#811 有名ゾンビ撃破と第四砦挟撃作戦
地上ではみんながそれぞれ敵将を目指して戦闘しており、その結果、第三砦の防衛部隊に敵の部隊が雪崩混んでいた。しかしここを守っているのはグレイと虎徹に加えて、夕凪を加えた亀部隊にゴーレム部隊、ヒュドラを中心にした蛇部隊が守りを固めている。
城門と城壁の上にはみんなが召喚したエクスマキナたちにエルフたち、援軍として参加してくれたダークエルフたち、レッカが率いる魔法使い部隊がいる。
俺はユウェルに状況を聞いてみる。
「敵が来なくて退屈だったぞ…タク」
まぁ、近づいて来た敵はミドガルズオルムなどの巨大な蛇の尾で馬ごと吹っ飛ばさせていたりするから敵はなかなか来ないだろう。
「ここは俺たちが変わるからみんなは暴れてきていいぞ。ただ正面の部隊には手出ししないようにな」
「やった! 行ってくる!」
ユウェルの他に空中戦では出番がなかった恋火たちも加わり、敵の両翼に対して襲いかかりに向かった。
「じゃあ、リリーも」
「リリーとイオンは俺とお留守番だ」
進化して戦闘欲がましたな。まぁ、進化したばかりで実力を試したい感じだとは思うけどね。
「二人には重要な仕事を頼んでいることを忘れてないよな?」
「私は忘れてませんよ。しっかり魔力を残しましたからね」
「リ、リリーも忘れてないよ!」
「全部魔力を使って、何言っているんですか」
イオンの指摘は実に正しい。俺は二人を連れて、城門に上がり戦況を確認する。折角の指揮を学べる機会だ。これを見ない手はないと思っていたのだが、どうやらレイジさんと張遼との決着はほぼ付いているようだ。
二人は白熱の騎馬戦をして、互いに距離を取る。
「く…いや~…参ったぜ。お前たち、強いな」
「張遼にそう言ってもらえるとは光栄やな。それでどうするんや? 負けを認めるとか言わへんよな?」
「もちろんだ。俺の部隊は殆どお前さんたちにやられちまったがこれでも部隊を任された将軍! 最後まで戦うのが俺の流儀だ! 悪いが最後の悪足掻きをさせてもらう!」
「受けてたったるわ!」
二人が馬上で槍を構える。
「青龍戟、伝説解放!」
張遼の武器である戟に青龍が巻き付いた武器が伝説解放されると戟に青龍が宿る。これに対してレイジさんも切り札を使う。レイジさんの槍が太陽の光を放つ。お互いに笑顔を見せて、馬を走らせる。
「敵軍を喰らい尽くせ! 青龍暴風撃!」
暴風を纏った青龍の幻影がレイジさんに襲いかかろうとした。これに対してレイジさんはまだ槍を投げない。そして青龍に食べらせそうになった時、レイジさんは馬と共に飛び込み、張遼を捉えた。
「ゲイアッサル!」
結果はゲイアッサルが見事に張遼に突き刺さっていた。
「俺の青龍暴風撃に飛び込む勇気と馬への信頼、何より一撃必殺の覚悟。見事だったぜ…お前さんなら俺の槍を託すに値する。使ってやってくれ」
張遼からレイジさんは青龍戟を受け取った。
「武器まで貰えるんか…ありがとな。魏の筆頭将軍。大切に使わせて貰うわ」
張遼は曹操が生きている時に最も活躍した将軍として名前が最初に上がっているほどの武将だ。青龍の名の武器は関羽から来ていると思われる。張遼は関羽を兄弟と呼び、親交があったとされているからな。
次は問題の平将門と藤原玄明だ。
「グレイちゃんの加護がある私は無敵だ~!」
「チロルが強くなっているわけじゃないよ」
「うるさいな~。ルークもエルフハーレムを作った僕は無敵だ~! とか叫べばいいじゃん」
「叫ばないよ!?」
