#862 月の魔狼とローランの旅立ち
クエストから帰ってきた俺はホームに帰り、風呂で温まることにした。だって、雪まみれなんだもん。帰ってくるとパンドラがやってきた。
「お帰りなさい! おじ様!」
「ただいま。どうしたんだ? パンドラ」
「お父さんがピザを作れなくて、作って欲しいんだよ!」
ピザ目的なわけね。
「作ってあげるからちょっと待ってくれ」
「はーい!」
俺が風呂から出て、キッチンに行くとリリーたちが待っていた。パンドラのを作るんだよな?それに俺の視界に謎の料理が置かれている皿が目に入る。
「一応聞くがこの黒焦げでボロボロになっているものはなんだ?」
「「「「ピザ?」」」」
リリーたちが一斉に首を傾げて答えてくれた。これを作った張本人は机で真っ白になっている。一生懸命チャレンジした気持ちは尊重してあげたい。
俺は手早くピザ生地を作っていく。
「おぉ~…お父さんとは全然違うんだよ!」
へーパイストスが机に頭をぶつける音がした。子供の正直さは時に残酷なものだ。
「これでよし。へーパイストス。こっちに来い」
「…え?」
「えじゃないだろう。パンドラのお願いされたのはお前なんだ。俺が見てやるから最後まで作れ」
「は、はい!」
俺はパンドラが食べたいピザを聞くとフルーツピザだった。まさかの誰もチャレンジしていないピザだ。これでドロドロした物が焼きすぎたフルーツの成れの果てであることが判明した。
ここで俺はパンドラに質問しないといけない。フルーツピザには主に二通り作り方がある。ピザ生地を焼いてからフルーツを盛るピザとピザ生地ごとフルーツも焼くピザだ。
「パンドラはフルーツも焼くピザが食べたいんだよな?」
「うん!」
「分かった。なら最初にクリームチーズを作るか」
俺は生クリームと牛乳を混ぜて、発酵を使うとクリームチーズが完成した。
「これをまず生地全体に塗ってくれ。その上にフルーツを盛り付けして、上から砂糖をかける。出来るよな?」
「は、はい!」
俺はその間に竈の温度を調整する。
「出来たよ! おじ様」
俺が見に行くといちご、バナナ、リンゴが綺麗に盛られていた。どうやらパンドラがしたようだ。
「綺麗に盛り付けたな。それじゃあ、焼いていくぞ。へーパイストス」
「は、はい!」
時々ピザを回して全体的に焼き上げている。
「今だ! 出してくれ」
「はい!」
「「「「おぉ~! 美味しそう!」」」」
出来たのが、こちら。
フルーツピザ:レア度8 料理 品質A
効果:満腹度100%、魔力50回復、二時間魔力自動回復(極)
いちご、バナナ、リンゴを盛り付けて焼いたピザ。クリームチーズと砂糖を使うことでより甘く仕上げっている。
最初はパンドラが食べる。
「あーん! んん~! 甘くて美味しいんだよ!」
「「「「じゃあ」」」」
リリーたちがフルーツピザに手を伸ばすとパンドラがフルーツピザを身体で隠した。
「これはパンドラの! お姉様たちはもうご飯食べたでしょ!」
「「「「っ!?」」」」
パンドラに怒られて、流石にリリーたちはショックを隠しきれてない。俺はパンドラを応援しよう。
「いいぞ。パンドラ。もっと言って上げてくれ」
「「「「タクト(さん、様)ー!」」」」
俺は外に退避して、後回しにしてしまった優牙の進化をする。進化先はもちろん一つ。
ハティ
まぁ、予想通り。説明を見てみよう。
ハティ…月に大損害を与えると言われている魔狼。神殺しの魔狼フェンリルの子供で月食はこの狼が起こしていると信じられている。
月に大損害を与えるって冷静に考えると天災級の事態なんだよな。月で有名な影響が潮の満ち引きだ。これは月の引力で発生させている。この他にも月の引力は地球の自転のブレーキ役をしていることが判明している。
もし月が無くなったり、小さくなると地球は高速自転をして、暴風が吹き荒れることになる。簡単に暴風と聞こえるかも知れないがまず地球は人間が住める環境じゃなくなる。月は知らない間に地球の生命や環境を守っていると考えると少し月の見方が変わる気がするね。
