#875 竜の甲冑と豊穣龍王の試練
中間テストも後半に入った。ここで俺はピンチを迎えた。
「英語は苦手なんだよな」
単語は覚えることが出来るが、文章はどうしても苦手な俺である。
「そもそも俺たちは日本人で国語をしているのに、なんで英語を覚えないといけないんだよ」
こればっかりは海斗と同意見だ。すると副委員長に言われる。
「英語が世界共通語だからでしょ? ちゃんと覚えないと将来大変よ」
「「先生かよ」」
英語が得意な人間が言える言葉だと思った。ここで姫委員長が言う。
「数学も覚えないと将来大変だと思うよ?」
「う…数学はいいのよ。電卓があるから」
「それを言うなら英語には翻訳機があるぞ?」
俺たちが全ての勉強意味ないんじゃないかという結論を出したところで先生に怒られた。先生曰く、物事を知り、覚えることが重要なんだそうだ。この時の俺たちではまだその意味を理解することが残念ながら出来なかった。
スーパーで買い物を済ました俺はゲームにログインすると下には二つの甲冑が置かれていた。
「出来たぞ! タク! 名前をつけてくれ」
「勝敗も決めて! おじ様!」
「はいはい」
俺は名前を付けて、鑑定する。
赤竜の甲冑:レア度10 防具 品質S+
重さ:75 耐久値:2500 防御力:1500
効果:ドラゴンの防御力アップ(究)、物理耐性、魔法耐性、衝撃無効、妨害無効、寒無効、英気、星気、神気、烈日、後光、陽光、重圧、全滑走、黄金障壁、太陽の加護、神の加護
赤色が基準の甲冑で兜に神鹿の鹿角を使用している。甲冑の外側はドラゴンメタルとミスリルの合金で内側にはゴッドウールが使われている。ドラゴニュートに装備させることを意識して作られた甲冑。
緑竜の甲冑:レア度10 防具 品質S+
重さ:85 耐久値:2400 防御力:1500
効果:ドラゴンの防御力アップ(究)、物理耐性、魔法耐性、衝撃無効、妨害無効、寒無効、英気、星気、神気、烈日、後光、陽光、重圧、全滑走、黄金障壁、太陽の加護、神の加護
緑色が基準の甲冑で兜に神鹿の鹿角を使用している。甲冑の外側はドラゴンメタルとミスリルの合金で内側にはゴッドウールが使われている。ドラゴニュートに装備させることを意識して作られた甲冑。
鹿角が東洋のドラゴンの角のように見えたことから名付けた。
予想通りスキルがたくさんある。甲冑の合金だけ改善の余地がある感じだな。ほぼ変わらないけど、重さと耐久値に僅かな差があることから俺は勝敗を告げる。
「勝者、へーパイストスとパンドラ!」
「やったー!」
「負けた~!?」
パンドラは喜び、ユウェルは落ち込む。
「おめでとう。パンドラ。ユウェルも頑張ったな」
「「んん」」
二人とも撫でているとそれを見ていたリリーたちが話す。
「大変だよ。みんな…パンドラが」
「流石にへーパイストスさんが一番みたいなので、大丈夫とは思いますけど」
「…甘い。にぃはいつも予想を超えてくる」
「恐ろしいの」
一緒に頭を撫でたのは不公平だからだ。片方だけ撫でて悲しい思いをさせることを俺は良しとは思えない。
「それじゃあ、着てみるか」
「うん!」
ユウェルと燎刃が装備する。
「どうだ? タク? かっこいいか?」
「あぁ。よく似合っているぞ。二人とも。ん? 燎刃、どうした」
「いえ、その…少し重たくて」
「「「あぁ~」」」
燎刃は進化していないから確かに厳しいかも知れない。これで刀を装備すると完全に重量オーバーだからな。ということで燎刃は私服に着替えることになった。
そして俺はリリーに料理を教えつつ、お弁当を再び作り、それを持ったパンドラを安綱さんのところに送り届けた。
その後、聖域の島で生産活動をして、イクスの星で交換をする。改造したのはレーザーフライヤー。もう少しで改造が終わるし、イベント素材もみんなの素材が生産路線に乗っているぐらいだ。そろそろ新しいイクスの武器に動くとしよう。
そんなことを考えながらギルドに顔を出す。残念ながらクロウさんがおらず、サバ缶さんたちからバズーカの弾であるロケット弾をたくさん購入して、ユウェルに食べさせる。
「準備出来たぞ! タク!」
「あぁ…行くぞ。ユウェル」
俺はユウェルの試練を実行するとユウェルから発生した緑の光に包まれて、転移する。
俺たちが転移した先は白い冷気が漂う不気味なところだった。
「なんか怖いところだぞ…タク」
「あぁ…前回と真逆というか。今までと何かが違うな」
俺たちの疑問に暗闇から現れた命農龍王ライフドラゴンが答えてくれる。
『お前たちはまだ冥府には行っていないから当然だな』
え?ここが冥府、つまり地獄なのか?なんというかヘルズゲートを潜らずに来てしまって、申し訳ないな。
『その心配は不要だ。ここは我の眷属の住処だからな。さて、試練をする前にユウェルよ。お主に問う。お主はドラゴンとなるか?』
「私はドラゴニュートのままがいいぞ! タクのお嫁さんになりたいからな!」
『よかろう。ならばお主たちの決意と力を試させて貰うぞ。来るがいい! 冥地這竜クルよ!』
俺たちの地面が激しく振動すると地面から山が出現するとそれが砕けて、山の中から巨大な青い四足歩行のドラゴンが姿を見せた。
冥地這竜クル?
