#818 谷の砦攻略法と黒の砦防衛戦
帰ってきた俺は報告すると溶岩でやけどしたみんなの治療をする。ただリリーたちの心配はやけどではないみたいだ。
「髪、大丈夫? タクト?」
「禿げてませんか? タクトお兄ちゃん」
グレイたちも仕切りに毛並みをチェックしている。
「大丈夫だと思うけど、一応ブラッシングをしようか」
「「「やった(お願いします)!」」」
みんなの髪の毛や毛並みをチェックしたが大丈夫でした。リリーたちが俺の念入りのチェックとブラッシングでダウンしてしまったので、ここで一度ログアウトする。
俺がテスト勉強をしていると理恋と未來が帰ってきた。
「兄ちゃん! ちゃんといる!」
「…ただいま」
「おかえり~。ちゃんといるぞ~」
「「早くゲーム!」」
これがゲーマーになってしまった妹たちの姿か…微笑ましくもちょっと悲しい。その前に先に事情を説明しよう。
「えぇ~!? 兄ちゃんたち、砦に攻め込んだの!?」
「…無茶するのはダメ」
「攻め込んだんじゃなくて、偵察だ。それに昨日は午前中に一度、砦に攻め込んだんだろう?」
「「そ、それはみんながいたからで…」」
俺たちのようにいない人たちもいました。これで条件は一緒となり、俺たちの勝ちだ。ということで俺は初めて二人の保護者として、ログインする。そして集まりだしたプレイヤーたちに説明し、作戦などを話し合っていると敵の砦に動きがあった。
「報告! 敵の砦から進軍を確認しました! 更に新たな敵でディストラクト・ガーゴイル、ヘル・アイアンライダーを確認! 共に凄い数です!」
「ディストラクトってどういう意味だ? タクト?」
アーレイに聞かれたので、考える。
「この場合は恐らく自爆だろうな」
「なるほど。自爆ね…自爆…やばくないか?」
やばいだろうな。どれだけの規模の爆発か知らないが砦や俺たちにくっついて自爆する気満々だ。ヘル・アイアンライダーは地獄の鉄騎兵って感じかな?
「優先撃破はディストラクト・ガーゴイルだな。他の編成はどうなっている?」
「今までとさほど変化は見られませんでした。雑魚は省いて報告すると地上部隊はバイク部隊にチャリオット、コンビクト・ワーウルフ、クリミナル・トロール。空はヘル・グリフォンにアグリィ・キメラ、ワイバーンやドラゴンの騎兵部隊、グレーターデーモンという編成です」
ふむ…これはチャンスだな。
「今回の敵は追い返して、砦内への潜入を狙おう」
「影潜伏ですか?」
「バレると思いますけど…あ、キルケーの変身薬を使うのはどうですか?」
「それで潜入出来たら、いいんだろうけどな…一度使っている怖さがある。今回はどれが成功するか分からない。各々考えた方法で潜入するのがいいだろう。潜入出来た者は透明テントを使って、待機。夜の攻略で内から敵を切り崩す」
「透明テントって…砦の路上とかに設置して大丈夫なのか?」
アーレイがまともな事を言った。確かに路上に堂々と設置するのはリスクがある気がする。だとすると他の場所に設置しないといけないな。
「…路上以外で安全に透明テントが貼れる場所」
「あ! 建物の屋上!」
確かに屋上なら設置出来そうだな。するとリサの意見にミランダが危惧を話す。
「確かに設置出来そうだけど、菅原道真がいるとするなら狙撃が怖いわね…」
「た、確かに…じゃあ、建物の中!」
「設置出来るのか?」
「あ、それなら普通のテントが設置出来たはずですよ」
本当に研究員たちはなんでも調べるな。実際に試すと確かに小さいのなら、設置することが出来た。建物の中なら解錠の木鍵やスキルを使えば中に入ることが出来ることも確認済みで逆に鍵を閉める事も可能だ。最悪、ドアを開かなくする手段を取ることも出来る。とりあえずこれで潜入した後のことは決まった。後は潜入が出来るかどうかだ。
今回、俺は自動的にリサとミライとパーティーを組むことになる。
「兄ちゃんはどう潜入するつもりなの?」
「…もちろん。潜入のスペシャリストのノワを使うつもりだ」
「…任せて。にんにん」
くノ一姿でやる気満々なノワである。一方ミライは不安そうだ。
「…大丈夫かな?」
「ノワには気配遮断に影潜伏と影移動があるからなんとかなると思う。一応考えた作戦を説明するな」
俺が作戦を説明すると二人は納得する。俺は生産職から小さい透明テントを借りて、中に転移の絨毯を設置する。更に潜入のために閃光石と煙玉を貰ってから迎撃に出る。
今回の防衛戦では伝説の武器たちは貸出だ。潜入出来ない人たちが使っている。潜入している間に襲撃される可能性がないわけじゃないからだ。
「敵空中部隊を補足しました。マスター」
「よし。まずはこれまで通り敵空中部隊を叩く! 行くぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
今回は二人の希望でリサがヒクス、ミライがグレイに乗っている。俺はセチアとダーレーに乗って、空中部隊を指揮する。敵が見えたところで識別に成功する。
ディストラクト・ガーゴイル?
