#891 リリーとの結婚式
結婚式の朝を迎える。
「まさか高校生で結婚式の朝を迎えるとはな…」
ゲームでの結婚だけどね。しかも一日に二回の結婚式だ。考えてみると滅茶苦茶だな。ゲームを始めた頃にはこんなことになるなんて思ってなかった。朝食を食べ終える。
「ふぅ…行くか」
ゲームにログインする。昨日一緒に寝たリリーとイオンを起こす。
「お、おはようございます。タクト」
リリーがおはようございますなんて言ったのは初だ。
「さ、最高の朝ですね。タ、タクト…さん」
イオンもガチガチ。どうやらリリーのように呼び捨てにチャレンジしたみたいだが、失敗したようだ。
「二人共、緊張しているな」
「し、してないもん!」
「タクトさんのほうが絶対してます!」
「そもかもな。何せ結婚式なんて初めてだからさ」
「「初めてじゃないと困る!」」
微笑ましい限りだ。その後、ガチガチの理由を探ってみるとやはり結婚式が徐々に近づいて来ている実感から来るものだった。
「それに昨日子供を作りたいってタクトに言ったことが急に恥ずかしくなってきて…頭の中がぐちゃぐちゃなの! どうしよう! タクト」
「今頃それが出てくるんですね…」
「俺に聞かれてもな」
リリーは頭の中がパンクしてしまっているようだ。これはもう凄い結婚式になる気がするぞ。面白映像大賞に投稿するレベルの事態だけは起きないことを切に願う。
俺たちは下に降りると早速リビナから冷やかしを喰らうなどしてから獣魔ギルドに行く。そこでリリーとは別れて、俺も服装を着替える。
「…」
あ、あれ?着替え終わったら、何をすればいいんだ?ずっと待つの?お、落ち着かない!う~ん…折角だから今後の予定を考えて置くか。そんなことをしているとドアがノックされて、回復したシルフィ姫様が顔を出した。
「準備出来ましたよ。タクト様。わぁ~! タクト様の白のタキシード姿、かっこいいですね!」
「あ、ありがとうございます。俺的には微妙な気がするんですが…」
「そんなことはありませんよ。これにスピカちゃんを乗って、魔法剣を持っていたら、何処かの国の王子様に見えると思います」
そこまで白馬の王子を意識して似合わなかったら、心のダメージが相当ありそう。もちろんやりません。半分やっているようなもんだけどね。
俺は会場に入ると会場にはアウラさんやネフィさんがいた。神父役はカインさんだ。そしてヴァージンロードの扉が開いた。そこには純白のウェディング姿のリリーと何故かタキシード姿のサラ姫様がいた。
非常に似合っている二人組だが、色々言いたいことがあるな。きっとシルフィ姫様に巻き込まれたんだろう。二人が歩いてくるとリリーの歩き方がブリキの人形のようになっていた。この緊張っぷりに周囲から微笑が出るとリリーは左右を見てから、顔を真っ赤にした。
そしてなんとか俺のところまで来た。
「私の事は深く聞かないでくれると助かる」
「わかってますよ。ありがとうございます。サラ姫様」
「あぁ。彼女と幸せにな」
「はい。さ、リリー」
俺はリリーに手を差し出す。
「う、うん…」
俺とリリーは手を繋いでカインさんの前まで歩く。ここで普通に歩いているからやはり緊張からさっきのようになっていたようだ。俺とリリーがたどり着くとカインさんが宣言する。
「これより獣魔ギルドの『結婚の儀』を執り行う!」
最初にカインさんが俺に聞いてくる。
「新郎、召喚師タクトよ。貴方はリリーと結婚し、夫婦となろうとしております。貴方は、健康な時もそうでない時も、この人を愛し、この人を敬い、この人を慰め、この人を助け、その命の限り共に歩む事を誓いますか?」
「はい。誓います」
微妙に違う気がするな。俺が気になったところは節操の誓いを削除されたところだ。まぁ、重婚を認めているから節操の誓いはない方がいいんだろう。次にカインさんがリリーに聞いてくる。
「新婦、リリー。貴女はこの男性と結婚し、夫婦となろうとしております。貴女は、健康な時もそうでない時も、この人を愛し、この人を敬い、この人を慰め、この人を助け、その命の限り共に歩む事を誓いますか?」
「ち、誓います!」
元気一杯に答えたな。
「ここに誓約は結ばれました。それでは指輪を交換してください」
二人同時に指輪を取り出す。
『俺からだぞ? リリー』
『わわ!? そうだった!』
リリーが慌てて、指輪としまうと結婚式を見ているイオンたちが吹き出す。
