#747 反省会と邪竜のドラゴニュート姉弟
いよいよ明日『Elysion Online ~ドラゴニュートと召喚師~』コミックス第一巻が発売となります。
明日の更新ではリリーがフリーティアの本屋でコミックスを見つける話を書く予定です。普通なら絶対に有り得ないことですが、そこは本編とは違うストーリーということでご了承ください。
防衛に成功した俺たちはお城に戻って、リアム国王様に報告を済ませてから作戦司令部に集まり、今日の情報をエステル騎士や助っ人のランスロットさんたちも加えてまとめる。まずはルインさんから報告を受けた。
「第二の砦も二度目のゴブリンアサシンの襲撃を受けたんですね」
「そっちが戦闘中だったから連絡しなかったのよ。こっちはランスロットとモルドレットがいたからね」
「モルドレットが敵の襲撃を察知してくれて、敵をボコボコにしてたよ」
この襲撃でわかったことだが、現時点では敵はドワーフ方面の山からしか現れないことが判明した。油断は禁物だが、取り敢えずそれがわかったことはプラスだと考えよう。一応モルドレットにどうやって襲撃を察知したのか聞いて見た。
「そんなもん勘だよ。勘」
「モルドレットは戦いの空気を察知する天性の才能を持っています。そして戦いの空気を感じるということはそれを纏っている者を見つけることが当然可能なんです」
つまりそういうスキルかもしくはただの勘を持っているということだ。全然参考にならないね。しかし参考になる重要な話を得ることが出来た。それがアストルフォ。正確にはヒポグリフの能力だ。
「ヒポグリフは神瞳を持っていて、どんなに上手く隠れていても悪意は絶対に見逃さないんだよ。どーだ! ヒポグリフは凄いだろう!」
「そうだな。ヒポグリフは凄いな~。ご褒美にお肉をあげよう」
「あ、あれ? なんでヒポグリフだけ?」
神瞳ならコノハが持っている。シンクロビジョンを使えば、敵を捉えることが出来るだろう。幸い俺の影響を受けた召喚師が多いせいかグラウクスを持っている召喚師は結構いるみたいなので、俺も含めて索敵役をすることになった。
そして他にもゴブリンアサシンを捕捉する可能性があるスキルが指摘された。それが音響探知。リアンやサフィが持っている能力だ。これを報告したのは飛行部隊でコウモリ系を召喚している召喚師たちだ。
「最初は気のせいだと思ったんですけど、ギルマスが水攻めをした時に騒いでいたんです」
「一応音に特化しているスクリームバットたちが騒いでいたので、もしかしたらと思いまして」
スクリームバットはサウンドバット系の第四進化。ソニックバットの進化で説明の通り音に特化した召喚獣で超音波や低周波に加えて空気圧まで操るコウモリだ。
今まであまり注目されていないモンスターだけに予想外だったが、確かに現実のソナーに相当する音響探知ならゴブリンアサシンを見つけられるかも知れない。なぜなら音の跳ね返りで探知する能力だ。いくら上手く隠れても存在しているなら音は跳ね返る。
「なるほどな。ただそうなると使えるのはスクリームバットか鯨系になるな。事実上はスクリームバット一択か」
地上の音響探知で現在最強はスクリームバットだ。水中ならマーメイドと鯨系が来るんだが、そこはちゃんと使い分けされているみたい。
とにかくスクリームバットの探知範囲は半端じゃない。範囲なら恐らくここから敵の砦ぐらいまでなら探知可能かも知れない。絶叫のコウモリの名は伊達ではないのだ。
ただ難点が一つだけある。それは音響探知は彼らしか知ることが出来ないという点だ。リアンなら言葉で知らせてもらえるがサフィやコウモリから得られる情報は敵が来てる程度なんだよね。シンクロしても音が聞こえたぐらいしか人間には分からないんだ。
ただコウモリたちは気配遮断も持っているし、偵察役には向いている。スクリームバット持ちの召喚師たちは偵察部隊に編成したほうがいいのかも知れないな。
次は俺が今日起きたことを包み隠さず話す。
「爆撃を逆手に取られましたね…」
「はい。完全に俺の判断ミスです」
怪しいことは分かっていた。それで指示した責任は重い。
「気にしないでというのは無理かも知れないけど、結局大魔法を使うとしても弓で飽和攻撃をしても誰かは犠牲になっていたわ」
「寧ろすぐに対策を考えたことを評価すべきだ。あの判断で救われたプレイヤーがたくさんいることを忘れないでくれ」
「はい…ありがとうございます」
これからの被害を出さないために気持ちは切り替えないと。
「今回は防衛成功しましたけど、皆さんはどう思いますか?」
「正直水計は対策されるのは時間の問題な気がするかな?」