否定はしないルークである。そんな二人はコゼット、ララ、フェルト、マヤさんたちと共に獣系の召喚獣と巨人、オーガたちを率いて、メルたちが担当する平将門への道をこじ開けようとしていた。
別方向ではフリーティアのNPC勢力が上杉謙信さんために暴れている。
「おらぁあああ! どんどん来やがれ! ゾンビども! 俺の雷で塵にしてくれるぜ!」
「我が聖水の刃! 消え去りたい者からかかってこい!」
「汚名挽回だよ! ヒポグリフ!」
「それを言うなら名誉挽回です。三人の騎士が作った穴を広げます! 突撃せよ!」
オリヴィエさんは的確な指揮をするな。流石はシャルルマーニュを代表する知将だ。見る見る敵部隊に空いた穴が広がっていくのが上から見ていてよく分かる。
「凄いですね…」
「こんな戦い方があるんだ…」
リリーとイオンが素直な感想を漏らす。
「これが戦略の力だ。例え一人一人の力が弱くても、数の差が圧倒的でも作戦次第ではひっくり返すことが出来る。リリーたちもこれから部隊を指揮する場面が増えてくるかも知れない。今のうちに勉強しておいてくれ」
「え…」
「分かりました。でもそれは最後の手段にしてください。私たちはタクトさんの指揮が大好きですから」
「そ、そうだよ! タクト」
リリーは明らかに嫌な顔をしたな。まぁ、高度な作戦指示はリリーには向いていないのはなんとなく分かる。リリーは先頭に立って、みんなを鼓舞するほうが向いているからな。つまりアーサー王様や将軍タイプということになる。
逆にイオンはオリヴィエさんと同じ知将タイプだ。戦いながら正確に指示出しする。このことからリリーとイオンは相性が良かったんだろうな。この二人で一部隊を率いることは十分可能だと思うが、少しずつ教えて行くとしよう。今は二人の勉強をさせてくれたオリヴィエさんには感謝しないとな。
俺が感謝の念を送っているとオリヴィエさんは満を持して己の愛剣の力を解放する。
「オートクレール! 聖剣解放! 我らが道を指し示せ! 聖剣技! フラム・ピュール!」
オリヴィエの愛剣オートクレールから白銀の炎が放たれ、敵を焼き尽くした。フラム・ピュールはフランス語で日本語にすると清らかな炎という意味だな。
この結果、藤原玄明までの道が完全に出来た。作戦のためにしっかり自分の役目を全うする。そこに戸惑いや躊躇など一切ない。シャルルマーニュの質の高さを実感するね。
「謙信殿!」
「感謝する! オリヴィエ殿! 西方の騎士たち! は!」
藤原玄明と上杉謙信がぶつかることになり、シャルルマーニュの二人と円卓の騎士団の二人が雑魚を引き受ける。なんとも豪勢な布陣だ。
これを知ったみんなは慌てる。先に平将門を倒さないといけないからだ。ここでアーレイが決断する。
「あー! もう! 仕方ないな! 俺が道を開いてやる! 使わせてもらうぜ! タクト! 聖剣グラム、伝説解放! 聖剣技シュトルムヴァータン!」
これで敵部隊はぶっ飛ぶが平将門は回避した。
「だぁ! やっぱり逃げやがった!」
「ありがとね! アーレイ君!」
「すまない! 先に行く!」
「男だぜ! アーレイ!」
みんながアーレイに一声掛けて、平将門に向かう。感謝はしているが放置なんだよな…俺は現状を優先して必殺技を使ったアーレイを評価したい。これでみんなが平将門と戦うことになったが、やはり平将門が強い。みんなが卑怯とわかって馬を狙うが攻撃しても馬もゾンビのため止まらない。倒しても蘇生する。恐らく藤原玄明と同じ理屈だろう。
こうなるとみんなポイントが欲しいためか必殺技や大技を使いにかかるがその瞬間、平将門が刀の力を解放する。
