#798 アリナの武器と空竜の試練
イベントが始まる金曜日。学校が終わり、スーパーで買い物を済まして家に帰ると見慣れた車が家に停車していた。佳代姉のだ。
「はぁ~…なんで日曜日には文化祭なのに来てるんだよ…」
「むしろ文化祭だからだよ。せい君の家からだと歩いていけるし、ゲームの休憩時間の間に文化祭に行けるでしょ?」
「…それにシフォンお姉ちゃんたちだけずるい」
「うんうん。だから今週は私たちの番! これは決定事項なんだよ! 兄ちゃん!」
自分たちだけで決めた決定事項なんだよな。
「お父さんたちはどうするんだよ…文化祭に来るつもりなんだろ?」
「うん。文化祭の日は私がちゃんと送り迎えをするよ」
「二人もうちに泊まりに来るのか?」
「それはないよ。そんなことされたら、安心してゲーム出来ないじゃん」
理恋の言い分が酷い。ということは二人は文化祭が終わったら、すぐに帰っちゃう感じなのか…話をしたかったんだけどなぁ。いや振替で月曜日が休みになるからその時か夜にでも三人だけで話せるか。
俺が勝手にスケジュールを決めていると料理は三人が作ってくれるというので、ゲームにログインするとリリーとイオンを起こす。
「んん~! 今日からまたエステルなんだよね? タクト」
「あぁ。だけど、もう最初の戦闘は終わったみたいなんだよな」
「ふわ~…それは残念ですね…」
「あぁ…その代わりと言ってはなんだけど、俺たちは島で生産とレベル上げをしてから夜の戦いに参加しようと思う」
戦闘参加が遅れるとこういうことも出来る。これで恐らくアリナや新しい子たちの進化が出来るだろう。俺たちが降りるとパンドラがアリナの武器を持ってきてくれた。
清月の苦無:レア度9 短剣 品質S
重さ:10 耐久値:200 攻撃力:100
効果:悪魔特攻(究)、万物切断、浄化、魔素吸収、地獄の加護無効化
ルーンサイトとミスリルの合金で作られた苦無。ミスリルの浄化能力のおかげで魔素を取り除く時間なく戦うことを可能にした。死後の世界の力を宿した存在に極めて強力な能力を誇っている。
滅茶苦茶軽い。アリナのことをよく考えられた武器だと思うな。これを貰ったアリナは憂鬱そうだ。
「遂に武器を貰ってしまってしまったの…」
「どこか悪いところがあれば作り直すよ!」
「出来栄えは完璧なの…でも武器を持つともうすぐ実戦が近いと感じてしまうの…」
今まで戦って来なかったし、自分より強い敵とばかり戦っている俺たちを見ると不安になってしまうものかも知れないな。
「強い敵と戦うことが怖いのは、理解しているつもりだ。だからもし本番で戦うことになっても、アリナはアリナの戦いをしてくれればいい。頼りになる先輩たちがいるんだから、きっと安心して戦えるはずだよ」
「任せて! タクト!」
「アリナは私たちがちゃんとリードしてあげますからね」
「嬉しいけど、不安なの…」
理由を聞いてみた。
「リリーお姉ちゃんはアリナを忘れて敵に突撃しそうなの」
「う!?」
リリーにアリナの容赦ない指摘が突き刺さった。
「イオンお姉ちゃんはリリーお姉ちゃんのフォローに回ってアリナのことを忘れそうなの…」
「う!?」
イオンの立ち位置を見ていないのによくわかるな。
「ノワお姉ちゃんは信用出来そうだけど、頑張りそうにないの」
「…ん」
ノワよ。そこは頷いたら、ダメなところだろう。ま、こんな態度をとっても仲間をしっかり守るのがノワなんだよな。するとユウェルが元気に宣言する。
「わたしはちゃんとアリナを守るぞ!」
「ユウェルお姉ちゃんは飛べないの」
ユウェルが地面に丸くなった。ショックを受けてもその状態になるんだな。
「ブラン…フォローしてやってくれるか?」
「はい。私でいいですか? アリナ」
「流石お兄様! 的確な人選なの!」
「「「「…」」」」
みんなして睨むなよ…俺のメンバーの中で空中戦で一番守りに特化しているのは盾持ちのブランであることはわかっているはずだ。