? ? ?
冗談きつすぎ。クルはシュメール神話に登場する怪物の名前だ。神々とは敵対関係にあり、冥界の河を見張っているとされている。怪物だからドラゴンと断言は出来ないけど、このゲームではドラゴンにしたんだな。
まぁ、ファフニールと戦ったんだ。今更引きはしない。完全に戦う気でいた俺だが、どうやら試練は戦うことではないらしい。
『このクルにダメージを与えることが試練じゃ』
「ダメージを与えるだけでいいんですか?」
『そうじゃ。どれだけ小さなダメージでもよい。それと直接攻撃しない限りは攻撃をすることがないから安心するといい』
簡単じゃんと思うが、余程防御に自信があるドラゴンと見える。
「どうするんだ? タク?」
「もちろんやるに決まっているだろう」
『では試練を始める!』
最初はユウェルがバズーカを取り出し、クルに向けて引き金を引く。さて、これを受けるとダメージが入るはずだ。障壁か結界で防ぐか?それとも別の方法で来るか…どう来る?
クルの目が光るとロケット弾が塵となる。
「今のはなんだ?」
「ロケット弾が砂になったぞ? タク」
次は俺が聖剣グラムを構える。
「聖剣解放! 聖剣技シュトルムヴォータン!」
聖剣グラムの必殺技を使うがクルの目が光るとシュトルムヴォータンが途中でマナに戻る。
「簡単には行かないよな」
「どうすんだ? タク」
「とにかく一通り試してみよう」
「わかった! いっくぞー!」
気合を入れたおれたちだが、結果は悲惨。魔法は魔方陣の段階で分解され、スキルも全てマナや塵になる。地割れや地脈操作は流石に無理だと思っていると同じスキルで相殺された。
「連射もダメ…酷いスキルだな」
ここで命農龍王様が説明する。
『ある程度、理解したな? これがこやつが持つ灰燼スキルじゃ。物は塵に塵はマナに帰り、魔力はマナに帰るものだ。冥府に潜るこやつは物の死を司るドラゴンと言って良い。この当たり前の自然の摂理を超えてみよ』
分解や消滅ではない。突破口に思えるのが足元。奴の下は完全に視覚だけど、直接攻撃をすると灰燼スキルが俺たちに飛んでくる。起死回生で蘇生した後にすぐさま攻撃も考えるがさせてくれるとは思えないな。
「物を塵に帰すスキル…」
ここで俺は周囲を確認する。
「ないな…時間が空きすぎたか。ユウェル! 大砲を使ってくれ!」
「わかった!」
大砲が大量の塵になり地面に降る。それを俺は確認して、攻略法を確信した。この灰燼スキルは物を塵に帰すスキル。塵になってもロケット砲の素材の火薬は灰燼スキルの対象から外れており、大砲は鉄粉となっていた。
「ユウェル、甲冑から私服に変えてくれ。ちょっとどうなるか分からないからな」
「わかったのぞ! タク!」
俺とユウェルがいつもの服装となる。塵にされるとせっかくの装備を失う事になるからだ。初期装備ならその心配はない。
「それじゃあ、エンゲージバーストを使うぞ」
「その言葉を待っていたぞ! タク!」
「「エンゲージバースト!」」
ユウェルと初めてのエンゲージとなる。ユウェルとのエンゲージは緑の竜騎士となる。背中には翼がない代わりに武器が装備される。しかし俺はこれらを仕舞う。どうなるかわからないからな。
俺はインベントリから石ころを取り出すと火のルーンを仕込む。これで準備完了。
『…タク? これは本気でやるのか?』
『あぁ…頼りにしているぞ。ユウェル』
『わ、わかった! ちょっと怖いけど、任せてくれ! タクとわたしのエンゲージバーストがどれだけ凄いか証明してみせるぞ!』
頼もしい限りだ。
「行くぞ! ユウェル!」
『うん!』
俺は転瞬でクルの真上に移動すると石ころを空に投げる。
『いけー!』
俺たちは大砲を撃つとクルは灰燼スキルで大砲の弾を次々塵にする。すると当然粉はクルに降り注ぐ。
俺たちは石ころを握るとその粉の雨の中に飛び込む。
「これだとまだ攻撃したことにはならないよな?」
『絶対防御!』
「(火のルーン!)」
俺たちの拳から火が出ると降り注ぐ火薬と鉄粉に引火し、大爆発する。
