#837 開戦の狼煙とケツァルコアトル
時間を少し戻す。俺たちはご飯を食べて、万全の準備を整えているとレッカからの合図を見て、まずは俺たちが先陣を切る。俺たちが陣取っていたのは、サルガタナスの都の北側。ここを守っているのはゼパルだ。
不意打ちをされて、腕を斬り飛ばされた恨みを俺は忘れてはいない。というわけで仕返しを決行する!
「開戦の狼煙だ。派手に行こう! セチア!」
「はい! タクト様。私の星座魔法。ご覧ください! 星座魔法アルゴ!」
遅延魔法でストックされた星座魔法が発動する。天に魔方陣が描かれて、現れたのは数々の英雄を乗せたアルゴー船。その船の大砲が一斉に火を噴き、地上の敵を吹き飛ばす。
更にまだまだ行くぜ!俺が構えるのは文明神竜の封印杖!
「封印石召喚! こい! ケツァルコアトル!」
天空に燃える星が生まれるとその中から蛇タイプのドラゴンが顔を出し、地上に降臨する。
文明神竜ケツァルコアトル?
? ? ?
これで俺は倒れるとソーマ酒を飲みダーレーとルーナから魔力の譲渡を受ける。そして千魔悪龍の封印杖を取り出す。
「封印石召喚!」
非常にご機嫌なアジ・ダハーカが降臨する。
『ハハハ! 見渡す限り獲物ばかりだな! 我らが目に狂いはなかった! さぁ、来るがいい! 悪魔どもよ! 我らが名は千魔悪龍アジ・ダハーカ! お前たちを超えた悪である! 貴様らが悪だと言うなら我らを倒してみせよ!』
アジ・ダハーカにケツァルコアトルが話しかける。
『ご機嫌ですね。悪龍よ』
『貴様もそうだろうが。この見渡す限りの敵ばかりの状況ドラゴンならば燃えない奴はいまい?』
アジ・ダハーカの声に頷くリリーたちと一人否定するアリナがいた。俺はまた倒れて、ソーマ酒を飲み、ルミから魔力の譲渡を受けると回復しきれなかった分と譲渡して貰った分の魔力をMPポーションで回復して、エントラストでみんなに魔力を返した。その間に二匹の会話は続く。
『このまま奴らを消すのは容易いが、いささかつまらん。どうだ? ケツァルコアトルよ。我らと勝負でもせぬか?』
『太陽である私にあなたたちが勝てると思っているんですか?』
『その挑発は了解と取ったぞ! ケツァルコアトル!』
あーあー。二匹が競争を始めちゃった。空から巨大隕石や地面を溶岩に変えてしまうほどの光線が次々降り注いでくる。
「元気がいいドラゴンさんたちですね。タクト様」
悪魔やゾンビが次々木っ端微塵になる光景を見ての感想がこれだとは流石シルフィ姫様と言うべきか。
「そうですね。ルーナ」
「はい!」
ルーナがブラギの竪琴で演奏をする。
「綺麗な音色ですね。サラ」
「それは同意するが、少しは悪魔たちに同情したらどうだ?」
「俺も姫様に同意見だ。アジ・ダハーカだけでフリーティアはつぶされそうだったってのに更に追加するとか…容赦なさすぎだろう」
「「それがタクトだよ(さんです)!」」
リリーとイオンの純粋な気持ちなんだろうけど、ちょっと複雑。するとリリーが反応する。
「来るよ! タクト!」
アジ・ダハーカとケツァルコアトルは悪魔たちでは止められない。ならば狙うのは当然召喚した術者だ。空間歪曲で現れようとしていたマールス・ロイヤルパラディンが虎徹の虚空切断によって、斬られる。
更に別のマールス・ロイヤルパラディンは現れた瞬間、コノハによって、地面に叩きつけられると凍り付きアリナが清月の苦無を投げつけて、放電をお見舞いして倒す。
別のマールス・ロイヤルパラディンがアリナに襲いかかろうとすると何者かに潰され、またある者は空間を進んでいる最中に噛み付かれた。シルフィ姫様が無邪気に言う。
「今日はたくさん食べていいですよ。フェンリル」
