#771 堕ちた老竜救済戦
俺たちが戦っている頃、空ではリリーたちが戦っていた。
「ドラゴンブレス! わわ!? また!? お菓子~! お菓子~!」
リリーたちは攻撃するたびに魔力と満腹度を減らされて、その度にバッグからチョコレートやチョコチップマフィンを食べている。
「…このままじゃ、おやつが無くなる。もぐもぐ」
「でも、竜化したらチョコレート食べれないし…もぐもぐ。どうしよう。ノワちゃん」
リリーたちのこの様子にネクロドラゴンを倒して援軍に来たメルが言う。
「リリーちゃんたち、結構余裕あるね…」
「とにかくあいつの目を潰してみましょうか。みんなはフォールンエルダードラゴンの気を引いてくれないかしら? 私が目を潰すわ」
トリスタンさんの作戦でリリーたちは見事にフォールンエルダードラゴンの目を潰すがすぐに治ってしまう。
「ねぇねぇ。治っちゃったよ?」
「…そうね。メル、何か案ある?」
「これは多分周りの敵を倒してから全員で倒すボスだと思う。戦力が集まるまで私たちで時間を稼ごう」
「わかった!」
こうしてリリーたちは攻撃を最小限にして一生懸命気を引くことした。
一方ディザスタードラゴンの相手を引き受けたイオンたちは戦っていた。
「宝玉解放! 雷化! 氷刃! はぁああ!」
イオンはツイングレイシャーとツインテンペスターを宝玉解放し、ツインテンペスターの雷化と氷刃を使って斬りまくると斬ったところが氷結する。そしてツイングレイシャーをディザスタードラゴンを向ける。
「極光!」
オーロラの光がディザスタードラゴンに当たると思ったら、黒霧で防がれる。更に黒雷が放たれるが雷化しているイオンは見事に躱す。
「海錬刃!」
イオンは翼を海錬刃で斬り裂く。すると翼が復活する。しかしフォールンエルダードラゴンほどの回復能力はなかった。結果イオンはこのまま押し切る決断をした。
一方花火ちゃんもタクマとエンゲージバーストを使って、ディザスタードラゴンと戦っていた。
『竜技ドラゴンクロー!』
「グランドスラッシュ!」
イオンと同じ狙いで翼を斬り裂くにディザスタードラゴンは燃え上がる。しかしディザスタードラゴンは翼を復活されると燃えたまま、黒雷を降らしてくる。
『陽炎!』
「おらぁああ!」
それを陽炎で作った幻影で攻撃を躱すと再び翼を斬り裂いた。そこにタクマの召喚獣たちの援護攻撃がディザスタードラゴンに加えられるが黒霧でガードされるとドラゴンブレスが放たれる。
「躱せ!」
全員がタクマを指示を受けて回避する。
「ダメージは入っているんだ! このまま押し切るぞ!」
やはりタクマも回復量の少なさに気がつき、押し切る決断をした。それはヴァインとヴィオレも同様だったが冷静に状況を見ていた。
「ち…ダメージは蓄積出来るがこれはしんどい作業だぜ。姉御」
ヴァインたちはこの後、フォールンエルダードラゴンの戦いにも参加しないといけない。切り札は当然、フォールンエルダードラゴンに使うべきものだ。
「そうだな…長引くのも不利。危険な賭けになるが私が必殺技を使おう」
「姉御!? それだと姉御がフォールンエルダードラゴンとの戦いに参加出来ないことになるし、あいつを強化することになるぞ」
「あぁ…だが、お前たちがいる。敵を強くしてしまうがその代わりに回復は封じることが出来る。回復を封じることが出来れば活路は開けるだろう」
「それはそうだけどよ…」
