#802 ザクロトラップ
撤退した俺たちは透明テントを使い、第五砦から少し離れたところに潜んでいた。そのため、まだインフォが来ていない。俺の大型透明テントの中ではリアンたちがダウンしている。
「「「「気持ち悪い~」」」」
「無茶をするからだ。セチア」
「はい」
セチアが薬を取り出すとリアンたちは慌てて飛び起きる。リリーたちはセーフとアピールしている一方でリアンたちは必死の元気アピールをする。
「マーメイドは魔素に強いから大丈夫です!」
「天使もそうですよ!」
リアンとブランは特に顔色が悪い時点で影響を諸に受けているのがバレバレだ。そんな中、何も知らないユウェルとアリナがセチアから薬を貰う。
「二人は偉いですね。どうぞ」
「すまない…セチア」
「いただきますなの」
二人が薬を飲む。
「ふぅ…少し楽になった気がするぞ」
「流石セチアお姉ちゃんなの!」
「「「「あ、あれ?」」」」
リリーたちも含めて、全員疑問に思っているがセチアは浄化薬をずっと研究している。味も含めてね。今では普通の薬レベルまでとなっている。するとセチアは薬をしまう。
「あ、あの…セ、セチアお姉様? お薬を」
「知りません」
他のみんなもお願いするがセチアは言うことを聞かない。まぁ、自分の薬を酷い扱いを受けたら、こうなるのも仕方ない。
「気持ちはわかるが薬をあげてやってくれ。セチア」
「はぁ…タクト様がそう言うなら仕方ないですね」
リアンたちが薬を飲むと顔色が少し良くなった気がする。それでも苦そうな顔をするのがリアンたちだ。
「先輩…何か飲み物をいただけませんか?」
「口の中の味を変えたいです…」
「それには賛成するぞ!」
「アリナもなの!」
ジュースを与えると魔素を受けても平気だったリリーたちも欲しがる。結局みんなでジュースを飲んでいるとメルや部隊長の人たちがテントに入ってきた。そこで状況を確認する。
「犠牲者もかなり出た上に魔素にやられたプレイヤーもたくさんいるのか…」
「うん…着物やコールドアイロンのアクセサリーや武器を持っていたら、大丈夫だったんだけどね」
「…異常回復の絨毯の数が全然足りない上にハルさんたちだけではどうしようもない。セチアさんとイクスさんに治療を手伝って欲しい。兄様」
ミライがお願いして来るとは珍しい。二人が俺を見てくる。
「頼む」
「イエス、マスター」
「わかりました。どこで治療をしていますか?」
「…案内する」
セチアとイクスが治療に向かった。そして敵の情報を共有する。
「あのグラシャ・ラボラスは分身だったんだね…」
「どこかで見ていて操っていた感じか?」
「ヘル・グリフォンたちを透明にさせていたのは、恐らくグラシャ・ラボラスの能力だと思いますがグレイたちが反応しなかったことを見るとあの戦場にはいなかったと思います」
グラシャ・ラボラスは過去と未来を知る能力を持ち、人を透明にしたり、知識を教えたりする悪魔とされている。この事からヘル・グリフォンが透明だったことはほぼ間違いなくグラシャ・ラボラスの能力だと思われる。
そしてリーゼやアンリ姫様を狙ったのも過去や未来を知る能力が関係しているのかも知れない。二人はネビロスとの戦いに参加していたからな。
「ということは最初の砦のボスはグラシャ・ラボラスで決まりか?」
「それはどうなんでしょうか?」
やっぱりグラシャ・ラボラスはネビロスの騎乗悪魔のイメージがある。そして俺は最初の砦の設計図を出す。
「グラシャ・ラボラスがこの砦の中に入ると思いますか?」
「「「「無理だな(だね)」」」」
もちろん分身を巨大にしていたり、グレイたちみたいに大きさを変えれる可能性もあるかも知れないけど、俺的には第一砦のボスはグラシャ・ラボラスじゃない気がする。するとルインさんが自分の考えを話す。
「私もタクト君と同じ意見。敵の強さは第五進化のグレイちゃんたちと互角だったんでしょう? そのことから考えているとイベント後半かラストバトルに関わってくると思うのが自然だわ」
グレイと虎徹が俺に抗議の頭突きをしてくる。はいはい、あいつは逃げ出したんだから、二人のほうが強かったね。
「これは毎回グラシャ・ラボラスが登場する流れかな?」
「だとすると対応出来る戦力はタクト君か有名NPCになるわね…」
「悔しいが現時点でグラシャ・ラボラスを止めれる手段が思い付かん」
「そうでもないんじゃないですか? 少なくても分身で相手が魔素化するなら壁で閉じ込めるや封印が有効である可能性があります」
確かに列石封印や結界での閉じ込めなどが有効かも知れない。俺たちが話し合っているとテントにアンリ姫様たちが入ってきた。
「部隊はかなりの被害が出ました。幸い、皆さんのおかげで死者が出なかったことは不幸中の幸いといった感じです」
「魔素の被害が甚大で連戦出来る者は少ないでしょうね…」
「そうですか…それなら戦闘が出来そうな人を集めて、戦闘準備をお願いします」
「了解した」
ランスロットさんが出て行くと替わりに銀たちが入ってきた。
「ライダーズが砦に入って、爆弾で攻撃を開始したよん」
「砦の被害は軽微みたい」
「当然だ。分厚い鋼鉄の扉なんだぞ。そこらの爆弾で壊されてたまるか」
そのせいで扉の開閉はオーガやゴーレムなどの力が必須だったりする。すると今度は火影さんが来た。
「作戦通り敵が動いたでござるよ」
「わかりました。全員、攻撃用意をお願いします」
「「「「了解」」」」
するとセチアとイクスから通信が来る。
『薬が全然足りません。タクト様』
『アン、ドゥの魔力がつきました。マスター。魔力供給をお願いします』
「わかった。そっちに向かうな」
すると患者の数に驚く。これはまさか…とても嫌な予感がする!