? ? ?
見える範囲の殆どがディストラクト・ガーゴイルだ。すると普段は冷静なミライが一番に指示を出した。
「…グレイちゃん、リリーやリサより先にゴー!」
「ガウ!」
「あぁ!? 負けないよ! グレイにミライ!」
「ミライが暴走している!? ヒクスちゃん! ゴーだ!」
みんなが飛び出していく。
「おーい。俺は何も言ってないぞ~」
「聞こえてませんよ。タクト様」
こういうのって、悲しくなるよね。すると先行した三人のところで次々大爆発が起きる。あれがディストラクト・ガーゴイルの自爆か…かなりの威力だ。それを平然とガードしているリリーとグレイは流石だな。ヒクスはそもそも巻き込まれる前に退避している。
すると敵部隊はリリーたちに構わず、こちらに向かってきた。正しく自爆兵器な感じだな。そうとわかった以上、通すわけにはいかない。
「全軍、攻撃開始!」
空中部隊の遠距離攻撃が敵部隊に命中し、近接部隊が飛び込んでいく。俺は遠距離部隊を率いて、魔法で敵を落としていく。
ディストラクト・ガーゴイルを相手に猛威を奮っているのは進化したリリーを除くと大きく三パターンある。一つ目は実体がある召喚や分身をぶつけるパターン。触れただけで自爆してくれるから楽だ。これをしているのはセフォネと千影。
「影召喚! ゆけ! 我が僕たちよ!」
更に接近して自爆を受けないように斥力操作で離れさせるとそのディストラクト・ガーゴイルが後ろのディストラクト・ガーゴイルに触れて偶然自爆したのも見て、金縛で動き止めて後ろの敵にぶつかる方法を生み出していた。
次は攻撃してから自爆する前に脱出するパターン。これはアリナ、ゲイル、ロコモコ、ヒクス、スピカ、ジークがしている。
「自爆するだけなら全然怖くないの~。アリナを捕まえられるなら捕まえてみろなの~」
アリナはとにかく速く自由自在に空を飛び回っている。触れて自爆するまでには安全圏にいる。しかも気流操作でディストラクト・ガーゴイルの空での自由を奪っている。これが風のドラゴニュートの力か…戦闘での自信の無さが少しは和らいだみたいだな。
ゲイルは雷化を使い、ぶつかって自爆させてると攻撃範囲から退避している。意外なロコモコは激突すると一瞬で逃げ出していた。脱走スキルの予想外の使い道を知った。ジークは大きいから一度の光速激突でたくさん自爆を発生させている。
最後のパターンは自爆がそもそも効かないパターン。これはファリーダ、コーラルだ。
「火炎装甲! ふふ…ぬるいわよ! そんな爆発!」
ファリーダはそもそも自爆が火炎装甲の効果で効いていない上に破壊の加護で自爆する前に粉々にされている。自爆すらさせてあげないなんてまさに魔王だ。コーラルは炎化を使い、自爆されても関係なく飛び回っている。
俺たちが戦っていると召喚師たちが次々、援軍として参加する。
「チロル、見参! って敵部隊がボロボロなんだけど!」
「援軍に来たぜ! ってくる意味あったか? これ」
「私はどうすればいいですか?」
「砦に攻撃するような奴らはあらかた倒したがまだ後続の部隊が残っている。悪いがそいつらを頼む」
「「「了解!」」」
援軍として来てくれたチロル、タクマとアロマに空中部隊の指揮を任せて、俺たちは下に降りる。
下では既に戦闘が始まっていた。識別する。
ヘル・アイアンライダー?
? ? ?
ヘル・アイアンライダージェネラル?
? ? ?
