#752 ブランの告白
宴が終わった俺はブランを連れてエステルの町を探索することにした。
「いつも思いますが新しい町や国はそれぞれ違いますよね」
「文化や生活が違うからだろうな。俺たちのフリーティアも最初の頃と比べるとだいぶ違っているだろう?」
「そうですね。私が主に召喚されたのはフリーティアでしたから主たちがフリーティアに来た時の頃は分かりませんがそれでもかなり活気づいたと思います」
「俺たちが来たときとブランを召喚した時はあまり変化は無かったぞ?」
ブランを召喚したのはゾンビイベント前だ。あの頃と初めてフリーティアに来た時とではあまり大差ない。く…リープリッヒで生活していた時代を思い出した。あの頃は酷かったな~。それでも楽しくやっていたけれどね。
「あ、主。あそこに冒険者ギルドがありますよ」
「本当だな。そういえば王様に謁見していた時に正規の軍に依頼とか言っていたな…」
どうやって依頼するのか疑問だったが、冒険者ギルドがあるなら妙に納得した。何せ生産ギルド並の大ギルドだからな。
「行ってみますか?」
「いや、今はやめておくよ」
「そ、そうですか…」
ブランの顔を見ると顔を背けて、髪の毛を弄る。うむ…これは照れているのと嬉しさ半々と見た。
「なんですか? 主」
「なんでもな~い」
「く…そんな顔をする主にはお仕置きです!」
頬を引っ張られた。
「いててて~!?」
「反省しましたか? 主」
「…はい。いって~」
かなり痛かった。こういうのは手加減するものだと思っていたが本気の引っ張りだったぞ。
「主をお仕置きするときは甘やかしたらダメだとイオンお姉様が言っていたのですが…大丈夫ですか?」
「イオンの仕業か…」
イオンの頬引っ張り決定。その後も町を見ているが、はっきり言ってデートスポットはなかった。考えてみると当然なんだけどね。ここは魔王たちと戦うために作られた町だからデートに最適な場所は不要だろう。
さて、どうやって指輪を渡そうか…やはりエデンの試練に強引に挑むべきだったかな?俺がそんな風に考えているとブランが恐る恐る聞いてくる。
「あの…主? もしかして指輪を渡すところとか探していますか?」
結構回ったからな。聞かれるのも仕方ない。
「あぁ…だけど結局見つからなかったな。結構人がいるし…出来れば二人っきりで渡したいんだが」
「それでしたら、いいところがありますよ」
「ん? どこだ?」
「あそこです」
ブランは城を指し示す。というかお城の先?
「凄いところを選んだな」
「皆さんから色んな話を聞いていますから私も負けてはいられません」
そうか…みんなで俺の告白暴露大会でも開いているのか…死にたくなってきた。そこで俺はある問題に気付く。
「なぁ? ブラン。その話をしている時のリリーはどんな様子だった?」
「え…えーっと…それは…黙秘させていただきます」
「それで十分伝わったよ」
新しい指輪を渡す時はリリーにもいい思い出を作ってあげないとな。さて、指輪を渡すところは決まったけど、あそこではゆっくり会話出来そうにないな。
「指輪を渡す前にブランは何か不安とかないか?」
「桜花でお話しましたから不安は…あ。一ついいでしょうか?」
「ん? なんだ」
「私は主に指輪を贈って貰えるほどの女性」
ブランの頭にお仕置きチョップ。
「話の途中になぜ攻撃!?」
「当たり前だ。俺がブランに指輪を贈ることを決めたのに贈る本人にそんなことを言われたら、俺はどうすればいいんだ? 指輪を贈ることをやめればいいのか?」
俺がそう聞くとブランは慌てる。
「そ、それは困ります! 私もリリーお姉様たちに負けないくらい主のことが好きで!」
「だったら、自分のことに自信を持ってくれ。大丈夫…ブランは十分魅力的な女の子だよ」
「主…わかりました。もう少しだけ自分に自信を持ってみようと思います」
少しだけか~。恋火の人見知りも重症だが、ブランの自分に対する低評価も大概なんだよな。まぁ、こういうのはいきなりは難しいのかも知れない。ブランは強さに対するコンプレックスを克服している。ならこれもきっと超えれるだろう。
すると周囲から視線が多数…NPCだが、これは不味いな。
「それじゃあ、場所を移すか」
「はい! 私が運びましょうか?」
「いや、周囲に人がいるし、フライで飛んでいくよ」
流石にこの状況でブランに運ばれるのは恥ずかしすぎる。ということで自前で飛んでお城の上に…少しお借りします。俺は指輪を取り出し、片膝を付くように低姿勢になる。
「俺はブランのことが好きだ。この指輪を受け取ってくれるか?」
「はい」
俺は差し出された左手の薬指に指輪を付ける。そしてインフォが来る。
『ブランとエンゲージが結ばれました』
これで良し。
「こんなところで指輪を貰うとお姫様の気分になってしまいますね」
「ブランが言ったんだぞ」
「ふふ。そうでした」
むぅ…いい笑顔を向けてくれる。すると突然ラッパの音がした。
「エンゲージおめでとう!」
そこには一人の天使がいた。
「ガブリエル様!?」
まぁ、ラッパを持っている天使なんてカブリエルぐらいしか俺は知らない。カブリエルはミカエル、ラファエルと共に三大天使と呼ばれている。既にウリエルが登場しているからこのゲームでは恐らく四大天使とされている存在だろう。そんな凄い天使が気軽に話しかけてくる。
「いや~、やっと指輪を贈ってもらえたね。私たちの神様も君たちのことを祝福していたよ」
「ほ、本当ですか!?」
「本当だよ。何せそれを伝えるためだけにここに来ることになったぐらいだからね」
あぁ…ガブリエルは聖書では神のことばを伝える天使と言われているからな。
「じゃあ、言い終わったし帰るね」
帰るのはや!?
「ちょっと待ってください。悪魔たちがヘルズゲートを使っているらしいのですが、それはいいんですか?」
「ん? あいつらはヘルズゲートを開けてないよ。開けていたら、私たちと全面戦争になっているからね」
開けてないだと?でも実際に死後の世界のモンスターが来ているはずだ。
「まさかネビロスの能力か何かと関係が?」
「残念だけど答えられないね。まぁ、鍵を持っているようだし、知りたかったら他の天使に聞いてみるといいよ。オススメはウリエルとだけ言っておくよ。じゃあね~」
消えてしまった。鍵というのはエデンの鍵のことかな?というかウリエルならネフィさんが召喚出来るはずだ。つまり試練をクリア出来なければネフィさんに聞いてみるしかないかな?それにしても。
「答えられないとか言っている割に色々教えて貰ったな」
「ガブリエル様はお喋りで有名なお方ですから」
まぁ、見るからにお話するのが好きそうな印象は受けたな。しかしこれ以上言うのはやめておこう。天罰が怖いからな。
「帰って寝るか…」
「はい。あの…二人っきりですよね?」
「も、もちろん」
やばかった…わざわざ二人っきりを上目遣いで聞いてくるブランは破壊力抜群だったぞ。俺はログアウトしたあともこのブランの不意打ちの攻撃に悩まれせられることになるのだった。
 




