#858 暗黒大陸の海情報とマーリンの警告
俺たちはまずエステルに向かい、リアム王に謁見する。
「遠路はるばる済まないな」
「いえ。謁見が遅くなり、すみませんでした」
「魔王軍と戦闘し、勝利したのだ。遅くなることは仕方あるまい。戦士にも休息が必要であることは理解しているつもりだ」
「その割には兵士の皆さんはお元気ですね」
歩いてくる途中でも兵士たちや国民の活気が伝わってきた。
「私も休息を取るように言ったのだがな。何せやっと魔王軍の支配から解放されたのだ。フリーティアや各ギルドから支援も受けているし、パラディンロード、桜花からも支援の話が来ている。暫くこの熱は冷めないだろうな」
支配から解放された人の熱気はこういうものなのかも知れないな。因みにエステルの状況は今回のイベント結果で難易度がベリーハードで成績が一番良かったところが反映されているらしい。つまり俺たちの結果だ。
この結果が支援している国がフリーティアという流れとなっているとサバ缶さんが言っていた。ここでリアム王から質問を受ける。
「そなたはこれからどうするつもりなのだ?」
「魔王軍と戦い続けると思います。ただ各国の軍隊をこの大陸に送り込めないみたいですので、狙うのは海になるかと」
イベントでは送り込めたのだが、終わると大人数は送り込めないみたいなのだ。プレイヤーは例外だけどね。まぁ、ここで軍隊を転移で送り込めたら、わざわざ別の大陸に設定している意味がないってことだな。
「海か…残念ながら我々は船を持っていない。ただいくつか助言をすることは出来る」
「なんでしょうか?」
「まず暗黒大陸の海全てを支配している魔王の名はレヴィアタンと言う。最強の魔王サタンの配下の中でも特に強いとされている四人の内の一人だ」
えーっと。この場合だと四人は恐らくルシファー、アスタロト、ベルゼブブ、レヴィアタンのことかな?悪魔は色々いて、大変なんだよね。
「そなたも戦って理解していると思うが、魔王たちに数はそこまで重要ではない。数より質を優先したほうが良いだろう。海の上では尚更な」
「船が転覆したら、勝負になりませんからね」
「そういうことだ。我々が言えることはこれぐらいではあるが、無論支援が必要とあらば我々は喜んで手を貸そう。今は手探りな状況だが、サルガタナスの都も修復をしてもらっている。休息の場所として使うといい」
「え? お城を移動させたりしないんですか?」
俺の質問にリアム王は頬をかく。
「その…なんだ? ここが妙に落ち着いてしまってな」
「我々がどれだけ言ってもこの有様なのです」
テグスターさんは呆れ顔だ。俺はリアム王の気持ちがわかる。ここはみんなが頑張って作ったお城らしいから愛着はかなりあるはずだからな。
「俺はこのままでいいと思いますよ? 俺たちにとって、ここがエステルですから」
「おぉ! わかってくれるか! そら、見ろ! テグスター!」
「タクト殿…」
テグスターさんに睨まれた。俺は思ったことを言っただけだ。睨まれても頑張ってとしか言えないな。
俺はその後、アーサー王と聖徳太子に面会した。アーサー王からは円卓の騎士が迷惑を掛けた謝罪があった。ここで折れたエクスカリバーがあれば、エクスカリバーの話を聞けるんだが、ないのでスルー。代わりに海の話をさせて貰った。
「確かに暗黒大陸に軍隊を送り込むためには海の攻略は必須だな」
「ただ我々はこれまでに何度もレヴィアタンと戦って来た歴史があり、その度に大敗して来ました。タクト殿はどうするお考えですか?」
ガヴェインに聞かれたので、答える。
「俺は暗黒大陸側とパラディンロード側からの挟み撃ちを考えています。これはまだまだ先の話ですけどね」
「なるほど、確かに一方向だけよりも勝率が高そうではありますね」
「ただどれだけ戦略を考えても海戦である以上、船が肝となる。レヴィアタンの攻撃に対処出来る船を作らなければ勝機はない」
「その辺は彼がなんとかしてくれると思うから心配無用さ。アーサー王」
マーリンめ。俺がゴフェルの木を育てていることを知っているな。それともレオナルドの手稿のことを言っているのか?
