#887 邪悪な狼王
俺がランナウェイ・マンモスに向かっているといきなり突如ランナウェイ・マンモスがいるところが樹海に包まれ、ランナウェイ・マンモスたちの暴走を樹木が阻もうとする。ミールの樹海操作だ。
しかしこれではランナウェイ・マンモスの大群は止められない。樹木をなぎ倒して突進してくる。
「乱暴な象さんたちですね…ユウェルさん! 白夜さん!」
「任せろ! やるぞ! 白夜! 大地操作!」
「ガァアア!」
二人の大地操作でランナウェイ・マンモスたちがみんな仲良く落とし穴に落ちた。これは向かうまでも無かったかな?
「今だ! ダイナマイトを投げまくれ!」
みんながせっせとダイナマイトを投げ込んでいると落とし穴から象牙ミサイルがたくさん飛んできた。
これを虎徹が斬り裂き、残した象牙はリリーたちが潰した。そして落とし穴では大爆発が起きて、ランナウェイ・マンモスを倒したと思ったら、新たな敵が森から現れる。早く原因とやらを取り除かないとキリがない。
キングコング・レブル?
? ? ?
チャンピオン・コアラ?
? ? ?
現れたのは、モヒカンヘアーに釘バットを装備したキングコングと何故かアフロにチャンピオンベルトをつけているボクサー装備のコアラ。運営はオーストラリアにボクサーのイメージでもあるのか?これを見た俺は止まった。
「…解体するか。溜まっているし」
完全に逃げた。キングコングもボクサーも苦手なんだよ。ここはみんなに任せよう。前線にいるみんなも固まってしまった。するとキングコング・レブルたちは何故かヘアースタイルを整えて、メルたちやリリーたちを見る。
「「「「ウホ!」」」」
満面の笑顔を見せた。
「「「「嫌ぁあああ!? って動けない!?」」」」
どうやら煽動が発動しているようだ。それはどうやらチャンピオン・コアラも同様でどうやら女性はキングコング・レブル。男性はチャンピオン・コアラに煽動を受けているようだ。
ここでメルたちからの要請があったのかレッカたちの上級魔法が発動する。
「「「「ウホ! ウホ! ウホ!」」」」
「「「「…」」」」
キングコング・レブルたちは上級魔法を浴びながら踊り、チャンピオン・コアラは無言で男性プレイヤーたちに接近する。
どうやら彼らに魔法は効かないらしい。更に遠距離攻撃も受け付けなかった。接近戦で勝てと言いたいわけだな。
『『『『ごめんなさい!』』』』
『『『『諦めないで!』』』』
無茶な事を言っているな。
『そうだ! タクト君はどこ!』
『タクトなら解体しているね』
レッカめ。余計な事を言いやがって。
『今、すること!? キングコングたちを倒して!』
『猿恐怖症なんだよ』
『『『『それはこっちのセリフ!』』』』
女性プレイヤーから総ツッコミだ。すると召喚獣たちが次々ぶっ飛んできて、召喚石に戻る。なんだ?
「「「「ウィーアー! チャンピオン!」」」」
コアラが喋っている。というかみんなチャンピオン・コアラにやられたのか?するとチャンピオン・コアラたちは地面に向けてラッシュする。ボコボコに殴られたグレイたちが飛んできたが流石に耐えたけど、今のグレイたちをここまで苦しめるかよ。
『タクト~! 助けて~!』
『怖いです! タクトお兄ちゃん!』
『なんでボクだけコアラに狙われるさ! しかもこいつら、魅了が効かなくてなんか怖い!』
リビナが封じられているのか…これは厳しいが猿の天敵は今やリビナだけではない。奴らの前に立ち塞がったのはノワだ。
「…堕落」
「「「「ウホ!?」」」」
全員が力なく地面に倒れこみ、ノワ必殺の吸収コンボに加えて、黒死病、死の宣告まで追加して、キングコング・レブルを倒していく。しかしノワの力は範囲が限定されている。森から飛んでいきキングコング・レブルには斥力操作でなんとかできるが次々飛び掛かられると詰む。
『…にぃ、そろそろ限界』
「はぁ…気乗りしないが行くか。ロコモコ、みんなの回復を頼む!」
「メ~!」
ロコモコが聖療を使い、みんなを回復させる。そして俺はキングコング・レブルに向かう。するとチャンピオン・コアラたちが一斉にファイティングポーズで煽動を発動するがダーレーは無視する。これが無我の効果だ。
そして俺たちの接近に気がついたキングコング・レブルたちは一斉に炎ブレスを放つ。俺たちはその中を進み、ダーレーの竜角がキングコング・レブルに突き刺さる。
