#870 デュランダルイベント終了とエアリーの試練
今日からテストで俺は秘策を実行し、見事に勝利した。それが早起き戦法。俺のバイト時代からのテスト対策法で単純に朝の三時頃に起きて勉強するだけというシンプルな作戦だ。
ぶっちゃけテストなんて殆ど暗記勝負だ。テスト範囲に書かれている物をどれだけ覚えているかで勝負が決まる。
しかし急いで暗記したものは寝ると忘れやすい。そこで編み出されたのが、寝てから暗記してそのままテストしたほうが遥かに覚えている可能性が高くなるんじゃないかという早起き戦法だ。もちろんこれは人によりけりだと思う。
暗記などしなくても毎日授業を聞いていれば全て覚えている天才くんには意味がないし、朝が弱い人には向かないだろう。俺のように暗記自信ない人やテストがやばいと思っている人は試してみる価値があるかもしれない。効果は保証しないけどね。早起き出来なくて地獄を見るリスクがあることだけは言っておく。
とにかく俺は初日を見事に乗り越えることに成功した。安心した気持ちでスーパーで買い物を済まして、ゲームにログインするとベッドで目を覚ます。どうやら誰かが倒れた俺を運んでくれたみたいだ。するとインフォが来た。
『ライヒの決闘イベントが終了しました』
お!ということはデュランダルの持ち主が決まったんだ。するとサバ缶さんからメールが来ており、マグラスさんが優勝したらしい。帝さんがブリューナクの代償で参加出来なかったらしいから、これは予想通りではある。
俺はお祝いのメールを送り、下に降りると全員が見事によそよそしい。悪い事をしたと思うならしなければいいのに…。
「はぁ…昨日のことは怒ってないけど、黙って飲んだり、約束を破ることはいけないことなのは分かっているよな?」
「「「「はい…」」」」
「ならいい。しっかり反省してくれ。それからリリーはこれからお肉の焼き方を徹底的に叩き込むから覚悟しておくように」
「ぐ、具体的に何をするの?」
完全にリリーはビビっている。
「これから俺がいる時は朝昼晩の肉料理を作ってもらう感じかな」
「「「「え!?」」」」
「「「「ガゥ!?」」」」
お肉大好きなみんなが超反応をした。
「わ、わかった! 頑張る!」
そしてリリーはやる気になってしまい、お肉が大好きなみんなは凄く悲しい顔で俺を見る。
「俺が見る以上は絶対失敗させないから安心してくれ。ただ最初は安いお肉から覚えさせて行くから、少しの間我慢を強いることになる。そこだけは理解してくれ」
「「「「はい…」」」」
「「「「ガゥ…」」」」
お肉大好きなメンバーのやる気が90は下がったな。まぁ、流石にリーゼと冒険の時はちゃんとしたもの出すつもりだ。
「召喚師は色々だのう…」
「俺は殆ど外食をしませんからね」
これが大変なところではあるんだけど、同時にお金の節約にもなっている。むしろお店のことを考えるとプラスと言っていい。
「そうなのか。まぁ、お店を出しているタクトならばそうなってしまうかもしれんのぅ。おっと…そういえばアンリがここに遊びにきたいそうじゃ。なんでも羊が目当てとか言っておったが」
シルフィ姫様がロコモコのことを伝えたようだな。
「分かりました。では、先に用事だけ済まさせてください」
俺はロコモコの生産を終えてからロコモコをリーゼに紹介する。
「なんじゃ!? これは!? とう! はぁ~…あったかモフモフなのじゃ~」
何故だろう?今、ベッドで暴れているシルフィ姫様の姿が過ぎった。
「それでは俺は用事に行ってきますね?」
「もふもふもふ」
ロコモコの毛の中から何か声が聞こえたが意味不明。たぶんいってらっしゃいぐらいだろうな。
俺は島で生産作業をして、イクスの星に向かう。交換した素材で作ったのはデウスエネルギーガンとデウスエネルギーキャノン。これで一応の形は整った。
島から帰った俺は獣魔ギルドに向かう。今日はエアリーの試練だ。試練内容は二つあった。ここで分岐するんだな。
ギルドクエスト『豊穣山羊の試練』:難易度SS
報酬:豊穣山羊の宝珠
荒れ狂う河神から娘を守れ。
ギルドクエスト『星山羊の試練』:難易度S