「む!」
『こらこら。指輪の交換の最中だぞ』
リリーは気を取り直して、手を差し出すと俺はリリーのウェルシュマリッジリングを薬指につける。
「わぁ~」
リリーが指輪をうっとりしているとカインさんが咳払いをする。
「次は新婦から指輪の交換をしてください」
「そ、そうだった! あ」
完全に口に出してしまった。これを聞いたイオンたちが笑いを我慢出来ていない。
「っ~!」
「ほら、リリー」
頬を膨らませているリリーに俺が手を差し出したことでリリーは指輪を取り出し、俺の指に入れてくれた。
「最後にお互いの指輪に誓いの口づけを」
キスは出来ないからこうなるんだな。俺はリリーの指輪に口付けをするとリリーが俺の指輪に口付けをしてくれた。
「獣魔ギルドのギルドマスター、カインがここに二人にマリッジが結ばれた事を宣言する!」
カインさんがそう言うとみんなからの拍手と共にインフォが来る。
『リリーとマリッジが結ばれました』
『称号『マリッジの先駆者』を獲得しました』
『ウェルシュマリッジリングの効果により、リリーとのマリッジバーストが強化されます』
称号『マリッジの先駆者』
効果:スキルポイント+20
全プレイヤーの中で最初にマリッジを結んだ者に与えられる称号。
称号までもらえるんだ。これで俺の残りスキルポイントは103ptとなった。減っては増えるを繰り返しているな。
それにウェルシュマリッジリングの特典にはマリッジバーストの強化もあるんだな。これは頑張った甲斐があった。
「これで結婚の儀を終える。二人共、おめでとう」
「ありがとうございます」
「タクト、タクト」
「なんだ? リリー? おっと」
リリーが抱きついてきた。
「えへへ~。だーい好きだよ! タクト!」
俺はこの時のリリーの笑顔を生涯忘れることはないだろう。
結婚式を終えた俺は一度着替える。イオンとの結婚式は夜に予約した。それまでずっと白いタキシード姿なのはごめんだ。
リリーがウェディングドレスを持ってきて預かる。ルインさんから俺とリリー、イオンの結婚記念パーティーを俺たちの最初の店であるリープリッヒで行う案内がメールで来ていた。そこで改めて二人のウェディングドレス姿を公開して欲しいとのこと。ウェディングドレスを作ってもらったし、リリーたちも見せる気満々だから許可した。
みんなと合流するとここでリリーが早速弄られて、怒っている。
「リリーは面白かったけど、タクトは慣れている感じがしたよね?」
「それは私も思いました」
「あら? そう感じたかしら? あたしはタクトがリリーに見とれていたのを見逃さなかったわよ」
「え! そうなの? タクト?」
ファリーダめ。余計なことを。
「そうだったか? 緊張していたから覚えてないな」
「「「「照れ隠し?」」」」
ダメだ。勝ち目がない。
「はいはい。もういいだろう。今日の予定の話をするぞ」
「「「「はーい!」」」」
全員がにやついている。俺はそのまま話を続けることにした。
「これからは恋火たちのクエストの続きをしようと思う」
「「はい!」」
「出来れば今日中に終わらせたいところだけど、昼からクロウさんからの依頼を受けている。どの位時間がかかるか分からないけど、この依頼を出来れば、四回受けたい」
これにはみんなが驚く。
「お、多いですね。報酬はなんなんですか?」
「緋緋色金に使うハンマーだ。ユウェルとへーパイストス、パンドラに上げたいと思っている」
「内緒のプレゼントなんだぞ!」
俺は小声で話したけど、それをユウェルが台無しにした。ユウェルを丸くさせて、小声で再開する。
「なるほど。それなら確かに頑張らないといけませんね」
「我々の武器をいつも一生懸命作ってくださっていますからね」
「頑張ってプーーんん!?」
「「「「声が大きい!」」」」
全員でリリーの口を塞いだ。
「ただかなり難しい依頼だから日にちを分けるかも知れない。そうなると優先するのは恋火、和狐のクエストとコーラルの進化クエストを受けたい感じだな」
俺はアリナを見ると頷く。実は昨日、アリナから自分の進化クエストは後にして欲しいとお願いされたのだ。進化したくないのか心配したのだが、アリナなりに順番を意識してのお願いだった。
まずはみんなで聖域の島で生産作業をして、それから恋火たちのクエストに向かうことにした。




