#806 吹雪の魔法剣とリリーたちの訓練
土曜日の朝、昨日は折角リリーたちを進化させたのに強さの確認も何もしないまま、ログアウトしてしまったから今日の予定を考えながら下に降りると佳代姉たちがいた。そういえばいるんだった。
「おはよう」
「おはよう。なんだが久しぶりな感じがするね。このやり取り」
「確かにそんな気がするな」
すると理恋が早速聞いてくる。
「それよりも兄ちゃん! 進化したリリーたちの強さを教えて!」
「俺もアクシデントで実力を確認していないが、かなり強くなっていたぞ」
あれでまだ弱い道を選んだと言うんだが、神クラスのドラゴンがどれだけ規格外なのか気になるところだ。
「…じゃあ、これから確認する感じ?」
「あぁ…たぶん決闘したがるだろうからな」
「それはせい君が先生をしたからでしょう?」
「もう卒業させたんだけどな」
ご飯を食べ終えてからログインするとベッドでリリーとイオンに挟まれていた。自分と年が殆ど変わらない女の子と寝ている俺は大丈夫なのかな?
「んん~…お肉~」
「お魚にゃ~…」
俺の服の臭いを嗅いでこんな寝言をするなんて、俺の服の臭いは大丈夫だろうか?ちょっと心配になった。二人を起こすとやっぱり決闘をお願いしてきた。
「二人で戦ったら、どうだ?」
「「嫌!」」
「虎徹はどうだ? 俺より強いぞ」
「「負けそうだから嫌!」」
そこは挑んで欲しい。二人が決闘をねだっていると和狐とヘーパイストスがやって来た。
「リアンはんの服が完成しました」
「こちらはイオンさんの魔法剣です」
二人の興味が魔法剣。着物にはいかないんだなぁ。まずは着物から見てみよう。
光泡の着物:レア度9 防具 品質S-
重さ:5 耐久値:1000 防御力:30
効果:魔素攻撃無効、精神攻撃無効、天の加護
天の衣から作製した女物の着物。紺青色の布地に色とりどりの泡が描かれており、深海のデザインとなっている。天の衣の効果で精神攻撃と魔素から身を守り、天の加護で全ての武器に神聖属性を付与することが出来る。
リアンが着替える。
「どうでしょうか? 先輩?」
「絵柄が珍しいからちょっと心配していたけど、似合ってるぞ。ちょっと大人になった感じがする」
「そ、そうでしょうか? えへへ」
実際に見るとマーメイドにはこういう絵柄が似合うと実感するな。
次は白い冷気を発生させている綺麗な青い刀身の魔法剣だ。それと素材に使われた永久凍土を見て、名前を決めた。
フロストグレイザー:レア度9 魔法剣 品質A
重さ:75 耐久値:1000 攻撃力:1000
魔法剣効果:氷属性アップ(究)、悪魔特攻(究)、万物切断、浄化、詠唱破棄
宝玉効果:暴風雪、魔法再時間短縮(超)、宝玉解放
刻印効果:魔力アップ(究)
永久凍土とミスリルの合金で作られた氷の魔法剣。タンザナイトの宝玉を組み込まれており、ひと振りするだけでも暴風雪を発生させる力を持っている。剣の鍔にはクラン『リープリング』のエンブレムが焼入れされている。
永久凍土は英語でパーマフロストと呼ぶことから名付けてみた。
「これが私の新しい魔法剣…タ、タクトさん! 早く訓練に行きましょう!」
なんてことだ。イオンは新しい魔法剣の試し斬りに俺を使う気らしい。
「ちょっと待て。次の依頼をしないといけないだろう?」
「そ、そうですね」
尻尾が滅茶苦茶動いているぞ…イオン。
「ヘーパイストスには八岐大蛟の尾を使った武器を頼むな」
「はい!」
すると刀に目がない恋火と千影が飛び付く。
「あたしの刀ですか!? タクトお兄ちゃん!」
「私の刀でありますか!? 親方様!」
