#890 アリナの告白と結婚前夜
仙術Lv30で覚えるのが間違っていました。正しくは仙郷移動です。
俺たちを待っていたのは生産職で早速素材を売り、依頼をする。リリーたちは全員ミュウさんに拉致られた。リリーたちが目を輝かせていたので、問題はないだろう。ギルドクエストの報告をするとサバ缶さんからお願いされた。
「魔神核デモンスフィアが欲しいですか?」
「はい。このアイテムの使い道をずっと議論していたのですが、やはり神に対抗するための兵器素材という結論に至りました」
「つまりサバ缶さんたちは神様と戦う時が来ると思っているわけですね?」
「はい。既に神殿クエストなどで示唆されてますし、バアルやダゴンなども既に神様とは戦っています。今後運営イベントやワールドクエストで神様が関わってくることがあると思いますので、備えるために使わせてくれませんか?」
確かに強い敵も増えてきているし、神様が必ずしも人間の味方とは限らないことは各神話からも明らかだ。俺もファリーダと約束した手前、ラーに勝つ方法を探らないといけないからここは決断するところだな。
「分かりました。これはサバ缶さんたちに託そうと思うけど、みんないいか?」
「「「「異議なし」」」」
「では、ロボの主砲素材に」
「「「「それは却下」」」」
サバ缶さんはブレないな。まぁ、主砲にするためにもまずはタスラムのような大砲を作らなければならないだろう。ここで呼び出したへーパイストスとパンドラが到着した。みんなが知りたいダマスカス鋼について、聞くためだ。
「この金属はミスリルと真逆のような金属ですね。固くて、魔力を感じない。合金を作るとこの金属の良さが全て崩れてしまうので、魔獣の素材と合わせるしかないと思います」
「やっぱりそうか…となると爪か牙が必要か」
「イベントで出たのだとエリュマントスの牙だね。もしかして角も出来るのかな?」
「出来ますよ」
出来るんだ。ただ回転角などの能力は失われるので、そこは考えないといけないらしい。覚えておこう。次に射出装置について、聞いてみた。
「それは面白いですね。作れるかは分かりませんが、作ってはみたいです」
手ごたえありか。でも今は無理。しっかり覚えておかないとな。
「それじゃあ、今日はもうタクト君は帰っていいわよ?」
「へ? なんで?」
メルが理由を教えてくれる。
「忘れっちゃっているね…今日は結婚前夜でしょ? リリーちゃんたちと一緒にいないとダメだよ?」
あぁ…そういうことか。ということはミュウさんにリリーたちが連れて行かれたのはウェディングドレスの試着が目的だな。リリーたちの様子から見て、間違いないだろうな。
「わかった。それじゃあ、先に帰らせて貰います」
「「「「お疲れ様~」」」」
俺はナオさんから預けていたアリナの指輪を受け取り、ミュウさんから天の衣を購入した。そしてリリーたちが戻って来るまで素材のことを考える。
「魔導書の素材候補はカリュドーンの毛皮、リュカーオーンの毛皮、ネメアの毛皮、キマイラの毛皮、星海蛇の鱗、魔獣母の鱗だな」
こうなるとリュカーオーンの毛皮と魔獣母の鱗が飛び抜けているだろうな。ただ俺に向いているのはネメアの毛皮だと思う。
「ま、ここはリュカーオーンの毛皮と魔獣母の鱗でとりあえず作ってみるか」
「「「「何を~?」」」」
「魔導書。って帰ってきてたのか」
ここで一緒に帰ってきたミュウさんに魔導書用の革を依頼し、和狐とユウェルにはダーレーのために交換したダマスカス鋼のバーディングの改造を依頼した。するとここでアリナがみんなにお願いする。
「アリナとお兄様でお話があるからみんなは先に帰ってて欲しいの」
「話ですか?」
「俺は何も聞いていないが?」
「アリナが二人きりで話したいことだから当然なの」
アリナがそこまで言うことは珍しい。
「あぁ…そういうことね。それじゃあ、ボクらはお邪魔虫だから帰ろっか」
「そうね。ほら、帰るわよ。リリー、イオン」
「えぇ!? 引っ張らいで~。ファリーダちゃん」
「二人きりの話を許可するわけにはいきません! 私だって、二人きりでたくさん話したいのに!」
イオンは自分の欲望がダダ漏れだな。
「流石リビナお姉様とファリーダお姉様は感が鋭いの。それにひきかえお兄様は…はぁ、お兄様ここの部屋でお話させて欲しいの」
「ん? あぁ、いいぞ」
ギルドマスターの部屋に入るとアリナが言ってくる。
「お兄様、アリナに完成したばかりのエンゲージリングを今日ここで渡して欲しいの」
「ちょっと待て。さっき貰ったばかりだぞ」
「それぐらいアリナには分かるの」
風竜の聴力すげー。つまりリビナとファリーダはアリナの告白を察して、二人きりにさせてくれたのか。
「正直自分から言うのはどうかと悩んだの。でも明日はリリーお姉様たちの結婚式で貰うなら今しかない! そう思ったの」
確かに二人と結婚した後に指輪を贈るのは変か。無いなら仕方がないけど、貰えるなら結婚式前に貰いたいと考えるのは普通かも知れない。結婚前夜に指輪を渡す俺からすると微妙だけど、ここはアリナの考えを尊重しよう。
「わかった。俺は指輪を依頼した段階で自分の気持ちを決めているけど、アリナはどう思っているんだ? 正直な気持ちを聞かせてくれ」
