#792 ネビロスイベント事前会議
俺はへーパイストスたちをホームに送り、お風呂で臭いを落とすと急いでギルドに向かう。
「すみません。遅れま」
「でゅっふっふ。ここは天国…まさに天国なのよ」
アウラさんがドラゴニュートとエルフを捕まえてだらしない笑顔を見せていた。ルークたちは遠くにおり、ドラゴニュートとエルフの目が死んでいる。一体どれだけ長時間ここに居座っていたんだろうか。
「あら! タクト君! 久しぶりね!」
「お久しぶりです。アウラさん。今日はどうかしたんですか?」
「ドラゴニュートとエルフがたくさん召喚されたと知らせを受けてやって来ただけよ」
職務放棄だね。今頃、オスカルさんが苦労していることだろう。情報を流したのはカインさんだろうな。ネフィさんが話すとは思えない。
「そうですか…会議はどうなっているんだ?」
「あ、みなさん待ってますよ」
やっぱり待たせちゃったか。
「今から大事な会議なので、用事がないなら帰ってくれます?」
「あ、私。タクト君のギルドに入るつもりだから問題は」
「あります。それならちゃんとカインさんたちの許可を取ってからにしてください!」
「タクト君、強気になったわね~。あら?」
アウラさんが俺を見て、何か気づいた。
「あちゃ~…とうとう抜かれちゃったわね…クラスチェンジおめでとう。タクト君」
「ありがとうございます」
「「「「えぇ~!?」」」」
全員がこの時、初めて俺のクラスチェンジを知った。
「はぁ…これは報告しないといけないわね。第五進化もさせてるわよね?」
「三匹いますね」
「それならタクト君の実績から見ても金ランクになると思うから獣魔ギルドに来てちょうだい。カードを用意しておくから」
「わかりました」
アウラさんが帰ろうとした時に振り返る。
「急いで戻ってくるからね!」
ドラゴニュートとエルフの顔が絶望に染まった。
「召喚獣たちを召喚石に戻して、会議をするぞ」
「「「「は、はい!」」」」
ドラゴニュートとエルフたちが喜んで召喚石に戻ったのは言うまでもない。会議室に向かうと桜花の上杉謙信、パラディンロードから引き続きランスロット、モルドレット。フリーティアからはアンリ姫様とリーゼとオリヴィエ、アストルフォ、ハンズさんがいた。
「すみません。お待たせいたしまして」
「私がちゃんと説明しておいたから大丈夫だよ。それで素材はゲット出来たかな?」
ミュウさんがちゃんと伝えてくれたようだ。
「バッチリです。どうぞ」
俺がミカドシルクをミュウさんに全部渡す。
「滅茶苦茶たくさんあるね! どうする?」
「とりあえず例の服を…三枚お願いします。残りの素材は天人の布十枚と交換してくれますか?」
「りょーかい。それでも残ると思うけど、売ってくれるなら例の服の値段を安くするよ? きっと物凄く高くなるからね」
「そう来ると思ってましたよ。それでお願いします」
「やったね! それじゃあ、私は交換して来るね!」
ミュウさんはダッシュで平安の都に向かった。天人の布が行き渡っていない人のためだから誰も文句は言わない。
そして会議を始めた。まずは参加してくれるNPCだ。
「桜花で武将をしている上杉謙信です。弟子の願いでこの度、助っ人として戦に参加することを決めました」
弟子というのは鉄心さんのことだったりする。次はランスロットさんだ。
「アーサー王の命で次の戦いにも参加させていただきます」
アーサー王から直接指示が来たのか…まぁ、暗黒大陸の魔王たちとはずっと戦ってきたみたいだし、この流れを無駄にはしたくないと思うかも知れない。次はアンリ姫様。
「フリーティアはこの度、エステルの支援を決定したしました。ただ条件としてハンズ様の参加を認めて欲しいとのことです」
「私はフリーティアの外交担当なので戦闘には参加しません。代わりに私の自警団を派遣します。自警団の指揮はオリヴィエに任すつもりだ」
ここでオリヴィエさんが参戦するのか!