「「む!」」
二人の間で火花が散る。俺が使いたいとは言えない雰囲気だな。ここで俺は今予定している刀を考えると全部で三つある。協議して決めると八岐大蛟の刀は恋火、八岐大蛟の魂が宿った刀は千影、スサノオの刀は俺となった。
「水の刀…どんなのでしょうか…」
今までずっと火の刀を使っていただけに楽しみみたいだな。尻尾が凄い動いている。俺的には恋火の特徴である火を刀に宿す技や紅炎などの追加効果がどうなるか不安点がある。
ここで虎徹が来た。どうやら自分も欲しいらしい。
「虎徹はたくさんあるだろう?」
「そうでありますよ。そもそももう一本の刀をどうやって使うつもりなのでありますか?」
「ガゥ!」
口に咥えて使う見たいです。虎徹なら出来そうだが、それで使えなくなる技もあるから却下した。次はセチアだ。
「ユウェルと一緒にファリーダの武器と言いたいが、宝石がないんだよな…」
「別に火属性にこだわらなくもいいわよ?」
「それもわかってはいるんだが…悪いがこれが終わった後にさせてくれ」
「いいわよ。どうせなら強い武器が欲しいからね」
ファリーダは文句を言わないから助かる。
「「む!」」
リリーとイオンは反応しないでくれ。
「では、予定通りケツァルコアトル様の杖ですね?」
「あぁ…頼む。ユウェルは俺と銃弾の作製をしようか」
「タクとか!? やる!」
和狐は自分の服の作製だ。デザインなど自分で考えているみたい。ちょっと寂しいが楽しみではあるな。するとリリーとイオンから視線攻撃。
「二人は俺の心を読むこと禁止な」
「「えぇ~」」
「心を読んでばかりいたら、つまらないぞ?」
きっと心を読めたら、ワクワクやドキドキするような気持ちが失われるだろう。俺はそういうのを大切にしたい。リリーたちの気持ちが読めていたら、俺は好きになっていたのかな?
「や、やめる! やめるからそれ以上は考えないで! タクト!」
「それ以上考えるのは危険です!」
やれやれだ。俺たちが訓練のために外に出ると上杉謙信さんと遭遇した。
「タクト殿! 昨日のご活躍、見事な物でした」
「謙信さんも虎徹が抜けた穴をフォローしていただきありがとうございます」
実は虎徹がグラシャ・ラボラスとの戦いに駆けつけられたのは上杉謙信が虎徹の邪魔をしていた松倉勝家を代わりに戦ってくれたからだ。
「当然のことをしたまでのことです。それにあいつは桜花の人間ですしね。そんなことより一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「虎徹との決闘でしょうか?」
「はい! 何卒お願いいたします」
謙信さんが頭を下げてくる。そこまでお願いしなくてもいいんだけどな。
「虎徹」
「ガゥ!」
「いいみたいですよ」
「かたじけない! では、早速お願いいたします!」
これは見物だな。すると俺は引きずられていく。
「タクトはこっちだよ!」
「ちょっと待って! 見学くらいさせてくれ!」
「ダメです~」
俺が名残惜しく見つめていると恋火と千影が見学に回っていた。羨ましい!
気持ちを切り替えて決闘をする。最初はリリー。武器はエストオラシオンとレガメファミリアの二刀流。それに対する俺は迅雷とグランアルヴリング。
お互いに武器を構えるとリリーはエンゲージバーストを使っている時の俺の構えを真似していた。
「タクトさんの真似をしていいんですか? リリー?」
「うん!」
リリーは武器二本を使うのが初めてに等しいからな。使い方を真似するのは当然かも知れない。
「試合、開始!」
む!やばい!