ヴィオレがヴァインを見る。
「リリーたちの召喚師は私たちが受けた苦しさと屈辱を必ず返すと約束してくれた。ヴァイン、私はこの戦いで仲間を信じて託すことの大切さとそれに答える大切さを学んだ気がする。お前はどうだ?」
「姉御…」
ヴィオレは現状をしっかり読んでいた。
「ここでこいつらを早めに倒せばフォールンエルダードラゴンにそれだけ早く戦力が集まる。他の者の消耗を抑えられるだろう。私がこいつらに致命傷と呪いを与えてみせる」
「…姉御がそう決断したなら、俺は何も言わねーよ。俺たちの恐ろしさをこいつらに思いっきり教えてやってくれ。後始末は俺たちが引き受けた」
「お前も成長したな。クロウ・クルワッハ様の気持ちが少しだけわかった気がする…やるぞ。皆を避難させてくれ」
「わかった!」
ヴァインはこれから起きることをシフォンに話すと通信でその場にいる全員に避難と作戦を指示する。全員の退避を確認したヴィオレは夜空に上昇していく。
「竜技ドラゴンフォース! 逆鱗! 狂言の月! 夢幻の刃! 我が死の手向けを受け取るがいい! 竜人技奥義! ミラージュ・バーサーク・クレッセント!」
月光の光を受けたヴィオレは双剣を振るうと巨大な三日月が二つ放たれる。すると巨大な三日月は無数の細かい三日月になると回転しながら下にいるフォールンエルダードラゴンとディザスタードラゴンに振り注ぎ、無数の切り傷を与えた。
攻撃を受けたフォールンエルダードラゴンとディザスタードラゴンは子供になったヴィオレを狙う。しかし攻撃しようとした彼らの斬り傷が一斉に開き、大ダメージを与えることで攻撃をキャンセルさせた。
これは損傷スキルによる追撃効果だ。損傷スキルは与えた傷に応じて相手にダメージを発生させるスキル。今回は的が大きい分、与えた傷も多くなった結果、大ダメージを発生させた。そしてドラゴンたちに異変が発生する。急に暴れだしたのだ。
これがヴィオレの必殺技のもう一つの効果、暴走だ。暴走したモンスターは筋力が上がってしまうのだが、その代償として暴走している間は回復スキルなどが使えなくなる。これは再生系などの自動回復も例外ではない。ヴァインが指示を出す。
「今だ!」
「みんな!」
「「「「「「任せろ!」」」」」」
竜騎士のプレイヤーたちが熱鉄の黒縄でディザスタードラゴンとフォールンエルダードラゴンを拘束する。これで復活は封じた。
「「「「「ドラゴンブレス!」」」」」
「ミーティアエッジ!」
「「「「「バスターカリバー!」」」」」
「「「「「龍騎技! ドラゴン」」」」
リリーたちドラゴニュート、メルたちやシフォンたちの攻撃、雷電さんたちの集中攻撃でディザスタードラゴンたちは倒した。しかしそれでもフォールンエルダードラゴンは生きていた。
「ギャオオ~!」
「「うわぁあああ!?」」
熱鉄の黒縄で拘束した竜騎士たちを逆に振り回してしまうと他のプレイヤーや召喚獣たちにぶつけられる。更にフォールンエルダードラゴンの堕天使の輪っかが紫色に白光すると空にいる全員に謎の紫の波動を浴びる。
「う…これって!?」
「今までのデバフ効果の全体技!? まずいわ! 早く回復を!」
しかし暴走状態のフォールンエルダードラゴンは容赦なく体全体が紫に発光する。
『『火炎車!』』
「『シールドアタック!』」
「ペネトレイター!」
「タクト! それに恋火ちゃんに和狐ちゃん、リアンちゃん!」