しかしクルは俺たちと同じ絶対防御でガードした。しかし爆炎の中で俺たちは間合いを詰めていた。
「竜穴!」
これでダメージが入った。
『そこまでじゃ。随分派手にしたが、試練クリアとする! クルよ。ご苦労じゃったな』
クルが地面に帰っていった。そして俺たちもエンゲージバーストを解除する。
『さて、ユウェルよ。見た通り、人も物ももちろんわしらもいつかは死に地面へと帰っていく。だが、お主たちが証明したようにこの死には意味が有る。地面へと帰った物は新たな命への糧となる。全ての命に意味が有るのじゃ。そのことを忘れないようにな?』
「わかったぞ! 命農龍王様」
命は循環するという考え方だな。
『ならばよい。では、進化をさせよう。地面に帰った物はわしらの力ともなる。全ての命への感謝と新たに作り出す命と共に未来を切り開くことを願う。今日からお主はドラゴニュート・メイカーじゃ』
ユウェルに緑の光りが集まり、進化をする。
『ユウェルがドラゴニュート・メイカーに進化しました』
『武装創造、万物破壊、他心通、天言、第六感、金属創造、神気、竜気、竜鱗装甲、反射装甲、宝石解放、罠設置、魔力吸収、地圧操作、引力操作、電磁操作、鉱石砲、石化光線、武装射出、土石流、石化の魔眼、流星群、遮断結界、多重結界、多重障壁、惑星魔法、復活を取得しました』
『惑星魔法【サターン】を取得しました』
名前 ユウェル ドラゴニュート・コアLv30→ドラゴニュート・メイカーLv1
生命力 226→276
魔力 174→224
筋力 346→406
防御力 442→502
俊敏性 134→164
器用値 170→220
スキル
鉄拳Lv9→鋼拳Lv9 万物武装Lv31 武装創造Lv1 採掘Lv14 鍛治Lv28
堅牢Lv28→堅固Lv28 強制Lv15→強行Lv15 竜角Lv16 万物破壊Lv1 激突Lv26→強激突Lv26
超感覚Lv27→神感覚Lv27 竜眼Lv25→天竜眼Lv25 他心通Lv1 天言Lv1 第六感Lv1
高速再生Lv25→瞬間再生Lv25 格納Lv12 金属創造Lv1 神気Lv1 練気Lv27→英気Lv27
竜気Lv1 荷重操作Lv28 竜鱗装甲Lv1 反射装甲Lv1 金属装甲Lv25→超装甲Lv25
金属壁Lv18 宝石投擲v3 宝石解放Lv1 罠設置Lv1 魔力吸収Lv1
地圧操作Lv1 重力操作Lv26 引力操作Lv1 電磁操作Lv1 鉱石砲Lv1
土魔法Lv17 土潜伏Lv18 集束Lv5→超集束Lv5 石波動Lv19 石化光線Lv1
武装射出Lv3 投擲操作Lv5→念動力Lv5 地脈操作Lv12→大地操作Lv12 地割れLv6 土石流Lv1
石化の魔眼Lv2 流星群Lv1 遮断結界Lv1 多重結界Lv1 多重障壁Lv1
絶対防御Lv7 逆鱗Lv3 惑星魔法Lv2 竜魔法Lv12 竜技Lv17
竜化Lv10 ドラゴンブレスLv17 起死回生Lv4 復活Lv1 星核竜の加護Lv14→創造竜の加護Lv14
進化したユウェルはリリーたちと同じくらいに成長した。そして第一声がこれ。
「胸が重いぞ~…タク」
「そうか…イオンには言わないようにな」
「うん? よくわからないがわかった!」
進化して見た目が変わってもユウェルはユウェルだな。
『これで武器などを作ることに置いて、一段上に上がることになる。後は経験とお主次第じゃ。いつかわしと戦う日を楽しみにしておるぞ』
命農龍王様がそう言うと俺たちは元の場所に転移した。
「…お帰り。ユウェルも胸が大きくなった」
「重いぞ。ノワ姉ちゃん」
「…わかる。結構大変」
ここにはイオンの姿が無かった。ノワに聞くと見たくないと言って、家の中にいるそうだ。こうなることを予知したみたいだな。さて、ユウェルの能力を確認をしよう。
最初から進化したユウェルの注目スキルである武装創造。これは自分が作った物を戦闘限定で作り出すスキル。錬金術の武器錬成と似ているが武器錬成は金属から武器を作り出す技で武装創造の対象は作った物という点が大きな違いとなる。