「やぁああ!」
「空間歪曲!」
リリーが光速激突を使うと同時に俺が空間歪曲を使うとリリーは止まれず、空間歪曲に入った。そして決闘フィールドにリリーがぶつかる。
「…ひたぁい(痛い)」
光速の速度で壁にぶつかることが痛いで済むだけ大したものだ。
「もう本気で怒ったよ! タクト! 光閃!」
リリーが光の速度で武器を振るって来た。慧眼で回避したが限界が来るとリリーが攻撃をやめる。
「天鎖!」
俺は空間から現れた鎖に拘束される。これはプリズムケルビムが使っていたスキルか。そして新しい武技を使う。リリーがレガメファミリアを天に掲げる。
「天涯両断! タクト! 覚悟~!」
レガメファミリアから天を貫くような光の刃が生まれて、それをリリーは振り下ろして俺は両断ではなく木っ端微塵になった。
「勝った~!」
喜んでいるリリーにイクスが呟く。
「エネルギーソードの真似事…リリーには説明を求めます」
俺も見ていて思った。規模がリリーのほうが大きいからイクスというかエクスマキナの琴線に触れたようだ。
「せ、説明? リリーに言われても分からないよ~。イクスちゃん」
まぁ、文句ならこの必殺技を考えた運営に言うべきだろうな。今回わかったことは進化したリリーは防御や補助、敵を拘束する能力など技にバリエーションが増えた。何よりの脅威はリリーの最大の弱点と言ってよかったスピードが大幅に強化されたことだ。
正直今の俺では慧眼を使って回避することしか出来ないレベルだ。ぶっちゃけ最初から負けると思ってました。次はイオン。俺は防寒装備にシフトする。
「それはずるいですよ! タクトさん!」
「はぁ~…わかったよ」
これぐらいのハンデがあっても今のイオンなら俺を瞬殺出来るだろうに…。結果はフロストグレイザーの暴風雪に晒されて凍りました。滅茶苦茶寒い。
「…ふぅ」
「タ、タクト?」
「だ、大丈夫ですか? タクトさん?」
「お二人とも…タクト様に強くなったところを見せて、褒めて貰いたい気持ちはわかりますがやり過ぎです」
セチアの言葉に二人は慌てる。
「そ、そんなこと考えてないよ! セチアちゃん!」
「そうですよ!」
「本当ですか?」
「「う…」」
セチアの疑いの視線にたじろく二人。俺はホットココアを取り出し、飲む。
「あぁ…染み渡る」
冷えた体にはこれだなぁ…するとリリーとイオンが反応する。
「な、何それ! タクト!」
「美味しそうな匂いですね~」
「…」
「「あ…」」
ココアを全部飲む。
「とにかく俺じゃ二人の相手は無理だ。でも、二人の実力は知りたいからこれから二人で決闘してくれ。拒否権はない」
「「は、はい!」」
ということで二人が戦うが互角。一見するとリリーのほうが強く見えるがリンドヴルムが使っていた時間遅延のせいで光速の速度が失われた結果、互角となった。
「むぅ~! イオンちゃん! ず~る~い!」
「それはこっちのセリフです! リリーの癖に速くならないで下さい!」
「イオンちゃんだって、筋力上がっている癖に~!」
仲良く遊んでいるな。これを見て、俺が戦う必要がなかったと心底思う。ここでリリーたちが使った初見のスキルをまとめるとこんな感じ。
天竜眼:夜でも正確に敵を確認することが出来、敵の急所を見切る力に加えて、竜眼より更に遠くの敵を確認出来、雲や影、雪、岩陰に隠れている敵も見つけることが出来る。
天言:星読みより先の未来を見ることが出来、更に警告を受けることが出来る。
虚空切断:空間を斬り裂くことが出来る。空間歪曲封じのスキルであり、空間を斬り裂くので、敵の硬さなど、影響を受けずダメージを与えることが出来るスキル。
天鎧:天の光の鎧を着るスキル。星鎧より防御力が高い。
天壁:天の光の壁を正面に作るスキル。星壁より防御力が高い。
竜鱗装甲:自分の体の一部を竜の鱗にするスキル。防御力が上がる以外に直接攻撃の攻撃力を上げる効果がある。
天雨:星雨より広範囲に光の雨を降らせるスキル。闇属性の敵に大ダメージを与える。
天光:天の光を身体から放ち、周囲を明るく照らし、相手を盲ませたり出来るスキル。超集束スキルで集めることで極太の光線を放つことが出来る。
超集束:集束スキルより多くの魔力を集めることが出来るスキル。
瞬間再生:高速再生を超える速度で生命力を回復するスキル。
天波動:天の光の波動で放つ魔法。星波動より威力、範囲が大きい。
星虹:通り過ぎた後ろの敵に虹色の星の光で追撃を与えるスキル。