報酬:星山羊の宝珠
欲情の森にある宝珠を獲得せよ。
試練の名前とクエスト内容から大体の予想が付くな。下が今まで受けてきた星座と同じクエストで山羊座由来の山羊だろう。
そして上はたぶん同じギリシャ神話で登場する山羊だと思う。山羊のクエストで河神ならヘラクレスと戦った神様のことだろうからな。
さて、どちらを選ぶかな。多分上が生産特化で下が戦闘特化なんだよな。クエストを受けるのは自由だし、最初は難易度が高い上を選択してみるか。エアリーの生産能力には助けられているからな。クエストを実行する。
転移した先は山の中だ。すると一人の大人の女性がやってきた。
「あぁ…良かった。私の名前はアドラステイアーと言います。強そうな召喚師様。どうか崖の上にいる娘を河の神アケローオスからお救いください」
アドラステイアーにアケローオスね。これはもう進化先は確定だな。
「分かりました」
「ありがとうございます!」
俺が返事をすると地響きが聞こえてくる。
「あぁ…来てしまった。よ、よろしくお願いします!」
アドラステイアーは崖に向かっていく。
「来るぞ。エアリー」
「ブェ」
俺はブリューナクを取り出し、ファミーユを展開する。エアリーも戦闘態勢になると俺たちの前から山々の隙間から大量の水が流れてきた。
「上に行くぞ」
「ブェ!」
俺たちはひとまず波から逃れる。さて、敵はどこだ?まぁ、河神なら水の中か?
俺が水の中を警戒していると正面の山を突き破って、巨大な水牛が突進してきていた。
アケローオス・アゲラダ?
? ? ?
河の神が山を壊すなよ。山の神様に怒られるぞ。そう思っていると俺たちに激突の効果が発動する。まぁ、そうなるよな。いずれにしてもこの突進をされたら、終わりだ。
「剣のルーン! 行け! ブリューナク!」
七色の光の刃が出現したブリューナクを投げる。するとアケローオス・アゲラダは角でブリューナクを弾いた。俺は投擲操作で弾かれたブリューナクを操り、アケローオス・アゲラダの真上から狙う。
『グラビティ』
重力も加わり、アケローオス・アゲラダの真上からブリューナクが落ちる。するとアケローオス・アゲラダは突進しながら神障壁を展開する。ブリューナクが神障壁にぶつかり、破るがその間にアケローオス・アゲラダは走っているせいでブリューナクが外れる。
更にブリューナクは背後から追撃をするとアケローオス・アゲラダに突き刺さる。
「モ…モ~!」
即死した瞬間、蘇生が発動する。そしてアケローオス・アゲラダは狂戦士化を使い、更に突進のスピードが上がった。もう側まで迫っている。
「戻れ! ブリューナク!」
「ブェ~!」
「モ~!」
「ブェ!?」
エアリーが大ジャンプからの体当たりをすると逆にぶっ飛ばされる。
「エアリー!? この野郎! 力のルーン! ペネトレイター!」
ブリューナクのペネトレイターがアケローオス・アゲラダの鎧スキルとぶつかる。
「貫けーーー!」
「モォオオオ!」
「へぶ!?」
わかっていたさ…人間のと怪獣サイズの牛の激突。どう考えても勝目がない。俺はあっさり潰されて、クエスト終了。獣魔ギルドに戻った。
「これは俺の実力不足かな~」
「ブェ…」
そもそもリリーたちの力を借りて、ギリギリ神様と戦えるレベルなのだ。エアリーと二人で神様に勝つことを考えるとやはり現状では厳しい。ここでネフィさんに気になることを聞いてみた。
「星山羊の宝珠で進化をさせてから豊穣山羊の宝珠で進化させることって可能なんでしょうか?」
「残念ですが両方とも第五進化なので、どちらか一方を選ぶしかありませんね」
「ですよね…」
あまりの難易度だったからもしかして出来るかも知れないと思っていたが無理でした。ホームに帰ってから悩む。
「諦めるのはなんか負けたみたいで嫌だな~」
「ブェ!」
「ん? 今、頷いたのか? エアリー?」
「ブェ~!」
エアリーがやる気になっているなら決まりだな。
「ちょっと色々考えてみるから進化は後でいいか? エアリー?」
「ブェ!」
