#893 緋緋色金の鍛冶クエスト
お昼を食べ終えた俺はクロウさんとの約束の時間前にログインする。相手が日本の鬼の中で最強と呼び声が高い酒吞童子だからここは切り札を増やすことにした。リリーの竜技に今まで稼いできていた修練の宝玉を全て使い、インフォが来た。
『リリーの竜技が50に到達しました。竜技【ドラゴンフォース】を取得しました』
『リリーの竜技が上限に到達しました』
流石に40以降は修練の宝玉を結構使ったな。とにかくこれで準備は整った。ギルドに向かうとクロウさんに声を掛ける。
「来ましたよ。クロウさん」
「おう。悪いな。今日は頼むわ。それじゃあ、桜花に向かうか」
クロウさんに案内されたのは桜花のたたら製鉄所。ここでクエストが発生しているそうだ。
「天津麻羅様に会いたいんだが、どこにいるんだ?」
「ん? 天津麻羅様なら神社にいるだろう? 俺たち、鍛冶の神様なんだからな」
「あれ? 親方知らないんですかい? 天津麻羅が鬼に誘拐されたって話」
神話にこんな話はないからオリジナルの話だな。
「…何? その話は本当なのか?」
「へい。鍛冶師の間で噂になってますぜ」
「馬鹿野郎! それが本当だったら、一大事じゃねーか! そうだ! あんたら、天津麻羅様に会いたいんだよね? 頼む! 俺たちの神様を鬼たちから救ってくれねーか?」
ここでインフォが来た。
特殊イベント『天津麻羅を救出せよ』:難易度SSS
報酬:天津麻羅のハンマー
人数制限:六人
鬼の軍団を撃破し、天津麻羅を救出せよ。
昨日と同じ難易度じゃん。
「クロウさん?」
「いや、昨日のクエストでも無双したんだろう? 大丈夫だ。俺一人分の人数がいなくなっても、お前ならクリア出来ると信じているぜ」
「このクエストってクロウさんがいなくなった場合どうなるんですか?」
「それはまぁ、いないんだから貰えないだろうな。というわけで護衛も頼む」
無茶苦茶な依頼をしてくれるよ。選んだメンバーはリリー、ブラン、セフォネ、ユウェル。守りとパワーを意識した編成だ。セフォネは最後の切り札で選んだ。これでクエストを実行すると俺たちは山の麓に転移する。
「ここからクエストのスタートで鬼を倒しながら山頂を目指すことになる。それぞれ鬼が現れる度にボス級の鬼がセットで襲ってくる感じだ。ラスボスは酒呑童子と鬼化した茨木童子。茨木童子はラスボス前の星熊童子の時に人姿で参加してきて、手傷を追うと逃げ出すんだ」
他にも各ボスの情報を貰い、編成を決める。
「前衛は俺、リリー、セフォネ。クロウさんの護衛はブラン、ユウェル。頼む」
「わかりました。主」
「任せろ!」
装備はブランにブリューナクを渡して準備完了。それじゃあ、行きますか。山を登っていると最初に現れたのはこちら。
熊童子?
? ? ?
こいつと無数の鬼だ。熊童子はアルカスベアーと同じ位の大きさの熊で鬼を象徴する角と背には雷神の太鼓である雷鼓を装備している鬼だった。まずは雑魚掃除だからだ。
「リリー! 消し飛ばせ!」
「うん! 任せて! タクト! 光速激突!」
熊童子にリリーがぶつかるが流石にこれは腕でガードしてきた。リリーはすぐさま離れると天鎧で守りを固めた状態で鬼の軍団のど真ん中に着地する。当然鬼からの袋叩きに合うがリリーの天鎧が攻撃を防ぎ、そしてリリーの身体が輝く。
それを見た熊童子を雷鼓を手で連続で鳴らすとそこから雷の弾丸がリリーに襲いかかる。
「は!」
「大地操作!」
「グウォ!?」
ブランが投げたブリューナクが熊童子の顔面を貫き、ユウェルが大地操作でリリーの前に地面を上げて、壁を作ることで雷の弾丸を防ぐと元に戻す。リリーの攻撃の邪魔になるからね。
「竜技! ドラゴンノヴァ!」
これで雑魚一掃。
「間違いなく最速突破だな」
「ありがとうございます」
熊童子だけ解体する。
熊童子の雷鼓:レア度8 太鼓 品質A
効果:雷波動、雷弾、多連射、雷放電
手や桴で叩くことで望んだ雷を発生させる太鼓。魔力を消費せず雷を発生させられるので、魔力の節約が出来る。ただし、叩かいないと雷を発生させることが出来ない弱点がある。
お!もしかしてチェスに装備出来るのかな?いや、でも似合わないか。ここでブランが提案する。
「アリナならいいのではないですか? 主」
「それだ!」
風のドラゴニュートだし、手で鳴らすだけのこの装備なら確かにアリナに向いていそうだ。
「むぅ…私も欲しいぞ。タク」
「あぁ…ユウェルという手もあるか。まぁ、何回も倒すことにだろうし、次手に入ったら、ユウェルな」
「やったぞ! 約束だからな! タク」
俺たちは先に進むと次に現れたのが、こいつ。
虎熊童子?
? ? ?