獣化した恋火と和狐の体当たりと俺たちのシールドアタック、擬似女神化したリアンのペネトレイターがフォールンエルダードラゴンの腹に決まるが俺たちは弾かれる。それでもギリギリ攻撃を止めることが出来た。
「タクト~!」
「おっと…悪いな。戦闘をしていて、通信を聞いてなかった。誰か状況の説明を」
『『『『ディメンションフォールト』』』』
『『『『ディメンションフォールト』』』』
俺はフォールンエルダードラゴンが放ってきた光線を跳ね返す。
「聖剣解放! やぁああ!」
「氷竜解放! はぁああ! 凍てつきなさい!」
俺と共に空に上がったルーナとクリュスが攻撃を食わせて、他のみんなも攻撃を加えている間にシフォンに保護されたヴィオレから説明を聞いた。俺もしっかり侯爵にお返しをしたことを伝える。
「つまり暴走状態の今なら強くはなっているが回復は無いわけだな?」
「あぁ…しかし状態異常はこの通りしてくる。それでも回復能力を封じることが重要と判断した」
「回復能力を封じてくれたおかげでダメージを蓄積出来てる。状態異常が切れる前に決めないと」
「だな…よし」
俺はみんなに作戦を伝える。
『全員、切り札を全投入してこいつを倒す! 弱体化スキルを使わせる時間を与えないほど連続攻撃で決めるぞ!』
『『『『了解!』』』』
『うちらが時間を稼ぎます! 恋火!』
『はい! 行きます! 狐技! ハーミットテイル!』
恋火と和狐の尻尾が上下からフォールンエルダードラゴンに襲いかかった。
「任せて! タクト! ここでとっておきのお弁当!」
リリーがバックから切り札、セーフリームニルの串焼きを取り出す。
「いただきまー」
ここでリリーに悲劇。フォールンエルダードラゴンが放った攻撃がセーフリームニルの串焼きに直撃する。炭になったお肉は悲しく崩れる。
「…」
あまりのショックでリリーが固まる。
「何をやっているんですか! リリー! 早くご飯を食べて竜化を」
悲劇再び。イオンが持っていたカジキマグロの串焼きにも光線が直撃する。
「「逆」」
『お前たちが怒ってどうするんだ。俺たちが竜化までの時間を稼ぐから誰からかご飯を貰ってきてくれ。ブラン、天昇を使わせてくれないか?』
『それが主の願いなら答えるのが私たち。私の全ての力は主と共に』
ありがたい限りだ。さっきの恋火たちの攻撃で獣化が解けてしまっている。こいつを止めるためにはこれしかない!
「『天昇!』」
俺たちは光の柱に包まれて、天使最高位の姿となる。正直かなりの反動があると思っていたんだが、物凄い力を感じるだけで痛さとかそういうものは一切ない。逆鱗や血醒のせいでビビり過ぎていたか。
『恋火、和狐。大技の準備をしてくれ。こいつは俺たちが引き受けた』
『はい!』
『みなはんと準備して来ます!』
俺たちが強くなった事を感じ取ったのか、フォールンエルダードラゴンが翼から六つの光線を撃ってきた。
「『神障壁!』」
俺たちはこれをあっさり防ぐ。障壁には傷一つついていない。これがセラフィムの力!俺はグランアルヴリングを空に掲げる。
「神雷!」
俺はバアルが使っていた雷よりやや弱いがそれに匹敵する雷をフォールンエルダードラゴンに落とす。するとフォールンエルダードラゴンは反撃で黒雷を使ってきた。
俺はパッラースの盾を構える。この攻撃は防げない。でも力で消し飛ばすことは出来る!
