#769 邪竜の住処解放戦
俺たちは夕飯を早めに食べ終えて、ゲームにログインするとみんなにご馳走を振舞う。そしてリリーたちにはミュウさんから作ってくれた肩掛けバックとユウナさんから首から掛けられる特製ジュースが入った容器を渡せた。
バックにはチョコチップマフィンとチョコレートが入っている。非常食なのだが、リリーたちは当然のようにすぐに食べたり、飲もうとする。
「「「「あー」」」」
「今すぐ食べたり、飲んだりしても助けないからな」
「「「「ん!?」」」」
驚いた顔でこっちを見ないでくれ。ここでは生産作業が難しい。流石に生産職の人には生産を可能にする鉢などがあるらしいのだが、それだけではどうしても限界がある。
ぶっちゃけこれだけの大人数に宴会とかまでしていたのだ。食料的にかなりギリだったりする。少なくとも終わった後の宴会は出来そうにない。
「これが今回最後の戦いになる。この勝負に勝って、ヴィオレやヴァインの住処を取り戻してあげるんだろう?」
「わ、わかっているよ。タクト~」
「本当か~?」
俺がリリーに疑いの目を向ける。
「う…イオンちゃん」
「私にすぐに助けを求めないでください!」
「というか助けを求めている時点でわかってないと認めてませんか?」
「ブランの意見に賛成します。リリーはわたしたちのリーダーなのですからもっとしっかりしてもらわないと困ります」
イクスの意見に同意だ。するとリリーは急にやる気を出す。
「リーダー!? ま、任せて! イクスちゃん! リリーがみんなをしっかり指揮するから!」
「「「「心配です…」」」」
「「「「ガウ…」」」」
「みんなしてなんでそんな不安そうな顔をするの!?」
ショックを受けるリリーだが、リリーはリリーなりに既に指揮をしていたりする。だからこそイクスもそう口にしたんだろう。俺とイクスの視線が合う。
「ふ」
あ、あの顔はリリーを調子に乗せただけだな。するとヴィオレとヴァインが来た。
「決戦の前だと言うのに賑やかなことだな」
「緊張で硬くなるよりいいさ。作戦も対策もしっかり考えた。俺たちなりの余裕と受け取ってくれ」
「そんな優しい相手じゃないんだが…ま、それなりに期待しておいてやるよ」
ヴァインは俺たちがヴィオレを助けたことで少し俺たちの評価を変わったみたいだ。
「ギルマス! まもなく作戦開始です!」
「わかった」
俺は邪竜の住処の解放戦に参加するメンバーを見渡す。
「この戦いが今回のイベントのラストバトルになる! なんとしてもこの戦いで邪竜の住処を解放するぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
「全軍出陣!」
俺たちは邪竜の住処攻略に出陣した。
その頃邪竜の住処では侯爵が苛立っていた。援軍として向かわせたドラゴンたちが数匹逃げ帰ってきたのだ。無理もない。
「勝利の報告かと思えば、敗北を伝えるめに逃げ帰ってくるとはな! もういい! 砦も全軍で敵軍に攻撃を仕掛ける頃合だ。次こそはあいつらを皆殺しにしてこい!」
侯爵にそう言われて、ドラゴンたちは住処から出ていこうとする。その間に侯爵が通信をする。
「防衛部隊か? 今すぐ敵の砦に攻撃を…何!? 襲撃を受けているだと!? 何? 昨日と同じ奴らだと? 馬鹿な奴らだ。また返り討ちに」
『今です!』
『『『爆破の霊符!』』』
香子さんの合図で銀たちが邪竜の住処の出入り口を次々爆破した。これにより洞窟の天井が壊れ、落石でドラゴンたちは潰され、出入り口が封鎖された。
上級のドラゴンなどは危険予知とか持っていたりするが、そこはゴブリンアサシンの時と同じ仕組みで掻い潜った。
これでドラゴンたちは爆破しても潰せないフォールンエルダードラゴンが飛び立つための住処の屋上の大きな出入り口を使わない限り、すぐに外には出れなくなった。
「な、なんだ!? 何事だ! この爆発は! フォールンエルダードラゴン!」