俺は魔力回復の絨毯に乗った状態でエントラストを連発することになりました。なんでナノエクスマキナの魔力は絨毯で回復出来ないんだよ!納得いかない!
その頃第五砦内では、バイクに乗ったライダーたちは城門の破壊を諦め、後方から来る部隊を待つことにした。その間にライダーたちは砦内に建てられた倉庫を物色する。倉庫の床にはコールドアイロンが使われた倉庫があり、それを怪しんだゴブリンたちが木のドアを開ける。わざわざドアを開けれるようにしているわけを考えるべきだったな。
『はっずれ~!』
『バーカ! バーカ!』
『だまされてやんの!』
似顔絵付きの看板だけがあった。嫌がらせです。作ったのはユグさんたちだ。考えたのはサバ缶さん。
「こういう子供みたいな挑発は意外に効くものですよ」
サバ缶さんの狙い通りゴブリンたちは怒ると倉庫の中に爆弾を投げつけて、倉庫を破壊すると隣の倉庫にいく。
隣の倉庫は食料庫だった。中には木箱がたくさんあり、りんごが入った木箱の上にディオニューソスウイスキーが入った酒樽がある。ゴブリンたちは当然のように酒樽に手に伸ばすと普通に飲んだ。
他のゴブリンが酔っ払った仲間を見て怒るが、結局酒を飲む。そして酒が無くなると新たな酒を求めるものだ。ゴブリンたちはみんなの言う通り、りんごの木箱を開けた。そして迷わずりんごに化けたザクロを食べた。
しばらくすると敵の後続部隊が到着するわけだが、砦内は既に大乱闘状態だった。後続部隊が止めに入るが俺たちはこの瞬間を待っていた。
「カタパルト、発射~!」
ユグさんの合図で移動式のカタパルトから巨大な煙弾が砦内に投げ込まれる。すると落ちた衝撃で煙弾が爆発し、砦内に狂乱草の煙が充満する。その結果、敵部隊全てが暴走の状態異常になる。
こうなると敵全体が大乱闘を起こす。しばらく暴れさせてから俺たちの作戦は最終段階に入る。
「「「「(爆破の霊符)!」」」」
城門に飛び上がった忍者たちが一斉に爆破の霊符を発動されると食料庫にあった木箱の中にはダイナマイトが大量に入った物があり、それが忍者たちによって、起爆する。
「カタパルト、第二攻撃! 発射~!」
更にカタパルトから石油が入った壺が砦内に投げ込まれる。それを魔女の隠れ蓑やダークエルフの隠れ蓑で空に隠れていたトリスタンさん率いる狩人たちが火矢を放つ。これで砦内は大炎上だ。
それでも暴走状態の彼らは暴れることしか出来ない。
『殆どの敵の生命力がレッドゾーンに入りました。そろそろいいかと』
『了解』
俺が合図すると大雨が振る。これで砦内の火が鎮火する。
「開門!」
月輝夜たちオーガが閂を外し、黒鉄たちゴーレムたちが城門を開けた。
「「「「全軍突撃! 敵部隊を喰いつくせ!」」」」
戦いに参加出来た全部隊で弱りきっている敵に襲い掛かり、俺たちは敵部隊を全滅させた。余談だが、暴れすぎた俺とグレイ、虎徹はアンリ姫様たちの護衛に回されました。戦闘が終わったことでインフォが来る。
『リリーのレベルが30に到達しました。特殊クエスト『聖輝龍王の試練』に挑むことが可能です』
『イオンのレベルが30に到達しました。特殊クエスト『絶海龍王の試練』に挑むことが可能です』
『恋火の二刀流のレベルが40に到達しました。二刀流【ミーティアエッジ】を取得しました』
『リアンの杖のレベルが10に到達しました。杖【マジックサークル】、【エントラスト】を取得しました』
『リオーネのレベルが24に到達しました。進化が可能です』
『ルミのレベルが24に到達しました。進化が可能です』
『夕凪のレベルが20に到達しました。進化が可能です』
NPCが圧倒的に増えたから経験値はかなり減ったみたいだ。それでもリリーたちの進化に届いたのはプリズムケルビムを倒したことがかなり大きかったと見るべきだな。進化や試練の前にみんなで勝鬨を上げるが第五砦はボロボロだ。
「派手にやったもんだな」
「ここまで壊されると清々しいもんだ」
作戦で説明はしているが一応砦を作ってくれたクロウさんたちに謝っていると香子たちが来る。
「例の仕掛けは外からの見た目は完璧でした」
クロウさんが言う。
「後は中がどうなっているだな。今から確認するか」
「おう」
「俺たちは作戦Bに従い、防衛拠点を第三砦に移します」
第四砦は手抜きだから防衛することが出来ない。それは敵の規模から見ても明らかだ。ということで防衛の本番は第三砦となる。そうは言っても防衛準備は俺の仕事ではないため、お城に帰って明日の打ち合わせをしてからまずは外で進化をさせることにした。