「神波動!」
パッラースの盾から特大の波動が放たれ、黒雷を消し飛すとそのままフォールンエルダードラゴンに直撃する。
ここでフォールンエルダードラゴンの目が紫に輝くと俺たちは以前味わった弱体化スキルが発動しようとした時だ。EMバーストを使ったイクスと雷化したゲイルが飛び込んで来て、フォールンエルダードラゴンの目を連結したツインエネルギーブレードと角で貫いた。
絶叫するフォールンエルダードラゴンが体中が発光し、無数の光線が俺たちに放たれる。
『ボクたちに任せて、タクト』
俺たちが光線に貫かれると幻と消える。
「魔力支配を使えるのはあなただけだと思ったら、大間違いよ。魔力支配!」
みんなに放たれた光線が不自然に曲がるとフォールンエルダードラゴンに殺到した。現れたのは魔王化したリビナとファリーダだ。ファリーダの魔王化は初めてで姿も能力も変化していた。
名前 ファリーダ 魔将(魔王化)Lv27
生命力 128→168
魔力 202→242
筋力 318→358
防御力 100→140
俊敏性 157→197
器用値 157→197
スキル
斧Lv31→戦斧Lv31 魔拳Lv29 舞踊Lv10 投擲操作Lv13 縮地Lv26→空脚Lv26
荷重操作Lv26 邪気Lv36→魔王覇気Lv36 魔力飛行Lv1 紅炎Lv1 陽炎Lv1
火炎装甲Lv1 炎魔法Lv10 爆魔法Lv35 暗黒魔法Lv10 時空魔法Lv23
集中Lv34→集束Lv34 誘惑Lv18→堕落Lv18 黒炎Lv1 物理破壊Lv35 防御無効Lv12
戦闘高揚Lv12 肉体活性Lv1 魔力妨害Lv31→魔力支配Lv31 引力操作Lv16 重力操作Lv13
暗黒弾Lv25→焼失弾Lv25 暗黒波動Lv16→魔王波動Lv16 炎波動Lv1 衝撃波Lv19→熱波Lv19 連撃Lv19→多連撃Lv19
乱刃Lv21→多乱刃Lv21 諸刃の一撃Lv4 覇撃Lv1 魔将技Lv11→魔王技Lv11 魔素解放Lv20
魔王魔法Lv1 妖精の輪Lv1 魔王の加護Lv1 破壊の加護Lv1
魔王化したファリーダは髪が紅色に染まり、魔王を象徴するように紅の悪魔の角が二本生えた。擬似ではない魔王化でここまで変化するのか。そして俺はこれで指輪に封じれていたファリーダの正体がわかった。
アラビアンナイトには色々な魔神が登場しているがジンに匹敵する知名度を誇る炎の魔神がいる。魔王化してここまで炎の能力に目覚めているなら間違いないだろう。
すると俺たちの後方から次々、攻撃が飛んでくる。どうやら最初にぶつかった敵部隊は片付いたらしい。そしてこの時間のおかげでみんなが準備が出来てくる。
『こちらアロマ、準備完了。いつでも行けます!』
『こちらチロル! 私も行けるよ!』
『こちらマヤ! 私も行けるけど、空にはいけないから地上からやるね』
土のドラゴニュートは空を飛べないからな。するとフォールンエルダードラゴンの天使の輪っかが発光する。スキルを使わせるか!
『『『『アクセラレーション』』』』
「踵落とし! 竜穴! 雷霆!」
俺は加速した状態からの踵落としをフォールンエルダードラゴンの竜穴に決めると再び空に羽ばたくと雷霆を落とした。
『了解! 次の攻撃で交代するぞ!』
『『『はい!』』』
するとフォールンエルダードラゴンの羽を羽ばたかせると無数の堕天使の羽が俺たちに降り注いでくる。
「天候支配! はぁああ!」
『全弾掃射! ドドドーン!』
「精霊魔法! アースフォース!」
リアンが暴風を操り、全ての堕天使の羽を吹き飛ばしてくれて、地上からユウェルが大砲を撃ちまくり、セチアが精霊魔法で援護してくれた。俺はグランアルヴリングを天に掲げる。
『「神撃!」』
