#812 文化祭と将来の決意表明
日曜日、今日は文化祭。俺は朝から登校して、準備をする。用意された衣装を見て、一言。
「…無駄に尻尾にこだわったな」
ズボンに縫い合わせてある上に綿を詰めることでちゃんと膨らんだ尻尾になっている。
「竜人キャラならやっぱり尻尾が一番の魅力だからね。こだわってみた」
衣装を作ってくれたクラスメイトの女子はやりきったいい笑顔をしている。俺が海斗のところに向かうと聞いてくる。
「お前のドラゴニュートの姿をリリーちゃんたちが見たら、どう思うんだろうな」
「素直に喜ぶか。偽物と非難されるかわからないな。ノワはきっと尻尾に抱きついて寝そうだ」
「あぁ~…枕とか好きなんだっけ?」
「そうだよ」
すると姫委員長と副委員長の声が聞こえてた。
「こ、これを着るの? 無理無理無理だよ~!」
「これの何処が普通の悪魔の衣装なのよ! こんなの許可が下りるわけ無いでしょうが!」
「…無理だったか~」
「どんな服を用意したんだよ」
海斗が自信満々に言う。
「魔法のステッキを持っている妖精衣装とバニーガールだ!」
「百歩譲って魔法のステッキは別にいいがバニーガールはアウトだろう」
「サキュバスといえばバニーガールだろうが! 夢は潰えたが第二の矢がまだある!」
こいつはこいつで無駄に力を入れすぎだ。因みにバニーガールは元々上手くいくはずがないと文化祭の実行委員に申請すら出していないらしい。それもこれも副委員長にこの服を着せるための布石だった。
「は…恥ずかしいから余り見ないで…」
姫委員長はエメラルドグリーンの妖精姿。魔法のステッキも持っているがEOにはいないため違和感があるな。副委員長は駅前にあるメイド喫茶の服で登場した。頭と背中には一応悪魔の角と羽がある。
「「「「ブラボー!」」」」
男子は大歓声を上げるが副委員長の顔は鬼の形相になっている。俺は関わってないから逃げ出しても問題無いだろう。
「おわ~! 机を持ち上げるな! メイド副委員長!」
「待って! せっかくセッティングしたのに! 壊さないで!」
「誠吾に海斗~! 副委員長を止めろよ!」
「俺が狙われているのに出来るはず無いだろうが! お前の出番だ! 誠吾! あ、あれ? あいつどこ行った?」
文化祭が始まる前にうちのクラスは賑やかな物だ。俺が帰ってくると海斗の両頬にビンタの後がはっきり付いていた。そんな事件が起きたがいよいよ文化祭が始まった。
結果から言うと俺たちの喫茶店はかなりの人気となった。やはりゲームとなると子供人気は出るし、鼻の下を伸ばした男子生徒にお菓子目当ての女子も来る。
俺たちが大忙しの中、佳代姉たちがやって来た。
「いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」
「「「五名!」」」
「かしこまりました、席にご案内致します。こちらへどうぞ」
完全にバイトの接客を思い出してしまった。するとクラスメイトの男子たちが佳代姉たちに騒ぐ。俺は普通にメニューを聞いて、注文したところで役割を交代してもらい、家族の元に向かった。
「もういいの?」
「あぁ。交代して貰ったから大丈夫だよ」
「じゃあ、兄ちゃん! 尻尾、触らせて!」
「…私も触りたい」
理恋と未希に尻尾を触られる。なんのプレイだ?
「ゲームの喫茶店と聞いてどんなものか不安だったが頑張っているみたいだね」
「あなたはチラチラ見すぎですよ」
「んん! 物珍しいだけだよ。母さん」
「あらあら。そうなのかしら~?」
義父さん、大ピンチだ。ここで助けたのは佳代姉たちだった。
「はいはい。恥ずかしいから続きは夜にして」
「そうだよ! それよりも兄ちゃん! 時間出来たなら一緒に回ろう!」
「あぁ~…悪い。先約があるんだよ」
三人が一斉に姫委員長を見ると俺にバレないように控えめにピースをした。
「「「…やられた」」」
「クラスメイトと約束しているのかい? それじゃあ、私たちは食べ終わったし、そろそろ他のクラスに!?」
義父さんを蹴るなよ。おっと、言っておかないとな。
「明日振替で休みだから今日の夜、そっちに泊まっていい?」
「ん? 別に構わないよ。三人が泊まったみたいだしね」
「あらあら。それなら誠吾君の夕飯も準備しておきますね」
「あ、それは大丈夫だと思う。打ち上げをする予定だから」
これだけ繁盛しているから結構贅沢出来そうだ。すると佳代姉たちは不思議顔だ。
「珍しいね。せい君からそんなことを言うなんて」
「…うん。初めて」
「何か企んでいるでしょ! 兄ちゃん!」
まぁ、せっかくの振替休日だ。ゲームイベントの最中だし、普通ならゲーム漬けになる。何かあるのはバレバレだろう。
「別に何も企んでないぞ」
「「「…絶対嘘」」」
企むというか義父さんと義母さんに話があるだけだ。ただ出来ればこれは俺のことだから佳代姉たちには聞かれたくない話ではある。
なんとか佳代姉たちの追撃を躱して、姫委員長と二人で文化祭を回り、文化祭は無事に終わった。
その後、儲けたお金でコーヒーやお菓子のことなどで色々助けて貰った喫茶店で打ち上げをした後、俺はゲーム機器を持って、佳代姉たちの家に帰った。
「ただいま~」
「「「「おかえり~」」」」
家族の挨拶を交わして、自室に向かった。そして下に降りると義父さんと義母さんに話を切り出す。
「将来について、決めたことがあって…ちょっと話を聞いてもらっていい?」
「なるほど…顔付きが変わるわけだ。聞かせてもらおうかな?」
「俺は…父さんの研究を引き継いでゲームを作る道に進むことに決めた」
俺の言葉に二人は驚く。
「詳しく話を聞かせてくれるかな?」
「うん」
俺は二人にゲームをしていることも含めて全てを話した。
「なるほど…誠吾君の気持ちはしっかり伝わった。男が決意を固めたんだ。私は誠吾君の夢を応援しよう」
「私も応援しますよ」
「ありがとう! 義父さん、義母さん!」
滅茶苦茶緊張したけど、話せて良かった。ホッとする俺を見ていた義父さんが言う。
「本当に誠吾君は賢吾君に似ているな」
「そうなんですか?」
「あぁ…一度決めたら、揺るがないところとかそっくりだ」
「モテるところも似てますね。こちらは一桜さんもモテていたからどちらに似ているか分からないけど」
リリーたちと結婚までしようとしているんだから否定は出来ないな。すると義父さんが一応釘を刺してくる。
「ゲームについては個人的には思うことがあるが、事情が事情だ。悔いがないようにゲームをしていいが誠吾君の夢を叶えるなら専門学校か大学にはやはり行くべきだと思う。勉強だけは疎かにしないようにね」
「わかってる。ちゃんとテスト勉強もしているから大丈夫だよ。義父さん」
ここら辺は社会を知っている大人だ。言葉の重みが違う。テスト勉強をしているのが事実だが、勉強時間が減っていることは秘密だ。
これでさっぱりしたり、早速ゲームにログインするとしよう。




