#855 修練の塔
俺はギルドに顔を出して、修練の塔があるルインさんの島に向かった。
俺が塔に入ると予想外の人が現れた。
「久しいな。少年よ」
菅原道真だ。
「え? 死んだんじゃないんですか?」
「元々死んでいる。今回桜花の地獄から脱走した私は閻魔から罰を言い渡された。それがこの修練の塔で人間たちを鍛えよという罰だ」
「…え? それって、罰なんですか?」
「閻魔曰く罰らしいな。まぁ、お前たちに迷惑を掛けた分の罪滅ぼしはしてやるさ」
なんかこのまま俺たちを特訓したことで神様になりそうだな。
「さぁ、好きな階と訓練したいものを選ぶがいい。高いほうが難しくなっているがその分、報酬が多いからな」
詳しく聞いてみると訓練したい項目で訓練相手が変化するようだ。例えば騎乗戦の修練をしたければ平将門、魔法戦は滝夜叉姫、本格的な実戦は菅原道真となっているようだ。
みんなから難易度マックスに挑んで欲しいとか言われているんだよな。
「最上階の五階で相手はあなたでお願いします」
「そう来なくては」
俺は塔の最上階に向かう。選んだメンバーはイクス、ブラン、ゲイル、狐子、伊雪だ。
「はぁ…はぁ…助かりました。主」
「セフォネは見境なさすぎよ。普通、私たちまで狙う?」
「ふぅ~…見境が完全に失くなってましたね」
あぁ~…忘れてた。どうやらずっと暴れていたみたいだ。
「今からあの人と戦うんだが、行けるか?」
「問題ありません」
「イクスは血が無いから狙われていませんでしたよね? すみませんが少し休ませて下さい」
「いいぞ」
ブランたちの息が整ってから挑む。俺の武器は迅雷と神息。ブランにはブリューナクを持たせる。完全に本気だ。それを見た菅原道真は嬉しそうだ。
「ふふ…そう来なくてな! では、行くぞ!」
菅原道真の姿が消えた。
「ッ!? 抜打!」
背後に現れた菅原道真に抜打を放つと同じ頭でガードされた。やばい…押し込まれる。
「いい反応だが、甘い…ッ!?」
菅原道真が急に飛び退くと菅原道真の背後から光の剣が襲いかかった。
「お父さんは簡単には倒させませんよ」
光の剣は伊雪の手から発生している。光の剣が地面に触れると地面が溶解する。あれが白熱刃か…こわ!しかしそれでビビる菅原道真ではなく、伊雪に斬りかかるがそれよりも先に狐子が仕掛ける。
「狐技! ナインテイル!」
九つの尻尾が伸びて菅原道真に襲いかかる。これを菅原道真は切り裂くが全てを捌ききれず、後ろに下がる。
「後衛だと思っていたが中々やる」
「ガァアア!」
「ぬぅううん!」
ゲイルが口から荷電光線を放つと菅原道真は斬り裂き、ゲイルとの間合いを詰めようとする。
「焼失弾! 鬼火!」
「っ! はぁああ!」
「天波動!」
そこに狐子が両手に作った真っ赤な弾を周囲に展開した鬼火と共に投げつけ、それらが念動力で自在に動き回り、菅原道真に襲いかかるが菅原道真は身体を回転させ、全てを斬り裂いた。そこに伊雪からの天波動が飛んできたが、これを菅原道真は回避しつつ、俺たちに向かってきた。
「ガァアア!」
「甘いぞ!」
ゲイルが飛びかかってきたところを菅原道真はカウンターで斬り裂こうとしたが刀がゲイルの身体を傷つけることはなかった。
「硬いな」
更にイクスとブランが襲いかかる。やはり警戒するのはブリューナクで菅原道真は刀でブリューナクを弾き、イクスの進化したツインエネルギーブレードの攻撃を仰け反る形で回避しようしたがイクスはそれを読み、仰け反る菅原道真をテイルエネルギーガンで撃ち抜いた。
「く…いい読みだな。面白い」