「居合い斬り!」
近衛が居合い斬りが放たれると大きなキングコング・レブルの体が横に切断された。
「「「「ウ…ウホー!」」」」
怒ったキングコング・レブルたちが一斉に釘バットを振りかぶってきた。
「雷光刃!」
雷光刃を振るうと全ての釘バットが綺麗に焼き切れた。
「「「「ウ…ウホ?」」」」
キングコングたちは何が起きたのか理解出来ていないようだ。俺は近衛を鞘に納める。
「飛梅!」
近くにいたキングコング・レブルたちは仲良く胴体が上と下に分かれてしまい、雷轟と紅炎の追撃で倒される。
「タクト…強い。あ、タクト! 危ない!」
無視されたチャンピオン・コアラが襲いかかってきた。そしてみんなを苦しめたパンチのラッシュが放たれる。俺たちはノーガードでこれを受ける。するとダメージは入るが大したダメージは発生していない。
それもそのはず。衝撃吸収があるアリエスの魔法ローブに打撃は通じない。それを見たチャンピオン・コアラたちは顔を見合わせるするとクローブが燃え、再び袋叩きにしてくる。しかし炎も俺には通じない。
「気が済んだか?」
「「「「ウィーアー! チャンピオン!」」」」
そう言いながら踏みつけてきた。ダーレーがチャンピオン・コアラたちの胸元のところまで飛び上がる。
「飛梅!」
俺は近衛を鞘に納める。
「お前らも蹴りを使ったんだ。文句はないよな?」
俺たちを囲っていたチャンピオン・コアラたちは横に両断され、追撃の雷轟と紅炎で倒れる。
「残りの奴らも相手をしてやる。斬られたい奴からかかってこい」
完全にビビって、近づいて来ない。するとチャンピオン・コアラたちは遠距離でラッシュする。するとパンチの気弾が飛ばしてきた。キングコング・レブルたちは地面に手を突っ込むと岩を持ち上げ、投げて来る。
『なんだよ…完全にビビってやがるな』
「そう言ってやるなよ。来たくないならこちらから行ってやろう」
『面倒臭いがそれしかねーか! 行くぜ!』
面倒臭いとか言っている割にノリノリなんだよな。俺もそうだけどね。俺とダーレーがこいつらを仕留める間に別の敵が空から現れていた。
ケラムボス・ヒーロー?
? ? ?
一瞬ゴキブリから思ったけど、カブトムシ男だった。遠目じゃ、わからん。これにみんなが襲われていた。地味に強そうだけど、ただこいつらは人間サイズだ。みんななら問題はないだろう。
「ホー…」
コノハが凍らせたケラムボス・ヒーローの角に留まっていた。よく見ると氷河爪を使った状態で死の宣告が発動するまで待っているようだ。
そしてこいつに強かったのがなんとロコモコ。ケラムボス・ヒーローがどれだけ攻撃してもロコモコのモフモフボディに攻撃が阻まれて、ロコモコの万雷を受けて墜落した。ヒーローが羊に負ける瞬間を見てしまった。
他に強いのがハーベラス。大きい敵には強いケラムボス・ヒーローだが、冥府神の加護に対する能力を持っていないために詰んでいるようだ。
その後、レッカやセチアたちによる魔法攻撃が放たれ、ケラムボス・ヒーローは次々落下した。ヒーローなのに魔法に弱いんだ。そう思っているといきなり全身を燃やして特攻してきた。
「「「「シャー!」」」」
ディアンなどの蛇部隊がブレスによる迎撃をしたがブレスを貫き、ディアンの首もぶっ飛ばしてきた。あれは突進されるとまずいと思っているとユウェルとミールたちが立ち塞がった。
「金属壁!」
「樹海操作!」
「鋼索!」
突進中のケラムボス・ヒーローの足に樹木やワイヤーが縛るとそのまま地面に叩きつけられ、ルミなどが仕込んだ罠が起爆。その後、ユウェルの金属壁に頭から叩きつけれた。
その結果、壁から抜けなくなったヒーローがたくさん出現することになった。一生懸命抜け出そうとしているが頭が抜けない。
『アーレイみたいな奴だな』
『わざわざ通信で言うことか! タクト!』
『あんたも自分の分身を攻撃しながらいう事じゃないわよ』
『だからこいつと一緒にするな!』
因みに彼らの下半身は復活したディアンたちに思いっきり嚙まれていたりする。蛇たちを怒らすと怖いね。彼らをこんな風にした張本人たちは知らんぷりをしている。どうやらカブトムシ男とは関わり合いたくないらしい。ここでダーレーが森を警戒する。
『強いのが来るぜ。タクト』
「分かっている」
俺たちの前に巨大な人狼が姿を見せた。
リュカーオーン?