無言の視線攻撃を受けながら島で生産をした後、レベル上げをする。相手とメンバーは昨日と同じ。折角なので、進化したファリーダの強さを見せてもらうことにした。
「いいわよ。それじゃあ、斧を二本使うわね」
ファリーダは堂々とリープリングの暗黒バトルアックスとルナティックミスリルバトルアックスの二つを手に持つ。戦斧を二つ持つ姿は凄いな。でも因幡の白兎はとにかく素早い。それでもこのスタイルを選んだのには理由があるんだろう。お手並み拝見だ。
俺が因幡の白兎を出すとファリーダは二つの戦斧に黒炎を宿し、戦斧を回し、舞を披露する。まるで現実にあるファイヤーダンスのような圧倒される舞に俺たちや因幡の白兎は見とれていると勝負は一瞬で決まった。
「魔王技イフリータダンス」
いつの間にか二つの戦斧に斬られた因幡の白兎が燃え上がる。いかん…全然いつ攻撃したか分からなかった。するとファリーダが説明してくれた。
「私の技は元々そういう効果があるのよ。踊りで釘付けにして、攻撃する必殺技。舞踊の効果で自分には強化、堕落の効果で相手に魅了が発生するわ。もし技の途中で攻撃されても陽炎で消えて、私は踊り続けて、敵を更に魅了する。お父様が火の力で人や精霊を支配するなら私は火の魅力で人や精霊を魅了する魔王なのよ」
なるほど…確かに火には爆発に代表されるように破壊のイメージと花火のように魅了する側面が存在している。父親と娘で役割が分けられているというわけか。
「でも、ファリーダは俺の中でなんでもぶっ飛ばしている気がするんだが?」
「アリナ。みんなにタクトが私の踊りにメロメロになっていたと教えて上げてちょうだい」
「わかったの!」
地雷だったらしい。そういえばテレビで娘は父親と同じにされるのが嫌いということを言っていた気がする。もちろん例外はあるだろうがファリーダはどうやら父親を嫌っているみたいなので、今後は思っても心の中で留めておこう。
次もファリーダが決める。
「焼失弾!」
ファリーダが戦斧を振るうと真っ赤な弾が因幡の白兎に向かって飛んでいく。
「きゅ!」
因幡の白兎は簡単に跳んで躱す。
「魔力支配!」
焼失弾が止まると着地しようとした因幡の白兎の背後から迫り、命中すると因幡の白兎は真っ黒になり、倒れる。
「これは…即死効果があるのか?」
「正解よ。流石に神々や魔王クラスになると通用しないけど、雑魚なら例え不死であっても倒すわ。呪いも魔王となったあたしには通用しないから次の戦いでたくさん使ってくれていいわ」
なんだかんだで戦闘が好きなんだよな…解体するとインフォが来る。
『アリナのレベルが30に到達しました。特殊クエスト『空竜の試練』が発生しました』
それじゃあ、試練行ってみようか。
実行するとアリナの銀色の光に包まれると俺は青空の世界に転移した。
「今回はやっぱり空が舞台なんだな」
『えぇ。あなたがこれから挑むのは空竜の試練ならばその舞台はこの大空しかありえません』
突如緑の風が発生し、疾翔龍王ケレリタスドラゴンが現れる。
『試練の内容は大体お分かりだと思います。なので、他と違うところだけ説明するとあなたは飛行魔法が使えるようなので、足場は試練開始と同時に消させて貰います。説明は以上です。準備が出来たら試練を始めましょう』
ま、飛行戦闘はどうしてもすることになるだろうな。今回は竜化したアリナを見ていない。正直アリナとの差はかなりあると思うから俺なりの配慮だ。これで負けたら、格好悪いというプレッシャーを感じている。
よって、俺の武器はグランアルヴリングと迅雷を選択した。ファミーユも展開するとフライを使い、準備完了。
「準備出来ました」
『では、試練を始めます!』
銀色の風が発生し、銀色の身体に爪や身体の紋様がエメラルドグリーンになっているドラゴンが現れる。
オゾンドラゴン?
? ? ?
