#819 谷の砦潜入作戦と作戦会議
チャリオットで移動中、俺はチャリオットの中で仕込みを済ますとノワの影にシャドールームで再び潜る。これでやれるべきことはやった。後はノワたちの力を信じるのみだ。
「敵砦をレーダーで補足しました。マスター」
「いよいよか。頼むぞ。みんな」
「…ん。任せて。にぃ」
『完璧にこなして見せるわ。だからそっちもお願いね?』
「あぁ。任せてくれ」
俺たちは一本道に入る。先頭の部隊を中に入れるために城門が開いたと思ったら、複数のマールス・ドラグーンが出てきた。すると先頭の部隊が止まるとチェックをしていく。やはり潜入は警戒するよな。
すると潜入を狙っていた忍者たちが次々攻撃を受ける。なんとか変わり身の術とテレポーテーションと同じ効果がある煙遁の術で逃げ出してる。
そんな忍者たちの中には強引に砦の中に潜入しようとする者たちがいた。一人が影分身でマールス・ドラグーンたちを足止めして、残りが潜入しようとする。
城門からの弓矢を変わり身の術で回避し、潜入成功したかに思えた瞬間、鎖で拘束される。現れたのは鎖鎌を装備した忍者衣装の鬼部隊だった。
鬼忍?
? ? ?
こんな奴がいたのか…俺が警戒していると突然マールス・ドラグーンが俺たちがいるチャリオットに向けて斬撃を放ち、チャリオットが壊された。
「いきなり攻撃してくる!?」
狐子は斬られると思い、憑依を解除したようだ。チャリオットを破壊したのはミスだぜ!
『目を瞑れ! アラネア! 狐子!』
「(光のルーン!)」
チャリオットの上に転がせて置いた閃光石が一斉に輝き、周囲が閃光に包まれる。
『『シャドールーム』』
アラネアと狐子を回収する。
『ノワ!』
『…任せて。影移動』
チェリオットの影に潜んでいたノワが閃光で伸びた影を移動していく。閃光が無くなるとマールス・ドラグーンたちが周囲を見渡す。
『…にぃ』
「(火のルーン!)」
ノワが影から設置した煙玉を俺が発動させる。それを見たマールスドラグーンたちは煙幕の中に飛び込んでくる。そして煙幕の中を探すのだが、既にノワは煙幕の中にはいない。マールスドラグーンは大剣の大振りで煙を向き飛ばすと周囲を探す。
これで完全にマールスドラグーンを置き去りにしたが問題は鬼忍だ。するとマールスドラグーンと戦っていた忍者の人が鬼忍に襲いかかった。
「仲間は返して貰う! 影分身!」
この奇襲に鬼忍はあっさり対応するがその人の影から別の忍者が現れ、忍刀で鬼忍を斬り裂く。更にキルケーの変身薬で変装していた忍者たちも鬼忍に襲いかかった。
「「「「潜入してください!」」」」
『ノワ!』
『…ん!』
この人たちのおかげでノワは砦内の潜入に成功した。
『…潜入成功。みんなに感謝』
『だな…俺たちは俺たちの仕事をしよう。ノワ』
『…ん。任せて』
ノワは影に潜ったまま砦内を進んでいく。俺は何も聞いていないけど、忍者のみんなの動きを見れば分かる。あれは完全に俺たちの潜入を援護すると決めていた動きだった。そうじゃなかったら、あそこまで完璧な援護にはならなかっただろう。自分たちの戦果よりも俺たちの援護を選んでくれた彼らには頭が下がる。
これに対してマールスドラグーンは完全にミスをした形だ。煙幕の中を探すのではなく、城門に向かっていれば結果が変わっていたかも知れない。これは結果論だけどね。するとリサとミライが話す。
「というかノワちゃんと兄ちゃんの連携も凄いんだけど…」
「…うん。息ピッタリだった」
あれ?なんか責めれられている?
「…当たり前。にぃと一番相性がいいのはノワ」
ノワの発言で戦争勃発。リサとミライまで参戦していつもより混沌としている。
「はいはい。まだ安心は出来ないんだ。話はそこまでにして、早く潜入場所を決めよう」
「…ん」
ノワが潜入場所に相応しい場所を探している間に新しい敵を発見する。
屍鎧武者?
? ? ?
屍陰陽師?
? ? ?
アーマードラゴン?
? ? ?
竜騎兵ゾンビ?
? ? ?