空から強烈な光がフォールンエルダードラゴンに直撃する。それに合わせて、アロマたちが必殺技を放つ。俺たちもラストアタックの準備をする。
「グリフィンジャスティア伝説解放! 聖剣技! グリフィン・オーバーレイ!」
グリフィンジャスティアから輝くグリフィンが現れるとフォールンエルダードラゴンに体当たりで大爆発を起こす。
「獣技! ビーストノヴァ!」
「逆鱗! いったぁいいい!? けど、我慢! ドラゴンブレス!」
これにシフォンたちも続く。
「リミッター解除! テラマジックカノン! これはおまけよ!」
トリスタンさんは魔導銃の集束砲を放つと壊れた魔導銃を捨てて、大量のダイナマイト投げつけて、爆発させた。これにシフォンたちが攻撃を合わせる。
「諸刃の一撃! 覇撃!」
「ヒーローズハート! いっくぜぇええ! ロードカリバー!」
「精霊武装! シルフィードノヴァ!」
更に地上から銀が俺が貸した迅雷を構える。
「影分身! ギルマス秘伝! 雷竜解放! 疾風突き!」
影分身で増えた銀たち全てに雷竜解放が適応されて、下から五匹の雷竜がフォールンエルダードラゴンに翼に襲いかかると切断した。ブルーフリーダムのメンバーが続く。それぞれ必殺技を撃った後に俺と戦ったブルーフリーダムのリーダーが聖剣グラムを構える。
「聖剣グラム! 伝説解放! 聖剣技シュトルムヴァータン!」
これに竜騎士たちとメルたちが続く。
「「「「竜魔法! チクシュルーブメテオ!」」」」
恐竜を絶滅に追いやった隕石が竜の魔方陣から落ちてくる。しかし直撃するには時間がかかる。これの時間稼ぎをメルたちが引き受けたのだ。
「諸刃の一撃! 覇撃! リサちゃん!」
「任せて! 聖魔爆裂拳! からの~…発勁爆衝波! お姉ちゃん!」
ユーコの覇撃を浴びて、怯んでいるフォールンエルダードラゴンに空脚で接近したリサは胸をボコボコに殴った後に優しく触れるとフォールンエルダードラゴンの体に大爆発の衝撃が貫いた。
「アスカロン! 伝説解放! 聖剣技! セイント・ドラゴンスレイヤー!」
アスカロンで聖なるオーラはフォールンエルダードラゴンの体を貫いた。流石は竜殺しの聖剣。交換したのは間違いじゃなかった。ここで絶叫するフォールンエルダードラゴンに隕石がぶち当たるがその状態にも関わらず、フォールンエルダードラゴンは空に竜の魔方陣を展開する。しかも発動が早い!
魔方陣が紫色に発光した時だ。魔方陣の光が血に侵食される。血醒状態のセフォネだ。
「やらせないのじゃ! 魔法侵食! 砕けるがいい!」
セフォネが手を握ると竜の魔方陣が壊れた。
『タクト君!』
『わかっている! 恋火! 和狐! イクス!』
「エネルギーキャノン! 狙い撃ちます!」
『『ハーミットブレス!』』
魔王化したリビナとファリーダ、擬似女神化したリアン、俺から血を貰い、血醒を使ったセフォネが続く。
「これがボクのとっておき! 魔王魔法! エイシェト・ゼヌニム!」
エイシェト・ゼヌニムはユダヤの神秘主義カバラにおける悪の勢力クリフォトの王女の名前で大天使サマエルとつがったサキュバスは一人。ここにはリリスの名もある。魔法はピンク色の巨大な魔法の矢を放つ魔法。
これに貫かれたフォールンエルダードラゴンの目がピンクに変わり、大人しくなる。どうやら魅了になったらしい。フォールンエルダードラゴンが魅了になるとは考えにくい。それならこの魔法は貫いた者を確定で魅了にする魔法なんだろう。俺を守っている夢魔の加護も通用しない魔法だとするなら俺にとって新たな驚異となる魔法だな。ここに追撃が加わる。
「やるのう…リビナ。でも妾のほうが凄いのじゃ! 宇宙魔法! アルコル!」
「あら? なら勝負してみる? 魔王魔法! カティーア・インフィジャール!」