これが竜化したアリナのドラゴンか…綺麗なドラゴンだな。リリーたちと同じタイプのドラゴンだが、かなり細身の印象を受ける。
さて、どんな能力を持っているか見せて貰おう。オゾンドラゴンは羽ばたくと空を飛行し、スピードが上がっていく。するとオゾンドラゴンの角が回転し、身体も回転させると竜巻が周囲に発生する。旋風の効果だ。
俺は受けて立つ体勢になるとオゾンドラゴンに突如稲妻が発生して身体が黄色になると一瞬でオゾンドラゴンの回転角がグランアルヴリングにぶつかる。閃電まで使えるのか…やっぱり風のドラゴンだな。
俺はなんとか受け流すが旋風の効果でぶっ飛ばされると空脚で踏みとどまる。アリナに意志があるのか分からないがスキルの組み合わせと俺の隙を逃さない不意打ちの攻撃に嬉しくなる。アリナは殆ど戦闘参加しなかったけど、しっかり戦闘を学んでいた。
さぁ、次は何が来る。すると飛行しながら、風刃や空気弾を飛ばしてくる。俺はそれを斬り裂いて対処する。これは俺への誘いか?なら行くぞ!
俺は踏み込もうとした瞬間、オゾンドラゴンは飛行を止めて、防風壁を発動する。これで俺が止まるわけない!
俺は転瞬で間合いを詰めると防風壁にぶつかると押されて行く。これは気流操作で防風壁を正面に飛ばしたのか。俺が防風壁を斬り裂くと第六感が頭上からの攻撃を知らせる。俺は空脚で躱すと重力のような力が発生した。風のドラゴンであることを考えると恐らく気圧操作か。
気圧もしくは大気圧は常に俺たちにかかっている力の一つで地上で生きている生物はこの大気圧に順応しているため、力を感じることはないがこの気圧を下げれば、登山の時のようになるし、逆に上げれば押しつぶすぐらいの力はあるだろう。これは食わうわけには行かないスキルだな。
オゾンドラゴンは息を吸い込む。次はブレスか!斬ってやるよ!
「キャオオォォ~…キャオオォォ~」
「な!?」
耳が痛い!?しまった…これは超低周波だ!ブレスとほぼ動作が同じだから分からなかった。更にフライの効果が不安定になる。これは妨害音波の効果か?ここで俺は一芝居することにした。わざとフライを解除し、俺は墜落を選択するとグランアルヴリングをオゾンドラゴンに向ける。最早手加減無しだ!
「全宝玉解放! 魔法剣技! アルティメットシャリオ!」
アルティメットシャリオの閃光がオゾンドラゴンに命中した瞬間、アルティメットシャリオの閃光が分解され、オゾンドラゴンの身体に吸収される。やっちまった!名前からこういう能力があることを予想すべきだった!
オゾンドラゴンの名前の由来であると思われるオゾン層は有害の紫外線を吸収して、地球の生命を守ってくれている。つまりこのドラゴンは光を吸収することが出来るみたいだ。そしてオゾンドラゴンは息を吸い込む。
『『『『ディメンションフォールト』』』』
「テレポート!」
オゾンドラゴンからアルティメットシャリオとドラゴンブレスが合わさった攻撃が放たれる、俺は激突の効果を受けているため、ディメンションフォールトで攻撃を受けた瞬間にテレポートでオゾンドラゴンの首を狙うがその瞬間に衝撃波で吹っ飛ばされる。もっと一瞬で決めないとダメか。
体勢を整えると再び、超低周波と妨害音波を受けて墜落する。そしてオゾンドラゴンは墜落する俺に音波攻撃をし続けて来た。俺はこれでアリナの意志があることを確信した。ここまで考え抜かれた事を普通のドラゴンはできないからだ。
俺は体勢を変えて、下を見ると地面が迫っていた。やはり地上は設定されていたか…それなら俺の取るべき手段は決まった。
俺はグランアルヴリングを構えるとオゾンドラゴンはそれでも音波攻撃を続ける。自分の有利性を疑っていないなぁ…でもな、アリナ…俺に妨害系のスキルは通用しないんだよ!
