#779 サルガタナス領の地図と黒の砦の設計図
俺が地図や設計図を出したところでルインさんとサバ缶さんに止められた。最初は選ばれたメンバーで確認したいらしい。理由を聞くと情報漏洩防止ということだ。
「この地図と設計図はぶっちゃけ誰が交換しても同じ物が手に入る物なのよ」
「ポイントについてはノーマルのプレイヤーでもボーナスポイントがあれば届くラインとなっています。ここで色々な商売の手段が考えられるんです」
「この地図や設計図の情報を売るってことですか?」
「えぇ。考えたくはないけど、レベルが低いプレイヤーたちに買わせる人もいるかも知れないわ」
うわ。最低だな。いくら情報が欲しいからってそれはダメだろ。運営に見つかれば即アカウント停止となると思うが、やり方や抜け道というのはどうしてもあるものらしい。そして問題は俺たちにも発生している。
「俺たちの攻略情報が流れていたんですか?」
「そうなのよ」
すると俺たちがこっそり手助けしていたリープリングのメンバーの子が謝る。
「すみません。多分私たちの方で誰かが攻略情報をもうひと組のベリーハードに挑戦をした人たちに流したみたいなんです」
「情報の流れたタイミングから見て、ほぼ間違いないと思います」
俺たちから仲間へ、仲間と一緒に攻略していた人から別の人へと情報が流れれば時間的な誤差で丸分かりになるだろう。もちろん決定的な証拠とは言えないけどな。
しかしスパイから情報を受け取り、攻略を進めた人たちの結果は散々な物だったみたいだ。いくら攻略情報を貰っても遅かったりしたら、意味がない。
それに作戦というのは部隊事にそれぞれ変化するものだ。俺たちの作戦が俺たちにしか出来ないように自分たちに合った戦術を選ぶことが重要だと今回のイベントはそれを証明した形だ。これを聞いた俺は提案をする。
「思いっきって、この地図と設計図の情報を俺たちが流してみませんか?」
「「「「えぇ!?」」」」
折角みんなで稼いだポイントでミュウさんたちに交換してもらったものだから俺自身かなりの抵抗がある。驚かれて当然だと思うがルインさんやサバ缶さんは俺の意図にすぐに気がついた。
「敢えて私たちから公開することで度量を見せるってことかしら?」
「はい」
「確かに印象はいいでしょうね。でもアドバンテージが無くなりますがいいんですか?」
「どうせ情報が流れるなら元々アドバンテージなんてありませんよ。それに運営は地図や設計図が出回ることは想定済みだと思います。地図や設計図が出回っても、意図が理解されなければ問題はないと考えているんじゃないでしょうか?」
ある意味、これを見せることで俺たちを試していると思う。俺がそう言うとアーレイが便乗してくる。
「俺が交換したわけじゃないけどよ。タクトの案に賛成だ。どうせなら得する方がいい」
全員が賛成し、ミュウさんたちにも賛同を得たことで早速俺たちは掲示板にこの情報を載せて貰った。急いだほうがいいからね。そして俺たちは地図から確認をする。
「なんだ? この細長い一本道」
「ドラゴンの試練を思い出すな。恐らく魔法やスキルを封じて崖に落としてくるパターンだと思います」
黒の砦の次の砦は城門までの道が細長い一本道となっており、道の左右は地図を見ると真っ黒になっていた。恐らく崖だろう。城門に恐らく大砲が設置されていると考えたら、地獄の道だな。
そして次の砦は城門に続く道がない。
「これは跳ね橋かしら?」
「でしょうね…城門防衛の王道でもありますが厄介ですね」
跳ね橋は橋を上げ下ろしすることで通行を制限することが出来た橋。城門の防衛をする際に何が一番効果的か考えたら、道を無くすのが一番いいだろう。
砦はこの三つしかなく、後は敵の本拠地に四方の城門があるみたいだ。中ボスが四人が待ってますよと言っているな。
最初の砦は銀たちの話で物凄く巨大な黒い城門が作られていると情報で恐らく防衛特化。俺たちに城門を攻撃させている間に何かして来ると思われる。どこの砦も癖があるが俺はこの地図を見て、ある裏口の攻略法を見つけた。
