#892 恋火たちの試練、第二の山
恋火たちのクエストに選んだメンバーはリリー、恋火、和狐、ダーレー、狐子だ。リリーはどうしても戦いたいと言ったので、選ぶことにした。まぁ、マリッジを結んで自分がどうなったのか試したいんだろう。
途中にしていたクエストを再開する前に恋火が覚えた仙郷移動を確認する。
「仙郷移動!」
恋火が使うと恋火の姿が消える。すると俺の背後に現れた。
「空間転移か?」
「ちょっと違うみたいです。使うと時間が止まっているような世界に転移しました。そこでは攻撃は出来ないんですけど、逆にあたしが攻撃を受けることもありません。たぶんですけど、同じ技を使って攻撃をすると通ると思います」
仙郷は仙人が住んでいる所と呼ばれていたり、また仙人が移動する時に通る世界とも言われている。
「異世界転移に近いのかな? この場合、空間支配はどうなるんだろう?」
「たぶんどすけど、空間ではないので、対象から外れると思います」
そういう物なんだ。まぁ、こちらから手出し出来ないみたいだし、対象から外れるんだろうな。ただその代償は大きく魔力を結構使ってしまっている。異世界に行くんだから当然魔力の消費は大きくなるか。
それでもこれは和狐の話によると現実世界の結界を擦り抜けることが可能らしい。それは遮断結界でも例外ではないそうだ。上手く転移や空間跳躍などと分けて使わないといけない技みたいだな。
確認が終わったところでまずは天然の岩の橋を渡る。するとリリーが反応する。
「タクト! 下から敵が来る!」
「ここでか!?」
こんなところで攻撃を受けたら、橋が崩れないか心配だ。というかここは飛行禁止エリアなのに敵は飛行して現れた。
青龍Lv60
召喚モンスター 討伐対象 アクティブ
ここで青龍に出会うとは思っていなかったけど、こちらだけ空が飛べないことには色々言いたい。すると青龍は雷雨を使ってくる。
俺は近衛を構える。
「飛梅!」
青龍は躱して蒼炎を使ってくる。これにダーレーが海波動をぶつける。蒼炎に打ち勝つがやはり攻撃を躱される。距離がありすぎるんだ。しかも飛べないんじゃ挑発系のスキルを使うしかない。それもこのメンバーだと厳しい。
「どうしますか? タクトお兄ちゃん」
「強行突破して、飛べるところで戦おう。防御は俺とリリーがする! 走れ!」
「「「はい!」」」
俺がダーレーに乗りながら青龍の攻撃に対処する。そこで俺は確信した。この青龍はここが飛べないところだとわかって攻撃してきている。接近戦を挑んできたら、斬ってやろうと思っていたけど、遠距離攻撃ばかりしてきた。ある意味、賢いと言えるがされるこちらからするとストレスが溜まる。
「タクト! また下から来る! 次は二匹!」
青龍が三匹となり、それぞれ攻撃のタイミングをずらして攻撃してきた。実に賢く、うざったい。我慢を続けた俺たちは次の山に入り、森に入り込む。これで森の上空に来たら、俺たちの間合いだ。好き放題、やってくれた礼を返そうと考えているとまたリリーが反応する。
「タクト! 今度は森から白虎が五体来る!」
多いな!