リリーたちとリサが空から乱入する一方でミライは的確な指示をグレイに出す。
「…グレイちゃん、仲間を左翼に四体、右翼に三体を送って、それぞれヘル・アイアンライダージェネラルを倒して」
「ガウ!」
「…ありがとう。私たちはリリーたちのところに参加しよう」
ミライが俺より召喚師をしている気がする。ちゃっかり大物を狙いつつ、リリーたちと戦うことでバレないようにするミライの行動にちょっと驚いたがそういえばミライは召喚師に憧れていたな。
俺は城門の前に降りると地上部隊を召喚する。
「コノハ、みんなにアテナの加護を頼む」
「ホー!」
「アラネア、狐子…出来ればあのチャリオットを運転手を生かしたまま奪いたい。出来るか?」
「私とアラネアさんなら余裕よ。そうよね?」
狐子の問いかけにアラネアが頷く。
「なら頼む。他に乗っている奴は倒していい」
「了解よ」
アラネアが土潜伏で土に潜る。アラネアたちが奪うまで俺たちはヘル・アイアンライダーとゴブリンライダーズの相手をする。
ヘル・アイアンライダーは馬にもしっかり鉄の馬鎧を装備した敵だったのだが、虎徹に突進してきた瞬間、馬ごとバラバラにされて吹き飛ぶ。これは相手が悪かったが月輝夜が喜々として敵をなぎ払っていく。
更に黒鉄が珍しく格闘戦をする。進化前はアイアンゴーレムだったんだ。ここは負けられないところだよね。指示したのは俺です。するとここで黒鉄にヘル・アイアンライダーの槍を受ける。どうやら色々な属性の武器を持っているようだが、黒鉄はこういうのに強い上に状態異常はアテナの加護により、通用しない。
そして夕凪も今回、大活躍をしている。甲羅に閉じこもると回転して、敵部隊を襲いかかると根こそぎ吹っ飛ばした。
いくら鉄騎兵でも怪獣クラスの高速回転する甲羅の突撃が相手では分が悪すぎる。すると帰ってきた夕凪が顔を出すと亀も蛇も目を回していた。このスキルの代償みたいだな。
「お疲れ様。後はここから援護しててくれ」
俺がそう言うと夕凪が固定砲台としての能力もしっかり発揮した。遠くの敵には口から岩を飛ばし、近くの敵には蛇が水圧切断で斬り裂く。こう言うふうに役割分担をしているみたいだ。至近距離の敵には甲羅での回転激突もあるし、これは強いわ。
ヘル・アイアンライダーたちも弱くはない。剣や弓矢、銃には滅法強いみたいだ。更に魔法もある程度、耐性を持っているように見える。大砲を躱せる機動力もあるから十分驚異と言っていいと思う。現に白夜や優牙は戦いにくそうだ。爪や牙を封じられると獣たちの召喚獣はなかなか厳しいな。チェスは氷斧で潰しているけどね。
こうして見るとゴーレムやオーガなどがいなかったら、ヘル・アイアンライダーたちはもっと苦戦していたと思う。
「惜しいな…ん?」
第六感が反応し、地面からの敵襲を知らせて来た。俺が慧眼を発動させると地面から先が尖った触手が俺を襲ってきた。攻撃を躱した俺は識別する。
デザートデビル?
? ? ?
こいつか…黒の砦でたくさんのプレイヤーを襲った敵だ。俺が倒そうとするとイクスが空からツインエネルギーブレードで串刺しにした。すると地面からイクスを狙い、触手が次々伸びてくるがイクスは全てツインエネルギーブレードで切断し、テイルエネルギーガンで狙い撃つが地面に潜られる。
「む…地中装備が必要ですか…」
「そんな装備ないだろう? ユウェル、ミール、夕凪。頼む」
「任せろ! タク!」
ユウェルたちが土の中に潜るがあちこちでデザートデビルの襲撃が発生する。するとユウェルから報告が来る。
『タク! 敵の動きが速くて追いつけない! 強制も無視して来るし、どうすればいい?』
なるほど。厄介な敵だな。
『なら戦術を変えよう。ちょっと準備するから時間稼ぎを頼む』
『わかった!』
俺は土魔法が得意な魔法使いたちと銃士たち、ニックさんたち錬金術師に作戦の協力をお願いした。そして俺はユウェルたちを集めて、ニックさんたち錬金術師と共に城門前に陣取る。さぁ、一網打尽にさせて貰いますか。
「ミール!」
「行きます! 花蜜!」
敵が一斉にミールに集まってくる。しかしこれだと邪魔なヘル・アイアンライダーたちまでやってくる。
「伊雪、ルミ」
「「雪だるまさん!」」
巨大雪だるまがヘル・アイアンライダーたちの進路を塞ぐ。これで時間稼ぎは十分だ。俺は合図のため、手を上げる。
「地中より魔力反応多数、接近。…作戦エリアに入りました! マスター!」
俺は手を振り下ろす。
「「「「アースクェイク!」」」」
『『『『アースクェイク』』』』
俺と共に魔法使いたちの一斉の地震でデザートデビルが飛び出す。この作戦は昔から変わらないが今回はもうひと手間させて貰う。