全反射:複数の反射する膜を作ることで全方向の攻撃まで攻撃を返すことを可能となったスキル。
乱反射:光線系のスキルを複数の光線に枝分かれさせるスキル。
ガンマ線:放射線で相手を崩壊させるスキル。集束させることでガンマレイバーストとなる。
天域:聖域の上位スキル。領域にいる闇属性の敵に大ダメージを与える
星芒:光芒の上位スキル。指定した地面に星雨が集中して降り注ぐスキル。
迷彩:光を操作することで自分や仲間の姿を透明にするスキル。
光閃:光の速さで敵を斬り裂くスキル。
変光:直線にしか動かない光線スキルを曲がらせるスキル。
光圧操作:放射圧とも呼ばれる光の圧力を操作することで自分の俊敏値アップや相手を押しつぶすことが出来る。
光化:自分が光となることで移動速度が光速となり、物理攻撃が効かなくなる。ただし、光速で移動する際は直線にしか移動出来ない欠点がある。
天竜の加護:従来の加護の効果に加えてリリー曰く、魔素すら弾く加護みたい。流石に魔素になっている状態を解くとこはできないらしいが魔素の進行度を遅らせる効果はあるそうだ。シルフィ姫様を守っていた加護の一つだろう。更に回復効果の上昇などを自分に付与するみたい。召喚師には状態異常無効、神聖属性の付与、死亡時完全回復で蘇生、死亡する攻撃を一度のみ確定防御する効果が与えられるらしい。これはリリーがいないと発揮されないのは今まで通りでどうやらリリーの意思で操れるんだろう。もし俺に加護が発動していたら、まだ試合は続いていただろうからな。
次はイオンだ。
水鏡:水の鏡に相手の姿を映し出し、これを攻撃すると映し出した敵に攻撃が当たるカウンターのスキル。空間歪曲と違い入口と出口が存在せず、ダイレクトにダメージが入るので、躱すことはほぼ不可能と言っていいだろう。防ぐには水鏡を破壊するしかない厄介なスキルだ。
蒼天雷:水属性と強力な神聖属性の蒼い雷を落とすスキル。
海流操作:大規模な水の流れを操るスキル。攻撃、防御両方使える能力だが、本領を発揮するのは水中戦だろう。絶海龍王様のようなことが出来るかも知れない。
大海波動:蒼海波動の強化版。リリーの天波動より更に範囲が大きいが威力は僅かにリリーのほうが上みたいだが、僅差なので勝敗が付けづらい。
水圧操作:水圧で相手を押しつぶすスキル。水圧結界は上から押しつぶす力のみだったが、水圧操作になると結界の範囲が無くなり、押しつぶす力が全体に強化された。俺の個人的意見としてはこのスキルが一番怖い。
氷旋風:グレートサーペントが使っていたブライクニル。旋風雪との違いは氷旋風の方には即死効果があり、竜巻に触れた者を凍らせる効果のみがある。つまり竜巻の特性である相手を吸い寄せたり、巻き込んで回転させるような効果は氷旋風にはない。その代わりなのか旋風雪とは比べ物にならないほど速く移動する。
氷柱:無数の氷柱を作り出し、相手に落とすスキル。
天氷壁:神聖属性が加わった氷の壁を作るスキル。
天氷装甲:天の輝きを放つ氷を身に宿すスキル。防御力と魔法耐性がアップ。
霧氷:霧状の氷を相手にぶつけることで相手を凍らせるスキル。無数の氷が敵に当たるため、かなりの攻撃コンボ数を誇る。
月海:自分を中心に広範囲にいる味方の状態異常を回復し、状態異常一回無効を付与するスキル。
瀑布:指定した地面に大量の水を猛スピードで落として、相手を押しつぶすスキル。
天海竜の加護:今までの加護に加わり、リリーと同じ状態異常耐性に追加で熱さや寒さなどの環境のダメージや水圧のダメージを無効化する能力みたい。これにより、イオンは火、爆、水、氷属性の攻撃はほぼ通じないこととなった。これは召喚師にも付与されるとのこと。他には召喚師には水上歩行、滑走が付与されるみたいだ。
イオンの評価はリリーと同じく全体的に強くなったがリリーより自分の個性を強化した印象を受ける。遠距離攻撃の豊富さがその証拠。
全てまとめるとこんな感じになるんだが、リリーは凍らず、ガードが固く、回復能力があるためイオンは攻めきれなかった。対するリリーは全ての攻撃を遅くされ、イオンに攻撃を当てることが出来なかった。しかもお互い思考を読み会うからどうしようもない。
「勝敗が決まるまでやるか」
「タクト!? それだけは許して~」
「タクトさんが怒っていることはわかりました! 謝りますから許してください!」
虎徹と謙信の戦いも終わったみたいだし、生産作業をするとしよう。