「まずは白虎からやるぞ!」
俺たちは白虎たちのほうに向かうと後ろから青龍たちが攻撃してきた。こいつら、完全に狩りを楽しんでやがる。
「どうするの? タクト?」
「このまま白虎を狙おう。どうせ今、青龍を狙っても逃げられるだけだ」
「わかった!」
「ちょっと待ってください! 白虎たちの気配が遠のいています」
やはり手を組んでやがる。まるで俺たちを何処かに誘い込もうとしているみたいだな。
『どうするんだ? 空間歪曲で先回り出来るぞ。ま、そんなことはわかっているんだろうけどよ』
『まぁな』
「このまま白虎たちを追おう」
俺たちが森を進んでいくと第六感が反応をする。
「止まれ!」
俺たちが止まる。しかし何も危険はないように見える。しかし第六感が外れるとも思えない。
「どこに危険があるんでしょうか?」
「タクト! 青龍が来る!」
「焼失弾!」
狐子が焼失弾を正面に撃つと木に当たり、燃え上がる。
「幻術か? 狐子?」
「えぇ…とんでもなく広範囲に高精度な幻術を使っているわ。わざわざ木に当たって燃える所まで再現するなんて私には出来ないわね」
「どこにいるか分かるか?」
狐子が首を振る。すると聞いてくる。
「第六感はどこを示しているのかしら」
「下だ」
「なら恐らくここは崖よ。地面に攻撃すれば流石に幻術か分かると思うわ」
「わかった。飛梅!」
俺の飛梅が地面を摺り抜けると山や空の景色が元に戻る。そのお光景に俺たちは絶句する。俺たちが立っている所はなんと口を開けた状態の巨大な貝の中だった。
正確に言うと巨大な貝の中の端にいる。俺たちの一歩先は崖というより谷に近いんだろうか?かなり距離があるけど、陸地が見えている。谷といっても下は陸地が見えていないから最初に通ってきたところが飛行禁止なのを考えるとここで落ちていたら、終わっていた。
今まで見ていた木は全てこの化物貝の身から発生している触手で燃えるのは当然だ。そして俺は本体を識別する。
蜃?
? ? ?
蜃気楼を作り出すと言われている貝の妖怪だ。中国ではドラゴンとされることもあるがここは日本の妖怪で来たな。すると触手が一斉に襲いかかってきて、上の貝が閉じ始める。
「雪月花!」
恋火が触手を凍らせる。ここで白虎が攻勢に出てきた。青龍たちは蜃の守りに入る。なんとしても蜃に俺たちを食べさせたいようだ。しかし青龍の守りでは今の俺たちを止められない。
「空間歪曲! やれ! 恋火!」
「はい! 閃影!」
空間歪曲で蜃の近くから一瞬で飛び出した恋火が蜃を斬ると紅炎で蜃全体が燃える。更に恋火は恋煌と水薙刀で連続で斬りまくる。
これに気づいた青龍たちは恋火を止めようとするが青龍たちの背後に狐子が空間歪曲を作り、そこから青龍二体に背後からリリーの光速激突と元の九尾姿の狐子の爪が決まり、下の貝殻に叩きつけた。そして俺は自分が作った空間歪曲から和狐と共に現れる。散々追い回した白虎は放置だ。
「和狐、恋火のフォローをしてやってくれ」
「はいな。飯綱!」
これで蜃は弱体化した。すると無事な青龍が俺に雷ブレスを使ってきた。
「ダーレー!」
『おう!』
俺は雷ブレスを近衛で斬り裂くとそのまま青龍を斬り裂く。そして連続で青龍が倒れるまでダーレーと一緒に攻撃を加えて倒した。そこでダーレーのドラゴンクローを見たのだが、普通に前足に発動していた。
俺が感動していると先に蜃が倒され、上の貝殻が止まった。流石に先には倒せなかったか。
それでも俺とリリー、狐子は青龍を倒した。狐子は獣モードに戻ると青龍の首に背後から噛み付き、両手を抑え付き、尻尾で逆に青龍を締め付けることで完封した。
リリーは締め付けを躱して、上空からの光速激突の連打。これは酷い。白虎がやって来る前に解体する。
