#840 サルガタナスの都、西城門の戦い
東側と同時刻。西側を担当していたトリスタンさんたちも攻略に動いていた。最初に動いたのはサバ缶さんだ。
「マッカレルオン! 降臨!」
相変わらずマッカレルオンを出すとハイになるサバ缶さんだが、今日は壊される危険性があるから冷静だ。
「出力25%! 集束ビーム砲、撃てます!」
「目標敵部隊!」
「ターゲットロックオン完了!」
「マッカレルビーム砲! 発射あああ!」
いきなりの攻撃で敵部隊が消し飛ぶ。そこでマッカレルビーム砲が触れた地面が爆発したのを確認した。トリスタンさんたちが分析する。
「地雷ね…」
「流石狩人の悪魔でござるな。トラップはお手の物でござるか」
「問題はどんなトラップがあるかですね」
「通常の敵もいますし、作戦通り行きましょう」
トリスタンさんたちが前に出ると敵と激しい銃撃戦となる。まるで現実世界の戦争を思い起こさせるような戦いになっているがトリスタンさんたちは物凄くこの戦いに慣れていた。まずはニックさんたちが仕掛ける。
「「「「壁錬成!」」」」
これで平地に隠れることが出来る壁が作られた。雪合戦などでもそうだが、平地での銃撃戦は壁などの障害物があるとないとではかなりの差が出る。
更にクロウさんたちとユグさんたちの共作である移動式の鉄の壁で隠れながら攻撃をしつつ、距離を詰めていく。
安全を確保したら、ニックさんたちが前に出て、銃弾を補充し、再びトリスタンさんたちが欲しいところに壁を作る。完全にこういうゲームに慣れている者の動きだった。
一方で忍者たちやソロプレイヤーたちはアクロバティックな動きをして、敵を翻弄していく。この辺りは流石トッププレイヤーと言うべきだろう。ここでサバ缶さんから通信が来る。
『マッカレルオンが狙われています! 誰か援護を! 援護をしてください!』
『シールドがあるんでしょう? 頑張りなさい』
『装甲も自慢してたじゃないですか。オートマトンとダークエルフもいるんですから頑張ってください』
味方がいなかった。因みにダークエルフたちは援護をしてくれてはいるが、マッカレルオンを壁として使っていたりする。俺たちも散々ゴーレムたちを壁として使ってきたから文句は言えないな。
ここまではある程度、順調に進んで来たが先行している忍者たちに異変が起きた。
「ぬわ!?」
「ぐわ!?」
「ぎゃ!?」
罠を踏んだ火影さんたちにしなった竹が飛び出し、股間に直撃した。これは痛い。
「きゃ!?」
「なぁ!?」
「これどうなっているのぉおお!?」
更に香子さんたちも足が縄に捕まり、空に吊るされる。これは本来木などがないと作れないトラップのはずだ。それを知っている香子さんはすぐに対応する。
「はぁああ!」
吊るされた状態で身体を回転させると手裏剣を全方位に投げる。すると手裏剣が何もない空間に刺さる。
それを見たトリスタンさんがダイナマイトを投げると爆発し、透明になっていた木が折れる。これで香子さんたちは脱出できたが敵の銃撃を受ける。それを変わり身の術で回避、壁に隠れる。香子さんが透明になっていた木を識別する。
迷彩魔木?
? ? ?
どうやら木のモンスターのようだ。
「アローレイン!」
トリスタンさんがエギルの弓でアローレインを使うと矢が空間に突き刺さり、その矢が動く。どうやらこの透明の木は動くようだ。分かるうちに火矢で仕留めると全員が壁に隠れる。ここで情報を共有する。
「罠察知スキルや危険予知スキルが反応しなかったのか?」
「そうで…ござる。それにあの罠は…つつ」
「言うな。分かるから」
火影さんたちは一度後ろに下がる。
「遂に察知スキルをすり抜ける罠が出てきたわね。ま、予想通りではあるのだけど」
「ここからは虱潰しに罠を破壊していくしかないですね」
「とにかくボスへの進路上の罠を排除して行きましょう」
全員が爆弾を持って、連携して爆弾を投げることで罠を破壊していく。対する敵はバズーカを持っているマールス・アーティレリーが前に出てきた。
「バズーカが来たわよ。援護お願い!」
「「「はい!」」」
バズーカを与一さんのパーティーが魔導銃で撃ち落として、確実に城門へと進んで行くと敵部隊が北側に動いた。フリーティアの騎士たちが来たからだ。この結果、敵の戦力が更に減少し、遂に城門間近まで攻め込むことが出来た。すると城門から砲撃が飛んでくる。
「全員一時退避!」
全員が回避行動を取ると何人かのプレイヤーが何かに撃ち抜かれる。
「な…ぐぁあああ!?」
「しっかりしろ! 薬だ! ぐわ!?」
「狙われているわ! 隠れて!」
トリスタンさんの指示で鉄の壁に隠れる。
「ふぅ…これで安心…へ? ぎゃあああ!?」
「く…これは壁をすり抜ける透明の矢!? とにかく距離を取るわよ!」
「「「「おぉ!」」」」
全員がかなりの距離を取ったところで安全を確保する。
「…なんでした?」
「弓矢よ。刺さっているのを確認したから間違いないわ。それにノワちゃんが使う黒死病効果も確認した。流石ボスなだけはあるわね…」
トリスタンさんが犯人を識別する。
ゾレイ?
? ? ?