「クロールで泳いでいましたし、アサシンは水上歩行、レッドキャップに至っては潜っていましたよね?」
「呪滅撃のこともある。水系を封じられて、大規模攻撃も封じられると各個撃破するという選択肢となる。呪滅撃をくらうたびにヒーラーに回復してもらうことになることを考えるときついぞ」
少なくも今のままの作戦じゃあ、ヒーラーの手が回らなくなるだろう。敵の大部隊と正面衝突は避けないといけない。重要なのは呪滅撃によるダメージをコントロールすることだ。それをするためには平地ではほぼ不可能…そこで俺は昔にしたある作戦を思い出した。
「ニックさん、魔法使いのみなさん。今から俺が言うことが可能か教えてください」
俺はこの状況をなんとかするための案を出す。
「なるほど! あの時の作戦を今回は全て人工的に作り出して行うわけですね?」
「はい。これが出来るなら敵の数の調整が出てて、呪滅撃のダメージをコントロールすることが可能なはずです」
「確かにそうだが…随分えげつない手を考えるんだな」
「「「「これがうちのギルマスです!」」」」
それは褒めているのかな?みんな?すると今まで見守っていた直江兼続さんが口を開いた。
「官兵衛の言うとおり、面白い作戦を考えるものだな。ただこの作戦はかなりの人数の術使いが必要になると思うが?」
これにはレッカたち魔法使いたちとニックさんたち錬金術師たちも賛同する。
「兼嗣さんの言うとおりかな? かなりの大規模になるから夜じゃないとこの作戦は厳しいと思う」
「ランパードを使える者が総出で行う大規模魔法ですからね。これ」
「私たちも人数が揃わないと厳しいというのが本音ですね」
「つまり人数さえ揃えば可能なんですね?」
全員が力強く頷く。よし、これで少なくも夜の大規模侵攻に対する対策は出来た。問題は人数が揃わない時間帯だ。
「夜以外の敵の数はだいぶ少なくなると思うわ」
「確かに昼には大規模侵攻は無かった。最初の侵攻は100ぐらいの数だったか?」
「それぐらいだったと思います」
つまりそれが数の指標といったところか。夜に人数が多いことは運営も分かっているし、平日スタートのイベントだから朝や昼の時間帯は数より質で来るとルインさんたちは予想した。
それなら呪滅撃はそこまで怖くないだろう。ただどんな敵が来るかだな。
「罠を設置したほうがいいかしら?」
「どんな敵が来るか分からない以上あったほうがいいでしょうね」
「では、拙者たちは罠設置をしてくるでござるよ。トリスタン殿は別任務をしているでござるからな。ただ拙者たちも見張りがある故、狩人のプレイヤーに手伝って欲しいでござるよ」
「わかりました。こちらで手配しておきます。よろしくお願いします。火影さん」
他にも今後の敵の動きを想定として、空からの敵に対する陣形と具体的な攻略プランを決めて戦闘会議は終わる。NPCたちを解散させてから今後の流れについて話し合う。まずクロウさんから説明を受ける。
「砦建設の予定は第三の砦は明日には完成するだろう。問題は次の砦建設だが、これは俺たちが自由に作っていいことになっている。次のイベントのことを考えてしっかり作るかイベントポイント目的で手抜きするか判断しないといけない」
「第三砦と同じぐらい砦を作るとしたら、どれぐらいの時間がかかりますか?」
「あくまで襲撃を受けない前提でだが、二日はかかるだろうな。もちろん召喚獣やオートマタの協力でだいぶ上下することになるし、最後の二日は職人も一日動ける人が多くなるからスピードも上がるだろうが新しく作れる砦は最大二つと考えてくれ」
ポイントのことを考えるとスピードを重視したいだろうが次のイベントのことを考えるとやはりしっかりした物が欲しいところだな。
「重要になるのは第五砦です。そこに力を注ぐという手もありですね…」
「でも手抜きすぎるのも問題じゃないかしら? もし第五砦が落とされたら、総崩れになるわよ」
「これは一つの賭けなんですが…この作戦をしてみませんか?」
俺の提案にみんながため息を吐く。
「タクト…お前、敵をおちょくるの大好きだろう?」
「もちろんです」
「それはかなりの危険がある作戦よ。タクト君」
「本来の作戦なら危険極まりない作戦ですが…この状況ならばこの作戦は別の驚異になると思います」
俺は図で書いて説明する。説明を聞いたみんなの第一声がこちら。
「「「「「酷い…」」」」」
敢えて言おう。戦争とは時に非情なものである。
「この作戦を前提で考えるなら第四砦は手抜きで第五砦に力を注ぐことになるな」
「はい。ポイントも確実に取りに行きたいことを考えるとこれがいいと思いますがみなさんの意見はどうでしょうか?」