蛤:レア度8 食材 品質A-
丸みを帯びた三角形の貝殻が特徴的な貝。桜花では大昔から食べられている貝で吸い物などで食べられている。
青龍の鱗:レア度8 素材 品質A-
美しい青色が特徴的な鱗。非常に強力な風と水の力を持っている。嵐の中でも平気で飛行出来る防具を作ることが出来る。
天候如意宝珠:レア度9 通常アイテム 品質S-
青龍が持っている如意宝珠。使用すると天候を晴れにし、一時間の間天候を変えることを封じる効果がある。
あ、蛤を出したかったから、ドラゴンにしなかったんだな。青龍の素材はダゴンの時に欲しかったな。
「タクト! 来るよ!」
「あぁ。和狐、霊化した時は頼むな?」
「はいな。大祓を使います」
「やるぞ」
すると荒魂を使用した白虎たちが現れた。防御を捨てたのは間違いないだ。
「いい度胸ね! 煉獄!」
人に戻った狐子が煉獄を発動すると地面ごと白虎たちが大炎上する。氷獄とは火バージョンのスキルだ。氷獄は相手の動きを封じるが、煉獄は発動している煉獄内にいる間、やけどと同時に炎のダメージを与え続ける。
これを受けた白虎たちは突っ込んでくる。
「斥力操作!」
また狐子が白虎たちの接近を許さない。更に飯綱や病気ブレス、神魔毒ブレスを使い、弱体化までさせてしまう。
「酷いな」
「主様の召喚獣ならこれぐらい当然よ。和狐、霊化してくるわ」
「はいな」
霊化を和狐に封じられた白虎たちは狐子の堕落と魅了吸収に重圧まで加えて倒した。ここでインフォが来る。
『空間歪曲がレベル10に到達しました。空間歪曲の数が二つに増加しました』
お!空間歪曲の数が増えた!まぁ、エキドナ・リバースが使っていたから出来るとは思っていたけど、この感じだと十ごとに増えていきそうだな。さて、解体しよう。
白虎の毛皮:レア度8 素材 品質A-
風と土、霊力が宿っている白い虎の毛皮。見た目から装飾品すると高値で取引される。防具としてはどんな地形でも速く走れる靴が作れることで人気がある。
白虎の爪:レア度8 素材 品質A-
風と土、霊力が宿っている白い虎の爪。主に武器として使用され、これで作られた武器を地面に指すと地面が隆起し、突きを放つと旋風を起こす武器が出来る。
お!靴の素材なんだ。これは嬉しいな。爪も強そうではある。その後、俺たちは崖の所まで戻ると雲に乗った仙人が現れた。
須菩提?
? ? ?
須菩提は孫悟空の仙術の師匠だ。有名な雲に乗る術を教えたことで有名だね。
「まずは蜃の幻術を見破ったことは見事じゃった。わしの名は須菩提。稲荷姫の要請でお主たちに試練を与えるように言われておる」
「試練の内容はなんですか?」
「簡単じゃよ。いでよ! 觔斗雲!」
金色の雲がどこからともなく飛んできて俺たちの前で止まった。これが孫悟空が乗ったと言われている觔斗雲!
「この觔斗雲に乗り、向こう側の山まで行けたら試練達成とする。これに挑戦するのは試練を受けている三人じゃ」
「雲に乗れるんですか!? わーい!」
恋火が飛び乗ろうとすると乗れずにすり抜けた。
「乗れませんでした!? タクトお兄ちゃん!」
「はいはい。ちゃんと最後まで説明を聞こうな」
「ふぉふぉ。元気な狐の嬢ちゃんじゃ。この觔斗雲を乗るためには仙気のコントロールが重要となる。何より最初の試練で会得した無心の心が必要じゃ」
二人がつい俺を見る。そして顔を赤くする。何を思い出しているのやら。
「あの、俺は仙気を持っていないのですが」
「それでは觔斗雲には乗れんから二人に運ばれるしかないの。ふぉっふぉ」
笑いごとじゃねー!難易度が一気に跳ね上がったぞ。いや待てよ…この発言はおかしい。エンゲージバーストを使えばそんなことをしなくて済むはずだ。
