#867 神に挑戦した蜘蛛女とリリーの料理スキル
それじゃあ、アラネアの進化をさせるとしよう。進化先は一つ。
アラクネー
ま、そう来るよね。分かってました。問題は説明だな。どういう風に書かれているか。
アラクネー…神の罰を受けた地獄を徘徊する蜘蛛女。生前の機織り技術は神にも劣らない腕を誇っており、多くの糸を変幻自在に操る糸のスペシャリスト。蜘蛛としての能力も使いこなし、地獄の暗殺者として君臨している。
この説明はちょっと誤解しそうだな。アラクネーは地獄を徘徊はしていないはずだ。地獄で徘徊している蜘蛛女の名前はアラーニェ。これをこのゲームではアラクネーと同一視しているようだ。
それにしても運営は見事にアテナの黒歴史を握りつぶしたな。ならば俺が暴露しよう。人間のアラクネーとアテナの神話は機織り勝負をした結果、アラクネーがアテナに自身が作った物を引き裂かれて自殺する神話だ。これがアラクネーの作品に負けたことで引き裂いたのかそれともアラクネーが作った作品に腹を立てたのか色々な解釈がある。
その後、死んだアラクネーをアテナは蜘蛛女として蘇らせたことで蜘蛛女アラクネーが生まれることになる。これがアテナの慈悲なのか怒りが収まらない結果なのかここも解釈は分かれるがアテナにとっては黒歴史なのは間違いない。
それを別の話と組み合わせて、見事にスルーした。きっと運営の中にはアテナの信奉者がいるに違いない。それかこのゲームで余程アテナが重要なキャラとなっているかだな。
アラクネーの説明はここまでとして、進化をさせるとしよう。アラネアの前に蜘蛛女の宝珠を置き、進化を実行すると蜘蛛女の宝珠から紫色の糸が飛び出し、アラネアを包み込むと繭の中が紫に光り、アラネアが進化する。
『アラネアはアラクネーに進化しました』
『紐、暗殺、暗視、魔眼、魔素爪、第六感、他心通、念動力、慧眼、指揮、空間歪曲、高熱切断、虚空切断、地獄糸、迷彩、細工、伸縮、毛針、死滅光線、冥波動、黒霧、神魔毒、瘴気、腐蝕、毒霧、魔素弾、多連撃、雷放電、呪滅封陣、魅力吸収、魔素化、魔素分身、星鎧、狂戦士化、魔素解放、復活、地獄の加護を取得しました』
『紐【巣窟縛り】を取得しました』
『使役に【地雷蜘蛛】、【粘着蜘蛛】を取得しました』
名前 アラネア 女郎蜘蛛Lv32→アラクネーLv1
生命力 102→152
魔力 195→245
筋力 168→218
防御力 65→115
俊敏性 84→134
器用値 288→338
スキル
吸血Lv19 格闘Lv9 紐Lv1 暗殺Lv1 暗視Lv1
魔眼Lv1 魔素爪Lv1 第六感Lv1 他心通Lv1 念動力Lv1
慧眼Lv1 指揮Lv1 空間歪曲Lv1 高熱切断Lv1 虚空切断Lv1
粘着糸Lv38 柔糸Lv29→鋼索Lv29 鋼線Lv51→超鋼線Lv51 操り糸Lv30 地獄糸Lv1
迷彩Lv1 裁縫Lv27 細工Lv1 隠密Lv21→空虚Lv21 罠設置Lv34
糸察知Lv16 伸縮Lv1 猛毒ブレスLv18→神魔毒ブレスLv18 毛針Lv1 死滅光線Lv1
土潜伏Lv29 投擲Lv10→投擲操作Lv10 土魔法Lv21 暗黒魔法Lv11 冥波動Lv1
黒霧Lv1 神魔毒Lv1 瘴気Lv1 腐蝕Lv1 毒霧Lv1
魔素弾Lv1 多連撃Lv1 雷放電Lv1 呪滅Lv16→呪滅殺Lv16 呪滅封陣Lv1
魅了Lv10→堕落Lv10 魅力吸収Lv1 使役Lv23 妖気Lv29 妖術Lv22
覚醒Lv9→逆鱗Lv9 魔素化Lv1 魔素分身Lv1 星鎧Lv1 狂戦士化Lv1
魔素解放Lv1 復活Lv1 地獄の加護Lv1
繭から現れたアラネアは下半身が蜘蛛で上半身が紫色の大人の女性となった。妖艶さはかなり割増となっている。ここでアラネアは変化すると普通の女性の姿となる。
「生前の姿でご挨拶させて頂きます。主様よりアラネアの名をいただきました者です」
「これはどうもご丁寧に。召喚師のタクトです」
俺がそう挨拶するとアラネアに笑われる。
「失礼しました。戦闘の時と雰囲気が全然違うもので…主様は本当に大人の女性が苦手ですね」
「…悪かったな」
どうせ俺は年上の女性には下手に出るダメ男ですよ。
「拗ねないでください。可愛いだけですよ?」
「だー!」
これだから年上の女性は苦手なんだよ!