俺たちが見つけたのはこれだけ。他にも落ち武者シリーズなどがたくさん配置されており、道は黒の砦と異なり、広く作られている。恐らくドラゴンでの移動とメイン武器に刀持ちが多いためだろう。それにしても西洋の騎士と東洋の侍がごちゃまぜなのは改めて見ると違和感があるな。
『…にぃ。この建物はどう?』
ノワが見つけたのは比較的小さめな建物。ボスがいると思われる一番大きな建物からは他の建物が邪魔で恐らく見えないだろう。
『場所は完璧だな。イクス、アリナ。どうだ?』
『建物内に魔力反応はありません』
『音も聞こえないの』
俺たちは建物の中に潜入すると宝箱があった。これにリサが興奮する。
「やった! 宝箱だよ! 兄ちゃん!」
「待て…リサ。第六感が反応している。恐らく罠だ」
これがモンスターなのか分からないが、もし敵が潜入された場合に備えて、わざと隠れやすい建物に用意していたものだとすれば、この罠は一網打尽にする爆破トラップか俺たちの位置を知らせるトラップの可能性が高い。
ここは何もせず、専門家のトリスタンさんか忍者たちに聞いてみるべきだと判断した。ということで宝箱をスルーして、しっかり鍵をかけると建物の中に透明テントを設置する。
「これで大丈夫なんだよね?」
「たぶんな…これで見つかったら、文句を言わないといけないだろう」
「…確かに」
イクスのレーダーとアリナの音響操作で砦の情報を探る。
「お兄様、あの建物から声が聞こえるの」
一番大きい建物だ。さて、どんな会話をしているか聞かせてもらおう。俺はアリナにシンクロスキルを使う。
『…探さない?』
ん?この声…聞いたことがあるな。
『復讐に囚われている貴殿にはわからんだろうな』
『お前は違うと言うのか? 東方の騎士よ』
『違うな。確かに桜花を変えることが出来なかったことは未練だが、私は味わいたいのだよ。現世に生きる者の武と知略をな。ここで探し回っては味わえまい? この砦に集まる敵をどうやって突破し、この私をどうやって倒すのかをな』
『東方の者の考えはわからん。ま、ここはお前の管轄だ。精々頑張るがいい』
んん~…この声、絶対聞いたことがあるぞ。誰だったかな…思い出せない。
『西方の騎士は余裕がないものなんだな。戦いは楽しんでこそだろうに…そうは思わないか? 潜入した者よ』
いぃ!?
「バ、バレているの…」
「マジかよ…」
宝箱には手を出していないのに…いや、こちらの盗聴を察知されただけか。位置がバレているなら俺たちは詰んでいるぞ。こいつの正体は桜花を変えようとしたということは菅原道真で間違いないだろう。
『お前たちの声は聞こえないから勝手に話すぞ。まずは安心するがいい。お前たちが暴れ出すまで手出しはせん。最も戦いが始まれば手加減をするつもりはないがな。己の武と知略、全てを持って私に挑んで来るがいい』
言ってくれるね。流石学問の神様になる人物と言ったところか。
「あぁ。全力で挑ませて貰う」
聞こえないだろうけど、それでも俺は自然と口にしていた。
俺は転移の絨毯で砦に戻るとサバ缶さんたちに潜入成功を伝えて、先に帰っていた援護してくれた忍者のみんなに感謝を伝えるとその人たちとログインしていたトリスタンさん、銀たちが透明テントに転移して、宝箱を調べてもらう。
そして俺はリサとミライと共にログアウトする。保護者は大変だ。
「ふ~ん。三人でそんなに遊んでいたんだ~。お姉ちゃんだけのけ者にされて、寂しいな~。せい君」
ログアウトすると家では佳代姉が帰ってきていて、ご機嫌斜めだ。
「いや、それを言うなら俺はずっと三人からのけ者にされていることにならないか?」
「はい、黙る~。今は今日のことを言っているんです~」
言い分が滅茶苦茶だ。すると義父さんが帰ってきた。これでゲームの話は出来なくなり、家族みんなで夕飯を食べていると義父さんから提案がされる。
「誠吾君は明日から学校だろう? ご飯を食べ終わったら、すぐに帰ったほうがいい」
「電車に乗り遅れると行けないし、そうするよ。義父さん」
ということで夕飯を食べ終わった後、帰ることになった。俺には義父さんが救いの神のように見えたのは言うまでもない。
