#801 ネビロスのグリフォン
最初に敵の姿を捉えたのはアルさんたちだ。ボスは砦から現れると思っていたアルさんたちは砦の遥か上空から透明になっているボスと部隊に気付くことが出来なかった。
飛来する透明な巨体に激突されると空振の効果でアルさんたちはぶっ飛ばされる。
「くっ…何が起き…ッ!?」
空振で吹っ飛ばされたアルさんたちは一緒に飛んできた黒い羽と瘴気を浴びて、麻痺と魔素になる。そこに透明の謎の部隊が襲い掛かった。
「みんな来るよ!」
リリーの合図で全員が波動技を使うと巨大な透明な敵に命中したかに見えた瞬間、そいつは魔素化してリリーたちの攻撃を躱した。そして魔素化が解除されると姿を見せた。その姿は一言で言うと犬顔のグリフォン。識別する。
グラシャ・ラボラス?
? ? ?
やはりネビロス関係で来るよな…グラシャ・ラボラスは『ゴエティア』によると、36の軍団を指揮する序列25番の大総裁として登場する。他の本ではネビロスの支配下にあり、乗用の従僕として書かれている。てっきりネビロス戦で戦うことになると思っていたが予想が外れた。
『こちらアル! 透明の敵に襲われて、敵部隊への攻撃不能です!』
『透明になっているのは恐らくヘル・グリフォンです!』
俺がアルさんと通信しているとお構い無しにグラシャ・ラボラスはリリーたちに襲い掛かった。リリーたちは迎え撃つが魔素化して、リリーたちを突破するとリリーたちは空振を受ける。
「きゃあああ~!? 抜けられちゃっ…う!?」
「これは…魔素!? それに痺れて…」
着物を装備しているリリーたちは平気だが、装備していないリアンたちはダイレクトに魔素の影響を受けてしまった。ここでイクスが決断する。
「皆さん、地上へ。リアンたちをナノエクスマキナで治療します」
「じゃあ、リリーたちはタクトの助けに」
「待ちなさい。リリー。治療するイクスとリアンたちを守らないといけません」
「それに別の敵の一団がこちらに向かっています。わたしたちは治療とマスターの戦闘を邪魔させない為に敵部隊の足止めをすべきです」
リリーがグラシャ・ラボラスを見る。
「タクトならグレイたちもいるし、大丈夫だよね?」
「えぇ。きっとあんな奴、倒してくれるはずです」
「わかった! じゃあ、リリーはここでタクトを助けよう!」
「編成はどうしますか?」
「えーっとね…どうしよう?」
なんともリリーらしい。イオンが代わりに決める。
「地上戦が得意で状態異常にも強い恋火と足止めが得意のノワとリビナはイクスの護衛をお願いします。私とリリーで空の敵を足止めします」
「…ん」
「的確な編成だと思うよ。それじゃあ、ボクらは回復地点を確保しようか」
リリーたちが抜かれたことでグレイに乗っている俺はグラシャ・ラボラスを迎え撃つ。
お互いの光速激突で爪がぶつかり合うとせめぎあった結果、グレイがグラシャ・ラボラスをぶっ飛ばす。恐らく通常のグレイでは互角だっただろう。しかし群狼の効果が最大限生かされている戦場ではグレイのほうが筋力で勝っているようだ。
そして魔素を受けても平気なコノハが氷河爪で蹴りをお見舞いすると魔素化で回避される。光速激突中だったのに回避した?
「ガゥ!」
グレイの指示でグレイの仲間たちが空間跳躍で現れると魔素を餓狼スキルで食べにかかるが魔素は減らず、こちらに向かってきた。
「ガァァ~!」
グレイの口から白い霧が吐き出され、俺たちを包み込むと魔素はこの霧を避けて、城門向かった。
「抜かれたか…あの魔素はなんだろうな? コノハの光速激突を受けたのになぜ魔素化出来たんだ?」
「ホー!」
俺の疑問にコノハが影分身を使う。なるほど!そういうからくりか!
「偉いぞ! コノハ!」
俺たちが霧から出ると太陽神のチャリオットが吹っ飛ばされており、虎徹がグラシャ・ラボラスを斬ったところだった。虎徹さん、かっこよすぎ。あの刀は…退魔刀の大典太光世だな。
しかし斬られたグラシャ・ラボラスは体勢を整え、城門に向かう。あいつの狙いはまさかリーゼたちか?やらせるか!