「そんなことより話せるならちょうどいい。スキルを教えてくれるか?」
「はい。進化した私の強さ。ご覧下さい」
ホームに戻って確認をする。アラネアは切り札がないせいかスキルが多い。新しい物を確認していこう。
最初は超鋼線。黒鉄の時は鋼線が鋼索となったが、アラネアは元々柔糸がロープだったせいかこちらが鋼線となっている。肝心の超鋼線は名前の通り鋼線が更に硬くなった糸だ。その威力はアラネアが超鋼線を使うと巨木をあっさり貫通した。切れ味が増した分、生身の生物の拘束には向かなくなった。逆にゴーレムなどの敵の拘束にはかなり強い糸だ。
鋼線の代わりに登場したのが地獄糸。名前をみた瞬間、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』が浮かんだが、全く関係がないスキルだった。この糸は幽霊などの実体がない者を拘束するための糸だ。
この糸の最大の特徴は霊化以外に魔素化などの実体では無くなることで攻撃を回避するスキルを無効化して相手を縛るというところにある。糸の最大の弱点を克服したスキルと言えるな。しかし鋼線のような攻撃力はない拘束専用の糸だ。
次の魔素分身はグラシャ・ラボラスで見たものだ。一体しか作り出せないがその分、アラネア本人と同等の戦闘能力を持っている。このため、アラネアは安心して先行し、罠が貼れることになった。本当に厄介なスキルだよ。
次は新たな使役に加わった地雷蜘蛛。この蜘蛛を踏んだり、倒すと魔素や神魔毒、腐蝕の毒霧を発生させる蜘蛛。完全に罠設置用の蜘蛛だ。
次の粘着蜘蛛は罠設置用の蜘蛛で踏んだり、倒すと粘着糸をばらまき、相手を拘束する。注意点は地獄糸では無いから逃げられる恐れがある点かな?ただこれは悪戯心をくすぐられる。これぐらいの制限なら問題はないだろう。
新しいスキルはないので、アラネアの糸技のバリエーションを紹介する。最初は恐らくアラクネーオリジナルの武技だと思われる巣窟縛り。これは周囲に糸やロープを張り巡らせる技だった。今まではわざわざ設置していたからだいぶ糸やロープの設置が楽になる技だな。
鋼索からの雷放電は黒鉄で見たので省略し、鋼索からの高熱切断を紹介する。真っ赤になったワイヤーを使い、相手を高熱で切断してしまう。本来鋼索には攻撃能力はほぼないがこれは巨木を一撃で切断してしまう威力を誇っている。もちろん縛った状態でも使用可能でここに雷放電も加えられる。相手にとっては悪夢だろうな。
次は超鋼線からの迷彩。もうわかるだろうが超鋼線が透明になる。もちろん他の糸も透明に出来る。迷彩スキルのおかげでアラネアの罠設置スキルが一段階以上は凶悪になるだろう。もちろん迷彩スキルはアラネア本人にも使える。地獄の暗殺者と言われる訳が分かる気がするね。この他にも神魔毒の糸や瘴気の糸などがあった。
他にもアラネア独特の攻撃として蜘蛛の足にある魔素爪を使った攻撃がある。アラネアは伸縮で蜘蛛の足を伸ばすことが出来、これがただ伸びるだけではなく、地中や空間歪曲から伸びて襲いかかってくるのだ。しかも斬っても復活するし、星鎧でそもそも硬い。
これで確認は終了。説明からわかる通り、アラネアはスキルを組み合わせることで強さを発揮するタイプとなった。さて、気になる細工について、聞いてみよう。
「細工ってことはアラネアは指輪とか作れるようになったのか?」
「はい。大人の女性の嗜みです。何か作りましょうか? 簡単な物しか作れませんが」
「うーん…ちょっと考えさせてくれ」
「分かりました」
アクセサリーを作るにしても金属はどうしても必要となる。指輪はなるべくナオさんにお願いしたいと考えているとセチアが興味を持った。
「アラネアは細工を覚えたんですか?」
「はい。もしかしてセチアお姉様は細工を覚えたかったんですか?」
「え…いや、そうではなくてですね」
セチアと俺の視線が合う。
「う…実はエンシェントエルフの知識の中に魔法剣と同じ技術で魔法鎧というものがありまして…それを作るためには細工スキルがいるみたいなんです」
セチアは強い進化先を選ばなかったから制限されているみたいだな。
「なるほどね…それならまだ交換していないスキルオーブの使い道を話し合うか…たぶんもう決まっていると思うけど」
「ですね」
みんなを集めて、スキルオーブのことを話し合うとやっぱりリリーが料理スキルを覚えたいと言い出した。この結果、リリーが料理スキルを覚えて、セチアが細工スキルを覚えることが決まった。ステータスオーブは今回も黒鉄の俊敏値に使うことにした。使ったことでインフォが来る。
『リリーが料理スキルを取得しました』
『セチアが細工スキルを取得しました』
『黒鉄の俊敏値が1上がりました』
これにリリーは大喜びする。
「やったー! これでタクトにたくさん料理を作ってあげられる!」
なんてことだ。リリーは今までの料理のことを忘れてしまったのか?せめてこれだけは教えておこう。
「料理スキルを覚えても料理が上手くなるわけじゃないぞ」
「聞こえてませんよ? タクトさん」
「…ん。にぃ、頑張って」
「俺が酷い目に遭うこと前提かよ。みんなには悪いけど、リリーの暴走を監視しててくれ」
誰も返事を返してくれない。
「おい」
「だって…タクトさんの言葉も聞こえてないリリーですよ? 止められる自信が全然ありません」
「…ん。ああなったリリーは止められないと思う」
「えっと…失敗したら、わかると思いますので、頑張ってください! タクトお兄ちゃん」
完全に俺だけが食べる感じだ。いや、リリーが俺のために作るんだから当然食べるのは俺か。
「死ぬ前にロコモコのクエストに行ってくるか」
「「「「頑張ってください」」」」
その頑張ってがクエストの応援には聞こえなかった俺である。