侯爵は慌ててフォールンエルダードラゴンに乗る。そのダサい姿を天井にぶら下がって香子さんは見ていた。そこに銀たちが合流した。
『どうだった? 香子さん』
『情けないほど、慌ててましたよ。やはりフリーティアを見捨てた男ですね。これで私たちの任務は終わりです。銀、報告を』
『任せて! こちら潜入班! 作戦通り、邪竜の住処の出入り口を爆破したよん』
『こちら攻略班。ご苦労様。こちらももうすぐ到着する』
ドラゴンたちは体が大きい弱点がある。体を自由に動かせる外ならいいかも知れないが住処の中で結構ドラゴンたちは窮屈な生活をしているとヴィオレたちから教えて貰った。
俺は大きな穴があるならそこまで不自由しないと思っていたのだが、ドラゴンの習性というか決まりごとで大きな穴を使えるのはそれに見合ったレベルが高いドラゴンとなっているらしい。
結果的に住処には沢山の出入り口を作って、住処の外にすぐに部隊を展開出来るような作りとなっているそうだ。
それならばその沢山ある出入り口を潰せばドラゴンたちはぎゅうぎゅうの洞窟で身動きが取れなくなると考えた。ドラゴンブレスで瓦礫を破壊したくても撃つことが出来るのは瓦礫の前にいる数匹が限界だ。出入り口を通れるようにするには多少の時間はかかるだろう。
俺たちにとって、その多少の時間で十分だ。最初のデビルドラゴンたちを俺たちはコノハたち、飛行戦が出来る召喚獣たちに任せて強行突破した。
「マスター、敵部隊捕捉。予定通りタタリドラゴンたちが展開しています」
「よし!」
『作戦通り、邪竜の住処を包囲する! リリーたちの攻撃を合図に一気に制圧するぞ!』
『『『『了解!』』』』
俺はリリーとイオンに指示を出す。
『リリー、イオン! 思いっきり暴れてこい!』
「うん! いっくよ~! 竜魔法! シューティングスターライト!」
「昨日のお返しです! 竜魔法! ドラゴニックサイクロン!」
「あたしも行くわよ! 竜魔法! サラマンドラブレイズ!」
花火ちゃんが新竜魔法を披露した。サラマンドラブレイズは展開された魔法陣から灼熱の閃光を放たれ、魔法陣の下にいる全ての敵を焼き滅ぼす竜魔法だ。
リリーのシューティングスターライトより攻撃範囲は狭いが殲滅能力ではこちらの魔法のほうが上といった印象だ。
「どうよ! タクマ! あぅ~」
「ほら。タタリドラゴンの効果を受けるんだから早くご飯を食べろ。花火」
「う、うん。あ」
リリーたちがすぐさまチョコチップマフィンを食べると再び竜魔法を使う。銀たちの報告で住処の中にもタタリドラゴンはいるらしいがこれで外にいた邪魔なタタリドラゴンたちはほぼ片付けた。
『全軍突撃!』
「空間に魔力反応を検知。マスター!」
幽霊なら出入り口を使う必要がないか…俺は邪光石を取り出す。
『ネクロドラゴンをあぶり出す! メル!』
『任せて!』
俺はシンクロビジョンで見たイクスの反応があったところに邪光石を投げる。
「「「「(光のルーン!)」」」」
邪光石から紫の閃光が放たれるとネクロドラゴンたちが姿を見せた。
「お願い! ヒクスちゃん! はぁああ!」
いち早くメルがアスカロンでネクロドラゴンを斬り裂く。
『霊化しない! 効果抜群みたいだよ! タクト君!』
『それはよかった。こいつらの相手を頼む。俺は地上部隊を召喚してくる』
『任せて! 竜騎士部隊、サポートお願い!』
『『『『任せてください!』』』』
メルたちが因縁のネクロドラゴンたちを引き受け、俺たちは住処に突撃する。リリーたちが空で戦闘している間に俺たちは地表にあるそれぞれ担当を決めていた敵の出入り口付近に接近し、地上部隊を召喚する。
まずは瓦礫の中に侵入して戦うのがスライムたち。分裂で数を減らすと瓦礫の中を変形と擬態を駆使して中に入り、ドラゴンゾンビを狙う。他にも霊化や憑依などで瓦礫を潜り抜けて、攻撃を加える。プレイヤーでは忍者たちが影分身を使って、洞窟内に分身を出現させて戦闘する。