姿を表したのはシルフィ姫様の愛犬のフェンリル。北欧神話に登場する狼の中では最強の狼として知られている。何せ軍神テュールの右腕を食いちぎり、最高神オーディンすら飲み込んだ狼だ。格が違うだろう。
それは強さから見ても明らかだ。空間歪曲で移動中の敵に噛み付くなんて規格外にも程がある。更に空間に手を突っ込むと爪に貫かれたマールス・ロイヤルパラディンが出てきた。フェンリル相手に空間移動系のスキルや魔法は使ってはいけないと勉強した。
更に空間歪曲を操って、フェンリルの目の前に現せているのがティターニア。使っているスキルの名は空間支配。空間歪曲や空間転移などの移動先を変えてしまうスキルだ。
他にはシルフィ姫様が召喚しているのは身体が星空のようになっているペガサス、同じく星空のような身体をしているカーバンクル、青と白のサンタ服を着た銀髪の妖精がいる。滅茶苦茶強いんだろうが彼らは全員ウェディングケーキを食べた召喚獣たちだったりする。
さて、そろそろアジ・ダハーカとケツァルコアトルが消える頃だ。
『そろそろ終わりか…ならば最後に大技を見せてやろう! これで我らの勝ちだ』
『させません。怨むなら勝負を挑んできたアジ・ダハーカを怨んでください』
二匹が魔方陣を展開する。あ、この大陸終わったな。
『禁呪グラビティ・コラプス!』
悪魔やゾンビたちが重力で潰されていく。あれ、俺たちも食らったんだよな。嫌なことを思い出した。
『禁呪ビックバン!』
魔力や魔素、地面、死んだ者まで魔方陣に引きずり込まれていくと魔方陣が真っ赤に染まる。臨界に達した魔方陣が超爆発して、キノコ雲が発生する。ビックバンがこれで済むんだから可愛い物だ。普通なら宇宙が始まるほどの大爆発のはずだからな。
『ここまでか…』
『ですね…ところで倒した数を覚えていますか?』
『まさか。貴様は数えていたのか?』
『いいえ。消し飛ばした悪魔の数を数えるほど、暇ではありません』
『違いない』
そう言うと二匹は消えた。彼らが消し飛ばした悪魔たちはこれを聞いたら、涙を流すだろうな。さて、ここからはみんなの仕事だ。サラ姫様が号令を出す。
「開戦の狼煙は上がった! 全軍、突撃せよ! 魔王の本拠地を攻め落とす!」
「「「「おぉおおおおお!」」」」
フリーティアの地上部隊が突撃し、エアティスさん率いるグリフォン部隊も突撃する。更に北側からのアジ・ダハーカとケツァルコアトルの攻撃を受けたことで東と西の敵部隊が動く。まぁ、俺がここにいることがバレたことも影響しているだろう。何せ俺は悪魔ホイホイだからな。
その隙を逃さず、東と西の部隊が城門に一斉に攻め込んだ。俺はこのタイミングでグレイ、チェス、ゲイル、優牙、アラネア、エアリー、狐子、伊雪、ディアン、月輝夜を召喚し、東に向かわせる。
残りのメンバーがフリーティア騎士団の攻撃から生き延びて、俺たちの所に向かってくる敵を対処する。
「「「「妖精の輪!」」」」
セチア、ファリーダ、ルーナ、クリュスが妖精の輪を使い、多種多様な妖精たちが敵部隊に攻撃を仕掛ける。更にコノハの加護を受けたヒクス、ストラ、スピカ、クリュス、蒼穹、コーラル、ジーク、千影が戦闘を開始する。
シルフィ姫様のペガサスは最後の砦として動かない。サラ姫様も騎士団の訓練のために、なるべくシルフィ姫様には暴れて欲しくないようだ。ま、これは俺たち、プレイヤーへの配慮なんだろうな。
暫く空の敵と対戦しているとやはり大きい召喚獣は狙われる。特にストラ、夕凪が狙われたがストラにはクリュスと千影が付いて、フォローしている。小回りが効くこの二人がストラの護衛には合っていると判断した。
夕凪にはぷよ助をつけており、ヘル・フレアドラゴンの攻撃に対処してもらっている。更に他の攻撃は黒鉄が受けて、ロコモコがフォローする陣形を組んだ。
