#851 最後のドラゴニュート
テスト勉強を終えて、お昼を食べた後にログインする。名目はリフレッシュだ。
俺は最初にギルドに顔を出すとまたドラゴニュートが増えていた。俺もこれから召喚する予定だから人の事は言えない。俺はサバ缶さんとルインさんに白鳥について聞く。
「白鳥ですか? 残念ながら聞いたことないですね」
「いるとしたら、桜花でしょうけど…私も聞いたことはないわ」
「そうですか…因みに現実での白鳥ってどこにいますか? なんとなく北海道のイメージがあるんですけど」
「新潟県が有名だったと思います。確か瓢湖という人工的に作られた湖がハクチョウの飛来でラムサール条約に登録されているはずです」
ラムサール条約は湿地の保存に関する国際条約らしい。これも地理や歴史の勉強だ。テスト範囲じゃないけどね。
「新潟か…」
今、俺がいるのが長野県だとすると新潟県はその上に位置している。ただ長野県は大きいんだよな。
「遠そうだな…」
「しかも人工的に作られたところですから本当に桜花にあるのか謎です」
「東京や埼玉にも来たことがあるはずだけど、報告にないということはいないんでしょうね。一応見つかったら、教えて上げるわね」
「ありがとうございます」
その後、少しギルドの話をする。
「クラスチェンジクエストは失敗者が続出ですか…」
「えぇ。全然手加減してこないアーサー王とマーリン、ローラン、ロビン・フッドにやられているわ。召喚師たちもオリジナルNPCに惨敗しているわね」
ケストル、容赦ねー。最も俺が戦ったのとは別の存在らしいけど、話を聞くとクエストの内容は変わっていないらしい。俺のようにバトルが苦手だとすると召喚獣をどれだけうまく使えるかが鍵になりそうだが、話を聞く限りだとかなり厳しいみたいだな。
他にも気になる話を聞いた。どうやらライヒ帝国のお姫様がイベントの結果、行方不明となっているそうだ。これによって、アストルフォとオリヴィエさんがフリーティアを離れることになったらしい。
「イベントではローランが怒り狂ったそうですからね。最も単身突っ込んだだけで勝たせて貰える相手ではなく、詰んだみたいです」
「私たちとしては戦争前の戦力ダウンとなってしまった形だけど、仕方ないわ」
「俺はむしろゾッとしますよ。これってアンリ姫様やリーゼが亡くなる可能性があったってことですよね?」
「そういうことになるわね。ただ普通の流れは誘拐された姫様を魔王たちから助ける王子様的なイベントだったみたいよ?」
ごめんなさいね。流れをぶっ壊してしまってさ。俺はみんなの健闘を祈りつつ、獣魔ギルドに向かった。出迎えてくれたのはアウラさんだ。
「待ってたわよ! タクト君! あら? リリーちゃんたちは?」
「部屋で寝込んでいます」
「あぁ~…あの竜化の代償ね。ん? つまり三人は今、動けない状態ということ?」
「何を考えているんですか…絶対に乱入したらダメですからね」
今頃は退屈しているんだろうけど、アウラさん投入は刺激が強すぎる。
「そ、そんなことしないわよ~…ということは今日の用件はドラゴニュートの召喚ね。それじゃあ、アドバイス。火のドラゴニュートを召喚したいなら火属性の魔石を用意するといいわよ」
あ、それで属性の調整が可能なんだった…ということはアリナの時は確率で悩む必要はなかったわけで…まぁ、いいや。節約出来たと考えよう。
俺は一度屋敷に帰って、普通の島から炎性石を二つゲットして、魔石生成で炎魔石を作製した。そして改めて、召喚の間に向かう。
「姉さんは仕事して下さい」
「これも重要な仕事」
「じゃないです。たくさん人が来ているんですから、早くこっちに来る」
「あぁ~ん! タクト君の新しい火のドラゴニュート~」
最後までアウラさんはブレないな。
召喚の間に入るとユウェルとアリナを召喚する。
「潜入成功だな!」
「無事に来れたの~」
二人はアウラさんの事をリリーたちから聞いて、対策を講じた。
さて、俺は魔方陣の上に炎魔石とドラゴニュートの召喚石を置く。これで準備完了。それじゃあ、これが最後のドラゴニュートの召喚になるはずだ。行ってみよう。
「魔石召喚!」
炎魔石とドラゴニュートの召喚石が魔方陣に吸い込まれて、魔方陣が赤く輝く。よし!召喚成功だ。魔方陣から火柱が上がり、その中から真っ赤なサイドテールのドラゴニュートが姿を見せた。するとインフォが来る。
『ドラゴニュートの召喚に成功しました。おめでとうございます! 全ての属性のドラゴニュートの召喚に成功しました。称号『ドラゴニュートサモナー』が称号『ドラゴニュートマスター』に上書きされました』
遂にマスターになったか!今はそれよりも目の前の子だ。目を開けると綺麗な赤で目つきは厳しめ。さて、どんな子かな?