「私も参加させて貰いますがアストルフォも指揮下に入れさせてください」
「お爺ちゃんだもんね! オリヴィエ。仕方ないから僕が守ってあげるよ」
「それは構いませんが、リーゼも参加するのか?」
「もちろんじゃ! ただ今回はお父様の付き添いなのじゃ」
偉いことだが、この流れは良からぬ流れを感じるな。流石に悪魔がまた城に忍び込むことはないと思うが…警戒をしておこう。アンリ姫様が続きを話す。
「フリーティアも主力は諸事情で動かせますので、私と私の部隊、皆さんが訓練してくださった騎士が参加することになります」
これは了承するしかないだろう。ただシルフィ姫様とサラ姫様が気になる。するとアンリ姫様が事情を話してくれた。
「二人は魔王との決戦の時にのみ参加することになりました。私はむしろその為に参加することになったんです。これでも魔法使いですから」
へ~…そういう助っ人の参加方法もありなんだ。それでも納得が言っていない二人の姿が脳裏に過る。後で聞くと支援を決めた国は大体こんな感じらしい。因みに国の部隊は一グループに一つと決まってるそうだ。
次にイベントで戦ってくれるみんなと作戦会議をする。まずは砦の状況確認。
「砦の準備は完璧だ。例の大仕掛けもコールドアイロンを使って工夫させて貰った」
「カタパルトとアーバレストも配置完了したよ」
「食糧も準備できたわ」
「アイテムも出来る限りは準備しました」
生産職のみんなは凄いね。次は作戦の詳細を詰めていく。まずはユウナさんが俺に林檎を渡してきた。ただ鑑定すると変だ。
林檎?
? ? ?
林檎でこんなことになるはずがない。
「実はこれ、ザクロなんだよ。このクエストで手に入れた『擬態のペン』で林檎そっくりに描くとこうなった! これ、使えないかな?」
「普通なら食べてくれると思うが危険予知とかある敵に通用するか?」
この疑問は当然だろう。でも、せっかく考えてくれた物だ。活かせる物は活かしたい。それこそこれをどう使うのかが腕の見せ所だ。
「通常状況ではまず無理だと思います。一つ皆さんに質問があるんですが、いいですか?」
「何かしら?」
「このゲームの泥酔ってどんな感じですか?」
俺の質問に酒飲みの人たちが答えてくれる。
「どんなって…現実と同じ感じですよ」
「あぁ…体が火照って、飲みすぎると視界がぼやけたりする」
「では、その状況でこの林檎があったら、どうなりますか?」
これでみんなに俺の意図が伝わる。鉄心さんが答える。
「…状況によるな」
これにはカイと雫ちゃんが言う。
「いやいや。絶対に食べるって」
「…うん。酒飲みながら野球見ているときにお摘まみを変えて酷い目にあったの忘れた?」
鉄心さんが罰の悪そうな顔をする。この結果、酔いがかなり回っている状況なら敵は食べると結論付けた。後は同じ効果が見込めるベニテングタケを使う手があるだろうな。
他にもそれぞれの作戦案を纏めて、全体の作戦の流れを説明する。
「敵の状況などで作戦は変化すると思いますが、もし敵部隊に砦を攻め落とされた場合はこれで敵を一網打尽にします」
「これはまた…大胆不敵な作戦を考えましたね」
「敵に気づかせない対策も十分…見事なものですな」
「ものですな!」
謙信さんとオリヴィエさんのお墨付きを貰えたなら安心だ。アストルフォは乗っかっただけだな。そしてサバ缶さんが情報収集の結果を教えてくれる。
「ギルマスの読みは的中していました。どうやら敵はエステルの第二砦を建設中にドワーフと邪竜の住みかを襲ったみたいです」
「ドラゴニュートにギルマスの考えを聞いてみたら、行けると言ってましたから確定でいいと思います」