グレイが空間跳躍しようとすると地面から巨大な岩の巨人が現れた。アグリィ・スプリガンだ。それでも空間跳躍しようとするとアグリィ・スプリガンの先へ空間跳躍出来なかった。こいつは砦と同じ効果があるのか。うざったい!
「ワオーン!」
グレイが神狼の咆哮を使うと障壁を一つ吹き飛ばす。しかしアグリィ・スプリガンの障壁は何枚も貼られていて、攻撃が届かない。するとグレイが急に距離を取る。
不思議に思っているとアグリィ・スプリガンの後ろから覇撃が飛んで来て、障壁を一枚吹き飛ばすと更に次々、覇撃が放たれる。こんなことが出来るのは虎徹しかいない。虎徹は覇撃の連打で障壁を全て剥がすと最後に謎の神刀二本の覇撃でアグリィ・スプリガンを粉々にする。
しかし消し飛ばされたアグリィ・スプリガンは蘇生をする。
「死んどけ! グレイ! コノハ!」
「ガァアア!」
グレイがゴッドブレスを放ち、俺がメテオ、コノハがレールガン。おまけに連続詠唱だ!
「「「「獣魔魔法! メテオブレイカー!」」」」
上空から雷速の隕石がアグリィ・スプリガンに落ちると大爆発する。それが連続で降り注ぎ、アグリィ・スプリガンを倒しきった。
俺が足止めされている間に城門に向かったグラシャ・ラボラスはセチアたちと魔法とディアンのブレスを受けることになるのだが、それをやはり黒霧でガードされ、月輝夜が攻撃するがまた魔素化する。
「よくもやってくれよったな…こいつでもくらって死んどけや!」
「行かせない! バスターカリバー!」
太陽神のチャリオットに乗っていたレイジさんからブリューナクが投げられ、更にブルーフリーダムのリーダーが聖剣グラムでバスターカリバーを放つがまた魔素化する。
「うそやろ!? 当たったはずやで!?」
「これ以上、行かせるな!」
「「「「ロイヤルランパード!」」」」
満月さんたちが強制を使いつつ、ロイヤルランパードを使うがそれを無視して、また魔素化したグラシャ・ラボラスはロイヤルランパードを飛び越えて、グラシャ・ラボラスの姿に戻る。
そこを狙ったディアンのブレスがグラシャ・ラボラスに命中するがまた魔素になる。
「「「「ガァアア!」」」」
グレイの効果を受けた優牙を中心にしたウルフたちが攻撃すると魔素になったグラシャ・ラボラスはこれを上に上がり避けた。
「ハーミットブレス!」
「暴風雪!」
「聖水!」
「「「「ガァアア!」」」」
城門を守っていた和狐、チェス、ゲイル、白夜、狐子、伊雪、ミール、ハーベラスが攻撃するが魔素は城門に向かう。
黒鉄が強制を発動させるとグラシャ・ラボラスは実体となり、黒鉄を押し倒すと背後から月輝夜が金剛戦斧で襲いかかったが魔素で躱されたと思ったら、月輝夜がグラシャ・ラボラスに捕まる。
「月輝夜を離しなさい! グランドスマッシュ!」
「やらせないぞ!」
ぷよ助が水圧切断でグラシャ・ラボラスの首を狙い、ファリーダが空脚で月輝夜を捕まえている前足、ユウェルのミスティックモーニングスターで胸、側面から跳躍したエアリーの激突がグラシャ・ラボラスの腹に決まろうとした瞬間魔素化する。
しかしグラシャ・ラボラスは直ぐに実体となると黒い竜巻を身に纏い、ファリーダたちに突進する。
「止めてやるわよ! 魔王覇気!」
「金属壁!」
「「「「壁錬成!」」」」
ファリーダたちの前にユウェルと錬金術師たちが壁を作るがそれを破壊し、ファリーダたちを浮き飛ばすと思われたがファリーダがグラシャ・ラボラスの突進を止めた。
「くぅうう~! はぁああ!」
ファリーダは強引にグラシャ・ラボラスの突進を向きを変え、グラシャ・ラボラスは城壁にぶつけようとした。しかしグラシャ・ラボラスは城壁に着地するとそのまま、城門に向かう。