しかし当然瓦礫を突破して来る奴らがいるが待っているのはグレイたちにドラゴニュートたち、~さん率いる召喚師たちだ。
「空は飛ばせん!」
「大人しく死んでおけ!」
それを察知したイビルワームたちがグレイたち地上部隊に襲いかかって来るが地脈操作持ちの召喚獣たちに炙り出されて、出たところをモグラ叩きのようにオーガたちなどの大型召喚獣に潰されている。
この袋叩きのような状況に我慢が出来る侯爵では無かった。
「好き放題やりおって! もういい! わし自らが終わらせてくれる! 行くぞ! フォールンエルダードラゴン! 奴らを残らず滅ぼしてしまえ!」
フォールンエルダードラゴンとディザスタードラゴンが住処から遂に出てくる。
「さぁ、終わらせてしまえ! フォールンエルダーッ!?」
「ち…受け止めるか」
「貴様か!」
ダーレーの装備している混沌竜のバーディングの効果で透明になった俺が侯爵を奇襲したのだが、杖でグランアルヴリングの攻撃を止められてしまった。
「ぬぅうう!」
「生憎強化ならダーレーがいれば負けねーよ!」
「生意気な小僧が…フォールンエルダードラゴン!」
フォールンエルダードラゴンが俺たちに狙いを定めるが俺はそのまま侯爵を押さえ付ける。
「いっけぇえええ!」
チロルがオピリンクスとの連携でフォールンエルダードラゴンに落馬の魔槍を突き刺した。その瞬間、不自然に侯爵のバランスが崩れた。貰った!
「なんだ!?」
「は! ダーレー!」
「ヒヒーン!」
「ぐわ!?」
俺がグランアルヴリングで侯爵の杖を上に弾くとダーレーの強烈な蹴りが決まり、侯爵をフォールンエルダードラゴンから落とすことに成功する。俺は更に追撃に動くと周囲のディザスタードラゴンたちとフォールンエルダードラゴンが動く。
「「「「「ドラゴンダイブ!」」」」」
「「「「ドラゴンブレス!」」」」
イオン、花火ちゃん、ヴィオレ、ヴァインがディザスタードラゴンにドラゴンダイブを食らわし、リリー、ノワ、雷電たちドラゴンテイマーたちがドラゴンブレスをフォールンエルダードラゴンに浴びせた。
その隙に俺は止めのダーレーの蹴りで侯爵を住処に中に蹴落とした。そして俺は恋火たちと共に住処の中に降りる。
「「ハーミットブレス!」」
「冷凍光線!」
「ドラゴンブレス!」
「氷結波動!」
恋火、和狐、リアンとサフィに乗っているユウェル、伊雪が住処の中にいる雑魚を蹴散らし、バックからチョコチップマフィンを食べながら俺たちは住処の中にいった。
「「「ウッドウォール!」」」
『『『ウッドウォール』』』
「金属壁!」
「かまくら!」
「森林操作!」
同じくサフィに乗っていたセチアとユウェル、伊雪、ミールが敵の大広間に続く道を封鎖する。他にも千影とアラネアがミスリルの鋼線を張り巡らせた。そしてそれぞれの方法で攻撃する。
「ルートスクイズ!」
「雪分身!」
「聖水! 水流操作!」
「影分身!」
セチアはルートスクイズを洞窟内で使用して、洞窟内が木の根で埋まる。ユウェルは竜化して、地面の中で潜り、洞窟内で現れて、ドラゴンたちを石化させていく。伊雪と千影が分身を使って攻撃し、変わった方法を使っているのがミールとアラネアだ。ミールは木の隙間に聖水で流して攻撃し、アラネアは使役で蜘蛛たちを呼び出すと糸の間を通らせて、洞窟内を蜘蛛の糸だらけにしてしまった。
それでも全てを洞窟を止めきれないため、リビナたちが封鎖しきれない道から来る敵と対峙する。
「ここは通行止めよ。ドラゴンさん」
「折角もう堕ちちゃったんだからさ。ボクが欲望の海に落として溺れさせて上げるよ」
「タクトの邪魔はさせぬ。本当の不死の恐ろしさを教えてやるのじゃ。死にたい者からかかってくるがいい!」
みんな逞しいね。これで侯爵は完全に孤立。上ではリリーたちドラゴニュートとメルたちに召喚師たちが参加している。
ここまでの作戦は完璧、後は侯爵を仕留めるだけだ。俺はダーレーから降りるとブランと並んで落下した侯爵の方向を見る。仕上げと行こう。