「…小烏丸、宝刀解放。世界よ…暗闇に染まれ。八咫暗転」
暗闇が発生する。みんなは必殺技の体制になっているため、使うしかなく、必殺技が外れる。そして平将門に襲われる。
そんな中、鉄心さんは必殺技を敢えて囮に使う選択をした。襲ってきた平将門の攻撃を見切りで躱して、逆に斬って見せた。そして本命の必殺技を使う。
「姫虎、神虎解放!」
鉄心さんの刀は竜ではなく虎のようだ。流石上杉謙信の弟子だね。刀の名前の由来は上杉謙信が持っていた刀の一つ、姫鶴一文字から来ているそうだ。夢に鶴という美しい女性が出てきたことで知られている刀だね。
このことはワイフさんは知っており、何か意味が有るんだろう。深く聞くのは野暮なので、聞かなかった。
姫虎から現れた神虎は平将門を馬ごと噛み付き、鉄心のもう一本のルナティック武器の刀が平将門を斬り裂いた。
「…見事だ。これでやっと死ねる。感謝する…侍よ。私を倒した平家の宝、小烏丸。使うといい」
そう言うと平将門は消えた。
小烏丸は皇室の私有財産として知られている刀だ。色々な伝説があり、平将門を倒した一人である平貞盛が朝廷より拝領した話がある。
必殺技の由来は桓武天皇の伝承だな。桓武天皇の元に烏が伊勢神宮の使いとして降りてきて、刀を落としたという話だったと思う。烏と伊勢神宮の使いという言葉から八咫烏と関連付けたのかな?八咫烏は日本書紀では天照大神によって遣わされたとされている。そこから太陽の化身とされており、天照大神の岩戸隠れから暗闇が広がる技となったんだろう。
鉄心さんは小烏丸を手に取る。
「一対一の戦いではなくて、悪かった。ありがたく使わせてもらう」
みんなが鉄心さんを称賛していると一人だけ慌てる奴がいる。藤原玄明だ。
「く!? 何殺されてやがる! 将門!」
「倒しましたか。では、私も本気を出しましょう。我こそは毘沙門天の化身なり! 神威解放!」
「な…何!?」
謙信さんの身体が神の光に包まれると謙信さんの手に毘沙門天が持つ三叉戟が現れる。これは終わったな。レベルが違い過ぎる。
「ま、待て!?」
「はぁ!」
謙信さんの馬が神速で一瞬で藤原玄明を貫いた。
「ぎゃあああああ!? 消える!? また地獄の苦しみを受けるのか!? い、嫌だ! 俺は悪くない! 俺は無実だ!」
「見苦しい。罪人は罪人らしく地獄に落ちて、罪を償いなさい! 神波動!」
藤原玄明を貫いた三叉戟から神波動が放たれ、消し飛ばされた。これが上杉謙信の力か…流石は勝率97%を誇る戦国大名だ。半端ない強さだね。これで残すは龐徳だが、逃げ出した。サバ缶さんから通信が来る。
『既に第五砦組は奪還に成功し、第四砦に進撃しているらしいです』
『了解。それじゃあ、最後の仕上げと行きましょう』
俺たちは逃げ出した敵を追撃し、倒していく。しかしそれだと逃げ出すことに必死な龐徳を捕らえることが出来ず、第四砦に逃げ込まれてしまった。ま、わざと逃がしたんだけどね。これで俺が考えた挟撃作戦の陣形が完全に整った。
第四砦では于禁は龐徳から敗戦したことを伝えられる。
「負けたのか!? あれだけの軍勢で!?」
「変なゴーレムの大出力兵器に無数の隕石が落ちてきたりしたのだ…おまけに張遼や桜花の侍がやられてはどうしようもない。私は悪くないぞ」
「えぇい! 役立たずが! こうしてはおれん! 奴等の目的はここだ。ならばさっさと第五砦に退くぞ!」
「はい!」
第四砦での防衛を選択しなかったのは評価したい。ただ逃げ出したかっただけかも知れないけどね。すると第五砦方面から無数の巨大な岩が落ちてきた。