「精霊結界!」
「結界!」
セチアと和狐が守ろうとするがグラシャ・ラボラスの突進を止められず、城門の上にいるみんなを避難させることしか出来なかった。
グラシャ・ラボラスは遂に爪で城門を破壊すると強引に砦内に侵入した。砦内にはランスロットとモルドレッド、アストルフォがいる。
「これ以上は行かせませんよ! モルドレッド!」
「わかってるつーの!」
「あんな偽物、やっつけちゃうよ! ヒポグリフ!」
「ピィ!」
砦内のからの銃撃に加え、ランスロットとモルドレッド、アストルフォの攻撃をグラシャ・ラボラスは受けると魔素化して、司令室を爪で攻撃した。
「うそ!? 光速激突、発動してたよ!?」
「不味いです! 司令室にはフリーティアの姫たちが」
「くそったれ!」
三人が向かおうとすると司令室にいた人たちがグラシャ・ラボラスに吹き飛ばされて、落下してくる。
「オリヴィエ!?」
「アストルフォ! 私よりお嬢様と姫様を! 二人が捕まりました!」
「行かせん!」
「逃がすか!」
ランスロットとモルドレッドが空脚で斬りかかるが魔素化し、空に逃がしてしまう。
「大変だ! ヒポグリフ! ヒポグリフ?」
ヒポグリフはオリヴィエや他の人たちを助けた。俺たちがグラシャ・ラボラスの前に立ち塞がったからだ。
「アンリ姫様とリーゼを拐って何がしたいのか知らないが返して貰うぞ!」
グレイの光速激突がグラシャ・ラボラスに決まるとやはり魔素化する。それを読んでいた俺はグレイから転瞬で二人の前に移動すると二人を捕まえることが出来た。
「タクト!」
「タクト様!」
「ドジして悪かったな…もう大丈夫…だ?」
二人に連れていこうするとすると引っ張られる。見ると魔素が手の形となり、二人を捕まえていた。気持ち悪いな。
「ガゥ!」
「ホー!」
グレイとコノハが攻撃するが外れない。すると虎徹が現れ、魔素の腕を斬り裂くが手が外れない。しかし虎徹がヒントがくれた。コールドアイロンの使い道はこれか!
俺が二人を奪われないように捕まえつつ、コールドアイロンソードを取り出すとコールドアイロンソードは輝き、魔素の手を祓った。
「おっと…大丈夫か?」
「かなり痛かったですけど…大丈夫です」
「うむ…妾も問題はない。拐われるより大分ましじゃ」
完全に引き合いになったからなぁ。申し訳ない。すると魔素から本来の姿に戻ったグラシャ・ラボラスと敵対する。
『おのれ…わしの邪魔をするか! 召喚師!』
「分身でも話せるとは随分器用なんだな?」
『ッ!?』
図星らしい。犬顔で驚かれると笑える。
「差し詰め魔素分身と言った感じか? 分身なら激突の効果を受けても魔素に戻るだけ。戻った魔素にまた分身スキルを使えば元通りになるわけだ。便利な分身だが、どうするよ? 俺たちと戦うか? グリフォン擬き」
『ふん! くだらん挑発には乗らん。既に目的は達したからな。今日はここまでだが、わしの邪魔をした貴様らの顔は覚えた。次は噛み殺してくれる!』
そういうとグラシャ・ラボラスは消えた。
「噛み殺すとか一度も噛みついて来なかった上に誘拐を失敗した奴に目的は達したと言われてもなぁ」
「全くなのじゃ」
「でも、負け惜しみに聞こえませんでした」
リリーたちから通信が来る。
『タクト! 透明な敵が来てる!』
『変な乗り物に乗っている敵の軍団が迫ってます』
変な乗り物?アルさんに通信を繋げる。
『タクトです。すみません、突然通信を切って』
『タクトさん! 良かった…敵の部隊にバイクに乗ったゴブリンやスケルトンがいます!』
バイクだと!?ずるい!俺たちでもまだ作れてないのに!