「「「「金属錬成!」」」」
ただの地面が錬金術によって鉄になる。すると俺の狙い通り、デザートデビルたちは土に潜れなくなった。何せ土に潜っているモンスターたちが使っているスキルは土潜伏だ。地面を鉄にされたら、壊す以外に潜る手はない。
「撃て!」
「アローレイン!」
「一掃します!」
セチアがアローレイン、イクスがエネルギーマシンガンを撃ちまくる。城門の上からも容赦ない銃撃が撃ち込まれ、デザートデビルたちは倒された。すると隣にいたニックが言う。
「ふぅ…タクトさんと戦っていると勉強になって、ばかりですね」
「俺の場合は召喚獣がいますから。他のプレイヤーよりモンスターのスキルにちょっと詳しいぐらいですよ」
「そこから攻略法を見つけるのが、凄いんですけどね」
作戦を褒められるのは素直に嬉しいものだ。するとユウェルが聞いてくる。
「タク! 雪だるまが突破されたぞ! 暴れてきていいか?」
「あぁ。行って来ていいぞ」
「まだ戦闘中でしたね。では私たちも行ってきます。武器錬成!」
ニックさんたちも錬金術を大分使いこなしていると思うけどね。
一方アラネアと狐子は協力してチャリオットの奪取を狙う。
まずは変化で妖艶な美女になった狐子がチャリオットの前に出るとウインクして誘惑するとチェリオットを運転しているゴブリンライダーたちは狐子の所に向かう。
するとアラネアが柔糸をチャリオットに乗っているゴブリンアーチャーたちの首に巻きつけると強引に外に放り出した。しかし狐子に夢中なゴブリンライダーたちは気づかず、狐子に向かうと直前に狐子の姿が霊化し、ゴブリンライダーの一人に憑依する。
『憑依成功。ちょろいものね。さぁ、止まってもらいましょうか!』
狐子もう一人のゴブリンライダーが持っている手綱を強引に引くことでチャリオットを止める。当然の味方の行動に一緒に乗っていたゴブリンライダーが怒っていると粘着糸を使って、チェリオットに飛び乗り、隠密で隠れたアラネアの操り糸が決まる。
『チャリオットを奪ったわ』
『よくやった! アラネア、狐子! こっちに来てくれ』
『操作の方法が分からないから無理よ。手綱を引いたら、止まることは見ていてわかったけど』
うん。狐子には馬のことは教えたことがなかったな。仕方ないからこっそり乗り込むか。その前に敵を撤退させないといけないな。
『リリー! イオン! 大技使っていいぞ! チャリオットを壊さないことと全滅はさせないようにな』
「待ってたよ! タクト! いっくよ~! 流星群!」
「行きますよ! 瀑布! 渦潮!」
無数の隕石が敵部隊に落下し、敵が吹っ飛んでいく。更に空から大量の水が滝となって、敵部隊を襲うと水圧に押しつぶされた挙句、水に流されていくと巨大な渦潮に飲みこみまれる。そこに隕石まで落ちてくるんだが、イオンの餌食になった敵には心から同情しよう。
これで敵は撤退を選択するだろう。さて、俺たちはこっそりチャリオットに乗り込むとしよう。
『リサ、ミライ。早く来ないと放置になるぞ』
『兄ちゃんは妹をもっと大切にするべきだと思う!』
『…すぐ向かう。グレイちゃん』
二人が来たところで俺はイクス、ノワ、アリナ、アラネア、狐子を残して、他の召喚獣たちを一度召喚石に戻すと魔女の隠れ蓑を取り出す。
「シャドールーム」
俺たちはノワの影に潜る。
『ノワ、頼む』
「…ん。影潜伏。影移動」
ノワが敵、味方の影を移動して行くとアラネアと狐子が奪ったチャリオットにたどり着き、アラネアの影からノワが気配遮断を使って出る。
「…来た」
『見事な影移動ね…それでどうするのかしら?』
「シャドールーム」
俺だけノワの影から出る。魔女の隠れ蓑の効果で透明になっているはずだから大丈夫だと思う。俺はこっそり操縦して、チャリオットを敵の砦に向かわせると戦場から完全に離れたところでインフォが来る。
『地魔法のレベルがLv20に到達しました。地魔法【グラビティ】、【ハブーブ】を取得しました』
『セチアの風魔法のレベルがLv30に到達しました。風魔法【ダストデビル】、【フライ】を取得しました』
『セチアの風魔法が疾魔法に進化しました。疾魔法【ソニックブーム】、【スーパーセル】を取得しました』
俺は重力操作を覚えたぞ!地魔法のグラビティは魔法版の重力操作だ。結構楽しみにしてた。
ハブーブはこのゲームでも味わった巨大砂嵐の名前だ。このゲームでは広範囲の敵にダメージを与えて、砂が目に入ることで暗闇の状態異常にする。
戦場から抜けたことだし、潜入するための作業を始めるとしよう。