? ? ?
リュカーオーンはギリシャ神話に登場する邪悪な人物でゼウスがその凶悪性から狼に変えたとされている。またアルカディアに地上で最初の都市を作り、王に君臨したこととも言われている。
そのせいかご立派な王冠に宝石が散りばめられた大剣と鎧を装備している。どれか欲しいな。
「ワオーン!」
リュカーオーンが謎の雄叫びを上げる。ダメージはない。すると俺たちの後ろでウルフ系の召喚獣たちがプレイヤーたちに攻撃をしだす。こいつ、ウルフ系の召喚獣を操るのか!ということはやばい!
「グレイ! 優牙!」
「ワオーン!」
グレイが叫ぶとウルフたちは攻撃をやめた。どうやらグレイと優牙には効果が無かったようだ。そしてグレイが群狼の効果でみんなに神の加護を与えることでリュカーオーンの効果を打ち消したようだな。俺が安心しているとグレイと優牙が俺の隣に来ると唸り声を上げる。敵意がバリバリだ。
「ワオーン!」
「「ワオーン!」」
リュカーオーンが再び叫ぶとリュカーオーンの影が伸び、そこから武装した人間サイズの人狼たちが姿を見せた。
リュカントロポス?
? ? ?
現れたリュカントロポスは剣や槍、斧を構える。これに対してグレイも幻狼と群狼を使い、優牙も雪分身を使った。そして二人が俺を見てくる。狼の不始末は狼で決着を付けると言いたげた。
「こいつの相手は二人に任せる」
「「ガウ!」」
いい顔だ。
『俺は森へ向かう! ここは任せるぞ!』
『私たちも一緒に向かいます!』
『チロルたちは空の守りを頼む』
『了解!』
『あ…わ、私も一緒に行く!』
アルさんとタクマ、雷電さんたち、単独で空が飛べるシフォンが俺と森へ向かう。セチアと恋火、和狐、ユウェル、燎刃、虎徹、チェス、黒鉄、アラネア、ぷよ助、伊雪、ミール、ディアン、月輝夜、千影、ハーベラス、リオーネ、ルミ、夕凪を残して俺たちは森へ向かった。
そしてその場に残ったみんながリュカーオーンとリュカントロポスと戦闘が始まった。最初はグレイと優牙の幻狼と群狼、雪分身がリュカントロポスとぶつかる。
お互いに引かないが攻撃を受けると消えてしまうのが幻狼と雪分身であるため、ここの軍配はリュカントロポスに上がる。しかしリュカントロポスたちの前に恋火たちが立ち塞がる。
「この人たちの相手はあたしたちがします!」
「グレイと優牙があいつの相手を任されたならこいつらの相手はわたしたちだ!」
「タクト殿の火のドラゴニュート、燎刃がお相手いたす」
「燎刃、気合十分でありますね。あたしも負けていられません! 鞍馬天狗の千影、参る!」
恋火、ユウェル、燎刃、虎徹、チェス、伊雪、千影、ハーベラスがリュカントロポスとメルたちが挑む。
他のみんなが倒している中、燎刃も活躍していた。筋力で負けない燎刃はリュカントロポスの武器を弾くと迅雷による素早い斬撃で斬り裂いている。更に弾けない場合には炎拳で殴り、リュカントロポスの攻撃を誘った。
「焔斬り!」
見事な返し技で斬り裂いた。しかしそこに他のリュカントロポスたちが襲い掛かって来た。しかしリュカントロポスたちの攻撃は燎刃の赤竜の甲冑によって、止められた。
「はぁ! やぁ!」
燎刃は強引に武器を弾き、体を回転させながら迅雷を振るうことで襲ってきていたリュカントロポスたちを倒した。
グレイと優牙の二人もリュカーオーンとの戦いが始まった。最初はグレイの空間跳躍からの奇襲でリュカーオーンに神風爪で襲いかかった。これをリュカーオーンは大剣でガードする。すると背後から優牙が氷河爪で襲いかかる。
リュカーオーンに突き刺さった氷河爪のところから本来なら凍り付くのだが、氷結が発動しない。リュカーオーンには寒無効があるらしい。
ダメージが入ったことでリュカーオーンに肉体活性と戦闘高揚が発動する。更にこの強化がリュカントロポスたちにも適応された。リュカーオーンは狼の王だから当然の効果だろう。
リュカーオーンはグレイの爪を弾くとカラミティカリバーでグレイを吹っ飛ばすと優牙を掴み、爪を引き抜くと地面に叩きつけ、蹴り飛ばすと優牙に暗黒ブレスを放った。
これを見た恋火たちは助けに行きたいが強化されたリュカントロポスに苦戦している。
「こいつら普通に強いぞ!」
「みんな助け合うことを忘れないで! 戦っている最中でも平気で攻撃してくる!」