俺は自宅に帰る電車の中でもう一人の敵について、考える。復讐に囚われている西方の騎士で既に死んでいる有名人…あ。思い出した!間違いない!アグラヴェインの声だ!思い出せて、良かった。
あの言い方だと最後の砦にいるのはアグラヴェインってことになる。これはランスロットたちに伝えないといけないんだろうな。
家に帰った俺は早速ログインすると作戦会議に参加する。
銀たちから宝箱の罠は警報トラップであることが判明した。これは嬉しい。利用しない手はないだろう。香子さんたちも同じ考えで他の建物から同様のトラップを見つけて、集めているそうだ。
そこでみんなにわかっている情報を全て公開する。
「また随分無茶なことをしたわね…」
「忍者より先に潜入されてはこちらの面子がありませんが助けになったようで何よりです」
「…ノワはくノ一。にんにん」
ノワの言葉とくノ一姿に香子さんたちは何も言えなくなった。サバ缶さんがなんとか話を進める。
「えーっと、とりあえず潜入が出来て、敵の戦力がある程度わかっている状態なら作戦は決めやすいですね」
「この場合なら内から全軍で攻め落とすことが出来そうだな。城門も内から破壊すればいいだろう」
「わざわざ城門を破壊するメリットがあるんですか?」
「あ、タクトさんは知りませんか。城門の破壊にボーナスポイントが出たんですよ」
なるほど。それなら破壊しないといけないな。更にルインさんが危惧を話す。
「問題は外の敵ね。タクト君の情報だと外の敵と内の敵は完全に区別されているわ。出現場所も限定的だし、砦を落とすと恐らくモンスターの出現が無くなるわ」
「あぁ…そうなるとそいつらの分のポイントが手に入れる機会がなくなるのか」
「ここの運営だと結構ポイントが高い気がしますね」
強さもあるが限定モンスターというのはボーナスモンスターという考えがあるみたいだ。ここでチロル、烈空さん、アルさん、タクマが言う。
「それなら外の敵は召喚師の仕事だね!」
「敵は溶岩の巨人に悪魔、ドラゴン。どう考えても適任は俺たちだろうな」
「どうせ砦内では思うように召喚獣たちは戦えませんから我々が相手をします」
「タクトとルーク、アロマは亜人種が多いし、マヤには土のドラゴニュートに巨人部隊がいる。砦内はお前たちに任せるわ」
するとタクマの発言に花火ちゃんが噛み付く。
「なんで私たちが内側って言わないのよ! タクマ!」
「なんだ? 花火。得意の溶岩フィールドでリリーちゃんたちが苦戦した敵に勝てないのか?」
「な!? そんなの勝てるに決まっているでしょうが! そんな奴ら瞬殺よ。瞬殺!」
タクマも花火ちゃんの扱い方がわかってきたな。
「それじゃあ、外の敵は召喚師のみんなに任せるがいいか?」
「「「「あぁ(はい)!」」」」
「これで編成が決まりましたね。後は作戦をどうするかですが、報告にあった宝箱を使わない手はないですね」
やはりサバ缶さんも同じ考えか。次はボス対策。
「宣言されているし、前みたいに攻撃してくるだろうね…」
「集まるのはどう考えても危険だな」
「二手に別れるしかないんじゃないですか? イーナちゃんとタクトさんのイクスさんなら対処出来るはずです」
マコトの提案にみんなが賛成するとイーナちゃんが予想を言う。
「…もし二手に別れるなら菅原道真はタクトさんを狙うと思う」
「どうしてそう思うんだ? かなりいい勝負をしたんだろう?」
「…うん。だからこそ菅原道真はタクトさんを狙うと思う。私との戦いを味わったから」
あぁ…確かに決着よりもまだ見ぬ強敵との戦いを優先しそうな感じだった。この結果、俺の方に参加するのは、メルたちとシフォンたちにルークとアロマ、マヤさんとなった。随分な数の差だ。
「人数少ないね…」
「完全に陽動部隊のような立ち位置だな。向こうは城壁攻略に他にも部隊を分けることになるから仕方ないさ」
「こんな陽動部隊は早々ないと思うよ?」
確かにレッカの言うとおりかも知れないな。因みにサバ缶さんは指揮官として砦内に入り、外ではルインさんが攻城兵器と共に生産職を指揮することとなった。完全に総力戦だ。
「ま、窮屈な戦いにはならないと思って気楽に行こうぜ。それじゃあ、陣形を決めるか」
「「「「うん(おう)」」」」
俺たちは陣形を決めると準備に入り、全員の準備が整ったことで谷の砦の攻略に向かった。