それじゃあ、進化をさせよう。優牙の前に月狼の宝珠をおいて、進化を実行する。月狼の宝珠から青白い光が発生し、優牙を包み込むと進化する。
『優牙がハティに進化しました』
『魔眼、先制、空間支配、空間歪曲、時間遅延、魔力喪失、暗黒魔法、氷魔法、時空魔法、宇宙魔法、魔力吸収、多重障壁、瘴気、引力操作、天候支配、乱反射、冷凍光線、雪分身Lv1 氷原操作、神速、神足通、騎乗、強激突、空振、黒雷、氷獄、氷牢、多連撃、多乱刃、氷雪刃、魔狼の咆哮、月光、月食、幻月、逆鱗、巨人の加護を取得しました』
『宇宙魔法【スーパームーン】を取得しました』
名前 優牙 マーナガルムLv32→ハティLv1
生命力 80→120
魔力 250→300
筋力 138→188
防御力 190→240
俊敏性 145→195
器用値 74→114
スキル
噛み砕くLv39 気配察知Lv39→天耳通Lv39 危険予知Lv39→第六感Lv39 氷爪Lv35→氷河爪Lv35 暗視Lv35→天眼通Lv35
魔眼Lv1 先制Lv1 空間支配Lv1 空間歪曲Lv1 防御無効Lv38
耐性無効Lv33 時間遅延Lv1 魔力喪失Lv1 暗黒魔法Lv10 氷魔法Lv35
時空魔法Lv35 宇宙魔法Lv1 氷投擲Lv28→氷柱Lv28 氷の牙Lv36→餓狼Lv36 魔力吸収Lv1
氷装甲Lv31→魔氷装甲Lv31 多重障壁Lv1 瘴気Lv1 引力操作Lv1 天候支配Lv1
反射Lv22→全反射Lv22 乱反射Lv22 冷凍光線Lv1 極寒ブレスLv38 冷凍弾Lv31→超冷凍弾Lv31 吹雪Lv2→猛吹雪Lv2 雪潜伏Lv20 雪分身Lv1 氷原操作Lv1 神速Lv1
神足通Lv1 騎乗Lv1 強激突Lv1 空振Lv1 黒雷Lv1
氷獄Lv1 氷牢Lv1 多連撃Lv1 多乱刃Lv1 氷雪刃Lv1
即死Lv29 耐寒Lv20→寒冷無効LvLv20 魔狼の咆哮Lv1 月光Lv1 月食Lv1
幻月Lv1 狂戦士化Lv7 逆鱗Lv1 巨人の加護Lv1 月の加護Lv12→神の加護Lv12
進化した優牙は青白い神秘的な狼となった。恐らくブルームーンを再現しているんだろう。目が真紅に変化して、いかにも魔狼って感じだ。お馴染みの毛並みチェックは騎乗で確かめる。感触は完全に新雪だった。今までは暖かったが今回は冷たい。湯冷めを心配するがこれはこれで気持ちいい。
注目のスキルは個人的には騎乗。雪に完全対応した騎乗は初だ。雪に潜った状態で騎乗出来たら、楽しそう。寒さ対策は必須だろうけどね。
ここからは新しいスキルを確認していく。まずは魔力喪失。自分の周囲に魔力が消滅する空間を作り出すスキル。この空間は長続きしないがその間は魔力を使った攻撃を無力化出来るみたいなので、強いスキルだろう。
次は月光。夜限定のスキルだが、生命力と魔力を同時に回復するスキルみたい。回復量も多く、かなり強いスキルだけど、その代わりに優牙はこれ以外の回復手段を持たないところが弱点だろうな。
次が恐らく優牙の最大の特徴と思われる月食。これは月海の逆のスキルで広範囲の敵を暴走状態にしてしまう恐ろしいスキルだ。ただしこちらも夜限定のスキル。
最後は幻月。これも夜限定のスキルで確定の回避スキル。慧眼と違い、十回確定で回避するスキルでしかもその回避方法が幻だ。具体的にこれで何が起きるか決闘で試してみた。
「行くぞ! 優牙!」
「ガウ!」
「ストレート!」
俺がパンチをすると優牙に届いているのに幻なので感触がない。するとそのまま優牙は俺を舐めてきた。これが真剣勝負なら俺は食べられて終わっていたな。
これで確認は終わり。優牙は完全に夜特化となった印象だ。強くはなったがここで気になることがある。グレイたちのように強くなるスキルがないのだ。こうなるとどうしても考えてしまうのはフェンリルの進化の可能性。ただどう進化するかわからないんだよな。明日獣魔ギルドで確認してみるか。
その後、ナオさんからの指輪完成の知らせを受けてギルドに顔を出す。完成したのはファリーダとユウェルの指輪だ。