「それどころじゃないですよ。ファリーダ。神罰!」
セフォネが使ったアルコルは北斗七星を形作るミザールの脇にある赤色矮星の名前だ。赤く見える星だから世界中で不吉な星として扱われる。魔法では魔方陣から特大の死滅光線を放つ魔法だ。
そしてファリーダが使ったカティーア・インフィジャールはアラビア語で罪の爆発という意味。魔法ではフォールンエルダードラゴンに体中を拘束するように魔方陣が描かれ、魔方陣が連続で起爆すると最後に巨大な魔方陣が描かれ、超爆発するとリアンの神罰が入る。
リリーたちとヴァインたちドラゴニュートは竜化をして、既に準備完了している。
『やれ!』
ヴァインの指示で空から無数のドラゴンブレスがフォールンエルダードラゴンに命中し、フォールンエルダードラゴンは地面に墜落した。ここで自分の死を悟ったのか。それとも自分の仲間を思ってのことか声が聞こえた。
『苦しい…我は既に死んでいる。我をこの苦しさから救ってくれ。我が眷属たちよ』
『あぁ…今、救う! 頼むぞ! お前たち!』
『任せて! タクト! ブランちゃん! お願い!』
ヴァインとリリーに頼まれるとはな。期待に答えるとしよう。
「『天使魔法! セイント・スタウロス!』」
天使の魔方陣から巨大な光の杭がフォールンエルダードラゴンに次々突き刺さり、光の杭から神雷が発生する。スタウロスはギリシャ語でまっすぐな杭という意味。セイントがあるからこれは聖杭という魔法だ。聖杭は聖遺物として有名だね。
後はリリーたちに任せた。
『惑星魔法! ヴィーナス!』
『惑星魔法! ジュピター!』
『惑星魔法! マーズ!』
『『惑星魔法! サターン!』』
『『惑星魔法! プルート!』』
リリー、イオン、タクマとのエンゲージバーストを解除して竜化した花火ちゃん、地面からユウェルとマヤさんのドラゴニュート、最後にノワとヴァインが渾身の惑星魔法を浴びせて、フォールンエルダードラゴンは消滅した。
勝ったか…とんでもない強さだったぞ。防衛戦に戦力を集めすぎたのかも知れない。まぁ、これはみんなから信頼されているからなんだけど…ちょっと無理があったな。
俺たちは力尽きて、地面に仲良く倒れこんだ。
「つっっかれたなぁ~」
「お腹空いたよ~…タクト~」
「結局マフィンしか食べてません」
それで十分じゃん。すると岩陰から足音が聞こえた。この足音はユウェルかな?
「グル」
ドラゴンゾンビが現れた。え?なんでこいつまだいるの?そういえばまだインフォが来ていないし、帝さんたちがドワーフの住処でボス倒した後も戦闘になったと言っていたな。失念していた。いや、そんなことよりそのヨダレは何かな?
「ちょっと待って!? 満腹度が切れているよ!?」
「経験値が一番多いのは、兄ちゃんだよ!」
「リサー! 兄を売るな!」
「兄ちゃんなら妹を守ってよ!」
それを言われると言い返せないが俺はエンゲージバーストの代償で動けないんだよ!するとドラゴンゾンビが俺に近づいてくる。
「タクト~…」
「うぅ…動いて」
リリーたちは助けようとしてくれる姿が眩しい!ってそんなことを考えている場合じゃない!やめてくれ!ドラゴンに食べられる恐怖症が再発しちゃう!というかここで死んだら、経験値が無くなる!クラスチェンジや進化の夢が!
「「「「ガァアア!」」」」
「グレイ! みんな!」
助かった。グレイたちには本当にお世話になる。安心しているととんでもない気配を感じ、全員が空を見る。するとヴァインが言う。
「やっと帰ってきたかよ」
空に黄金の輝きが集まると巨大な二足歩行の黄金のドラゴンが配下のドラゴンたちと共に現れた。
死闘邪竜神クロウ・クルワッハ?
? ? ?
エンシェントドラゴン?
? ? ?
ダークネスドラゴン?