虎の顔に虎の足、虎の尻尾がある熊。虎の顔には鬼の角がある。こいつが強かった。
リリーが光速激突をする。これにパンチを合わせて、リリーを吹っ飛ばすと空を空脚で飛ぶと蹴りでリリーを地面と落とすと更に空からヒップドロップの体勢となり、リリーを潰そうとする。
「やらせないのじゃ! 生物創造!」
セフォネの血からエーテルビーストが生まれ、ヒップドロップをリリーの代わりに受ける。本来ならブリューナクで倒したいところなのだが、こいつは以前砂漠で出会ったボクサーカンガルーと同じで遠距離攻撃を受け付けないそうだ。
それなら直接狙えばいいのだが、リリーの光速激突に対応したことからかなり厳しい。ということで俺が前に出る。
首を狙った近衛の斬撃を虎熊童子は察知して、体を回転させて躱すと俺に回し蹴りをしてきた。それは俺は腕で止める。
「グ…グオ?」
まぁ、わけが分からないだろうな。
「悪いな…今の俺に並みの打撃は通じないんだよ。百花繚乱!」
桜吹雪の斬撃が虎熊童子に降り注ぎ、虎熊童子はバラバラになった。その後、リリーがやられた腹いせを周囲の鬼に向けて、ここを突破する。虎熊童子を解体したが、外れ。
ここで俺はリリーとユウェルのポジションを変えて、切り札をユウェルに持たした。次に現れるこいつの相手をユウェルにして貰うためだ。
金童子?
? ? ?
金熊童子とも呼ばれている鬼だが、このゲームでは黄金の鬼として登場した。髪から身体まで黄金で鬼の角だけ赤色だ。武器は黄金の金砕棒。
明らかに強い雰囲気を出しているこいつにユウェルがグラディウスを取り出して挑む。それを見た金童子は雷速でユウェルの前に現れると黄金の金砕棒をユウェルに向けて、雷速で振るってきた。これをユウェルはグラディウスで受け止めるが一撃でグラディウスが砕け散る。
この黄金の金砕棒には今まで挑んだプレイヤーたちも武器や防具をやられている凶悪な武器だ。
「タクの言う通り、歯が立たない。タク! 使わせて貰うぞ!」
ユウェルが取り出したのはヘラクレスの棍棒。同じ系統の武器であるこれなら対抗するためには十分なはずだ。
「でぇえええい!」
「グオ!」
ヘラクレスの棍棒と黄金の金砕棒がぶつかり合う。
「むぅううう!」
「グォオオオ!」
お互いに引かずいると黄金の金砕棒から雷放電が放たれる。これをユウェルは電磁操作で無力化する。俺がユウェルを選んだ理由の一つがこれだ。こいつが持っている雷の力にユウェルが強く、更にパワーでユウェルは負けないと判断したからだ。
しかし相手も馬鹿ではない。すぐさま自分の優位性に気が付く。それがスピード。雷速で動き回り、攻撃されるとユウェルは対抗出来ない。この結果、ユウェルは守りを固め、金童子は一方的に攻撃を加える。これにクロウさんとリリーが俺に訴え掛けてくる。
「おい! タクト!」
「ユウェルちゃんがピンチだよ!」
「大丈夫だ。ユウェルの目は死んでいないし、耐えることで勝つチャンスが生まれることをユウェルは知っている」
金童子の異変はすぐに起きる。最初はいけいけで振るっていた黄金の金砕棒を振る速度が遅れてきたのだ。このゲームでは現実と同じようにひたすら剣を打ち続けることは不可能となっている。どうしても腕や手に疲れが出てしまうのだ。
そしてユウェルが狙っている決定的な瞬間が訪れた。それが魔力切れ。急に雷速での移動が出来なくなり、金童子は動きを止めてしまった。
「そこだ! 覇撃!」
ヘラクレスの棍棒から放たれたとんでもない覇撃が金童子に直撃する。全ての岩や木々、範囲内にいてしまった鬼を破壊するその覇撃の威力に俺はぞっとする。これを受けて無事だった金童子を俺は尊敬する。
最もそれが良かったことなのかは分からない。上空に竜の魔方陣が描かれる。
「さっきまでのお返しだ! 竜魔法! チクシュルーブメテオ!」
これを見た金童子は逃げ出そうとするが、身体が硬直する。ヘラクレスの棍棒の怯みの効果だ。この結果、金童子は巨大隕石を受けて、粉々になった。ここでインフォが来る。
『ユウェルの竜技のレベルが20に到達しました。竜技【ドラゴンダイブ】を取得しました』
ユウェルもドラゴンダイブを取得したか。気になるのが次のドラゴンウイングだな。ユウェルに羽がないけど、どうするんだろうか?ドラゴンウイングで翼が生える?いや、でも肝心の飛行スキルがないしな。新しい竜技の可能性がありそうだ。
「勝ったぞー!」
「すごーい! ユウェルちゃん!」
「守って勝つ。見本のような戦いでしたね」
「まぁな!」
ユウェルにとっても満足がいく勝ち方だったんだろう。
「雑魚の鬼たちは…逃げ出したか」
「あんな光景を見たら、当然だと思いますよ」
「確かにな」
金童子の解体も外れ。
「ま、最初に運を使っちまったんだろうな」
「レアな武器だったんですか?」
「このイベントの解体は結構渋めに設定されている感じだな。良かった場合は三つがあったが、二つ手に入ればラッキーなほうだ」
つまり今の俺の状況が普通なわけね。気持ちを切り替えてここからボスが二体ゾーンに入る。挑む前に俺たちはクロウさんから回復アイテムと料理をいただき、武器の修復をしてもらう。
「これぐらいのサポートしかしてやれないからな」
「十分ですよ」
休憩が終わり、俺たちは先に進む。