「マスター、そろそろ敵がトラップに」
ルミが設置したプレゼントトラップによって、ゾンビたちが吹っ飛ぶ。
「今掛かりました」
「だな…暴れてきて、いいぞ」
「「「「はい!」」」」
真っ先に飛び出したのは恋火だ。
「あたしの新しい技! 雪月花!」
敵が一瞬で凍り付く。やはり火が似合っているが雪もいいものだな。そしてリアンが新しい魔法を使用する。
「人魚魔法! ブルーホール!」
ブルーホールは浅瀬に穴が空いたように形成された地形のこと。リアンの人魚魔法では地面に水の穴が発生するとその上にいた敵は穴に落ちて溺れる。これで終わりかと思ったら、上を飛んでいる敵や穴から外れている敵が穴に吸い寄せられて、穴に落ちる。
更に溺れた悪魔たちはどんどん沈んでいき、最終的には水圧で潰されることとなった。恐ろしい魔法だな。一応距離を取れば安全のようだが、いきなり使われたら、対処はかなり厳しいだろう。
「サフィさん!」
「ぼぇ~!」
ここでサフィが渦潮を使い、難を逃れた敵をブルーホールに落とす。渦潮にはこういう使い方もあるんだな。流石リアンとサフィのコンビというべきか。
次はミールが新しい植物召喚を使う。
「植物召喚! ホウセンカ!」
大きな実を付けた植物が召喚される。暫くすると大きな実が赤く発光し徐々に光が強くなると実から光が漏れた瞬間、大爆発した。
現実でもホウセンカは珍しい弾けて種を遠くに飛ばす植物として知られている。そこからこういう能力になったんだろうが、あれでは種は木っ端微塵になっていると思う。
するとミールが次々、ホウセンカを使うと花蜜で敵をおびき寄せ、更に森林操作で敵を拘束して、動けないところにホウセンカを爆発させる技を見せた。ミールはどうやらホウセンカにはまってしまったな。
しかしこれでは敵の進軍を止めれない。ということでここで切り札を投入する。コノハの加護を受けたリオーネに指示を出す。
「リオーネ! 宝石解放! シトリンノヴァ!」
「キューーー!」
リオーネが食べさせておいたシトリンの力を解放すると遮蔽物がない荒野のため、敵は逃げ場がない。しかし敵も雑魚ではない。黒霧でガードされ、その背後に隠れることでシトリンノヴァを回避していた。
しかしそれだけで終わる俺たちじゃない。
「矢舞雨!」
セチアのルナティックアローが襲いかかる。マールス・ドラグーンなどは盾でガードするが不規則に動く多数の矢に対処出来ず、次々矢が刺さる。これを待っていた恋火が水薙刀の力を解放する。
「水薙刀! 妖刀解放!」
水薙刀から八つの毒液の蛇が現れる。
「やぁああ!」
恋火が水薙刀を振るうと八つの毒液の蛇が敵を飲み込んでいき敵が即死する。流石は八岐大蛟の刀だ。盾でガードしている敵でも盾が噛み砕かれていた。ロイヤルランパードを使っている敵もいたが左右や上に毒液の蛇が回り込み、回避出来なかった。
そして敵を倒したことで恋火に強化が発生し、毛並みが逆立つ。水薙刀を使うたびに毛並みを直さないといけないのだろうか?他のみんなも暴れているとリリー、イオン、ノワが着物を引っ張ってくる。
「ネビロスと戦うまで、戦わない約束をしたよな?」
「「「ちょ、ちょっとだけ」」」
「ダメ」
「厳しいですね。タクト様。ちょっとくらいいいじゃないですか」
シルフィ姫様がリリーたちの味方をしたことで三人が騒ぐ。そもそもリリーたちの活躍が減っている原因はシルフィ姫様の召喚獣のせいだと分かっているんだろうか?するとユウェルが反応をする。
「タク! 地面からたくさん敵が来る」
「魔力反応を探知しました。マスター。無数の小さい敵と大きい敵が複数います」
小さい敵はサンドデビルとイビルワームだろうな。だとすると一緒にいるのはその上位か?敵が現れる。
サンドデーモン?