まだ作戦には穴があり、そこを指摘されたが全体的な作戦としては了承された。やったね。一度やってみたかったんだ。この作戦。
「これならほぼ確実に第五砦まで作ることが出来るだろう。たださっきもいったが襲撃を受けるとNPCたちの作業効率が落ちるようになっているようだ。全員そんなつもりはないだろうが、防衛よろしく頼むな?」
「「「「「はい!」」」」」
これで会議が終わると俺はサバ缶さんから依頼していた銃弾を受け取る。
浄化の銃弾:レア度9 通常アイテム 品質A-
効果:悪魔特攻(究)、浄化
ミスリル製の銃弾。浄化の効果があり、悪魔に非常に強い効果を発揮する。ただし炸薬が入っていないため、通常の銃では撃ちだすことが出来ない。
浄化のマガジン:レア度9 通常アイテム 品質A+
効果:装填、悪魔特攻(究)、浄化
30発の浄化の銃弾が装填されているマガジン。アサルトライフルの部品の一つで銃弾を一つ一つ再装填することで再度使えるようになる。ただし銃弾の装填は素手では非常に難しく専用の装置を使うことが一般的。
サバ缶さんが確認してくる。
「こちらの浄化の銃弾には炸薬は入れませんでしたけど、良かったんですか?」
「はい。すみません。わざわざ作って頂いて」
「いえいえ。注文されたものを作るのが我々の仕事ですからいいんですよ」
そう言って貰えると助かる。俺はリリーとイオンを連れて、用意された部屋に向かう途中に昼に見かけた男のドラゴニュートがいた。
「よう。砦を攻撃されて、犠牲者が出たそうだな?」
「「む!」」
わざわざそれを言うために待ち伏せしてたのか?暇で羨ましい。俺は二人を止める。
「あぁ。敵にしてやられたよ。犠牲者が出たのは俺の判断ミスだ。それがどうかしたのか?」
「…は。人間の割に聞き分けがいいな。お前のせいで仲間が死んだことを言いに来たんだが、分かっているならそれでいい。次はミスするなよ。間抜け」
「タクトは間抜けなんかじゃない!」
「タクトさんを侮辱したその言葉を撤回しなさい!」
リリーとイオンが怒りが爆発させるとそれを見た男のドラゴニュートは笑む。
「やなこった。俺は事実を言っただけだ。やるって言うなら相手になってやるぜ。俺はお前らのような平和ボケが大嫌いなんだよ!」
一触即発の状態になる。
「やめろ! リリー、イオン。落ち着け。ここが何処か見てみろ。お前たちは城の中で戦闘するつもりか?」
「は! それなら外で戦ったって」
「何をしているのかしら? ヴァイン」
一緒にした女のドラゴニュートが現れた。
「け…邪魔すんなよ。姉御」
「邪気を感じて来てみれば…ヴァイン、あなたこの子たちに何か言ったわね?」
「何も言ってねーよ」
「「タクト(さん)を間抜けって侮辱した!」」
リリーたちが告げ口するとヴァインがリリーたちを睨む。
「「べー」」
「この!」
完全に子供の喧嘩だ。
「やめなさい! ヴァイン! あなたたちも怒る気持ちは理解しますが弟を挑発するのはやめてください」
「すみません。二人ともやめてくれ」
「「はーい」」
リリーとイオンが引くとそれを見たヴァインがぼやく。
「け…これだから良い子ちゃんごっこをしている奴らは嫌いなんだよ」
「ヴァイン!」
このヴァインと呼ばれた男、相当病んでいるな。自分たちの住処を敵に奪われた怒りを何処かにぶつけないといられないらしい。俺は予言しよう。この男、後で凄く後悔することになる。しかしこのまま黙っているとリリーたちに申し訳ないから言い返させてもらう。
「俺たちの家や今暮らしている国は悪龍のドラゴンブレスを撃たれたことがある」
「…なんだと?」
「その時は俺たちの大切な仲間が命懸けで俺たちの家を守ってくれたが何日も倒れることになった。俺たちはあの時のことを忘れない。平和ボケだの良い子ちゃんごっこだの俺たちの冒険を知ってから言うんだな。いくぞ」
「「うん(はい)!」」
俺が言い返したことでリリーとイオンはご機嫌だ。俺たちが通り過ぎようとした時にヴァインに呼び止められる。
「ま、待て!」
「なんだ?」
「お前たちはその悪龍に勝ったのか?」
「俺たちだけの力じゃないし、何度も負けたけど、最後には勝ったぞ。証拠を見せようか?」
俺は千魔悪龍の封印杖を取り出す。
『何か用か?』
「あなたは!?」
「アジ・ダハーカ様!?」
二人は地面に伏せる。アジ・ダハーカのことを知っているらしい。
『ぬ? なんだ。クロウ・クルワッハの眷属か?』
ちょっと待ってみようか。クロウ・クルワッハって確かクロム・クルアハって言うケルト神話の戦いと死と太陽を司る神様のことじゃなかったか?