菅原道真がイクスに襲いかかるとイクスは菅原道真の攻撃に全て対応する。その光景を見て、俺は確信した。イクスは菅原道真の全ての行動を完全に掌握している。恐らくは行動予測と量子演算のせいだ。
菅原道真はイクスが知らない動きをしているのにそれを予想し、そこから先の動きまで完全に見切っている。まるで人間がコンピューターには勝てないと証明しているかのような圧倒的な強さだ。まだ装備が全然万全じゃない状況でこれだ。揃った時は滅茶苦茶だろうな。
更に弾かれたブリューナクを戻したブランとゲイルまで参戦する。
「時間遅延! 光閃! 三連星!」
「光閃!」
「ガァアア!」
「転瞬!」
ブランの光速の三連撃の突きを菅原道真は全て光閃で防ぐ。すると背後から爪の形となった荷電粒子を発生させたゲイルが襲いかかる。流石にこれは受けれないと判断したのか、菅原道真は横に飛び上がる転瞬で躱す。
イクスはその行動を読んでいた。地面スレスレを背面飛行しながら、菅原道真を狙う。イクスの胸が開くと砲身が姿を見せた。
「何!?」
「神波動!」
イクスの神波動が命中するがイクス本人も神波動の反動で地面に背中をぶつけてしまう。
「私に結界を使わせるとはな…疾風突き!」
「させません!」
菅原道真は結界で攻撃を防いでいた。本当に菅原道真はなんでも出来るな。菅原道真はダメージを受けたイクスに疾風突きを放つがブランが守りに入った。そしてゲイルが攻撃に加わる。
俺は今の内に狐子と伊雪にあるお願いをして、準備をする。さて、俺が考えた技はうまく成功するか実験だ。ブランの盾でのガードを踏み台にして、菅原道真は俺たちに向かってきた。
「雷竜解放!」
俺はこれを迎え撃つ。行くぜ!俺たちの新たな必殺技!
「空間歪曲!」
雷竜となった俺は空間歪曲に飛び込む。
「後ろか! 飛梅!」
菅原道真の背後の空間歪曲から現れた俺の狙いは菅原道真ではなく、狐子が作った空間歪曲に入る。
「何!? ぐ!?」
飛梅で放った斬撃は空間歪曲を斬り裂くと伊雪が設置した水鏡まで切断してしまい、菅原道真は自分の飛梅を食らってしまう。その隙に雷竜解放状態の俺が狐子の空間歪曲から飛び出して、菅原道真を斬り裂いた。
「私の負けか…面白い技を考えたものだ」
「本当はもっと空間歪曲を出せたら、良かったんだけどな」
俺は現在入口と出口の二つしか空間歪曲を作り出すことが出来ない。ゲイルも覚えているが戦闘中だったから使えなかった。これがもっと増えると単身でさっきのようなことが出来ることになる。
「ならば鍛えることだ。練習相手ならば私がしてやる。遠慮せずにこの塔に来るといい。これが報酬だ」
修練の宝玉:レア度10 通常アイテム 品質S
効果:スキル経験値(究)
上げたいスキルに経験値を与えるアイテム。
これを五つも貰えた。
「ありがとうございました」
イクスに背中をぶつけてしまったことを抗議されながら、俺たちが帰ると家の中で恋火と和狐、ユウェル、アリナが倒れていた。セフォネの犠牲者だ。
「うぅ…進化してないあたしたちを狙うなんてずるいです…」
「勝目がありまへん…」
「丸くなっているのに…」
「部屋の中じゃ満足に飛べないの…」
あぁ…セフォネにやられたのか。すると怨念が篭った声が聞こえてきた。
『タ~ク~ト~』
『どこに! 行っていたんですか!』
『…セフォネを放置したにぃの責任は重い』
動けないリリーたちまで襲ったみたいだ。これはセフォネを怒らないとダメだな。
「セフォネはどこにいるんだ?」
「家中散らかした罪でみんなと一緒にキキさんのお叱りを受けています」
「あぁ…なら俺は寝るとするか」
俺は燎刃を呼んで一緒に寝て、ログアウトした。