「更に觔斗雲に乗れたからと言っても、向こう側に行くためには不規則な風の中を飛行する技術が必要じゃ。もし失敗すると落ちて即死じゃが、何度でもやり直しは出来る。ほれ」
須菩提の指が指し示した先には、安全エリアがあった。
「死んだ場合にリスクは存在せんから安心して試練に挑むがよい」
それは有難いが何度でも落下して、死ぬのは勘弁したい。そこから二人の觔斗雲に乗る訓練が始まった。
「うぅ…最初の試練を思い出す度に落ちちゃいます」
「まさかこんなのことなるなんて…。ってタクトはんは木の枝を立てて何してはるんどす?」
「ここに吹く風を計算している。二人は觔斗雲に訓練に集中してくれ」
俺が計算を終わる頃には二人は俺が教えた呼吸法を繰り返し、なんとか觔斗雲に乗れるまでなっていた。
「どうだ?」
「な、なんとか…」
「乗れとります」
二人が小刻みに震えている。しかし油断すると落下してしまう。ここで試しに二人とエンゲージバーストを使ってみる。
「お、乗れたな」
『あたしたちの苦労を一瞬でクリアしないでください! タクトお兄ちゃん!』
『タクトはんはうちらを陥れたいんどすか!』
「そんなつもりはないんだが…おっと」
觔斗雲から落ちた。
「あぁ…エンゲージバーストすると三人のうち、誰かが觔斗雲に乗れなくなると共倒れになるのか」
でもこれなら俺が運ばれても同じだ。三人の息を合わせて、俺が計算した無風となるタイミングで一気に飛び越えを図る。
すると俺たちは一瞬で空の彼方まで飛んでいき、フィールドの壁に激突。飛行禁止なので、そのまま落下。元の位置に戻ってくる。
「だから言ったじゃろ? 二人に運ばれるしかないとな。年寄りの言葉は素直に聞くものじゃよ」
「…エンゲージバーストを使った時に止めれば良かったんじゃないですか?」
「それでは試練にならんの。失敗もまた修行のうちじゃよ」
言いように聞こえるが絶対笑ってたよ。この人。
「原因は魔力の高さか?」
「というより仙気の高さやと思います」
「その通りじゃ。觔斗雲の移動速度は仙気に依存する。エンゲージバーストを使うと仙気が増大させてしまうためにさっきのようなことが起きるわけじゃ」
これで俺は二人に運ばれることが決まったわけだ。いや、まだ手がある。
「あの、この試練って家に戻っていいですか?」
「別に構わらんが浮遊石とか使ってもわしが壊すから無駄じゃよ。諦めよ」
くそ…考えを読まれた。
「だ、大丈夫です! タクトお兄ちゃんを無事に運んでみせますから!」
「タクトはんはさっきのサポートに集中してください!」
結果は失敗の連続。二人がほぼ同じ速度で運ばないとバランスを崩して落下するし、時間を掛けると風に捕まり落下する。それでも何度も繰り返していると慣れてくる。そして遂にその瞬間が訪れた。
「三…二…一」
「「せーの!」」
俺たちは觔斗雲に乗って、見事に崖を飛び越えた。
「や、やりました! タクトお兄ちゃん! お姉ちゃん!」
「やったな~。恋火。タクトはんもお疲れ様どす」
「あぁ!おめでとう! 二人共」
「「えへへ~」」
二人を撫でて褒めていると須菩提がやって来る。
「わしの試練は見事に達成じゃ。わしの試練を達成した証を授けてやろう」
須菩提から巻物を二つ受け取る。
「その奥義書の中には仙術【觔斗雲の術】が入っておる。これを使えばいつでもどこでも觔斗雲を呼べ出すことが出来る。大切に使うとええ。では、さらばじゃ」
須菩提がいなくなる。恋火と和狐はしっかりお礼を言い、二人に早速觔斗雲の術の奥義書を使った。
『恋火が仙術【觔斗雲の術】を取得しました』
『和狐が仙術【觔斗雲の術】を取得しました』
その後、俺たちは何事もなく次の山に続く石の橋までやってきた。ここでお昼のためにログアウトした。