「は、はい。まさか悪龍があなた様のことだったとは…」
『別にそこまで恐れなくてよい。我らとクロウ・クルワッハは関係はほぼないからな。しかしあいつは近くにいないようだが?』
「は、はい。敵の襲撃を受けた際に姿をお隠しになって」
「…逃げ出したって言えよ」
ヴァインが殴られる。
「ヴァイン! もう一度言ってみろ! 私も本気で怒るぞ!」
「本当のことを言っただけだろうが! 姉御も認めろよ! 俺たちは見捨てられたって!」
「ヴァイン!」
クロウ・クルワッハが逃げ出した?ケルト神話では戦いと死と太陽の神様とまで言われた存在が?俺が疑問に思っているとアジ・ダハーカが言う。
『くく…お前たちはあいつの事を全く理解しておらんな』
「どういう…ことですか?」
あ、ヴァインの言葉使いが変わった。流石にアジ・ダハーカレベルの存在には敬意を示すらしい。
『いいか? クロウ・クルワッハは邪竜の中でも最強の戦闘狂だ。あいつは例え相手がどんな神でも悪魔でも最高の戦いを味わえるなら大喜びで戦う奴だ。逃げ出すことなどありえん』
とんでもない邪竜みたいだな。でもそんな邪竜が逃げ出したってことは…俺はヴァインを見る。まさかクロウ・クルワッハの目的って。
「で、ですが逃げ出したことは事実です!」
『ならばその行動には理由がある。我らにはもうわかっているぞ? 我らを倒した主も気がついたようだな? お前たちにはあいつの目的がわからんか?』
「目的?」
「まさか…私たちを試したってことですか?」
やっぱりそういうことか。とんでもない邪竜だな。自分の住処を敵に渡してまでやることかよ。
「ど、どういうことだよ!? 姉御!」
『それだ。小僧。お前は姉に聞くだけか? それでお前はクロウ・クルワッハの眷属を名乗れるとでも思っているのか?』
アジ・ダハーカの言葉にヴァインは絶句する。アジ・ダハーカは続ける。
『その様子では敵に住処を奪われたな? それでお前たちは戦い敗れたみたいだが、今のお前たちは何をしている? 我らを負かしたこの者たちは我らが何度も負かしても戦いを挑んで来たぞ。そして最後には見事に我らを負かしたのだ』
アジ・ダハーカに言われるのはなんか恥ずかしいな。
「住処を奪われ、負けても最後に勝てばそれは勝利ということですか?」
『そうだ。あいつはそれを理解している。あいつならばすぐにでも住処を奪い返せるはずだ。お前たちはクロウ・クルワッハに試されている。クロウ・クルワッハの眷属を名乗るならば乗り越えてみせろ。話は終わりだ。我らは寝るぞ』
お疲れ様です。俺は杖をしまって、歩き出す。
「待て! …俺たちの住処を襲ってきたドラゴンはほとんどがアンデッドだったが、他にも長年俺たちと敵対している地中を進むワームタイプのドラゴンたちがいた。奴らは地中を進む時は振動が発生するからそれが出現の合図だ。だから…気を付けろ」
あれれ?何か気持ちの変化でもあったのかな?それにしてもこれは貴重な情報だぞ。地中から敵の進行があるという情報だからな。後でみんなに警告しておかないと。
「ヴァイン…」
「話は終わりだ! 俺は帰る!」
「ヴァイン!? すみません。このお礼は改めて」
どうやら恥ずかしくなったようだ。これから彼にはとんでもない羞恥が襲いかかることだろう。俺が同情しているとリリーたちが首を傾げる。
「なんだったのかな? タクト?」
「意味がわからないですね。あの人」
「まぁ、色々思う所があるんだろう。そっとしておいてやろう」
本当ならブランの指輪を渡すつもりだったが、時間的に明日に延期だな。
「俺たちも帰って寝るか」
「「うん(はい)!」」」
二人は元気に返事をする。なんかいつもよりテンションが高いな。俺がヴァインに言い返したからといってこのテンションはおかしい。部屋に入るとその理由が判明した。
「ノワちゃんたちの言う通り、ベッドが一つだ!」
「逃がしませんからね? タクトさん」
これか。イオンに捕まっている俺は大人しく二人と寝ることになった。