「テレポート!」
俺はオゾンドラゴンの喉仏に前に移動する。
「抜打! 竜穴!」
グランアルヴリングの抜打が竜穴に決まったことでオゾンドラゴンの動き止まった。そして俺は空脚で地面への激突を阻止し、オゾンドラゴンは地面に激突する。
オゾンドラゴンの周囲にチェーンエクスプロージョンの魔方陣をたくさん展開する。ただの火では消される可能性がある。これだけの至近距離での連鎖爆発ならば流石に止めれないだろう。するとオゾンドラゴンはアリナに戻る。逃げたな。
『そこまで、と止めるべきでしょうね』
「そうして貰えるとありがたいです」
魔方陣を解除するとアリナが起きる。
「は!? アリナは一体何をしてたの? なの」
わざとらしすぎる。本当に何か起きたか分からない人は起きた瞬間にこんなことは言わないだろう。
「ドラゴンになって、俺の耳を殺しに来ていたぞ」
「それはたぶん違うと思うの」
「話すのは別にいいが嘘を付くのは許可していない。ということでアリナのデザートは一つ俺が食べるな」
「それは酷すぎると思うの!?」
そんなことはない。こういうところはしっかり教育しないといけないのだ。アリナが抗議のためか俺に飛び乗ってくるとケレリタスドラゴンが聞いてくる。
『仲がいいですね…そろそろ進化させてもいいですか?』
「はい。ほら、アリナ」
「お願いしますなの」
『では…これからあなたは更に自由に大空という世界に飛び立つことになるでしょう。ですが、同時に空を司るドラゴンとして重い責任が発生します。しかし臆せず仲間と共にこの大空を飛んでください。今日からあなたはドラゴニュート・ストラトスフィアです』
アリナに緑の風が纏われて進化する。
『アリナがドラゴニュート・ストラトスフィアに進化しました。飛翔スキルが高飛翔スキルに進化しました』
『回転角、激突、超感覚、竜眼、旋風、連撃、充電、放電、閃電、雷魔法、衝撃波、集束、重力、逆鱗、起死回生を獲得しました』
『竜魔法【ドラゴントルネード】を取得しました』
『竜化のデメリットが一日となりました』
名前 アリナ ドラゴニュート・トロポスフィアLv30→ドラゴニュート・ストラトスフィアLv1
生命力 86→136
魔力 154→204
筋力 56→96
防御力 45→85
俊敏性 219→269
器用値 86→136
スキル
飛翔Lv1→高飛翔Lv1 投擲Lv1→投擲操作Lv1 回転角Lv1 激突Lv1 超感覚Lv1
竜眼Lv1 音響探知Lv1 疾走Lv1→疾駆Lv1 旋風Lv1 風刃Lv1
連撃Lv1 充電Lv1 放電Lv1 閃電Lv1 超低周波Lv1
防風Lv1→防風壁Lv1 空気弾Lv1 風魔法Lv5 雷魔法Lv1 衝撃波Lv1
集束Lv1 風波動Lv2 逆鱗Lv1 竜魔法Lv1 竜技Lv1
竜化Lv1 ドラゴンブレスLv1 起死回生Lv1 風竜の加護Lv1→空竜の加護Lv1
成長したアリナはリリーたちと同じくらいに成長し、トレードマークのポニテが更に伸びた。更にユニコーンのような細い一本角が出来た。
ストラトスフィアは大気圏の一つである成層圏の英語読みだ。トロポスフィアの一つ上がストラトスフィアになっている。この成層圏にオゾン層があるからオゾンドラゴンとなったわけだな。こうなると次の進化の名前が予想しやすいな。ちょっと残念。
それじゃあ、アリナの角とポニテを目当てに手を伸ばすと避けられた。
「ちゃんと許可を取らないとダメなの。お兄様」
「じゃあ、触らしてくれ」
「ダメなの」
ダメなのか…無念だ。それじゃあ、諦めるか。
「というかアリナは色々聞いてこないな」
「アリナをそこらの女と一緒にして貰っては困るの」
「今の言葉はリリーたちに言っていいか?」
「それもダメなの。そういうお話は悲しい結果しか生まないと思うの」
どの口が言うんだ!するとケレリタスドラゴンが言う。
『楽しいお話の最中ですが、どうやら時間切れのようです。魔王たちとの戦いは熾烈を極めると思いますが、あなたたちに勝利の風が吹くことを祈っていますよ』
ケレリタスドラゴンがそう言うと俺たちは島に戻された。時間を確認すると僅かに時間が残っている。最後に散々すると言っていたスキル上げをするとしよう。




