#8 宿屋の料理とタクトの料理
リアルで昼食を済ませ、改めてログインする。部屋を出て、下に降りると店員さんに声をかけられる。
「今からお出かけ? ご飯はどうするのかな?」
言われてから気がついたが俺もリリーも満腹度はギリギリまで戦っていたので、レッドゾーンだ。それにゲームの世界の料理には興味がある。
「是非お願いします」
「任せて。空いている席に座っててね~」
俺達は言われた通り空いてる席に座り、料理を待つ。
「ご飯~ご飯~」
リリーがご飯と聞いてテンションが上がっている中、料理が来る。
料理を見た俺達の時間は止まった。料理は三品。それぞれ鑑定してみた。
芯があるゴメ(劣):レア度1 料理 品質F-
効果:満腹度10%回復
ゴメを炊くのに失敗した料理。
お腹を壊すことはないが美味しくない。
炭化したボア肉(劣):レア度1 料理 品質F-
効果:満腹度15%回復
ボア肉を焼きすぎた料理。
肉の味は無くなり、炭の味しかしない。
食べることは可能。
水汁:レア度1 料理 品質F-
効果:満腹度5%回復
水の中にぬこじゃらしを入れた料理。
ぬこじゃらしの味が水に溶け出している。
鑑定したら、鑑定レベルが上がった。
名前 タクト 召喚師Lv4
生命力 12
魔力 18
筋力 12
防御力 4
俊敏性 10
器用値 18
スキル
素手Lv1 蹴り技Lv3 杖Lv1 召喚魔術Lv3 錬金Lv1
採掘Lv2 解体Lv3 鑑定Lv1→Lv2 光魔法Lv2
だが待ってほしい。これはダメだろ!?
まずはゴメ……これは米と言いたいのだろうが白米ではなく玄米に近そうだ。ただし、鑑定にあるとおり芯がある。食べるには勇気がいるだろう。
次に炭化したボア肉……これは鑑定しなければ、黒い塊にしか見えない。食べ物なのか怪しいものだ。
最後に水汁……ツッコミどころ満載である。味噌汁と言いたいのだろうが、水の中にねこじゃらし……もといぬこじゃらしを入れただけである。もはや料理と言えるのか謎の一品だ。しかも現実ならねこじゃらしも色々いわくつきの植物である。ある意味、一番食べるのが躊躇してしまう料理だった。
「これを食べるの? タクト」
リリーが涙目で俺を見上げる。気持ちはわかるがそこで俺を見られても困る。出された料理は食べないとダメが俺の料理の師匠でもある人から教わったことだ。それに則るなら食べないとダメだろう。だが俺はこの世界の料理が全部こんななのか店員さんに聞いてみた。
「まさか。ちゃんとした料理店に行くとちゃんとした料理が出てくるよ」
「では、ここの料理は」
「あはは……。まぁ、不思議に思うよね。ここも昔は料理スキルを持った子を雇っていたんだけど、料理スキル持っている子はお店出したほうが儲かるからいなくなっちゃったんだよ」
なるほど、それで宿屋の料理は料理を知らない人が作っているという話だった。現実でもゲームでも切ない世の中だぜ。だが、そこで俺は提案してみた。
「調理場を貸して貰うことって出来ませんか?」
「え? できるけど……お客さん料理できるの?」
「料理スキルはないですけど、ボア肉がありますから」
「なるほどね。じゃあ、特別に許可してあげるよ」
おぉ。言ってみるものだ。しかし特別な許可って普通店長がするものだと思うが。
「あたしが店長のモッチだよ」
店員さんは実は店長だったわけね……。とはいえ許可を貰ったので、調理場へ案内してもらう。するとそこには普通の調理場があった。正直ボロボロをイメージしていた……。ごめんなさい。
蛇口をひねれば水が出る。昔の木のまな板や包丁、木のボール、フライパンなどがある。そして調味料を発見した。なんと塩である。これならボア肉がなんとか料理できそうだ。俺はエプロンを貸してもらい、料理を開始する。
インベントリからボア肉を取り出すとブロック肉の姿でまな板の上に現れる。これは血抜きしないとダメだな。
まずはボールに水を張る。次にボールの中に塩を入れて準備完了。俺はボア肉を塩水で満たしたボールの中でモミ洗いする。するとボア肉から血がドバドバ出る。こういうのがダメな人間はアウトだろう。ちゃんと設定でこういうグロは見えなくすることが出来るのだが、生憎俺はバイトで慣れているからそのままだ。
血が出なくなるとボールから取り出す。本来なら臭みをさらに取るためにいろんなものに浸したりするのだが、塩しかないのでそれは出来ない。次はボア肉を厚さ5ミリで切っていき、それが終わるといよいよ焼きに入る。店長の火魔法で火をつけてもらい、フライパンでボア肉を焼いていく。猪肉なので、しっかりと両面焼いていく。最後に塩で味付けをして完成である。
そうして出来上がったのがこちらです。
ボア肉の焼肉:レア2 料理 品質F-
効果:満腹度25%回復
ボア肉を塩で味付けし、焼いた肉料理。
血抜きがしっかりされており、普通のボア肉より美味しい。
血抜きや塩の味付けまで説明に載るんだな。さて、じゃあ味見を……。
「「じー」」
食べようとしたら、店長もといモッチさんとリリーの視線攻撃を受けた。リリーに至ってはヨダレを垂れ流している。
「えーっと……食べる?」
「「食べる!」」
二人はそう言うと俺の焼いた肉を一口食べる。俺も食べてみる。
「「美味しい~!!」」
二人がそう言ってくれる。それだけで作った甲斐があったというものだ。俺の感想はやや残念という評価。やはり現代の料理と比べるとどうしてもまずくなる。ただ、猪肉独特の臭みが好きな人からすれば、ちょうどいいのかもしれない。するとインフォが流れた。
『料理スキルが解放されました』
ありゃま、料理スキルが解放されちゃったよ。料理スキルが取得できるようになったわけだが、戦闘向きのスキルじゃないことは明白だ。取得に必要なスキルポイント3pt。魔法より高いんかい。