「お互いに連携して倒さないときりがない! 攻撃を躱したところを狙ってくれ!」
リュカントロポスはとにかく足が早く、攻撃を躱すのがとにかく上手かった。鉄心さんの斬撃を仰向けで躱すなど今までの敵とまた一段強くなった印象をみんなに与えた。
最初のため、全員が対応出来ずリュカントロポスは後衛に襲いかかろうとしていた。後衛は現在、俺たちが出会ったラスボスへの支援攻撃で手一杯だ。
「ここでこいつらを止めるぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
意気込む満月さんたちだが、満月さんたちの強制をリュカントロポスたちは無視し、飛び超える。
「撃て!」
「「「「シャー!」」」」
ヒュドラや蛇たちが一斉にブレスを放つが、これも空脚で回避してしまう。月輝夜と夕凪が攻撃するが大きな攻撃を食らう敵ではなく、セチアたち後衛に襲いかかろうとした瞬間、見えない糸に全員捕まった。アラネアだ。
「残念でしたね。私の糸にはこういう糸もあるんですよ。人狼さん」
「「「「ワ」」」」
「おっと。怖いお口は開けようとするなんていけない狼さんですね」
「「「「…」」」」
手足口まで超鋼線で縛られたら、もうリュカントロポスたちに攻撃手段はない。
「覚悟はいいですね?」
アラネアが手を自分に強く引き寄せると捕まったリュカントロポスたちがバラバラになった。
それを見たまだ捕まっていないリュカントロポスたちはアラネアの糸とルミたちとトリスタンさんたちが仕掛けたトラップを避ける道を選択する。わざわざそこだけトラップがないなどありえない。
リュカントロポスたちはミールが仕掛けた寄生種を踏んでしまい、次々木に囚われる。寄生種と呪木を破る力はリュカントロポスたちにはなくトリスタンさんたちに倒された。
それを確認したグレイと戦っているリュカーオーンは再び同じ数のリュカントロポスたちを呼び出す。
「おいおい…無限に敵を出すパターンかよ」
「みんな! リュカーオーンに集中攻撃! 急がないと沢山の敵が…あ」
森から無数の魔獣の群れがメルたちに向かって来ているのを確認して、クエストの失敗が頭を過ぎる。そんな中、この機会を狙っていた優牙を切り札を発動する。
月の魔法陣が夜空に描かれ、宇宙魔法スーパームーンが発動する。その光景にプレイヤーたちは絶句することになる。
リュカーオーンやリュカントロポスたち、向かってきている魔獣たち、更には森の木や岩まで宙に浮き、固定される。空脚や翼を持った魔獣であっても動くことは叶わない。その圧倒的な光景はSF映画のワンシーンの彷彿とさせる。
宇宙魔法スーパームーンは月の引力に関連する魔法だ。月の引力が大きくなることで地上に存在するあらゆるものが月に吸い寄せられる。もちろん現実のスーパームーンでこんなことが起きることはない。
この魔法を破るためには魔法自体の破壊か引力に対抗するしかない。幸いこの魔法は体を動かすことは出来る上にスキルを封じる効果はないからやりようはいくらでもある。そしてリュカーオーンはすぐさま大剣を振りかぶり、魔法の破壊に動いた。
「ガァ!」
「グ!? グゥウウ!」
確かにやりようはいくらでもあるけど、それは妨害を受けない前提だ。グレイはリュカーオーンの尻に神風爪で攻撃すると上から見下ろす。それを見たリュカーオーンは唸り声を上げて、怒りを現わにする。
これはグレイからの俺の方が上だ宣言だから王としては怒って当然だった。しかしグレイはただそんなことをする奴ではない。しっかり確信を持った上でする奴だ。
「「ワオーン!」」
グレイが幻狼と郡狼を使用し、周囲に浮かんでいる岩や木、魔物の背中に現れる。更に優牙が月食を発動し、月の引力に捕まっている者たち全てを暴走状態にする。これによりまともな判断とスキルでの防御が封じられた。
リュカーオーンは流石に暴走状態にはならなかったがそのせいで状況を理解した。位置を固定されている状況で四方八方上下からの攻撃に対処など出来るはずがない。
結果、リュカーオーンはグレイにボコボコにされると優牙が顔を噛み千切り、最後はグレイの神雷に焼かれ倒された。そして恋火たちとメルたちも動けない暴走状態の魔獣たちに襲い掛かるのだった。