「…火のドラゴニュート、召喚に応じた。某を召喚したのはあなたですか?」
そ、某?この子は武士か侍系なのか?だとしたら、恋火と被りだな。まぁ、個人的には嬉しいけどね。火のドラゴニュートは全体的に気が強い傾向があるそうだ。流石に女王様や花火ちゃんとは違うタイプみたいだけど、とにかく話しかけてみる。
「あぁ。召喚師のタクトだ」
「タクト殿…良い名ですね。では、タクト殿。某に名を」
みんなが色々な名前を付けるから色々調べて来たんだけど、和名ならもう決まった。
「燎刃なんてどうかな?」
「燎刃…失礼ですがどういう意味の名でしょうか?」
「俺たちの希望の刃になって欲しいって感じかな?」
燎には激しい炎の意味もあり、チェックしていた。ただ女の子の名前で最後に刃という字が気に入るかだな。
「希望の刃…燎刃」
「どうだ? 嫌なら別のを考えるけど」
「それには及びませぬ。とても気に入りました。ありがたく燎刃の名を頂きます」
決まって良かったが硬いな。みんなと関わって、硬さが抜ければいいんだけど…取り敢えずステータスを確認しよう。
名前 燎刃 ドラゴニュートLv1
生命力 24
魔力 26
筋力 44
防御力 26
俊敏性 28
器用値 40
スキル
素手Lv1 刀Lv1
あ、あれ?スキルは最初のリリーと同じ数だが、ステータスが滅茶苦茶高いぞ。確認すると原因が判明した。称号だ。
称号『ドラゴニュートマスター』
効果:ドラゴニュートの全ステータス+20
全ての属性のドラゴニュートを召喚した者に与えられる称号。
この分を差し引くとステータスはリリーよりも生命力と魔力が低く、代わりに筋力と器用値が高い。リリーよりも近接戦に特化している感じだ。
「それじゃあ、まずは家に行こうか」
「はい! あ」
「おっと」
躓いた燎刃を抱きとめる。アリナの再来だが、今のはわざとじゃなかったな。
「す、すみません! 某、腹を切ってお侘びを」
「そんなことをするのは禁止だ。これから燎刃も俺の大切な仲間なんだから命は大切にしてくれ。わかったか?」
「は、はい! わかりました!」
うん。大丈夫そうだな。
「普通に躓くドラゴニュートがいるなんて完全に予想外なの…」
「アリナはわざと躓いていたからな!」
「わざわざ言わないで欲しいの!」
「あ、これが俺の仲間のユウェルとアリナだ」
二人を紹介して、外に出る。するとアウラさんに見つかった。
「ドラゴニュートが三人も!」
「まずい!」
「食べられちゃうの!」
「た、食べられる!? て、敵!?」
この状況で戦おうとする燎刃はガッツがあるな。
「敵じゃないから大丈夫だ。行くぞ」
「は、はい!」
家に行くとリリーたちを紹介するために休んでいるリリーたちを召喚する。
「リリー、入るぞ」
「ど、どうぞ」
ん?なんかいつもと違うな。俺たちが部屋に入るとリリーがこちらを見る。
「いらっしゃい。リリーが一番の年上のドラゴニュートです」
誰だ!
「…すまん。部屋を間違えたようだ」
「帰らないで! タクト! ここはリリーの部屋だよ!」
どうやら少しでもいいお姉ちゃんをアピールしたかったらしい。
「そんなことしてもすぐにバレるだろうが…」
「だって~」
「くす…二人は仲がいいんですね」
「あぁ。ずっと一緒に冒険してきたからな」
その後もイオン、ノワを紹介し、他のみんなも紹介する。
「この子が最後のドラゴニュートなのね」
「あたしと似ている気がします!」
「良かったどすな? 恋火」
「はい! よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします!」
みんなともやっていけそうで良かった。さて、ここでへーパイストスとパンドラ、和狐、ユウェル、伊雪を呼ぶ。燎刃を見ているとどうしても武将の姿が頭を過ぎるんだ。注文をしていないし、ここらで注文をしてみたい。
「燎刃さんの防具に甲冑ですか? それって謙信さんたちがつけている防具のことですよね?」
「あぁ。兜は取り敢えずいいから他の所をみんなで協力して作ってみてくれないか?」
「兜は作らないのか!? かっこいいのに…」
ユウェルは兜が欲しいらしい。
「それならユウェルと伊雪でユウェルの甲冑を作ってみるか?」
「流石タクだ! 凄くかっこいいのを作ってみせるぞ!」
「これは勝負ですね。ユウェル」
「む! 負けないぞ! 師匠とパンドラに勝ってみせる!」
「パンドラとお父さんは絶対に負けないよ!」
素材はお互いにドラゴンメタルを基本にそれぞれにあった素材で作ることが決まった。盛り上がっていると家のチャイムが鳴った。
というわけで最後のドラゴニュートは正義心と忠誠心が強いドジっ子侍の燎刃です。ドラゴニュートの武将のようなキャラを書いてみたくて、選びました。現時点ではまだ召喚の余裕はありますが燎刃が最後の召喚の予定です。
もうここまで来たら、他のも召喚するかという気持ちにもなっていますけどね。物語の進行によって、変化すると思います。