火縄銃を例に出すと武器錬成で火縄銃と似た物は作り出せるが火縄や火薬は作り出すことが出来ないため、使用することが出来ない。しかし武装創造は自分が火縄銃を作りさえすれば火縄や火薬もセットで作り出すことが出来る。ここが大きな違いとなる。
これでユウェルは無限の銃弾と大砲、武器を得ることになった。無限といったが、魔力を消費するので、限界はあるけど、十分ぶっ壊れスキルと言える。
次も注目スキルである金属創造。食べた金属を一日一個、作り出すスキル。これでユウェルは伝説の金属を遠慮なく食べることが出来るようになった。ヴェルンドの指輪は鉱石も対象だから僅かにヴェルンドの指輪のほうが使い勝手がいいけど、併用することが出来るから問題はない。
「それじゃあ、オリハルコンを食べるか?」
「もちろん食べるぞ!」
ユウェルが至福の表情でオリハルコンを食べると金属創造でオリハルコンが元に戻る。後はアダマント、緋緋色金などをあげていくとしよう。ウェルシュゴールドは気分的にヴェルンドの指輪で作り出すことにしよう。ユウェルが作ったウェルシュゴールドで結婚指輪を作るのはちょっとズレている気がするからな。
次は地圧操作。地面の圧力を敵にかけて押しつぶしてしまうスキル。逆に圧力を弱くすると地上を歩いている敵は地面に沈んでいく。足止めと地中にいる敵に有効なスキルだ。
次の土石流は地滑りなどと呼ばれる土砂災害だが、このゲームでは土砂の波を発生させるスキルだ。津波ほどの波はではないが火力では引けを取っていない。ユウェルにとっては避けられにくい数少ない全体攻撃技だ。
最後は創造竜の加護。鍛冶の速さを上げ、俺とユウェルに状態異常無効と衝撃無効、全耐性を付与する。これは嬉しい能力だ。
注目スキルはこんなところかな?ユウェルは完全に重装歩兵となった。こうなると必要なのが足のスピード。強激突で逃げは封じれるが攻撃をした後に逃げられるとどうしようもなくなる。ダーレーは嫌がるだろうし、グレイとコンビを組ませるといいかもしれない。甲冑と神狼で見た目もいいだろう。
ここでユウェルに注文するためにセチアの所に向かう。
「セチア、ちょっといいか?」
「ダ、ダメです! 待っていてください!」
バタバタ音がした音に部屋の扉が開く。
「どうかしましたか? タクト様」
「ユウェルと魔法槍を作って欲しいんだが、大丈夫か聞きに来たんだ」
「うーん…ちょっと厳しいと思います」
「だよな」
人間には前例があったけど、ドラゴニュートに魔法剣の技術を教えるのは初になるだろうからな。こうなるとユウェルに注文するのは属性石を使った武器となる。
「すみません」
「ん? 謝らくていいよ。ローブの作製、頑張ってな」
「はい! あ…」
今更隠しても和狐の手伝いをしていることから魔法のローブを作ろうとしていることはバレバレだ。
「アラネアには何を頼んだら、いいかな?」
「タクト様、私に旗を作らせてくれませんか?」
「旗?」
「はい。ジャンヌ様が持っていたような旗を作りたいと思います」
お!あれを作れるのか!これを聞いていたブランが反応する。
「あ、あれなら装備してみたいです! 主!」
「それならお願いしようかな? あ、デザインはどうしようか?」
「私たちの紋章でいいのではないですか?」
「あのデザインは随分前のものだからな。せっかくだから今の仲間も加えたデザインにしたいな」
これにはみんなが賛成し、デザインを考える。今回は旗なので、表と裏別のデザインが書ける。ということで表が亜人と妖精勢、裏が獣勢に分かたデザインを考えることになった。
「これがタクトだよね?」
「六方向はドラゴンでいいですか?」
「はい。私とミールは盾に巻きつく草と木で」
「あたしたちはどうしますか? お姉ちゃん」
みんな楽しそうに考えているからここは任せて、俺はクロウさんがいないか確認するとどうやらいないため、ここでログアウトすることにした。