「正直お兄様との時間も浅いし、エンゲージを今の段階で結ぶことに不安を感じているの。これでも自分の弱さとみんなとの違いはわかっているから、アリナはお兄様との相手として相応しくないんじゃないかって」
まぁ、アリナならそう感じて当然かも知れない。
「そっか。まず一つ訂正して置くと俺は強いからエンゲージリングを贈っているわけじゃない」
「好きだから贈っているなの」
「言おうとしている言葉を取るなよ」
「ごめんなさいなの」
俺は続ける。
「後、みんなと違っているのは当然だし、俺はそこがアリナの魅力だと思っているし、アリナの強さの一つだとも思っている」
「アリナはいつも逃げ出したいと思っているのに?」
「あぁ。アリナもエステルの戦いで俺たちが逃げ出したのを見ただろう?」
アリナは頷く。
「戦っているとな。どうしても逃げなければならない場面が出てくる。そこで逃げを選択しない者は失敗してしまうんだ」
これは歴史が証明している。
「リリーたちはどんな敵にも挑む勇気を持っている。でも、それは危険と隣り合わせなんだ。いつもは俺が判断しているけど、アリナには逃げ出す勇気を持って欲しいと思っている」
「逃げ出す勇気…」
「難しいだろう?」
「自信がないの…」
アリナはきっと敵に突撃ばかりするみんなを一生懸命止める姿を想像したに違いない。でも、俺はアリナになら、任せられると思っている。
「アリナは風を操るんだから強制的にリリーたちを止めれるはずさ。それに後衛で全体を見ることができて、戦闘に熱くなることもない。音で敵の情報を集めることで逃げるべきか攻めるべきか判断をする指揮官や軍師のような立ち位置だけど、リリーたちにはないアリナの強さを極めればいいと思う。協力はするからさ」
「そう言われるとやってみるとしか言えないの」
不貞腐れるアリナの頭を撫でる。
「不安はどうだ?」
「正直微妙なの…でも覚悟は決まったの! まだまだ未熟なアリナだけど、エンゲージを結んで貰えますか? なの」
「もちろん。まだ時間が少なくて好きと言うのは相応しくないのかも知れない。それでもこれが俺の今の気持ちだ。受け取ってくれ。アリナ」
「はいなの」
俺がアリナの指にエンゲージリングを付けるとインフォが来る。
『アリナとエンゲージが結ばれました』
指輪を握り締めたアリナが宣言する。
「お兄様からマリッジリングを貰うときには絶対に愛しているって言わせて見せるから、覚悟しておくの! お兄様!」
家に帰るとアリナはリリーたちから追求されると指輪を見せた。
「なーんだ。そういうことだったんだね」
「それならそうと言ってくれれば良かったじゃないですか」
「アリナはそんなことを言いたくない恥じらいがある女の子なの」
「まるで私たちが恥じらいがないように言ってくれますね」
イオンが立ち上がるとアリナが言う。
「すぐ熱くなるところはイオンお姉様の悪いところなの。だからアリナにお兄様の副官を取られることになるの」
「え…今、なんと言いましたか?」
「アリナが~。お兄様の~。副官なの~」
「ど、どういうことですか! タクトさん! ちゃんと説明してください」
「いいぞ」
俺の全ての指摘を受けて、イオンは何も言い返すことが出来なかった。
「わ、分かりました。全体的な副官はアリナに譲ります。で、す、が! タクトさんの生活面でのフォローは私がします! これだけは譲れません!」
「イオンお姉様、必死なの」
「い、い、で、す、ね?」
「はーいなの」
これで話は纏まった。俺は伊雪にルーナたちの着物を注文して、今日はここで寝ることにした。結婚前夜だからリリーとイオンを自室に呼ぶ。
「明日タクトと結婚するんだね!」
「き、緊張しますね…」
「そうなの?」
「私は今、リリーがとても羨ましいと初めて思いました」
これはイオンの反応のほうが正しいんだろうな。結婚前夜というのは緊張するものだろう。するとリリーが聞いてくる。
「ねぇ? タクト。リリーたちが結婚するとどうなるの?」
「まぁ、今より強くなることだけは確かだな。他のことは俺もよく知らない」
「そうなんだ。さっきの人みたいに子供が出来たらいいな~」
「そうだ…な!?」
今、リリーは子供が欲しいと言ったのか!?これにはイオンも慌てる。
「何を言い出すんですか! リリー! そんな…タクトさんとの子供なんて…」
イオンが顔を真っ赤にして、布団に沈んでいった。
「変かな? タクト?」
「変…じゃないのかも知れないが変なのかも知れないな」
曖昧な言葉で躱しにかかる。
「あはは! 何を言っているのかわからないよ! タクト! タクトの子供が欲しいな。リリーの尻尾から生まれるのかな?」
エキドナ・リバースはリリーに変な知識を与えてしまったようだ。
「…リリーの言葉をまともに受け取った私が馬鹿でした」
「だな」
そもそもこのゲームではそういうのは禁止されているから不可能だ。これは結婚しても変わることがない。
「え? どうしたの? 二人」
「なんでもない。明日は結婚式なんだから、もう寝るぞ」
「「はーい」」
二人が俺の手を握ってくる。
「「あ、明日結婚するから」」
「このまま寝るか。おやすみ。リリー、イオン」
「おやすみ。タクト」
「おやすみなさい。タクトさん」
これが俺たちの衝撃の結婚前夜だった。そしていよいよ俺は人生初の結婚式に挑む日がやって来る。