ボスの姿は緑色の服を着た悪魔だ。漆黒の弓を持っていた。
「あらら~。判断力いいな。流石ここに俺がいるとわかった上で挑んで来るだけはあるか~。けどよ。この状況、どうするよ?」
ゾレイに近づくためには城門からの砲撃と周囲の敵からの攻撃を対処しなければならない。これはかなり厳しいがトリスタンさんたちは作戦を決めて、機会を待つ。
するとフリーティアの騎士たちが敵を突破し、側面から城門に攻め込んで来た。
「ち…そういうことかい。仕方ねーな」
ゾレイが城門の大砲と敵の半分をフリーティア騎士団に向けるとトリスタンさんたちが一斉に飛び出す。
「ま、そう来るよな。けど甘ーんじゃねーの!」
ゾレイの正確無比の矢が飛んでくる。
「「「「影分身!」」」」
忍者たちが影分身を矢にぶつける。
「そう来るかい。なら、サウザンドレイン!」
無数の矢が飛んでくるとニックさんたちが後方で錬金術を使う。
「「「「壁錬成!」」」」
「「「「壁錬成!」」」」
巨大な壁が作られると更に敵の城門に向けて壁錬成が使われ、プレイヤーとゾレイの上に鋼鉄の橋が作られた。この結果、矢が弾かれる。この戦術は跳ね橋にも有効だと考えていた。橋が無ければ作ればいいって感じだ。
このことから錬金術師は砦攻略にかなり強いことが予想されるが今回は、金属の壁が最重要なこの戦場に選ばれた。
「上手いな! はは、楽しくなっちまうじゃねーの! なら俺も切り札を使うとしますかね!」
ゾレイが弓矢を手放すと手が大口径の銃に変化する。
「そんなのありでござるか!?」
「怯むな! ここで決めるんだろうが!」
「わ、わかっているでござる!」
ソロプレイヤーたちと忍者たちがアクロバティックな動きで狙わせないようにするがゾレイは正確に狙ってきた。ゾレイの銃は威力が凄まじく手足に当たると吹き飛ぶ火力があった。その結果トリスタンさんたちは手足を失った。
そこにゾレイが歩いてくる。
「ま、俺にこの銃を使わせただけでも誇っていい…ッ!?」
ゾレイは危険を察知する。銃士たちには一撃必殺のタスラムがある。橋を作ったのは弓矢と砲撃を防ぐ意味合いもあるが一番はゆっくり歩いていたマッカレルオンのビーム砲に隠れていたタスラムを持つ与一さんを隠すためだった。
「これで終わりです!」
「甘ぇー!」
ゾレイの銃から魔力が集束し、巨大な魔素の弾が放たれる。その弾は橋を破壊し、タスラムの弾丸とぶつかると超爆発する。
「ふー…あぶ…ッ!?」
ゾレイが安心した瞬間、レールガンの弾丸がゾレイの胸に命中し、ゾレイは衝撃でぶっ飛ぶ。
「切り札は多い方がいい…本当にタクト君の言う通りね」
トリスタンさんの手にはゴールデンイーグル改が握られていた。するとゾレイが起き上がる。
「へ…物騒なもんを隠している嬢ちゃんだ。けど、残念だったな。狙うなら顔さ。何か仕込んでいるんだろうけど、これでも狩人の悪魔。解毒の術は知っているし、聖水も俺には効かな…ぎょわぁあああああ!?」
ゾレイがなんとも間抜けな声を上げた。
「ちょ、ちょい待て!? なんだこれ!? 何を仕込みやがった!? 焼けるぅうう!? 聖水のダメージじゃねーぞ!? はぁあああああ!?」
ゾレイがエビ反りになったりして、もがき苦しむ。
「あら? さっきの自慢もタクト君とセチアちゃんが作った成仏神水には形無しのようね」
「なんだ!? その物騒な水の名前は!?」
「さぁ? 私は詳しく知らないわ。ただもし使うなら試して欲しいとお願いされただけよ」
というわけで俺が答えよう。まずゴールデンイーグル改の銃弾の中に仕込んだのはこちら。
成仏神水:レア度10 素材 品質S
効果:悪魔特攻(究)、霊特攻(究)、魔素分解、浄化、退魔、魔素祓い、神聖ダメージ(究)
ヒソプ、バーベナ、浄化草、蓮の花を乾燥し、ブレンドしたものを聖水に抽出することで完成した神の水。人間は飲むことが出来るが悪魔や霊が飲むと聖水を遥かに凌駕するダメージが発生するので、注意が必要。
この注意を完全に無視して使用したわけだ。命名は俺。説明と蓮の花を使ったことでこの名前にした。まぁ、ゾレイの様子を見るととても心安らかに成仏出来るような代物じゃないみたいだが、問題ないということにしよう。
「くぅうう!? はぁ…はぁ…よし。だんだん慣れてき」
ゾレイの顔に銃口が突きつけられる。
「片腕を狙うんじゃなくて顔を狙ったほうがいいわよ?」
トリスタンさんが引き金を引くとゾレイの顔が消し飛び、インフォが来る。
『ゾレイを討伐しました。西の城門の結界が解除されました。残りの結界は一つです』
トリスタンさんが倒れる。
「やっぱりゴールデンイーグルは反動が凄いわね…」
「お疲れ様です。流石ですね。トリスタンさん」
「香子さんも色々助かったわ」
「そう言ってもらえると良かったです。しかしこれでは戦えないですね」
みんなボロボロだ。トリスタンさんや香子さんは片腕を失っただけで戦えないこともないけど、流石に命を優先した。無事だった与一さんたちはフリーティアの騎士団と共に南側の戦闘に向かった。