現在へーパイストスが武器を作ってくれているし、それを使って再挑戦だな。その間に考えないといけないところもある。さっきのクエストは一瞬で終わってしまったが、僅かに水位が上がっていた。このことからさっきのクエストは時間制限もあるものと思われる。
それだけでなく水位がどんどん上がって行くとするなら河神と水中戦をすることも考えないといけないかも知れない。こうなると水中行動だけでは勝目はない。現状プレイヤーが水中行動以上のスキルは確認されていないから装備品かアイテムを使うしかないと思う。装備だと人魚の雫石があったけど、あれで得られるのは人魚の加護だ。それでどこまで戦闘出来るかな…要確認だな。
色々考えたが強くなることに越したことはないから修練の塔に向かう。メンバーはリリー、イオン、恋火、リビナ、セフォネだ。昨日と同様にリリー、イオン、恋火、リビナの順で戦闘する。
最初のリリーは迷彩スキルで自分の姿を隠すのではなく、剣のみを隠す技を披露した。更に光閃を使うのだが、菅原道真には通用しなかった。
「なんで透明の剣が分かるの~」
「最初に剣の大きさを把握出来たのが、一つ。もう一つは手の動きだ。あれでは透明になっても攻撃がバレバレだぞ?」
「う…」
リリーは性格的に手首のフェイントなどはしないから手の動きだけで攻撃が読まれてしまう。
「これをするならリリーの場合、姿とセットのほうがいいだろうな」
「わかった!」
「それとよく自分で考えたな」
「えへへ~」
俺がリリーの頭を撫でるとイオンが主張してくる。
「私だって、新しい技ぐらい作れます」
「ほぅ…ならば見せて貰おうか」
イオンが見せた技は水分身と海竜一突を組み合わせた技。海竜一突は槍を投擲する技で投擲した槍に宿った水が海竜の姿となり、相手を貫く技だ。これが水分身と組み合わせると複数の海竜一突が菅原道真に襲いかかるようになる。
これに菅原道真は上に上げると海竜一突は菅原道真を追尾する。その結果、海竜一突は集まってしまい、その瞬間を逃さず菅原道真は全て弾いてしまい、イオンに斬りかかるがイオンは回避し、槍を手元に戻すと菅原道真は打ち合いになる。結果、負けてしまうが今まで回避と突きだけだったのに槍の柄を防御や攻撃に使うようになった。これはかなりの成長と言えるだろう。
「槍にだいぶ慣れてきたな」
「ん…あれ? 私の技は?」
「真っ直ぐ追尾するだけではさっきのように弾かれる。念動力も併用して、攻撃を分散させるといいだろうな」
「それ…かなり難しいですよ…タクトさん」
そういうイオンだが、きっと出来るようになると思う。
次のリビナも蛇との連携がだいぶ取れるようになった。菅原道真の刀に蛇が噛み付き、その隙にカウンターを入れることが出来たくらいだ。最も菅原道真に耐えられ、その後、じわじわ追い込まれて負けてしまったけどね。
「魔拳が決まって勝ったと思ったんだけどな~」
「俺もそう思う時があるけど、思い込みは減点だな」
「わかってるよ~。でも二人と違って一撃当てたよ! タクト」
「はいはい」
蛇の頭を撫でる。
「シャ~…」
「なんでボクの頭じゃないのさ!」
「冗談だって」
最後に恋火が戦闘するがやはり進化をしていないからどうしても差が出てしまう。しかし菅原道真と刀で戦うことは無駄ではない。
「明日も戦いたいです! タクトお兄ちゃん!」
「わかった」
向上心を忘れない。これが恋火のいいところだ。さて、最後は俺が戦闘する。セフォネは待機してもらっている。今日は勝ちに行く。
俺と菅原道真は昨日と同様の剣戟の打ち合いとなる。
「クロスカウンター!」
「甘いぞ! はぁ!」
俺の腕が飛ぶ。すると俺の腕がすぐさま復活する。真吸血鬼の加護の効果だ。この効果で俺には復活、不死、瞬間回復の効果が発生している。セフォネを待機されていたのはこのためだ。
「何!?」
「ジョルト!」
「ぐ…」
「甘いぜ!」
顔面を殴った後に迅雷で斬り裂いて訓練終了。インフォが来る。
『リリーの大剣が50に到達しました。大剣【カラミティインパクト】を取得しました』
『イオンの槍が15に到達しました。槍【旋風輪】を取得しました』
これでリリーの大剣スキルも一杯になってしまった。ここでリリーは訓練卒業だな。俺がそう思っているとセフォネが自慢げに話す。
