」
「ふふ。うちにそれは効きまへんえ?」
やはり効果がない。これで霊化の線はなくなった。
「二人とも、下がってくれ。ハブーブ!」
巨大砂嵐を起こすが効果なし。
「それも効かんよ」
「みたいだな。でもそれは失敗だったな」
魔法無効だったら、ダメージは入らないがハブーブによる砂で姿形は見えてしまう。魔力支配や天候支配の場合はハブーブに影響が発生する。しかし玉藻前はハブーブをまるで霊化したかのように躱してみせた。
もちろんハブーブの時だけ霊化したことも考えられるけど、最初にイオンに言った言葉がこの試練のヒントだとすれば、正解がなんとなくわかる。
「…これは二人の試練だ。二人で答えを見つけてくれ」
「えぇ!?」
「も、もしかして」
和狐が俺に自分の考えを耳打ちしてくる。
「土の中に隠れている」
「狐にそんな力があるのか? まぁ、あるならアースクェイクでダメージが入るはずだな」
「う…違うどすか。それなら変化で物に化けている」
「面白い案だけど、それならハブーブでダメージが入るはずだ」
和狐がしょんぼりする。次は恋火が耳打ちしてくる。
「タクトお兄ちゃんが実はあの人」
「素晴らしい案だな」
「そやね。今後の参考にさせて貰うわ」
確かに俺が玉藻前でハブーブを使っているならダメージが入ることはない。その代わりに恋火たちへの攻撃になるからルール違反になるからこれはアウトだ。それに俺にもこれは大問題が発生する。
「俺はグランアルヴリングを持っているから、それが事実なら俺はセチアに物凄く怒られることになるだろうな」
想像するだけで恐ろしい。
「あ、あはは~…違いますか」
二人が考えていると玉藻前がやって来た。
「厳しいんどすな? 答えが分かったならそれで試練はクリアできるかも知れへんのに」
「この試練が次の進化をさせる上での修行のようなものだったことはわかってるつもりだ。それなら俺は最後の試練は二人で答えを見つけて、自信を持って進化して欲しい」
「ふふ。ほんまええ男やね」
「タクトお兄ちゃんに何しているんですか!」
恋火が斬りかかったことで玉藻前が消えた。
「ふー! 全く油断も隙もないです。タクトお兄ちゃんも隙を見せちゃダメですよ!」
「はーい」
その後、目に見ないくらい小さくなり、ハブーブの砂嵐を全て躱したなどの案が出たところで恋火がニアピンの答えを言う。
「実はあの人は存在しないとかどうですか?」
「それやったら、一生この試練はクリア出来まへん。ん? 存在しない?」
和狐が玉藻前が登場した社を見る。答えが見つかったようだな。
「もしかして本体はずっとあの社の中にいて、そこから何かしらの術を使っていたということどすか?」
「あ! それなら確かに砂嵐のダメージは受けませんね!」
「さて、どうだろうな。それじゃあ、答え合わせをするか」
俺は社の扉に手をかける。これでやっと試練が終わりだと思った時に第六感ではない嫌な予感を感じた。
「扉から離れろ!」
俺と二人は扉を開けた瞬間、左右に分かれると扉の奥から大量の毒の煙があふれ出してきた。イオンたちに気づかれず溶岩で攻撃してきたから第六感くらいは騙してくると思ったけど、本当に最後までやってくれる。
「ふふ。よう気づきましたな?」
社の中は毒気に包まれており、その奥に玉藻前はいた。
「あんたが俺に話しかけてきたおかげだよ。あれで謎が解けた俺を安心させたかったんだろう? それよりこれは攻撃じゃないのか?」
「これは自然発生した毒気やからうちからの攻撃とちゃいます」
「えぇ…」
そんなのありなのか?というか自然発生したって、それは自分から発生したものじゃないのか?
「それにしても欲は出すもんやないね。さて、これが本当に最後の試練どす。この毒気がある空間に入ってうちにダメージを与えてみ」
俺は石を投げつけてみた。すると石が腐蝕して消える。
「今更そんなことで試練をクリアはさせへんよ」
「ダメか。恋火、和狐」
「はい!」
「これで決めましょう!」
俺と恋火、和狐が指輪を掲げる。
「「「エンゲージバースト!」」」
エンゲージバーストを使った俺は防災の護符と除災の護符を構えて社の中に入る。しかしこれは長時間持たず、そこまで和狐が護符を持っていないのが災いして、結局恋火が一生懸命禊を使い、毒のダメージを俺と和狐が回復することで座っている玉藻前の前まで来た。俺は恋火の刀を抜くと刀を逆さに構え直して、玉藻前の頭をこついた。
「これで試練はクリアだよな?」
「…そうやね。せやけど、なんで首をはねなかったんどす?」
「…ここで首を跳ねたから試練失格とか言われたくなかったからだ」
「ふふ。嘘が下手な人やね。ま、これで試練は終わりどす」
毒気が一気に消滅した。まぁ、恋火たちがいる手前、流石に殺すのは抵抗があった。それに俺は現実の玉藻前が完全な悪だとは思っていない。
伝説では玉藻前は鳥羽上皇が病に倒れ、陰陽師が原因を玉藻前のせいだと言っただけで命を狙われることになる。その後、鳥羽上皇は病から回復し、玉藻前の討伐軍を送り込むの流れとなる。
ただこれがもしただの病で偶然、玉藻前がいなくなった後に病が治ったとすると玉藻前は悲劇のヒロインとなる。
ただし、この場合だと陰陽師が玉藻前の恋を引き裂いて死に追いやった悪者になってしまうけどね。まぁ、これは恋火たちを見ているから考えてしまう説なのかも知れないな。
俺たちは玉藻前に案内されて、最後の道を通り抜けると天から光の柱が降りてきて中に入ると転移した。