状況を考えると城門は破壊され、砦内もボロボロ。みんなのダメージも大きいし、まだゾンビたちが残っている状況だ。そして透明のヘル・グリフォンたちと敵の本隊が迫ってきている。撤退を決断するならここだな。
「砦に向かいますね。グレイに捕まってください」
「はい!」
「うむ! ふさふさなのじゃ~」
俺たちが砦に戻るとフリーティアの関係者が集まる。
「お嬢様!」
「リーゼ! 無事か!」
「うむ! タクトと召喚獣たちに助けて貰ったのじゃ」
「私も無事です。状況はどうですか?」
やはり騎士たちのダメージやプレイヤーたちの被害がかなり出ている。因みにアンリ姫様を守ろうとしたレッカやサバ缶さんたちはワンパンで死に戻ったみたいだ。魔法使いや生産職では流石に耐えられなかったんだな。
「敵の本隊が迫ってます。作戦プランをBに変更しましょう。このまま防衛しても特がありません」
「確かに撤退をするなら今が一番いいでしょうね」
「私も同じ意見です。ハンズ様」
「そうだな。全員撤退の準備をしろ」
俺もサバ缶さんの代わりに合図役の人に通信を送ると撤退の花火が上がる。
「俺はリリーたちと合流してくる。グレイはここを頼めるか?」
「ガゥ!」
「あ、それならこのまま乗ってていいですか?」
「うむ。グレイの背中の上が一番安全だと思うのじゃ」
騎士たちが崩れ落ちる。子供の言葉は時に残酷である。
「いいか?」
「ガゥ!」
「いいみたいですよ。虎徹は城門前に陣取って、退路の確保を頼む。コノハは俺と来てくれ」
「ガゥ!」
虎徹が空間跳躍し、俺はダーレーを呼ぶと騎乗し、空間歪曲でリリーたちのところに飛ぶといきなりヘル・グリフォンに襲われた。爪を弾き、グランアルヴリングで斬り裂く。
「タクトだ!」
「今、空間歪曲を使いませんでしたか!? タクトさん」
「今はそれどころじゃないぞ…イオン。俺たちは味方の撤退を援護する。とりあえずヘル・グリフォンたちを仕留める部隊と地上を援護する部隊に別れる…ぞ?」
俺はメンバーを分けているとリアンたちの顔色が悪いことに気がついた。
「な、なんでもないですよ? 先輩」
「私たちなら大丈夫です…」
「そんな顔で言われてもな…何が起きたんだ?」
全員が話せない中、アリナが苦無を操り、ヘル・グリフォンの目を攻撃しながら話してくれた。何気に戦闘慣れしているのはドラゴニュートだからだろうか?
「魔素を浴びて、気持ち悪いの…」
「「「「アリナ!?」」」」
「…大丈夫なのか?」
「ナノエクスマキナで治療したので、問題ありません」
そうか…それで回復をしているのに顔色が悪いのか。するとみんながヘル・グリフォンを倒して元気をアピールをする。
「アリナはもう無理なの~」
「…ノワも無理」
この二人だけくっついてきた。
「ノワは邪竜だし、着物も着ているから魔素の効果を受けてないよ。タクト」
「うむ。さっきまで普通に戦っていたしの!」
そうか…各着物には魔素攻撃無効の効果があったな。セフォネが元気なのはノワと同じでヴァンパイアだからか。
「…リビナとセフォネの目は節穴」
残念ながらノワに味方はいなかった。
「とにかく魔素を受けた者は無理はしないでくれ。戦える者でこちらを倒すぞ!」
「「「「うん(はい)!」」」」
俺たちはヘル・グリフォンと戦いながら地面にいる奴らを識別した。
スカルゴブリンライダー?
? ? ?
スケルトンライダー?
? ? ?
スカルライダー?
? ? ?
スカルゴブリンライダーは髑髏の仮面を着けているゴブリンだ。乗っているバイクは全体には骸骨で使われており、車輪は燃えていた。明らかに普通のバイクじゃない。
スケルトンライダーはスケルトンが骸骨バイクに乗っているだけで、スカルライダーは革ジャンを着たスケルトンになるのかな?
強さはバイクの大きさから見てもスカルライダー、スケルトンライダー、スカルゴブリンライダーの順番で強いだろうな。
ランパードで邪魔しようしたら壁を登り、ボトムレススワンプで沈めようとしたら、普通に走り抜けた。他にもスリップで転ばそうとしたがバランスを崩すだけで立て直された。人間よりドライブテクニックあるな…するとコノハのヒドゥンクレバスに引っ掛かりクレバスに落下すると閉じられて倒した。
通信を繋げていた合図役の人から連絡が来る。
『作戦準備完了。撤退はもうすぐで完了します。タクトさんも作戦準備をお願いします』
『わかりました』
「地上のみんなと合流する!」
俺たちは無事の第四砦方面の城門を開けて外に出ると城門を月輝夜たちオーガの協力で閂を使い、固くロックしてから一時撤退した。
 