ファリーダの指輪は炎のデザインでユウェルの指輪は地竜がデザインされている。どちらも細かく作られていて、ナオさんの腕の高さに脱帽だ。告白は明日から順にしていこう。
ギルドに来たので、近況報告をルインさんとサバ缶さんに聞く。
「みんな、進化クエストに大苦戦中よ」
「エクスカリバーのクエストも失敗続きです。というかアクアスから先に進めないんです」
「川に何かいるんですか?」
「はい。まず先に進むためには貿易船の護衛クエストを受けさせられるみたいなんですけど、川はリンドブルムの巣窟らしいです。時間遅延をどんどん掛けられて大変だと言ってました」
リンドブルムがたくさん現れるのかよ。行きたくないな。次にウィザードオーブの偵察に行ってもらっている銀たちの報告を聞く。
「三人の話では現時点で動きはないようです。ただ町の雰囲気が普通なのに空気がぴりぴりしていると言ってました」
「それは三人ともですか?」
「はい。やはり戦争になるんでしょうか?」
「だと思います。ただ戦争をするにしても人は動かすと思うんですが、その動きはないんですよね?」
「三人によるとそうですね。ただ魔法の国ですから。転移や我々が知らない技術を使ってくる可能性があります」
そう考えるとわざわざ見つかるへまはしそうにないな。むしろこちらの偵察を見込んで油断を誘っているようにも見える。
「例の兵器のことは分かりますか?」
「ネットで探りを入れて貰いましたが壊れたままだそうです」
つまり本格的なゲリラ戦になる可能性があるわけか。面倒臭いな。次は俺の近況報告をする。
「…緋緋色金の鍛冶が出来るようになったのね」
「なっちゃいました。現在聖域の島で生産中です」
「…そうなるでしょうね…はぁ」
「どうするんですか? ルインさん。この武器が作れたら、恐らく進化クエストがだいぶ楽になりますが素材を買うとなるとクロウさんたちのお金で足りるんでしょうか?」
緋緋色金を鍛冶するための素材だ。現状ギルドで持っているのは俺だけ。そりゃあ、高価になる。
「足りるとは思うわ。ただそれに応じた鍛冶料金になるからプレイヤーが依頼出来るかが問題ね」
「あ、クロウさんたちは専用の鍛冶ハンマーがあるんですか? それがないと鍛冶出来ないみたいですよ」
「聞いてみるわ。へーパイストスは出来るのかしら?」
「桜花の安綱さんが持っているので、それを貸してもらって鍛冶をする感じですね」
これを聞いた二人は考え込む。
「安綱さんから鍛冶職限定のクエストが出るかも知れないですね」
「クロウに伝えておくわ」
次に国の話。まずはライヒだ。
「ローランは王女が殺された責任を取り、デュランダルを国王に返し、国を出たそうです。アストルフォはローランに付いて行き、オリヴィエはローランの願いを聞き、デュランダルの持ち主が決まるまで滞在する流れみたいですね」
うーん…どんどん有名NPCがいなくなっている気がする。俺からマーリンの警告を伝えて、ルインさんからはゴネスがだいぶ復興されてきた話を聞いた。
最後に修練の塔に向かう。選んだメンバーはセチア、ノワ、リビナ、狐子、千影を選んだ。共通しているのは空間歪曲が使えるところ。この前、見せた技を全員でするとどれだけ有効か試して見たかったのだ。今回は千影と共に挑む。
相手をしてくれた菅原道真は空間歪曲を虚空切断で潰してきた。今回分かったことは空間歪曲だけだと潰される可能性がある。まぁ、それでも空間歪曲を潰してばかりいると隙が生じる。俺の攻撃に対応した菅原道真は流石だが、黒竜解放を使った千影の攻撃には対応出来ず、斬り裂かれると俺は菅原道真の刀を弾き、斬り裂いて倒した。
「…ぬぅ。数が多いと厄介だな」
「しかし数が多いだけでは芸がないですね」
「だな。この前のように罠も設置すると更に厄介な技となるだろう」
菅原道真は完全に先生ポジションだな。俺的にはアドバイスを頂けるのは非常にありがたい。報酬も貰い、ログアウトするためにホームに帰る。
「「「「フルーツピザ、食ーべーたーいー!」」」」
「はいはい。明日作るから、寝させてくれ」
「「「「むー!」」」」
ということでリリーたちを振り切り、ログアウトした。