「どっちもさ」
うっざ!でもレオナルドの手稿に載っていた船とゴフェルの木を使えばかなりの船は作ることが出来るはずだ。まぁ、この辺りはノアと相談ということになるな。
「どうやら考えがあるようだな。それならば我々も海戦の用意をしておこう」
「レヴィアタンは動くだけで大津波を起こす魔王。巨大な防波堤を作らねば国に被害が出てしまいますからね」
どうやらレヴィアタンとの戦闘は船と防波堤が絶対条件みたいだな。しっかり覚えて置かないとな。そしてマーリンから助言を受ける。
「最近、ボクの未来予知が何者かに妨害されているから気をつけておくれ」
「…それはウィザードオーブの仕業か?」
「分からない。個人的にはウィザードオーブではないと思う。今までこんなことはなかったからね」
「つまりこの大陸にまた魔王がいるってことじゃないのか?」
「まぁね…ただこの大陸にちょっかいをかけている魔王は普通じゃない。強さというより、異質な感じがする」
異質?どういうことだろう?まぁ、普通の魔王ではないということなんだろうけど、よくわからないな。
「分かった…警戒しておくよ」
「うん。君はここで倒れるわけにはいかないから頑張っておくれ」
これでパラディンロードから離れて、桜花に向かう。聖徳太子からはやはり謝罪があり、今後の話をする。桜花から暗黒大陸に軍隊を派遣するためにはパラディンロードとは逆サイドの攻略となる。まぁ、大陸に転移して一緒に攻略する手もあるけどね。その話し合いをしてからはリリーたちのご褒美タイムだ。
「タクト~、栗取って~」
「む、難しいですね…この! いた!?」
「…今はノワの番。リリー、待て」
リリーたちは売られていた焼き栗に目をつけて、悪戦苦闘中。イオンはスプーンを滑らせて、手を痛めていた。俺も経験したことがある。ノワはリリーを犬と認識しているようだ。
「あぁ!? こら! ボクが取った栗を食べたら、ダメだよ!」
「シャー?」
「明らかに食べたよね!?」
「別にいいじゃない。それよりも私たちの分を食べないようにしないとダメよ? リビナ」
「酷い! というかこのままじゃあ、ボクはいつになっても食べられないじゃん!」
賑やかなことだ。リリーたちが悪戦苦闘している間に燎刃の私服を選んだ。
「ど、どうでしょうか? タクト殿」
「うん。可愛いと思うぞ。やっぱり燎刃には和服が似合うな」
「そ、そうでありますか?」
燎刃には朱色の落ち着いた小袖を選んだ。桜花の女性が普通に着ている服装でとても似合っている。燎刃の服を確認し、購入を決めた。
その後、焼き芋やさんまの炭火焼き、新米の煎餅などの秋の味覚を堪能したリリーたちである。着物があるせいか今回のご褒美は食い気に走ったな。安上がりで助かったが俺もリリーたちにご褒美を用意しよう。
俺が家に帰るとリリーたちはすぐにデザートの気配を察知した。いつものように机に一列に並んでいるリリーたちに燎刃が質問をする。
「皆さんは何をしているんですか?」
「タクトが美味しいデザートを作ってくれる時はここで待つ決まりなんだよ!」
「そう…なんですか?」
「「「「そうそう」」」」
そんな決まりはないはずだが、俺が振り返ると燎刃が加わっていた。まぁ、これで仲良くなるなら見守るとするか。
俺が作っているのはスイートポテト。焼き芋を見たから作ることにしたのだ。作り方は簡単で裏ごししたサツマイモに砂糖、牛乳、バターを加えて混ぜる。後はこれを楕円形に整えてから卵黄を上から塗り、オーブンで焼くだけ。オーブンは無いから俺はケーキ用の竈で焼き上げる。
完成品はこちら。
スイートポテト:レア度5 料理 品質B
効果:満腹度30%回復、魔力20回復
サツマイモに砂糖、牛乳、バターを混ぜて、焼き上げた洋菓子。焦げ目を付けるため、表面に卵黄を塗られており、見た目には配慮されている。
洋菓子といってもスイートポテトは日本発祥とされているお菓子だ。ただどこが発祥か不明だとバイトの店長が言っていた謎のスイーツだ。
「「「「おぉ~! 美味しそう!」」」」
「焼きたては熱いから気をつけて食べてくれ」
「「「「はーい! はふはふ…んん~! 美味しい~!」」」」
本当にいい笑顔で食べてくれるよ。すると空間転移でティターニアがやってきた。そして紙を見せる。
『私にもそれを下さい! くれないと拗ねちゃいます!』
「…お使いご苦労様。君の分も用意するから待っててくれ」
ティターニアがガッツポーズをする。まさか計算通りか!?俺がシルフィ姫様たちのスイートポテトを作っているとインフォが来た。まさかこのタイミングでウィザードオーブが動いたのか!?慌てて確認すると違った。
どうやらライヒ帝国で決闘イベントが開催されるようだ。これは他の国のプレイヤーは参加できず、優勝者にはデュランダルが贈られるらしい。つまりローランは死んでしまったかデュランダルを手放したということになる。
俺はそこまで関わりがあるわけではないが、サルワの時に話をしている。ただそれだけであの人の凄さを理解してしまうほどの強さがあった。ライヒとしては相当な痛手だな。
ライヒのプレイヤーからするとデュランダルゲットのチャンスだが、こうなると曹操と司馬懿の動きが気になる。あの二人は今までライヒといい付き合いをしていたがローランがいなくなったことで手のひらを返す可能性が出てきた。
今はまだワントワークとの戦争中だからすぐには動かないとは思うけど…どうなるか注意が必要だな。そんなことを考えながらスイートポテトを作った。それをティターニアに渡すと優雅に一礼して、空間転移でいなくなった。
ここで時間を確認する。どうやらクエストを一つやる時間はありそうだ。悩んだ挙句、俺はそば屋に向かった。
 




