#874 ユウェルの告白と毒竜宿りし蒼き刀
昨日と同じ時間にログインする。今日はユウェルの告白を予定しているがその前に俺は昨日手に入れたスカラベ石をルインさんたちに相談するためにギルドに向かった。
このスカラベ石はナオさんがお店で売ることを拒否し、他の細工師たちも拒否したことでルインさんが売ることになった。
「サンドウォール砂漠の王族や貴族なら買うでしょ」
そこを狙うのは流石だと思った。お金は受け取り、話はギルドの現状についてとなる。
「鉄心さんもクラスチェンジが出来ないですか!?」
「鉄心の試練の相手が師匠に選んだ上杉謙信でいいところまで行くんだけど、上杉謙信が毘沙門天の化身となると手も足も出ないそうよ」
「師匠で相手が決まるらしいので、もう少し弱い武将を選んでいると進化出来たと思うんですけどね」
「そうなると弱くなるから考えものなのよ」
なるほど。そういうクラスチェンジもあるんだ。因みにレイジさんたち、槍使いの相手はスカアハ師匠で竜騎士たちの相手はシグルドらしい。どんまいとしか言えないな。
「それで俺に話ってなんですか?」
「みんなから高難易度のギルドクエストにタクト君を加えて挑戦したいという話が出ているのよ」
「クエストがクリア出来ないなら強い武器を揃えるためのクエストをクリアする。まぁ、ゲームの基本なわけです」
これは俺にもプラスになるから別にいいけど、問題がある。
「受けたいのはやまやまですけど、今は時間が」
「わかっているわ。金曜日の夜から時間があるのよね?」
「はい」
「なら金曜日の夜を開けておいて頂戴。みんなにはそう伝えておくから。受けるギルドクエストは後で送るわ」
「わかりました」
こうして金曜日の夜にギルドクエストを受けることが決まった。何気に俺は初めてだからちょっと楽しみだ。帰り際にナオさんにアリナの指輪を注文して、帰るとダーレーを探し回っているユウェルに声を掛ける。
選んだデート場所は聖域の島の洞窟。今ではアレキサンドライトなどを量産しているこの洞窟なら告白に持って来いだろう。
そう考えた俺だが、ついでに予定していた温泉を作る。これで告白を完全に隠した。最も他のみんなは察していた。ついてきていないのがその証拠。ただ単にダーレーを捕まえたいだけかも知れないけどね。
「おぉ~! これが温泉か!」
「鍾乳洞の温泉は俺も初めてだけど、味があるな」
「そうなのか? タクでも知らないことがあるんだな」
「当たり前だ。むしろ知らないことのほうが多いだろうな。だからみんなと冒険をしているんだ」
「みんなと知らない景色を見たいだろ? リリーたちから聞いているぞ」
本当になんでも聞いているな。するとユウェルが顔を赤くしてもじもじする。
「そ、それでタクはわたしと最初にこの温泉に入りたいのか?」
なるほど…これだとそういう誤解が発生するか。考え足らずだったな。ここは正直にバラすか。
「えーっとだな。実は告白するために誘ったんだが」
「へーそうなのか…ん? 告白?」
「そう。告白」
ユウェルは状況を察して、顔が更に赤くなる。
「も、もしかして私はもの凄い恥ずかしい勘違いをしてしまったんじゃないか!?」
自分でそれを言っちゃうか。
「タ、タク! 私の顔を見ないでくれ!」
ユウェルは丸くなった。
「おーい。ずっとそのままだと告白出来ないぞ。それともこのまま告白するか?」
もしこれをすると俺は丸まっている彼女に告白した数少ない人類になるかもしれない。
「うぅ~…それは嫌だぞ」
流石に嫌だよな。するとユウェルがそのままの状態で今の心境を明かす。
「でも、タクは私とエンゲージを結んでいいのか? 私とタクが出会ったのはリリーたちと比べて日が短い。正直私がエンゲージを結ぶ資格があるのか不安だ」
アリナや燎刃もそうだけど、これは早く強くなったことでの弊害だな。やっぱり思い出がリリーたちと比べて少ないからどうしても悩んでしまうんだろう。
「資格か…その資格って好きかどうかってことだよな?」
「へ?」
「違うか?」
「それは…そうかも?」
ユウェルは首を傾げる。自分自身が資格というのを理解出来てない感じだな。俺はユウェルの指輪を取り出す。