? ? ?
あれがクロウ・クルワッハ!アジ・ダハーカクラスの化物であることがはっきりとわかる。それに付き添っているドラゴンたちもフォールンエルダードラゴンより多分強いぞ。
そのクロウ・クルワッハが自分の住処の上に降り立つと俺たちのほうを見る。
『我が眷属が世話になった。侘びの一つとして周囲の奴らを滅ぼしてやろう』
クロウ・クルワッハが手を天に上げると無数の死滅光線が降ってきて、残っていたドラゴンたちを全滅させた。そこでインフォが来た。
『邪竜の住処の敵を全滅に成功しました。これにより邪竜の住処が敵の支配から開放されます』
『闇のドラゴニュートのイベント参加が決まりました』
『職業召喚師のレベルが上がりました。ステータスポイント2ptを獲得しました』
『職業召喚師のレベルが上がりました。スキルポイント2ptを獲得しました』
『危険察知のレベルが30に到達しました。危険予知に進化しました』
『リアンの連続詠唱のレベルが20に到達しました。連続詠唱の数が一つ増加しました』
『ユウェルの竜魔法のレベルが20に到達しました。竜魔法【チクシュルーブメテオ】を取得しました』
『グレイのレベルが32に到達しました。進化が可能です』
『グレイの進化には専用アイテムが必要です』
『ルーナの光魔法のレベルが30に到達しました。光魔法【リフレッシュ】、【フラッシュバン】を取得しました』
『ルーナの光魔法が神聖魔法に進化しました。神聖魔法【セイント】、【ブレス】を取得しました』
『ジークのレベルが24に到達しました。進化が可能です』
『千影の刀のレベルが30に到達しました。刀【朧】を取得しました』
『千影の杖のレベルが10に到達しました。杖【マジックサークル】、【エントラスト】を取得しました』
『千影の棒のレベルが5に到達しました。棒【ヘビータップ】を取得しました』
とんでもない攻撃でインフォの内容が入ってこない。するとクロウ・クルワッハがヴァインたちに話す。
『少しはまともな顔をするようになったな。お前たち』
「やはり私たちを試したのですね。クロウ・クルワッハ様」
『我らに喧嘩を売る輩はそうそういないからな。此度のことはお前たちを成長させるいい機会だと思ったのだ』
「それならそうと言ってくれよ」
ヴァインのぼやきにも一理あるがクロウ・クルワッハにも主張があるようだ。
『我が言っていたら、今のお前たちにはなっていない。違うか?』
「…そうかもしれないけどよ」
「ヴァイン、諦めろ。それを言われたら、我々に返す言葉はない。それよりクロウ・クルワッハ様は此度の一件はどうするおつもりですか?」
ここは重要なところだな。クロウ・クルワッハが言う。
『安寧に眠っている我らが同胞を操り、苦しめ、利用した罪はあまりに重い。邪竜の逆鱗に触れたらどうなるか魔王どもに教えてやらねばならん』
これでクロウ・クルワッハたちが後半参加してくれたら、勝ち確定な気がする。しかし当然運営はそんなことはしてくれない。
『しかし人間たちと魔王の戦争に我が直接関わるつもりはない。我が眷属たちよ。戦いがどうなるかまだわからんが最後まで学んで見るがいい』
「厳しすぎだろう…」
「だが、クロウ・クルワッハ様らしい。わかりました。我々はこのまま彼らと魔王たちとの戦争に参加いたします」
『うむ…それと人間たちよ。此度は我が眷属と共に戦ってくれたことに感謝しよう。礼も用意するから次の戦いにしっかり備えるといい』
こうして俺たちのイベントの戦いは終わった。砦に帰った俺はステータスを見るとクラスチェンジに届かなかったこと知った。悲しいがそれでもグレイとジークが進化に到達したのは嬉しい。
ステータスポイントを筋力に回して、残りスキルポイントは137ptとなった。さて、防衛はどうなったかな?
 