「妾がいる限り、タクトを死なせたりはしないのじゃ」
「覚醒した吸血鬼の加護か…これは少々反則だぞ?」
「俺は召喚師ですので」
「どの口が言うか。まぁ、負けは負けだ。報酬を受け取るがいい」
これで修練の宝玉の数は十五個だ。
ホームに帰った俺はここらで時空魔法に使ってみる。するとスキルレベルが一個で一つレベル上がった。そのまま65まで上げるとインフォが来た。
『時空魔法のレベルが65に到達しました。時空魔法【ハイパースペース】、【ディセラレーション】を取得しました』
時空魔法のレベルの高さでこれだから他の魔法の上がり方はかなり高そう。試しに疾魔法に一つ使うと一気に三つも上がり、インフォが来る。
『疾魔法のレベルが20に到達しました。疾魔法【タービュレンス】、【フライト】を取得しました』
これで修練の宝玉の数は十個。このまま色々な魔法のレベルを一気に上げる考えが脳裏を過るがリリーに使う手もある。俺の最後の切り札はどうしてもリリーたちとのエンゲージかマリッジバーストとなる。その場合はやはりドラゴンフォースがあるのとないのとではやはり違いがあるだろう。
試しにリリーの竜技に使うとレベルが二つ上がる。もう一つ使うとインフォが来た。
『リリーの竜技のレベルが40に到達しました。竜技【ドラゴンノヴァ】を取得しました』
修練の宝玉の数は八個となり、流石にドラゴンフォースには届かないので、ここで止めておく。そして新しい魔法の確認する。
まずは疾魔法から見ていく。タービュレンスは乱気流を発生させることで飛行している敵を墜落させる魔法。乱気流に捕まると空での自由が利かなくなり、空を不規則に動き回ることになり、墜落した後も動けないことがアイテムを使ったリリーによって証明された。
「き、気持ち悪い…」
この魔法はガードを固めてはいけないこともリリーが教えてくれた。発動した魔法を破るには強引に突破するのが正解みたいだな。
次はウィザードオーブで見たフライト。フライよりも遥かに空での飛行の自由度と速度が上がる魔法。フライでは立っている状態で上下左右に移動している感じだったが、フライトは完全に飛行している感じを味わえる。具体的には背面飛行などが可能となる。
これを覚えている魔法使いたちはヘリコプターから戦闘機になった感じと言っているほど、かなり人気の魔法だ。
次は時空魔法のハイパースペース。敵の周囲にサイコロと同じ正六面体の亜空間を作り出し、閉じ込めてしまう魔法。範囲は対象にした敵によって変化する。大きければその分発生する空間も大きくなり、その周囲にいる敵ごと閉じ込めることを確認した。
これに閉じ込められると無重力状態となり、満足に動けなくなる。更に魔法などで亜空間の壁を攻撃すると周囲の亜空間の壁からランダムで攻撃が飛んで来た。しかも外からの攻撃は普通に通る。かなり凶悪な魔法だ。
この魔法は虚空切断で脱出することが出来ることを確認した。恐らく強引に破壊することも出来るんだろうけど、アケローオス・アゲラダにどこまで通用するのか気になるところだ。何せ猛ダッシュしていたからな。あれではこの魔法を突破出来ないと思う。でも神様だからきっと脱出されるだろうな。
次はディセラレーション。魔法版の時間遅延だ。ただしこの魔法の対象は個であるところだけ違う。敵はもちろん減速出来るがそれ以外に物や魔法も減速することが出来る。効果時間はアクセラレーションと同じ。普通に敵を遅くするだけでも凶悪だが、他にも色々悪いことが出来そうな魔法だと思った。
最後はリリーが覚えたドラゴンノヴァ。自分を中心にドラゴンの波動を発生させて相手を吹き飛ばす全体攻撃技。リオーネのシトリンノヴァと似ているが威力ではこちらのほうが上だ。光でのダメージに加えて、衝撃まで発生しているからな。
ただし難点がないわけではない。やはり全体攻撃技ということで魔力の消費がえげつない。簡単には使えない切り札的な技だろうな。
今日はここで一度ログアウトして、テスト勉強をすることにした。何せ夜には昨日出来なかったファリーダの告白をしないといけないからだ。