「サバ缶さん、邪竜の住処やドワーフの住処が攻略出来なかった場合ってどうなっているか知っていますか?」
「報酬ならドラゴニュートの召喚石とかは除外されているみたいですよ?」
「あ、そうではなく。もし攻略出来なかった場合はそのまま敵に占拠されたままなんでしょうか?」
この質問に俺たちとは別にベリーハードに挑戦した仲間が教えてくれた。
「それなら占拠されたままでした。私たちは邪竜の住処の解放は出来ませんでしたから」
なるほどね。それなら間違いないかな?俺はみんなに説明する。
「そんな攻略ありなのかしら?」
「敵はドワーフと邪竜の住処を襲っています。これはそういうことが可能だと示唆しているってことじゃないですか?」
「うーん…それはドワーフと邪竜の住処を襲った時期がネックになりますね。情報を集めて見ます」
「お願いします」
俺の考えは敵がドワーフたちを襲った時にはエステルが既に砦の建設していることが前提だ。そこは確認しないと俺の説は証明されない…反省。
次に砦の設計図。複数枚あり、最初の砦全体の情報が書かれている物と建物の内部図だ。
「やはり内部の情報だけでギミックの説明はないな…」
「でもボスがいるところとかはなんとなくわかるよね。ここの建物だけ高いからここにいるんじゃないかな?」
「小道と大通りがあるな。広場に敵がいることを考えると挟撃出来そうだが、建物が怪しいな」
「上から何か落としてきそうやな。これ」
他にも小道に入ると狭い道での戦闘が強いられる。どれだけ細いか分からないが剣などが振るえないほどの道ならトンファーや格闘の出番となるだろう。
後は建物の内部図だが、ここに落とし穴や吊り天井のトラップを見つけた。吊り天井を見つけたクロウさんたちは凄いな。
「それは誰かさんの悪影響のおかげだな」
「結構お城の罠とか調べましたからね」
あれ?俺のせい?城のトラップとか悪ノリしてたのはクロウさんたちじゃん!俺もノリノリだったことは否定しないけどね。
その後、俺たちは残り三日の使い方を決める。まずはクロウさんたちは砦の総仕上げ。流石に肝になる仕掛けは敵の襲撃を受けながらするのはきつかった。
「地中を進む敵がいたからどうするか悩んでいたんだが、コールドアイロンを使えば安全を確保出来るだろう」
「ただ敵に見つかるリスクもある。どうするかニックたちやドワーフたちと協議してから決めさせてくれ」
「わかりました。みんなも何か思いつくことがあったら、気にせず教えてくれ」
「「「「はい!」」」」
残りのメンバーたちも食料集めや新しく増えた仲間のレベル上げをすることになっている。メルたちは伝説の武器が手に入るクエストに挑戦予定。ただ難易度が滅茶苦茶高いらしい。伝説の武器を貸して欲しいと言われたが断った。何故かって?アーサー王に次々武器が破壊されたことがトラウマだからです。
俺はミュウさんに天人の布について聞く。和狐の話でもう作れるだけの素材がないらしいのだ。
「私たちも不足してて、平安の都に行ってみたらクエストが発生していたよ。そのクエストが物々交換をするクエストでね…かなり大変だったりする」
「それって、天人の布と同じくらいの物と交換しないとダメってことですよね?」
「そうだね…そうじゃないと物々交換は成り立たないよね…」
ミュウさんの目が虚ろだ。でも俺はこの物々交換が成立するかも知れない素材に心当たりがある。ただ今、話すのはやめよう。周囲の女性が怖いからね。ここでサバ缶さんが聞いてくる。
「タクトさんは予定をどうしますか?」
「俺はエデンの試練とスサノオクエストに挑む予定です」
「お酒のほうは準備出来ているわ。先に渡しておくわね」
「ありがとうございます」
鑑定するとこんな感じ。
ディオニューソスウイスキー:レア度9 料理 品質A+
効果:超泥酔、誘惑、炎上