「な、何事だ!?」
「報告! 第五砦方面から敵襲! 攻城兵器も確認しました!」
「第五砦方面からだと!? 曹仁様は何をしているんだ!?」
「そんなことよりこれは不味いです! 于禁様!」
今頃気付いても手遅れだ。
「カタパルト! どんどん撃っちゃえ!」
「虎戦車! 前へ! 一気に落とすぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
マグラスさんたちが一気に突撃する。
「第五砦方面、突撃してきます!」
「攻城兵器を壊せ! 侵入を許すな!」
この判断は普通の戦場なら正しい判断だ。だがこのゲームで正しいかは謎だな。
「ゴーレム部隊、攻撃開始!」
「投石部隊、攻撃開始!」
ゴーレムたちのロケットパンチが次々撃ち込まれて城壁を貫通し、巨人や亀の召喚獣から巨大な岩が第四砦に撃ち込まれる。俺のメンバーからは黒鉄と夕凪の岩投擲、ルミが取り出したプレゼント箱を月輝夜に渡して、投げ込んで攻撃している。
その結果、司令塔までロケットパンチが届き、于禁たちは瓦礫に潰され、その上から巨大な岩が降ってくるがゾンビなので復活する。
「くそ! くそ! このままでは袋叩きにされるだけだ! 全軍で第五方面の敵を突破するぞ!」
「は、はい!」
突破を図るなら第五方面なのは当たり前だ。だからマグラスさんたちは虎戦車を最前線に投入した。この虎戦車は火炎放射が出来るのだが、この火炎は種火として用いた火で変化する。今回の戦いなら当然聖火を使っている。
「へいへい! 来るなら来やがれ! ゾンビども!」
「くそ! ダメだ! 近づけない!」
一途の望みを賭けて、第五砦方面の部隊に突撃した彼らだが、虎戦車と鉄壁の布陣を引いている帝さんたちの前に成す術がなかった。砦内はプレゼントが次々爆発し、俺たちが突撃しており、隠れることが出来ない。
そんな彼らに救世主が現れる。グラシャ・ラボラスだ。
「助かった!」
「ネビロス様! 万歳!」
グラシャ・ラボラスは二人を助けようと降下してくる。
「「ドラゴンダイブ!」」
リリーとイオンがグラシャ・ラボラスを止めた。
「あなたの相手はリリーたちだよ!」
「昨日とは違うので、覚悟してください」
『ッ!? 天の力に覚醒したドラゴニュートだと!?』
驚いている暇はない。
「水圧操作! リリー!」
「任せて! イオンちゃん! 聖櫃!」
『な!? ぎゃあああ~!?』
相手の動きを完全に封じてからの聖櫃による封印。これでは逃げ場ない。しかしこれは分身だった。それでも消滅させたのは大きい。
「そんな…あれほどの悪魔が一瞬で…」
「う…于禁様…」
「なんだ! あ」
そして彼らの背後にはグレイを中心にした召喚獣が迫っていた。
「は…ははは…」
「…獣に食われる俺ではないわ!」
「お供します!」
「「ぎゃあああ!?」」
最後は虎戦車に焼かれて死んだ。関羽は水計で于禁を敗北させた時に魚に例えた。ならば俺は料理人として言おう。
「魚は焼くに限るよな」
「これを見て、その感想で済ますタクトは大概だよね」
アンリ姫様を守れなかったレッカに言われたくない!これを言うとレッカが血の涙を流すから言わないけどね。
これで作戦は終了して、敵に大ダメージを与えたはずだ。恐らく今なら敵の最初の砦はかなり手薄になっていると思うが今日の戦闘はここまでだな。そして俺たちは明日文化祭で最初の砦攻略には参加出来ない。悔しいけど、ここはみんなに任せよう。