よし。これで運営の意図が大体掴めた。後は砦の攻め方をある程度決めて、スケジュールを確認する。俺は文化祭でイベント三日目の日曜日の朝、昼は参加出来ないことを伝えた。
これで作戦会議が終わるとメルたちから伝説の武器のクエストについて、話を聞くとものの見事に全滅したらしい。
「ユーサー・ペンドラゴンに勝てるわけないよ…こっちは普通の武器なんだよ?」
メルはアーサー王のお父さんと戦ったらしい。このように冒険者ギルド発行の伝説の武器クエストは既に死んでいる設定の英雄たちと戦い、勝つことで伝説の武器が貰えるようになっている。
「なんで武闘家のクエストには神様が出てくるの~」
リサはヌアザと戦ったらしい。ヌアザは銀腕のヌアザと呼ばれており、珍しい義手の使い手として有名だ。戦神として知られているから当然強いだろう。
「アルジュナやカルナと弓勝負で勝つなんていじめだと思うわ」
トリスタンさんたちはインドを代表する大英雄たちと戦ったらしい。確かに無理ゲーな気がするが勝てたら、物凄い武器が手に入るはずだ。
「こっちは呂布。ひと振りで吹っ飛ばされるってどんだけや…」
レイジさんたちは三国志の中でも化物とされている呂布と戦闘。赤兎馬の乗り手として有名だが、槍も有名なんだよね。ただ騎乗戦をする前に吹っ飛ばされたらしい。酷い話だ。
「俺たちなんてギルガメシュだぜ…」
「「「「どんまい」」」」
勇者や英雄の共通する祖先である英雄と呼ばれているシュメール初期王朝時代の伝説的な王ギルガメシュが登場。どうやら神様の武器以外ならなんでもくれるらしいのだが、伝説解放などを連射して来るギルガメシュ王にボコボコにされたみたい。一度勝てたら、伝説の武器を取り放題のクエストとなるが果てしなくその道は遠く感じるな。
鉄心さんはヤマトタケルと戦闘。結果は瞬殺だったらしい。みんなの結論をまとめると冒険者ギルドのクエストはクラスチェンジが必須という意見で一致した。
ただそのクラスチェンジもかなり難しいみたいだ。勇者や英雄、聖騎士たちの前に立ち塞がるのがアーサー王らしいからな。恐らく俺の時のように伝説の武器はガンガン使用することはないと思うが、みんなには頑張って欲しい。
それからサバ缶さんからミニ情報を教えて貰った。
「ディートリッヒの装備についてですが、どうやらディートリッヒは自分の装備を土に埋めたらしく、それをドワーフたちが回収したらしいです」
「ディートリッヒは暗黒大陸にいるんですか? ウィザードオーブのNPCだと思ってました」
「それがどうやら大陸を往き来したみたいです」
マジか…そんな方法があるなら冒険者ギルドとかに伝えろよ。
「ディートリッヒは色んな所を冒険しているからかしら? ディートリッヒの土に埋めたのは現実の話で確かあったわ」
「…私も知ってます。エッケと戦闘に勝った時に自分の装備を土に埋めて、エッケの装備を自分が使うことにしたんですよね」
これによってディートリッヒの武器として有名なエッケザックスはディートリッヒが使うことになる。つまりディートリッヒはエッケザックスを持っているということだ。
シグルドさんに確認してみるとウィザードオーブの武将であることも判明した。更にシグルドさんから驚きの事実を伝えられる。
「あいつは飛びっきりの竜騎士だった…もし暗黒大陸に行ったというなら自力で向かったんだと思うぞ」
竜化して、海を渡ったってことか。それじゃあ、冒険者ギルドはきついだろうな。
さて、約束通り獣魔ギルドに向かうとしよう。その後はシルフィ姫様に究極の召喚師について、説明を聞こう。