「確かにユウェルはリリーたちと比べると一緒にいた時間が短いかも知れないけど、大切なのは好きだという気持ちだと思う。少なくとも俺はユウェルのことが好きでこの指輪を作った。後はユウェルが俺のことをどう思っているかだよ。嫌いで受け取りたくないならそう言ってくれ。まだ時間が欲しいなら俺は待つよ」
「タ、タクのことはもちろん好きだぞ! 指輪も受け取りたい! でも本当に私に贈っていいのか?」
「あぁ。もし俺の気持ちに答えてくれるなら手を出してくれ」
ユウェルは丸まっている状態から起き上げると覚悟を決めて、左手を差し出してくれた。俺はユウェルの薬指に指輪の付けるとインフォが来る。
『ユウェルとエンゲージを結びました』
ユウェルは自分の指輪を見る。
「これが私のエンゲージリングなんだな…」
「あぁ。マリッジリングを上げるのはまだ随分先になるだろうけど、それまでにお互いにたくさん思い出を作っていこうぜ」
「うん! あ! そうだ! タクに一つお願いがあるんだった!」
「なんだ?」
俺が聞くとユウェルが予想外のお願いをしてきた。
「タクに千影の刀を仕上げるところを見て欲しいんだ!」
自分が一生懸命作っている姿を見て欲しいものなのかも知れないな。ということでユウェルの刀鍛冶を見物する。
「ふん! ふん! ふん!」
そこには俺が知らないユウェルの姿があった。ユウェルはいつも一生懸命で頑張っているけど、鍛冶をしているユウェルは目を輝かせている。俺が知らない間にユウェルは立派な鍛冶師になったんだと思い知った。
「ふぅ~…出来た!」
「お疲れ。立派だったぞ。ユウェル」
「そ、そうか? ふふ」
俺が撫でて褒めるとユウェルは嬉しそうだった。そして千影を呼ぶ。
「これがあたしの新しい刀…」
千影が刀を抜くと迅雷と同じ蒼い刀身が姿を見せた。
「綺麗な刀身であります。っ!?」
『シャー!』
八岐大蛟の声が聞こえて、千影がよろめく。
「大丈夫か!? 千影」
「大丈夫であります。随分やんちゃな刀でありますが使いこなして見せます」
大丈夫そうだ。恋火も水薙刀に苦戦しているし、やはり使いこなすのが難しい刀みたいだな。名前は決めてある。
蒼雲:レア度10 刀 品質S+
重さ:100 耐久値:1000 攻撃力:800
効果:万物切断、神気、神魔毒、水流操作、水圧切断、瀑布、雷光、神足通、神特攻(究)、邪竜解放
青生生魂で作られ、八岐大蛟の魂が宿っている強力な水の刀。神魔毒を刀身に宿し、放たれる斬撃は神すら恐れ、また一振りで大量の水を天から落とす。攻守共に優れた刀で鞘には神鹿の鹿角が使用されている。
水薙刀は草薙剣から取ったから今度は天叢雲剣から名前を考えさせてもらった。どこかと言うと叢雲の叢はそうとも読めることから発想させて貰った。
「蒼雲…絶対に使いこなして見せるであります!」
その後、アラネアを呼ぶとちょうど甲冑の内側が出来たらしい。
「おぉ~! ふかふかだぞ!」
「完成させたいだろうけど、へーパイストスたちと勝負しているんだったよな?」
「そうだぞ!」
ユウェルを連れて、安綱さんのところに向かうとへーパイストスは動けず、パンドラが仕上げをすることになった。
「負けないぞ! パンドラ!」
「パンドラも負けないよ!」
これで今日はログアウトするつもりだったのだが、ユウェルとの告白にリビナが過剰に反応した。
「告白場所が暗い洞窟の温泉の前なんて…タクトってば大胆」
「え!? やっぱり一緒に入りたかったのか!? タク!?」
「ユウェルがあんなところで丸まるからそうなったんだろう?」
「う…そうだった…」
ユウェルはショックでまた丸くなった。するとイオンが言う。
「でも、それならその場から離れてから告白すれば良かったのでは?」
「そうだぞ! タク!」
「はいはい。俺が悪かった。明日はユウェルの試練をしないといけないんだからもう寝るぞ。ユウェル」
「うむ!」
本来なら試練をするんだけどな。時間的に明日にすることにした。二階に上がった俺はユウェルを俺の部屋に入れてから空き部屋の鍵を開けてあげた。
「これが部屋の鍵だ」
「…恩に着る」
混沌竜のバーディングの効果で透明になっているダーレーが部屋に入っていった。
「どうかしたのか? タク」
「なんでもない。今行くよ」
今日はこれでログアウトした。