ディオニューソスのクラテールを使い、大麦と水樹の水を原料にして作った蒸留酒。喉が焼けるようなアルコール度数を誇るお酒で大人でも飲むのが危険なお酒で一度飲み出すと止まらなくなってしまう。火で激しく燃えるため、飲む時は火の気がないところで飲むのがマナー。子供は飲むことが出来ない。
物凄いアルコールの臭い!?やばい…臭いだけでくらっとしたぞ。これをクエスト通り、酒樽で八つ個貰えた。これでクエストはクリアのはずだ。
流石に今からイベントは無理があるから今日はイベント報酬を島に捧げて、アリナのレベル上げだな。ゲイルたちの進化クエストに挑むべきか凄い悩んだんだけど、エデンの期待度とスサノオクエストの準備が整ったことが優先した理由。時間が余ったら、ゲイルたちの進化クエストをすることになるだろう。
これで会議が終わり、ナオさんに声を掛けられた。
「遅くなってすみません。とりあえず男性用が完成しました」
キター!俺は赤みを帯びた黄金の指輪を受け取る。
ウェルシュマリッジリング:レア度10 アクセサリー 品質S+
効果:召喚獣とのマリッジ、全ステータス+10、王の加護、召喚師の必殺技デメリットの減少
男性用のマリッジリング。ウェルシュゴールドで作られた指輪で表にはギルドのエンブレム、裏には持ち主の名前とギルド名が刻まれている。永遠の愛を誓い、繁栄をもたらす指輪とされている結婚指輪の中でも最高峰の指輪。
俺がお礼を言うとナオさんがここでお願いをして来る。
「リリーちゃんたちのは竜化とかの姿を見た後でいいですか? デザインと全く違う物を用意すると折角の結婚指輪が台無しになっちゃうので」
「それはそうですね…すみません。悩んでました?」
「いいえ。そこまで悩んでいませんでした。イベントアイテムの依頼でそんな余裕ありませんでしたから」
これが遅れた理由だな。ということでウェルシュゴールドはナオさんに預けて置くことにした。そして俺はミュウさんにウェディングドレスについて聞く。
「ウェディングドレスなら私が作れるよ。何せ梅雨の村でのイベントトップ報酬を私が買い取ったからね!」
何~!?しかし話を聞くと作れるというだけで素材は集めないといけないみたいだ。
「梅雨の村でフェニスト王子に話しかけるとイベントが発生して、クエスト報酬でシルクを貰えるの。ただ難易度が高いんだよね」
「あれ? 桜花じゃないんですか? シルフィ姫様が桜花でウェディングドレスに最適の素材があるとか言ってましたが」
「詳しく教えて!」
知らなかったようだ。ということで事情を説明する。
「なるほどね。その感じだと桜花にあるのはミカドシルクかな?」
「なんですか? その名前…」
「名前の通り日本産のシルクでシルクの中でも最高級と呼ばれているシルクだよ。日本は最高級の絹を作る技術を持っているからこの名前が付いたんだって。まぁ、ウェディングドレスの中でも高価な物だから女性の憧れと言っても過言じゃないかな?」
なるほど。つまりシルフィ姫様はリリーたちには最高級のウェディングドレスをプレゼントするように言ったわけだ。完全に男として試されている気がする。やってやろうじゃありませんか。
「ギルマス、やる気だね」
「滅茶苦茶大変だろうけど、ここで引くと負けた感じがしますから」
「男って負けず嫌いだよね。素材が手に入ったら、私に依頼して。ウェディングドレスはプレイヤーしか作れないみたいだし。現時点で作れるのは私だけだからね!」
どうやら特殊な条件があるみたい。ウェディングドレスを手に入れたことに関係ある気がするがそこは触れないでおこう。それとミカドシルクなら物々交換の条件には間違いなく入ると断言された。これは頑張らないといけないな。
最後にヴェルンドの指輪を使い、青生生魂を出す。これが現状では鍛冶可能な刀の素材の中では最高峰に位置しており、緋緋色金の鍛冶に挑む前段階の素材という話だ。そしてこの素材の武器は鉄心さんに渡る予定。鉄心さんも竜石とは別の同じ素材を狙うみたいだし、楽しみだ。
これでギルドでの用事は終わったから、島に向かうことにした。