? ? ?
デーモンワーム?
? ? ?
砂の巨大な悪魔に巨大な悪魔の角があるワームだ。
「これはまずいです!」
「シルフィ姫様、楽しんでませんか?」
「はい! とっても楽しいです! 私はずっと召喚獣たちと戦って来ましたから、共闘したことがないんですよ」
なるほど。それで楽しんでいるのか。するとサンドデーモンとデーモンワームがやってくる。
「ブラン! ファリーダ! ユウェル! 黒鉄!」
「はい!」
「軽いパンチね!」
「任せろ! タク! 竜化!」
ブランとファリーダ、黒鉄がサンドデーモンの拳を止めて、デーモンワームはユウェルの竜角で貫いた。するとサンドデビルとイビルワームが次々襲いかかってくる。シルフィ姫様に触手を伸ばすとは万死に値する。俺はグランアルヴリングとルナティックミスリルソードを構える。
「飛梅!」
飛梅の斬撃で敵をバラバラにした。使ってみて鎌鼬とそっくりなのを自覚するが鎌鼬より遥かに速い。速度的には乱刃と変わらないだろう。いい技を教えてくれたよ。何せ俺は鎌鼬を覚えることが出来ないからね。俺が敵を倒したことでリリーたちが騒ぐ。
「タクトだけずーるーいー!」
「ピンチなんですから、私たちにも戦わせてください!」
「…ん」
「独り占めはいけないことなんですよ? タクト様」
味方がいない。助けたシルフィ姫様にまで言われると物凄く悲しい気持ちになるな。すると全員が地面からの敵襲を察知する。全員が離れるとデーモンワームが現れた。たまらずリリーたちが手を出そうとする。千影が影分身を使い、天國を構える。
「天國! 宝剣解放! 奥義! 三千大千世界!」
周囲が宇宙になると全ての敵が消し飛ぶ。
「であります」
「千影さん…」
「あなたね。私たちの獲物まで取らないでよ」
「は、早い者勝ちであります」
俺の背中に隠れて言うのはやめような。千影なりに菅原道真が使った三千大千世界に近づけようとした努力が伝わってきたが、やはり本家の技とは違うな。俺が一瞬でも目で見ることが出来た。菅原道真の三千大千世界は本当に何も感じなくて、いつの間にか死んでた感じだったんだよね。
これが菅原道真との差だ。千影が進化したら、この領域に入ることを期待しよう。するとシルフィ姫様が唸る。
「むむむ~…皆さん、強いですね。これは負けられませんよ! フェンリル! ティターニア!」
「ワオーン!」
フェンリルが叫ぶと地面から結晶が剣山のように飛び出し、敵が貫かれている。そこにティターニアが二本の聖剣を構えて、同時に振るうと結晶に貫かれていた敵が消し飛ぶ。
「どうですか? タクト様? 私たちも負けていませんよ」
「そりゃそうでしょう…」
色々張り合ってくるがシルフィ姫様は本当に楽しそうだ。しかし楽しむのもここまでだな。
俺が戦場を見るといよいよみんなが城門の悪魔たちとぶつかるところだった。俺はブランに遮断結界を使って貰い、魔力を回復しながら、みんなの戦いを見守ることにした。




